仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜 作:大島海峡
『やれやれ、まさかこんなに早く嗅ぎつけてくるとはね』
敵陣深くの塔より、声が運ばれてくる。一度聴けば忘れようもない、ユエツのものだった。
『少し君を見くびっていたかな、大道克己……どうかな? ここは何も見なかったことにしてくれないか。今だったら、君のメモリを復元したうえで不問にしてやるが』
「ずいぶんと上から目線だが……お前なりの命乞いか?」
冷笑と共に、克己は問い返す。それが辛辣な皮肉なのは、誰にとっても明らかだった。
先方にも、意図することは正しく受け取ってもらえたようだ。沈黙の間を縫うような浅い呼吸と微小の舌打ちが、それを証明している。
『……失礼した。どうやら無用の気遣いだったようだ。では君の蛮勇に敬意を表し、このタワーの頂上で待つとしよう。君がここに辿り着くか、それとも中途で力尽きて嬲り殺されるのをね』
紳士然、公平者の仮面はしかしてかろうじて剥がれず。だが剣呑な物言いを合図に、黒い機械たちが動き出す。譲歩など示しつつ、元より帰すつもりなど無かったらしい。すでに後ろにも、兵は回されている。
「……お前ら」
ふいに影山が、前へと進み出て言った。
「このまま真っ直ぐ突っ切れ。道は俺が拓く」
と。
「……どういう風の吹き回しだ?」
クロトーが胡乱げに、当然の疑問を口にする。
「どこみち逃げ道なんてもう無い……それに、俺がノコノコついてったって、どうせ信じてもらえないだろ?」
影山は苦笑混じりに答えた。
「影山」
その彼の肩を、克己は拳で突いて歩み始めた。
「任せた」
とだけ伝えた。
「会ったばかりの、しかも一度裏切った相手に言うことか?」
影山は呆れながらそう言いつつ、地中から這い出て飛び回る、バッタ型の変身装置……ホッパーゼクターを掴み取った。
「変身!」
開けたバックルにそれを載せて滑らせると、ヒヒイロカネの装甲が、影山を包んだ。鉛色の飛蝗の、パンチホッパーの仮面が、引き締めた決死の形相を覆う。
それを合図に、克己とクロトーは大地を捩るようにして走り出した。
脇目も振らずにただ愚直に、ただ塔の入り口を目指す。
無敵にして不可侵の防壁で守られていたからこそ、その防衛機構は分厚い鉄扉のみである。そこに、向かっていく。
彼らの隙だらけの側背に、横撃追撃を加えるべく、ブラックバルキリー達が殺到する。
〈Clock up〉
だが、鋭く尖らせた爪が彼らの肌を裂くより先に、彼女たちの高速を上回る速さで、吹き飛ばしていく。
縦横無尽。四方より迫るマシンの兵隊の攻勢を、すでに姿見えざる影山が防ぎ切って行く。そして二人は、迷わず封じられたままの扉へ前進し続けた。
その二人を、一陣の風が追い抜いた。
〈Rider jump!〉
扉そのものを両足の掛かりに、それが破壊されるほどに強く踏み込むと、ゼクターより光の粒子が右腕に送り込まれ、充溢していく。
そして、急反転したパンチホッパーは、再び克己とクロトーの真横を抜け、風と枯れ草を巻き上げながらそれを追う戦乙女たちに突っ込んだ。
「ライダーパンチ!!」
〈Rider punch〉
衝き出した拳より、展開されたジャッキより一気に解放されたエネルギーがそのうちの一機を吹き飛ばし、その後続を、さらにその周囲を誘爆せしめる。
克己たちは顧みない。一言も無い。ただ、彼の踏み砕いた扉の隙間より、塔の内部へと突入する。
そして影山は
『選択とつくべき相手を誤ったな、影山君』
ふたたび、ユエツの声が響き渡る。
『では君には相応しい相手を用意しよう……裏切り者の血と屈辱の涙を、彩りに変えるが良い』
乾いた風が無慈悲なその声と――青い薔薇の花弁を運ぶ。