仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜   作:大島海峡

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11.真の切札

 施設内に侵入すると、中にもすでに黒い機兵たちが待ち構えていた。

 中は、存外に広く、どこかスポーツスタジアムの回廊のようにも見えるが、それでもフロアに、階上に、彼女たちはひしめいている。

 それを蹴り、あるいはナイフでいなしながら、銃火の中をかいくぐり、先へ、上へ――。

 

 徒歩で選んだのが、螺旋階段であることが幸いした。

 その隘路ゆえに絞られた人数をそれぞれの持ち分で捌きつつ、最上層へ続く渡り廊下へと至る。

 

 すでにそこにも黒い機兵たちが配備されている。

 だが、趣は異なっている。女性型ではなく、動物の意匠でさえない。

 より無骨で無機質な……あえて言うならむしろクロトーの変身するライダーの技術系統に近しいものを感じた。

 

「あれは……量産型のドレッド……!」

 と、彼女もそれは認めるところで、かつ覚えもあるらしい。

 横列でもって道を塞ぎて小銃を構え、二人の脚を止めた。

 鉛玉の雨、単純な質量の暴力が、咄嗟に遮蔽に身を置いた彼らに、それ以上進むことを許さない。

 振り切った追手の足音も、鉄の響きをもって近づきつつあった。

 

「――克己!」

 意を決したように、クロトーは銃撃音を上回る声を張り上げた。

 

「おそらくここが最終防衛ラインだ! お前はこのまま突っ切れ!」

 その鋭い声に、克己は無言で首肯して飛び出した。

 もはやかける言葉などあるはずもない。進むも退くも、待つのは破滅だ。それでも……

 

「変身ッ!」

 ドライバーに読み取らせた二枚のカード、二体のレプリケミーが、彼女のその身を再びドレッドへと錬成させる。

 

〈スチームライナー〉

〈ダイオーニ〉

〈ドレッド・弐式〉

 黒き半身、赤鬼の半身。

 ドレッド第二の進化形態である。

 棍棒を振り回して、克己に殺到する敵を打ち据える。物理的に退かせつつ、足を止める。血路を開く。そして反転の間際にその鈍器でもって、克己に続く進路、そして二人にとっての退路を、撃ち砕く。

 

(それでも、おそらくは)

 きっと影山にとっても。

 

 今更正義もないだろう。使命感でもない。だが運命を感じた。

 彼を、大道克己を銃弾として送り込む。超越者を気取るあのユエツに()ち込む。それがために、亡びを承知で今、ここで偽りの命を燃やし尽くすのだと悟り得た。

 

「来いッ!」

 裂帛の気合いと共に、クロトーは両の足に渾身の力を込めて仁王立ちした。

 

 〜〜〜

 

 最上階に存在していたのは、ただ一室。

 そこまでの近未来的な装いとは一線を画す、クラシックな木目の扉。そこを蹴破り、克己は中へと躍り込んだ。

 

「最短距離で本丸に攻め込んでくるとはね。まったく、歯向かってくるにしてもちょっとは道中のイベントを楽しんだらどうだい?」

 

 旧華族の富豪が所有する居館の、さらに書斎のような佇まいの内装。ただし本棚の代わりに、壁の一面にはモニターが嵌め込まれていた

 その中に待ち受けていたのは、件の声と、それを発していた首謀者の背中である。

 上下一対となってボディラインに張り付く、モノクロームの長裾の服。横向きの年齢不詳の(かんばせ)の目元に、黒いアイシャドウを施す、長髪の男、ユエツ。

 

「ふざけるな」

 なおも余裕を崩さぬ彼に、克己はコンバットナイフの刃先を突きつけた。

「見返りなんぞ偽りのくせに、生き返らせるつもりもなかったくせに、何がイベントだ」

 と。

 

「……当たり前だろ?」

 悪びれもなく、ユエツは身体を克己へと向き直った。

「君たちの今までの所業を考えてもみろ。とても褒められたものじゃない。好き放題に罪を犯し、あまつさえ世界を滅ぼしかけた輩もいる。そんなクズ共を現世に戻すわけがないだろう。むしろオーディエンスの目を楽しませるためにリサイクルしてやってるんだ。それこそ功徳ってものさ」

 

 護衛も無く、身一つでありながら、ユエツの冷笑は止まず。

 聞くに堪えない暴言を吐く口を、永遠に閉ざすべく、克己はナイフを彼へと突き出した。

 だが、その中途にて、克己は硬い感触に弾き飛ばされた。

 

 目を凝らして良く見れば、彼らの間には、半透明に仕切りが設けられていた。それがいかなる技術材質によるものかは知らないが、硬度といい弾力といい、跳ね返ってきた分厚さといい、まず短刀一本ではどうにもなるまい。舌打ちし、克己は身を起こす。

 

「なるほど、相当に臆病者らしいな」

「慎重と言ってくれ……あぁ、慎重ついでに」

 その返答を聞き終えるより先に、克己は再度突撃を仕掛ける。

 

「君にも、保険をかけておいた」

 だが、克己のその脚はひとりでに折れた。腕からも力は失われて、ナイフを取り落とす。

 見開かれた克己の目が、蠢く己の肌を認めた。

 生かされていた細胞が死細胞へと置き換わっていく、硬く冷たい不快感。最悪ながらも慣れた感触。

 

「尤も、君もそれに気づいていたからこそ、急ぎここへ辿り着くしかなかった、だろう?」

 ゆったりした足取りで隔たりの前へと近づいたユエツは、膝を折った克己の前に、挑発的に屈み込んだ。

 

「そう、NEVERは定期的に細胞維持酵素を摂取しなければ、死体に逆戻り……その体質は、残させてもらった」

 

 すぐ目の前、隔壁さえ無ければすぐ殴れるような間合いにいる相手に、ユエツが居る。だが、術なく甲斐なく、克己は睨み上げるばかりだ。

 その彼の眼前に、指先にあるものを摘んで、これ見よがしに垂れ下げて見せた。

 

「これを受け取るならば、今回の件は不問とする。そして、今すぐ塔を下りてゲームに戻りたまえ。この『楽園(ヴァルハラ)』の中ならば、君は好きなだけ生き返ることも出来て、そして好きに殺せる」

 シリンダー付きの、携行銃のごときもの。そんな脅しをかける以上は、おそらく中身は細胞維持酵素だろう。

 

「……やっぱりな」

 克己は、床から手を離す。腰を浮かせ、笑う膝を叱咤して立ち上がる。

「てんでズレてる。下らない男だ」

 ユエツの顔から、優越者の笑みが消える。

 

「俺は……俺たちは、死にたくないんじゃない。まぁ……中にはそういう奴もいるだろうが、殺したいわけじゃない」

「ほう? ならば、何のために戦うというのかね?」

「決まってるだろ」

 直立と共に首を反らし、今度は逆にユエツを見下すように。克己は静かに、だが命を振り絞るように言の霊を発する。

 

「生きたいと思うのは、誰かの命を奪うのは――過去に打ち克ち、己という存在を未来に永劫刻むため……そのために求めたのが仮面ライダーの力だ。貴様らの下らん道楽のためじゃない」

 見開かれたその眼の力に、ユエツは一瞬呑まれかけたが、それでも彼の優位は、少なくとも彼の中では変わらない。その事実を恃みに、冷笑をもって返す。

 

「それで? 遺言は終わりかな? あとは何も為せずに虫のようにくたばるだけだが」

「あぁ、息も整えられたしな」

 もはや、死ぬことに変わりはない。始めから、それは覚悟していたことだ。

 どう生きたか、どう再び死んでいくか。

 全ては、ここまでは、望み描いた通りの展開だ。

 

 ゆえに、克己は嗤う。

 肩を揺すり、高らかに。

 

「……何を笑う?」

 化物を見るように、克己を仰ぐ。

 

「絶対的な安全圏で高みの見物決め込むようなヤツだ……NEVERの活動限界……メモリの消失(ロスト)。そこまで見せつけてやらないと、お前のようなヤツは絶対に俺を懐に入れるようなことはしなかっただろう」

 なお克己は不遜を崩さず、笑みを崩さず。

 ただ、最後に手元に残った一枚を切る。

 運命が導くならば、切り札が常に己のところへ来るのは当たり前だ。

 問題は、それを如何にして場に出すか。

 否、あえて答えを探すまでもない。

 

 懐の中で、抜き取った手の中で。

 蒼き輝きを放つ。

 

 銀端子の、白いガイアメモリ。

 その『E』の暗号(イニシャル)

 

「馬鹿なッ!」

 驚愕と共に、ユエツは壁から飛び退いた。

「初期型のエターナルメモリだと!? そんなもの……いつ、何処からッ!?」

 そう問いかけたユエツはしかし、すぐに答えに行き当たったようだった。

 

「最初の転移……ステージに打ち捨てられていたものを、あのわずかな間で拾っていたというのか!!」

「あぁ、お前はシステムの不具合ということで納得していたようだが、そうじゃない……俺との再会を感じたエターナルが、あの場に俺を呼んだ。そして俺とクロトーたちとを引き合わせた」

 

 奇跡ではなく、迷いなく運命だと断じながら、克己は身につけていたままだったロストドライバーに、それをセットした。

 

「変……身!」

〈エターナル!〉

 スパークを発しながら、スロットがひとりでに作動する。

 不完全なる紅蓮から昇華された青い焔が、白く鎧われた四肢に宿る。

 明滅を繰り返していたトパーズ輝きは目の中で定着し、三叉の触覚が逆立ち天を衝く。

 

 風が荒ぶり、部屋中を駆け巡る。

 壁を打ち砕き、吹き飛ばされるユエツの手からシリンダーを零れさせて破損させる。

 

「お前に刻んでやる。一体何者を弄んだのか、その報いと共に、永遠にな!」

 

 黒いマントを余風ではためかせ、自らの護りを失った敵にエッジを突きつけながら、仮面ライダーエターナルは、ゆるやかに歩み寄るのだった。

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