仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜 作:大島海峡
白刃を突き付けてにじり寄るエターナルに対し、浅く呼吸を繰り返していた主催者は、それでもなお、首を反らすようにして、傲然と睨み返す。
「……やれやれだ。まさか、ここまで追い込まれるとはね」
とぼやく彼の手に、カードが握られている。
〈LASER RAISE RISER〉
それを身に当てることによって、ベルトが転送されてくる。その腰より、円盤と銃器が融合したかのような、奇怪なガジェットを抜き取ると、左右から組み合わせる。
〈YUETSU SET〉
そして肩にそれを担ぐようにし、銃口を背のモニターへと向けるように回す。そして左手で目元を拭うような所作をしながら、
「変身」
その一語と共に、引鉄を弾く。
〈LASER ON! YUETSU LOADING〉
胡弓の如き音が奏でられ、光線によって打ち砕かれたモニターの先、風が荒ぶる赤空が広がっていた。
そこへ、ユエツが我が身を背から投げ入れた。
何処からともなく生じたブロック状のエネルギー体や、眼球型のドローンがそれを後追いする。
逃避か、あるいは身投げか。
いや、ここまで徹底した保身を図っていた相手が、そのような真似をするものか。
その行動の答えは、すぐに顕れた。
穿たれた裂け目の縁に、巨大な五本爪がかかる。それを起点に押し広げ、外壁を抉り、下から身の丈ほどの異形の顔が覗く。ディスクが斜めがけに突き刺さったかのような、パンダを模したマスク。その全身は、さらに異様である。
塔の半ばさえ巻き取るかの如き、長大な姿は、蛟竜の如し。その鱗には、先に飛来していった眼球が無数に融合している。
『万一の備えをしていないとでも思ったかね? 君たちのような、信用のないゴロつき相手に。私も、仮面ライダーなのだよッ』
星型の目が赤黒く明滅し、ユエツの声がその仮面から聴こえる。
「それが仮面ライダーだと? ただのバケモノにしか見えんがな!」
もはや人型でさえないそれに怖じることなく、嘲りを返す。
間を置かず、塔の
その一室から逃れ出た克己は、廊下の、未だ原型を留めている部分を渡り、飛び移る。すでに、外壁は剥ぎ取られている。剥き出しの回廊。そこを駆け抜けていく。
途中、今の手のサイズに合わせた銃器を、ユエツは疾走するエターナル目掛けて連射する。一発一発が克己の全身を粉砕せんばかりのそれらを躱し、あるいはエターナルエッジで防ぎ、あるいは斬撃を飛ばすことによって相殺していく。
だが、さらにそこに、無慈悲に追撃が加えられる。
ユエツの胴体から分離した眼球が、そのまま浮遊砲台へと変化して、無数のレーザーを克己の身体を遮り、立ち往生した彼に一極化して放射する。
く、と微かな呼気を漏らしつつ、自らのマントエターナルローブを外す。その手に吊るし、閃かすことで、熱戦を受け流す。
それを身代わりにして、ゾーンのメモリを、腰のマキシマムスロットへ。
〈ゾーン! マキシマムドライブ!〉
その力によって周囲に集結した、ガイアメモリ。その全てが、支配者たるエターナルの、ハーネスよろしく上体を覆うスロットへ吸い寄せられていく。
ガイアウィスパーの大合唱と共に、克己の全身に緑碧の力が漲り、溢れ出る。
〈エターナル! マキシマムドライブ!〉
それを、自らを媒介にエッジに送り込む。振るった一閃に傾注し、そして飛ばす。
砲丸の如きそれは、周囲の力場空間を歪め、相手からの攻勢の一切を呑みながら、ユエツに真っ向から挑みかかり、その顔面に直撃した。
鬼火を孕んだ黒煙が、その接点より巻き上がり、両者の視界を遮る。
だが、ぐわりと伸びた腕が、五本の爪が、克己を絡め取った。
『本当に、愚かな男だ』
宙に吊るし、締め上げながら、ユエツは熊猫の仮面の奥底でせせら笑う。
『余計なことなどせず、こちらの思惑通りに殺し合いをしていたのならば、このヴァルハラで束の間の夢ぐらいは見られたものを』
と。
「わら、わせるな」
機能していない臓腑が口から零れ出んばかりに圧迫されながらも、克己は嗤う。
「ここはヴァルハラなんかじゃない……地獄さ。少なくとも、俺にとってはな」
克己はそう言って、自らに食い込む爪の一角を押し退けた。
「ここに来てから、妙に頭が冴えてな。忘れていたはずの事が、喪われたはずの過去が、想い起こされる」
母親にオルゴールをプレゼントした時のこと。
その直後に襲った、最初の死。
永い眠りからの、冷たい復活。
尋常ならざる方法で蘇生された己の意義と価値を見出すための戦争の日々。
同胞たちとの出会い。
こことよく似た、悪魔の実験場での……いくつもの運命を変える出来事。
そこからの、この世に地獄を生み出すための、凶行。
それらが包括されて、今克己の中に在る。
その全てが、間違っていたとは思わない。
人の本質が、悪魔だと吐き捨てた気持ちは、偽りではない。
「……だが、そこから己の身も心も腐り果てて滅びるまでの過程を、無理矢理に見せつけられるんだ。こいつはなかなかの悪夢だろう。だから思ったね……こんなふざけた思いをさせた奴には、同じだけの地獄を味あわせてやろうって」
そう冷ややかな呪詛を放つ克己に、
『では、その悪夢とやらから解放されるが良いさ。永遠にな』
とユエツは宣告し、指の力を緩めた。
だが、克己を解放した刹那――
その手が拳として握り固められ、渾身の力で克己へ叩き込まれた。
『終わりだ。過去の、仮面ライダー』
圧倒的質量の打撃を全身に浴びたエターナルは、そのまま力無く、瓦礫と共に、塔から落下していく。