仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜   作:大島海峡

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14.地の底より仰ぐ白夜

 クロックアップ。

 それは渋谷に隕石が落下して後、人類がそこに付着していた異星物と対峙するために、開発した技術……と、影山は聞いている。

 ライダーシステムを循環するタキオン粒子を活性化させることにより、肉眼では捕捉できない怪物たちと同じ、光速の世界で渡り合うことが可能となる。

 

〈Hyper clock up!〉

 

 だが、その他を寄せ付けない世界において、なお圧倒的な速さで、パンチホッパーの拳に触れさせもせず、その一発を繰り出す間に数十発に及ぶ連打を叩き込む。

 影山からは、クロックアップ中に黄金の光が瞬き、超加速で動いているはずの自らを、見えざる何者かが叩き据えるような感覚だったことだろう。

 

 それが、金色の甲虫戦士。

 仮面(マスクド)ライダーコーカサスだった。

 

〈Maximum rider power〉

 

 その力の源たるハイパーゼクターのホーンを上下させ、内より力を充溢させていく。

 

「む……ッ」

 だがその過程において、彼は目の前の、見覚えのないマスクドライダーシステム装着者の体勢が、多少の変化を見せていることに気がついた。

 

 彼にとっては緩慢な動作ながらも両足を浮かせ、跳び退きつつ背を丸め、手足を折り畳む。

 怯懦の構えである。だが、幸か不幸か、偶然か思惑あってのことか。その及び腰の防御の丸まりは、コーカサスの攻撃に完全に備える体勢となった。なってしまった以上は、時の流れを戻さない以上、力押しでその構えを崩すよりほかない。

 

〈Rider kick〉

 その必殺の技名を、口の中で復唱する。

 敵の脇腹を穿ち、臓腑を抉り出すはずのミドルキックは、防がれてもなお、吹き飛ばすに十分な威力を帯びて、パンチホッパーを蹴り飛ばした。

 

〈Hyper clock over〉

 ほぼ停止していた時が、再動する。

 と同時に、蓄積されていた打撃が、一気に影山を襲い、地に崩れる。

 だが、かろうじて変身を解くことはない。やはり、ある程度は威力が殺されたらしい。

 

 ――いや、それだけではあるまい。

 手足の感触から、伝わってきた拍動から、そう断じたコーカサス――黒崎(くろさき)一誠(いっせい)は、すかさず影山を掴み、片腕で吊るし上げた。

 詰まった呼気と共に、影山の身体が、緑碧の発光を放つ。

 

「なるほど」

 得心と共に、黒崎は独語した。

 パンチホッパーの装甲ごとに、妖光に包まれたその形態が歪曲する。

 そして、一本の角と殻を持つ、蛹のごとき異生物の姿へと変じた。

 

 ワーム。その幼体(サナギ)先住(ネイティブ)の謀略によって、組み替えられたこのありさまこそが、彼の本来の姿である。

 あるいはまだ、人間としての姿の方が今なお本物なのか。もはやその問いには、彼さえも答えることが出来ないだろう。

 いずれにせよ、彼の首の皮一枚がつながったのは、異星生物としての生命力ゆえだろう。

 

「しかし解せませんね。人を超え、より高位の存在(ワーム)である貴方が、何故弱き者どもに加担するのか。この世界において頂点に立つ者の摂理に従うことこそ、正しき道理。それが分からないはずがない」

 

 言葉遣いは丁寧ながら、握力は決して緩めず。

 淡々と疑問を口にするコーカサスのグローブの先で、影山は再びパンチホッパーとなった。

 

「……そんなの、決まってるだろ」

 飛蝗の仮面の奥底で、彼は答えた。

「俺が、弱い存在だからだよ。あんたらと同じでね」

 と。

 

「俺はかつて、いや今も……強い相手にすり寄って、自分がないから、ただ周りに流されてきた。その挙句、人間をやめてしまった……っ」

 か細い声を必死に振り絞り、さらに続ける。

「けど、あいつらは違う……どんなに圧倒的な力を前に、最後の一瞬ですべてを覆されても、欺かれ、無謀を嗤われても、屈することなく自分を張り続けた……『あの人』のように」

 渾身の力でコーカサスの腕をわずかながらに押し戻しながら、影山は

「俺や、あんたとは、違う……」

 と言った。

 

「……同じクロックアップシステムの資格者のようですが、面識はないはず……私と貴方が、何故同じと?」

「いいや、分かるよ……あんたも、圧倒的な力に屈して、それを後ろ盾にしていきがってる……空っぽの人間だ!」

「――黙れ」

 

 その声域に、ブレはない。

 だが語調の乱れは、さらに増していく握力は、そのまま彼の静かな怒りを表しているようだった。

 身じろぎしながら抗う影山だったが、そこには力量さを覆す強さなど、もはや入っていない。踵の裏などが時折、ハイパーゼクターをかすめる程度でしかなかった。

 

 ――だが、その瞬間。

 

〈フルチャージ〉

 外周にいまだ屯していた、ブラックバルキリーたちの一角が、爆発と共に崩れ去った。

 

「やっぱり、本物の塔を隠してやがったな」

 そうニヒルな語調で独語したのは、紫桃の仮面で鬼の顔を覆った戦士……ネガ電王である。

 銃型に変形させた複合武器デンガッシャーが、その肩で白煙を吐いていた。

 

「ほう、見たこともない黄金のライダーもいるようだが」

 その帳の向こうで、尖った頭頂部を揺らすように、影が動く。

 黄金の魔術師、ソーサラーである。

 

「面白い! では」

「我ら、いずれの金色の輝きが本物か。教えてやるのも一興か」

 さらにその両隣に随伴するのは、銅色のメカニカルな車体(ボディ)を鈍く照り返した、ライダーならぬ超進化態、ブロンズドライブ。

 黒ずんだ林檎の皮の如きアーマーを前面に押し出し、悪意の陽炎をその頭部で揺らめかせた武神……仮面(アーマード)ライダー邪武。

 

 自認金ライダーの彼らの乱入、のみではない。

 エターナルの無法の荒技によって除かれた障壁。その真なる塔を中心に、混乱は始まっていた。

 

 

「この新型カイザを手に入れた以上、君が俺が勝てる可能性は皆無……ということで良いのかなぁ?」

 また別のライダーは飛び上がった後に、地上の黒に金の刻印を施した重戦士に、三角形の刃を絡ませ、通りは良いが粘着性を帯びた声を絡ませる。

 だが、それに応じたのは

〈Exceed charge……〉

 という野太い声。それを発したデバイスより伸び上がった、光の剣。

 先割れしたその切っ先に首を(さしはさ)む。嘘にまみれた言葉を塞ぐため。過去をなぞるように。

 彼に、ぼそりと応じる。

 

「良いわけが無いだろう。人間とオルフェノクの未来のために、ここで君は沈むんだ……俺と一緒にね」

 物憂げな、落ち着き払った若い男の声色はしかし、それとは似つかわしくない力強いその刃をひねった。

 

「き……ばッ!」

 断つ、というよりも()し切る、という表現が相応であろう。

 締め上げられたライダー……仮面ライダーネクストカイザは、頸骨を折れる音を自ら聴きながら散華した。

 このように、過去の宿怨を持ち込むライダー。在り。

 

「どけっ! 生き返るのは俺だ!」

「一番は私よ!

 ほか、愚直に長槍や弩を奮い立ち回り、同士討ちを始めるA(エース)のライダー、在り。

 

「令和になってもライダーどもの歴史は醜いままだ。ならばこの地獄の道も、俺が善意で舗装してやろう!」

 時計を嵌めたベルトより抜き取った輝く剣を(ケイン)のごとく軽々と振り回し、無数の己が道を征くライダー、在り。

 

 さながら、天より垂らされた雲の糸に縋る亡者の如く。

 塔を中心に、混沌は拡がっていた。

 

「煩わしい……何なのですか? この状況は……」

 呆れた様子で辺りを見回したコーカサスの意識はしかし、腕の先のパンチホッパーから逸れた。

 

「身勝手で、欲深くて往生際が悪い……けど、最期の一瞬まで己を貫いた……ライダー達だろ」

 そしてその一瞬に、影山は狙いを絞って賭けていた。

 

「そして、俺も……せめて今だけは!」

 腹の前からホッパーゼクターを一旦引き抜くと、その前後を入れ替えた。

 

〈Change! Kick hopper!〉

 彼の纏うヒヒイロカネの装甲が、緑へと塗り変わる。頭部の角が、なけなしの反骨と気骨を見せつけるがごとく、反り立ち、瞳が赤く染まる。

 キックホッパー。

 同型機のデバイスで、彼の兄貴分が変身していた形態であった。

 

「くだらない! だから何だと言うのか!!」

 荒々しい呼気と共に吐き捨て、黒崎はなお影山を手放さず、必殺の拳を浴びせ続ける。

 火花を散らして、なおもがく。全身を使って抗う。

 言葉の通り、その足掻きが、一瞬、ふたたび、ハイバーゼクターを掠めた。

 

 それで、十分だった。

 

〈Rider jump!〉

 ゼクターの後脚のレバーを半ばまで持ち上げ、スタンバイ状態に。

 

 一掠り。一瞬時触れるだけで、良かった。

 

 そして、脚部へと送り込まれるタキオン粒子。それに伴い発生させるエネルギー。本来、跳躍がために用いられるそれとキックホッパーの脚力が組み合わされば。

 

 ――ハイパーゼクターをコーカサスから吹き飛ばし、分離させるには、十分だった。

 

「!?」

 その衝撃の余波で、黒崎の体幹が揺らぐ。その隙に、拘束を振りほどいた影山だったが、崩れた態勢のまま、コーカサスの正拳がキックホッパーの中心を直撃した。

 

 叩きつけられ、大きく弾む影山の身体。

 だが地に突いた手で我が身を食い止め、支え、反撃がための推進力を作り出す。そして、ゼクターのレバーを引き切る寸時が生じた。

 

「ライダー、キック……!」

〈Rider kick〉

 影山のゼクターが唱和する。

 ハイパーゼクターの回収を後回しにし、低い飛翔とともに、追い打ちを仕掛けてきたコーカサスに向けて、手を軸に、両脚を揃えて突き出す。

 

 ――捉えた。

 焦りか慢心か、予期しえなかった反撃を、コーカサスはその黄金の鎧に受けた。

 

 両者の接点で一度大きく収縮し、たわんだ瞬間解き放たれた空気の塊が、嵐となって荒ぶった。

 脚部のジャッキから送り込まれた突破力と、己の突撃力が相乗した結果、コーカサスは吹き飛び、野太い断末魔と共に爆散した。

 跡形も、残りはしなかった。

 

 ホッパーシリーズ。

 かつてネイティブの協力によって開発されたゼクターが、彼らの支配下に置かれる、ないし暴走した場合の抑止として、秘密裏に人類側で開発されていた。

 

 図らずもその本来の役割を、並行世界でその走狗となっていたコーカサスを斃すことで、果たしたのだった。

 

 だが、それが限界だった。

 度重なるダメージが蓄積されていた影山の身体は、いよいよ限界を迎えた。

 変身は解かれ、そのまま肘の支えを失い膝を折れた。

 

 風前に曝された命の灯を示すかのように。

 仰向けに倒れた彼の、満身創痍の肉体からは、緑の炎が立ち上っていた。

 そんな彼のことなど意にも介さないように、周りではなお混戦乱戦が続いていたが、その表情に、悔いのようなものはなかった。

 

 仰ぎ見た天で、星が、いや月が煌めいている。

 赤黒い雲を晴らし、白銀に染め上げる、影の月。

 白夜。日向を歩けぬ闇の住人さえも照らしてくれる光。

 

 見られたのが最期の一瞬であったとしても、この仮初の命を、捧げるだけの価値はあった。

 

「『地べたを這いずり回ってこそ、見える光がある』……本当だね……兄貴」

 

 

 微笑をたたえて紡いだ呟きと共に、彼は陽炎となって静かに消えていったのだった。

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