仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜   作:大島海峡

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13.風に刻まれた記憶

 なお、クロトーの奮闘は続いている。

 

「はぁぁぁ!」

 荒く息を巻きつつ、金棒を縦横に奮い、その暴威が数体のバルキリーたちを巻き込み、叩き込めしていく。

 克己が進路の向こう側に消えた後は囮としてあえて動き回り、多くの追手を惹きつけていく。

 その過程で、多くの機兵を爆散させていく。

 

〈Blocking Blast!〉

 バルキリー達が再び空間を跳ね回り、三次元的にクロトーを囲む。

 

「心無い道具の攻撃など、もはや通用しないッ」

 クロトーは気を吐きながら、カードをベルト上部の読み取り装置、ヴェヴェルセッターに滑らせる。

〈テンフォートレス・ドレイン〉

 模造したケミーの名の如く、要塞のごとき分厚いエネルギーの塊が、あらゆる方角からの銃弾を跳ね除ける。

 

〈ゲキオコプター・ドレイン〉

〈ブラッドレイン〉

 

 そしてケミーカードを追加してネクベトヴォークを開閉。両ケミーの力をミサイルの形に錬成して八方へと放出する。

 

 多段的な砲火を浴びたブラックバルキリーたちが爆砕され、壁を吹き飛ばす。

 だが、その破れた隔たりの先に、すでにドレットルーパーたちが待ち構えている。

 

 そして、銃弾による返礼は、間を置かず、即時に行われた。

 音と光と煙とが、部屋の内外を問わず埋め尽くす。

 それは、超人とて、あるいはホムンクルスとて、一個なれば反撃の機を与えることなく屠るに十分な量と速威を持っていた。

 

 

 

〈ユニコン ・ダイオーニ〉

〈ドレッド・参式〉

 

 

 

 ……ならばこちらも、全身全霊にて対するのみ。

 その覚悟で、わずかに足された命の灯を質に入れ、鬼の向かいに白馬を宿す。

 

 視界と前途をふさぐ一切を、剣と棍にて薙ぎ飛ばす。

 打と斬を繰りながら、縦深の陣を衝き穿つ。

 

 だが、ここでむざむざ果てる気はない。克己がその本懐を遂げるまで、粘り切る。

 よって短兵急にて、敵を討つ。

 

〈テンフォートレス〉

〈ゲキオコプター〉

〈マッドウィール〉

〈エクシードファイター〉

 

 斬打の撃の合間に、左右の手にてカードを次々と読み取らせていく。

 

〈ブラッドサクリファイス!〉

 という、錬成の完成を告げる音声。

 我が身を焼く苦痛を乗り越えての蛮声。

 そして両の武器を扉をこじ開けるように振りかざしたことを号令として、無数の弾頭が敵の物量を押し返し、焼き尽くしていく。

 

 その衝撃たるや、敵のみならず塔の壁や柱を問わず破壊し、それを放ったクロトーでさえ、変身が解けて吹き飛ばされた。

 もっとも、それによって消耗を防げたことは確かだった。

 

 錬金ならぬ理外の術によるものか。そこまでし尽くしても、なお塔自体に崩落の気配がない。

 だが、壁は崩れている。彼女が行き着いた先に広がっていたのは、おそらくゲームに用いるはずだった、あらゆる世界からの収集物ないし、その模造品。

 

 その足下に、克己が遣うデバイス――ガイアメモリといったか――その係累物が、散乱していた。

「……これは」

 なんと無しに、彼女はそのうちの一つを拾い上げた。メモリそのものではないが、銀色に光るそれに視線を落とした時、塔が揺らいだ。

 

 何事かとクロトーが外壁の側に寄れば、そこはすでに上から剥がれていた。

 

「……っ!?」

 そして、崩落する外壁に紛れるようにして、エターナルが仰向けに落ちていく姿が見えた。

 

 やはり、敵わなかったというのか。

 圧倒的な力と数を備えた相手に、二、三程度の頭数で挑むことは、無謀であったというのか。

 

 ――否、そうではない。

 この決断に、もはや迷いも悔いもない。

 

「私は……今度こそっ!」 

 俯きかけた顔を己への叱咤と共に持ち上げる。

 

 今度こそ、過たない。諦めない。

 自身の目と心で信じたもののために、最後の一瞬までこの力を尽くす。

 

「それが、私の――ガッチャだ!」

 かつての敵の題目を借りて気炎と変えたクロトーは、落ち行く克己に、それを投げ込んだ。

 

「受け取れ、克己!」

 その道具に、その行為に、何の意味があるのかは知らず。

 だが一縷の望みであろうと、放ったのが一片の鉄屑であろうと。

 あの男ならば、あの男が、真に仮面ライダーであるのならば、それを起死回生の一手に換えることが出来ると信じて。

 

 

 ~~~

 

 大道克己は、仮面ライダーエターナルは、落下していく。

 数多のガイアメモリを道連れにして。

 今際のきわに、意識が鋭化されたがゆえか。流れる時間は、むしろ緩慢なものに感じる。

 自分と落ち行くT2のガイアメモリの図柄と色が、はっきりと見て取れるほどに。

 

 だがそれをつかみ取るには手が届かず、あるいは飛翔する術も力も無い。

 

(――またか)

 

 誰かの都合で甦らされ、誰かに敗れて死んでいく。

 ヴァルハラに流れ着く前から、そう死んで(生きて)きた。

 

 ここでも、同じことを繰り返すのか。多くの人間や同志達を巻き込み、大風呂敷を広げた挙句、何も果たせず。

 

 

 

 ――しっかりして!

 

 

 

 身も心も、再び深く昏き場所に堕ちかけた砌に、声が響いた。

 遠い記憶の果ての、懐かしい声。それはエターナルの仮面とメモリを介して、魂の内から呼び起こされるような、そんな声だった。

 

 

 

『しっかりして、克己ちゃん! この程度で諦めて死んじゃうなんて、そんなの克己ちゃんじゃないわっ!!』

 

 …………などという、(おとめ)の金切り声で。

 

 

『あら、でもこの場合ってばやっぱもう死んでるのよね!? やだ、何度目かしらこのネタ! ちょっと擦り過ぎ!?』

『京水! もうちょっとおふざけは無しにしてくんねぇかな、緊張感が無くなるから!』

 

 奔放で調子はずれなその言葉を、野太い怒号が遮る。

 聴くだに、その声の主の隆々たる筋骨を容易に思い描くことのできる、太い声音。

 

 泉京水。堂本(どうもと)剛三(ごうぞう)

 いずれも、かつて自分と共に戦場を駆け抜けたNEVERたちの、声。

 

「お前ら……どうして……まさかお前らも生き返ったとでも」

 さしもの克己さえ、茫然と呟く。

 

『そんな都合の良い感じじゃねぇさ』

 と、剛三の声が返ってきた。

 

『ザックリ言っちゃえば、アタシ達は風に刻まれた、いわゆる地球記憶』

『それが、克己の失われた記憶(メモリ)が再起動されたことで、呼び起こされた……誰にも風は吹くってことだろうさ』

『たとえそれが、俺たちのようなはぐれ者(アウトサイダーズ)の戦争屋でもな』

 さらにそこに、別の男の声が加わった。

 

 芦原(あしわら)(けん)。一言でさえ多弁に思えるほど、寡黙だった男。

 彼らの言霊が聞こえるたび、周囲の、かつて彼らが用いていた、それぞれの運命のメモリが蛍火のごとき光を明滅させた。

 

『俺たちはもう力になれねぇが、こうやって言葉だけなら届けられる! だから……俺たちのリーダーらしく、NEVERらしく、ただでは死なない往生際の悪さ、見せてくれよ、克己!』

『そうよ! 負けないで克己ちゃん! ……ホラ、アンタも何か言うことあるでしょ!?』

 京水が、誰かにそうせっついた。

 誰に向けられた催促か、予測するまでもない。残るNEVERの構成員は、ただ一人しかいない。

 

『……なんであたしが』

 その女の声は、苦々しく舌打ちしてみせた。

 羽原レイカ。クールな面持ちの裏に、烈しい炎を宿していた、あの彼女。

『克己』

 ……かつて己に、引導を渡した男の名を呼んだ。

 

『たとえ死んだって、あたしはあんたを許さない』

 と、比喩ならぬ比喩と共に、直截に憎念をぶつけてきた。

 けど、と。

 語気を収めて、レイカは言い足した。

『……だからこそ、あんたにはこんなところで、すべてを投げ出して楽に死んでもらいたくないの。せいぜいあがきなよ』

 レイカ。乾いた声で、克己はその名を口にし、彼女の言葉を噛みしめる。否とも応とも返答をする資格は、もちろんあるはずもないが。

 

『……だってよ』

 剛三はそう言った。もし姿あれば、肩でも竦ませていたことだろう。

 

『ゲームオーバーには、まだ早い。どうやら来たようだ……正真正銘、最後の鬼札(ジョーカー)が』

 賢の言葉が克己の目は、己が外周へと向けられる。

 ふいに彼の間合いに投げ込まれた、銀光りするその異物に。

 

 話には聞いたことがある。

 ガイアメモリの性能を三倍に引き上げるとされる、強化アダプター。

 ミュージアムの開発したものが、何処かのリゾート施設より流出したものという。

 この状況を打開しうる、起死回生の一手となりうるか。

 

 そう、ほんのわずかな可能性であったとしても。その決断と行動の果てに待つものが徒労と犬死であったとしても。

 諦めてはいけない。諦めることは許されていない。諦めなかった連中が、自分の記憶(なか)にいる。

 

 克己の手が、それに伸びる。

 荒ぶる圧がそれを妨げる。アダプターはもどかしいほどに、指先で踊り、指間をすり抜けて、むしろ遠のいていく。

 

 だが――

 次の瞬間、周囲の音が止んだ。

 手繰るように風が穏やかなものへと変じ、最後の一手が克己の許へと届く。視界の先で、緑光が閃く。

 今までの苦闘が嘘のように、呆気ないほどに、アダプターは手の中に落ちてきた。さらにその上で、一本のガイアメモリが明滅する。

 

 ――克己!

 代わりに、己の名を呼ぶ悲痛な声が風に乗って運ばれてきた。

 その先にあったのは、サイクロンメモリ。風の記憶。彼女の記憶。

 

 何度も反響を繰り返し、名が呼ばれた。

 かつて、事故に遭う間際。

 差し伸べられた声と手と、それらが重なった。

 

 ふ、と思わず苦笑が零れた。

 

 

「過保護なのは、相変わらずか――」

 

 

 彼女とともに生きた時間も。

 彼らと共に駆け抜けた日々があったことも。

 

 ――そういったことさえ俺は、忘れてしまっていたのか。

 

 

 

〈エターナル! アップグレード!〉

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