仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜 作:大島海峡
何だ、これは。
空を塞ぐ、赤き雲が晴れた。
奴らに光など似合わない。その下で、延々、血に塗れながら生死と巡ってもらう。その象徴が、破られた。
ユエツの眼下に、白銀の月輪が、瞬いている。濃緑の影が、その周囲に生じている。
〈エターナル! アップグレード!〉
その中心より、一閃が弾き出され、ユエツの外皮を、そこに貼り付く目の一角を削った。
「なんッ……!」
何をされた。斬られた?
何故、何処から、如何やって?
畳み掛けるが如き、困惑。天地の間で何度も視界を反転させながら、ユエツは身を捩る。その尾に足をかけ、胴体に乗り入れ、堕ち行くのみだったその男は、大道克己は舞い戻って来た。
〈フォーエバー!〉
エターナルメモリと強化アダプターが融合し、ロストドライバーはより重量感を増したが、それに負けまいとするかの如く、白いボディは艶を帯びて銀色に閃き、手足では蒼ならぬ翠炎が揺らめく。
真紅の刃。
その鍔元には二十六基のソケットが二重の輪を描いている。
それらはまるで、
「馬鹿な……ただの、時代遅れの廃棄物如きが……今更強化などされるわけがない! 何故だ!?」
「さぁな……たまたまそういう風が吹いたんだろうよ!」
そう嗤い、あえて強く踏み込み、進化したエターナルは頭部目掛けて駆け出した。
「人を踏みつけちゃいけないと……母親には教わらなかったのかぁっ!?」
ヘドを吐くが如き煽りと共に、再びユエツは身を捩る。
今度は混乱のためではなく、上に乗るエターナルを弾き飛ばすべく。
宙へと投げ出された克己の周りを、赤褐色のメモリが漂う。
それは羽でも生えているかのように、ひとりでに滑空しつつ、自ら剣のスロットに納まった。
〈バード! アップグレード!〉
すると、赤い羽片のごときエネルギーの粒子が彼の周囲に散らされ、その中心で、落下の速度は緩まり、虚空に留まる。
〈サイクロン! アップグレード!〉
その足下に旋風が巻き起こり、
〈アクセル! アップグレード!〉
〈ナスカ! アップグレード!〉
浮力が加わり、速力が加わり、色が加わり
にわかに加速した克己の剣が空を舞い裂く、縦横に無軌道に、刃がユエツの身体を奔る。
「エターナルのガイアメモリの支配が強化されて、すべてのT2の能力が拡張されている、だと……!?」
その特性を即時に理解したユエツではあったが、置かれた状況は、彼の理の外。
こんなことが、あってはならない。
かくも不可思議な現象が、このような理不尽なこの番狂せが。
「こんなことが……私の、ヴァルハラでぇぇぇ!」
総身の『目』より光線を乱射する。何処を飛び回っていようと、射落とすべく。
〈ヒート! アップグレード!〉
〈ルナ! アップグレード!〉
背に展開していた幾何学的紋様の翼を折りたたみ、あえてエターナルは、我が身を空中に留めた。
そしておもむろに、火と熱を帯びた剣を彼へと向けた。
切先から発せられた火球は、曲直の弾道を描いて的確に自らに向かってくる閃光を余さず撃墜していった。
その弾幕を突破したユエツの胴体の目たちが分離し、機動型浮遊砲台と化して多面的に克己を攻め立てる。
だが克己は、その場で動かず。代わりに飛来したメモリが、さらにそのサーベルへと加わっていく。
〈メタル! アップグレード!〉
〈トリガー! アップグレード!〉
マントの裏より打ち出された拳の圧が、鋼の雨となって降り注がれる。自らに殺到する一切の悪意の『視線』を消し飛ばし、ユエツの長細い身体に逆撃の痛打を与えた。
「これがゲームというのなら」
そのユエツの本当の眼前に、もとい正面に。
克己は降りてきた。固めた空気の塊を足場にして、泰然と大股で歩み寄る。
「自身で参加しなければなるまい? 最後の一瞬に、思う存分味わっていけ」
そう言い放った克己は、自らのドライバーから、アダプターごとメモリを抜き取り、剣の柄に押し込んだ。
〈エターナル! マキシマムドライブ!〉
その号令の下、掲げた剣の元、地球の記憶の欠片が、参集する。
すでに納まっていたもの。あらためてソケットに装填されるもの。それらが再び歌う。
緑碧の煌めきがたゆたいながら、刃の先へと注がれていく。
そして充溢した力の波濤は、螺旋を描いて、ユエツに向けて放たれた。
〈Finish MODE:LASER VICTORY〉
その光の矛先を挫くべく、長躯に合わせて巨大化したレイザーレイズライザーを引き金を絞る。
必殺を期した銃器から、光線が向かい打たれ、音が鳴り響く。
果たしてそれは、誰がための
発せられたのは、ほぼ同時だった。
両者の中間で、衝突した。
光量、出力、勢い、ほぼ同等である。それに加えてユエツは、生き残った目のユニット残機を射出。自らに加勢をさせる。
だが、時と共に、目に見える形で。
エターナルの一撃は、圧す。
雲を破り、空を裂き、世界を砕きながら。
風を呼び込み。
死者の執念は、止まらずして、抗する光を呑み下した。
「あ……アァァ!!」
ユエツは腕を下ろさないまま、最大限エネルギーを放出したまま、悲嘆の声を搾り出す。その身を異形に変え、仮面で顔を覆っていなければ、紛れもなく絶望の表情を露わとしていたことだろう。
その妖月が、ジリジリと己に近づいてくる。
さながらそれは、首に巻かれた紐が絞められていくようであり、ギロチンが少しずつ下ろされていくようであっただろう。
そしてこのヴァルハラにおいて今まで耳にしたこともないような、破滅的な音を立てて、その表面とユエツが思わず仰け反らせた顔面が触れた瞬間、周囲に空間を歪め、嵐が吹き荒れ、集積したそれらが爆発を引き起こす。
その瞬間ユエツは、今までの己が所業への報いを、一身一心に受けた。
その爆風で上昇した克己は、あらためて塔の頂に舞い上がりながら、親指を立てて地へと向ける。
「さぁ、地獄を楽しみな!」
会心の嘲りと共に、言い渡す。
その足下で、人の姿に戻ったユエツが、落下していく。
元より尋常の人間ではないためか、あるいは変身の残滓ゆえか。
高所から地面に激突しても、ユエツは一命を取り留めたようだった。
くぐもった声を漏らしながら這っていく彼の頭上に、数多の影が、ライダー達の姿があった。
それは、長く駒として弄ばれた復讐……でさえなかった。
爬虫類と鈍色のパワードスーツを融合させたような、迷彩柄のボディに右側を機関銃とチェーンガンを携えた怪物。
あるいは分厚く白い毛皮と巨大な爪を持つ、雪男。
彼らは、それらは、精神が擦り切れるまで酷使され続けた、ライダー達の慣れの果て。ゲームエリアを、それこそゾンビそのものの様相で闊歩していた群れに、行き当たったのだった。
もはや理性などとうに無くした彼らは、唯一残った闘争本能に従い、動いていたユエツに襲いかかった。
「や、やめ……ろ……うわああああああッ!」
断末魔が残響を引いて消えていくまで、それほど時を必要とはしなかった。