仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜 作:大島海峡
そして克己は、目当ての場所へとたどり着いた。
周囲の光景は、確実に覚えている。そこに傭兵としての従軍行軍の経験を組み合わせれば、時さえかければ行き着くのはさほど困難ではなかった。
「ここは……」
一番に反応したのは、克己ではなくクロトーだった。彼女にとっても、知らぬ光景ではなかった。
そこは、最初に克己が飛ばされたエリア。そしてクロトーと共に、何度目かもしれない死を迎えた場所。
どちらかと言えば外周に近い。一度は切り抜けたはずの、半透明の隔壁が、眼前に在る。すでにエリア縮小のイベントの第一段階が終わったといえ、
そこを目指したことに対し、彼女の眉間に皺が寄る。
不愉快さと、何故ここに来たのかという怪訝。それを言い表す前に、克己が顧みて言った。
「お前を当たりだと言ったのには、もうひとつ訳がある」
と。
「この場所で、俺とお前はあの黒豹どもに襲われた。何故だ?」
「それは……お前というイレギュラーへの対処と、逃げた私の処分のために……」
「そんなものはあの忌々しい壁が勝手にやってくれる。なのにあの時、ユエツの奴は兵隊を差し向けてきた」
答えに窮するクロトーに、
「もうひとつ」
と指を立てた。
「ユエツの説明じゃ最終的に中央に絞られるように場所と人数が狭まり、唯一の勝利者だけが、奴の待つタワーで願望を叶えられる……だったな?」
「あぁ」
うなずいたのは、影山だった。
「だがその瞬間に、誰も立ち会っていない」
「……何が言いたい?」
「人間ってのは自分で思っている以上に単純だ。目先に餌をブラ下げられると、その他のことが全部頭から吹っ飛んで、それさえ偽物か疑わない。口先だけの十億のために、地獄への手形を差し出したり――ただ見えてるだけのゴールに、蟻みたいに群がったりな」
「だから、なんの話をしている――!?」
「目を凝らして、よく見てみろ」
焦れる二人に克己が促す先、そこは、障壁の向こう側。
オーロラのように波打つ景色。その向こう側には――近未来的な、白亜の塔が天を衝いていた。
それこそが、克己の二つの謎かけの意、そして答えだった。
「まさか……」
クロトーは、後ろを顧みて今まで多くのライダー達が立ち向かっていった、中枢を見上げる。
……心なしかその塔の輪郭は、ぼやけてブレているように見えた。
「そう、あれは偽物。本物、そしてユエツは安全地帯にいて高みの見物を決め込んでたってわけさ」
そしてそれは、もう一つの事実を意味していた。
――最初から奴に、自分たちの願望を成就させるつもりなど、無かったということを。
「何処までも、舐めた真似を……ッ!」
クロトーはその屈辱に拳を震わせた。
今すぐにあそこに突入して、奴の横っ面を殴り飛ばしてやりたいが……そうするためには、最大にして絶対の問題が立ちはだかっている。塔とは異なり、明白なる形で。
「……って、だとしてもっ……どうやってあそこまで行くんだよ!?」
そのことに、影山もワンテンポ遅れてそのことに気が付いたようだった。
――そう、たとえ目の前に視ているものが正真正銘、敵の牙城だとしても、その間に、かつ程なくして自分たちを消し去る隔壁が存在している。であればこそ、ユエツはそこに本拠を構えたのだろう。
それに対し、克己はどう対処するのか。そもそも、そこまで考えてここまで来たのか。
すでに、引き返して別の道を探すだけの時はない。
「物は試しさ」
そううそぶいて、おもむろに取り出したのはガイアメモリなる魔道具。
まさか変身し、強引に突破する気か、とクロトーは訝る。
(ほかの、誰しも絶大な力を持ったライダーが成すすべなく消滅していったのを、目撃しただろうに)
だが躊躇なく、生身のままに彼は、隔壁の至近まで寄っていく。
さながらホテルのルームキーを差し込むように。
足を留めた直後に、その逆手に持ったメモリの、青い端子を壁へと叩きつけた。
〈エターナル! エター、エタタ、タ……エターナル……〉
それは確実に、仕様外の運用だったのだろう。
ガイアメモリから発せられる人工の声は、反復と変調を繰り返し、無理と異常を伝える。
だが、不可ではない。
そう言わんばかりに、不敵な笑みと苦悶の表情を同時に浮かべながら、克己はさらに押し込んでいく。
やがてそこを基点に、何者をも消し去るはずの壁に、亀裂が入った。
青い火花が舞い上がると共に、そして硝子細工のように。
彼らを遮り囲っていた障壁は、サラサラと音を立てて残さず砕け散った。
「エターナルはガイアメモリの中でも特別な代物でね。この程度の時空の隔たりなんざ、その気になれば破壊出来る――永遠にな」
何でもないような調子で説明をする克己に、
――ならば、何故最初からそうしないのか。
とは、問うまでもない。
その答えはすでに彼の手中にある。すなわち――粉々に砕けたエターナルメモリこそが、法外な力と使い方には、相応の代価が必要となることを示していた。
塵となったそれを、苦笑と共に風に流しつつ、彼は
「とっておきの札を切った甲斐は、あったようだな」
と誰にともなく呟き、そして正視する。
彼の眼差しの先には、半透明の帳が払われ、クリアとなった世界が広がっている。白亜の塔へと、続いている。
そしてその拓かれた道の先には、黒豹の機人たちが横列を組んで待ち構えていて、彼の推論が正当であったことを物語っていたのだった。