仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜   作:大島海峡

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2.ヴァルハラの主

 ……今度の(ねむり)は、極めて浅く、短い。

 硝子の海の潮騒のような、甲高く雑多な異音が押し寄せては引くのを繰り返し、再動を促す。

 

 その波間に、懐かしい曲を聴いた。懐かしい貌を見た。最初の、自分の死を思い出した。

 

 それによって克己の意識は再び浮上し、覚醒し切らぬままに頭と上体をもたげさせた。

「これは……なんだ? ここは、一体」

 さしもの克己も、動揺を隠せない。

 

 如何なNEVERでも、その再生や耐久性には限界がある。

 特殊な酵素を定期的に投与されなければ細胞は自壊し、激しく肉体を損壊させられれば否が応にも活動は停止し、ガイアメモリによる最大出力(マキシマムドライブ)の直撃を受ければ跡形もなく消散する。

 

 だが、蜂の巣にされたはずの頭部は、傷一つなく元通りとなって、克己は蘇生していた。

 

「地獄だ」

 力無く、それに返す声がある。その主は、あの射殺された女逃亡者だった。

 嬲り殺しにされたはずの彼女も、部屋の片隅の、擦り切れたソファでぐったりと項垂れながらも、その傷――とさえ呼べないほどの損壊が、完全に修復されていた。

 

「地獄……?」

 克己は思わず問い返す。

 なるほど、死者が甦る状況は、尋常ではない。あるとすればそれは紛れもなく『地獄』だろう。

 だが、

 

「いったい、()()()()地獄なんだ?」

 と、不敵に返す。

 地獄にも、種類がある。

 正真正銘の、罪人が堕ちる死後の世界なのか。それとも、あの(ビレッジ)のような、誰かの実験施設なのか。

 

〈ずいぶん心外なことを言うね。クロトー君〉

 そこに、第三の声がかかった。男の声。紳士的だが、嵩に懸かった物言いをする、一声で下衆の類と分かる耳障りな声。

 克己と、クロトーと呼ばれた彼女は、その声天井の、四方に向けられたスピーカーと、中空を漂う眼球型のドローンを睨み据えた。

 

〈私は、君達のことは常にフェアに扱っている。だからまともに戦いもせず、懲りずに逃亡を図る君のことも、こうして廃棄せず再びゲームに参加させているじゃないか〉

「ゲーム……?」

〈そう、ちょっとシステム側に不具合があったようで申し訳なかった。さきほどのゲームは無効とさせてもらったうえで、あらためて現状を説明をさせてくれ。大道克己――仮面ライダーエターナル君〉

 

 当然ながら、相手方は克己の素性を、その体質や、かつて仮面ライダーを名乗っていたことと、その末路さえも把握しているようだ。

 

〈ここは『ヴァルハラ』。そして私は主宰を務めるユエツという〉

 ヴァルハラ。たしか北欧神話に出てくる、戦士の楽園。

 戦いの中で散った戦士の魂が永遠の戦場に招かれ、陽が昇れば殺し合い、夜となれば蘇って酒を酌み交わす。そしてまた日の出とともに殺し合う。それを繰り返す。

 なるほどどういう仕組みかは不明だが、まさにこの状況に近しい呼称ではあるだろう。

 休息所らしいこの場所も、どことなくホテルのロビーやバーカウンターを想わせる。

 

 ――戦いが終わったとして、酒を酌み交わせるような連中が集められたかは別として。

 左右に目をやれば、クロトー以外にも集められた面々がいる。

 だが、全員心此処に非ずといった様子で憔悴し、あるいは糸が切れたように虚ろで、背筋や首を真っ直ぐにしているものなど誰もいない有様だった。

 だが、全員強い。

 ひとかどの戦士たち……であったことは間違いない。

 

〈かつてあらゆる次元を越えて、仮面ライダーたちを競わせる催しがあった。我々は彼らのスポンサーとなり、それぞれの願いを成就させるべく応援していた訳だが……ちょっと前にそっちのオーナーが変わってね。ヌルい路線に舵を切り始めた。だがそんなものに我々は、満足も納得もしない。だから、元の施設や技術の一部を奪い取って、退嬰と暴力に満ちた古き良き『デザイアロワイヤル』を開催しているってことさ……多少のアレンジを加えてね〉

 

 少しばかりの含み笑いの後、ユエツを名乗った主催者は、笑いを含めせて続けた。

 

〈自分たちの世界に変革を求め、あるいは野望を抱き、そして敗れたライダー諸君。この楽園に生き返った君たちは、その新たなる挑戦者だ。情け無用。御涙頂戴も沢山。ただ自分の持てる知勇とアイテムの数々を使い尽くして互いに鎬を削り合い、生き残りを目指したまえ。何度でも、何度でも……ね〉

 

 烈しく物音が立った。

 ここに生き返させられたらしい男の一人が、にわかに口を開いた。

 

「そうだ! 戦い合え人間ども! 勝利した者は生かしてやろうッ!」

 かつてはどこぞの貴種だったのか。擦り切れた赤い外套の裾を振り回すように全身をねじり、焦点の定まっていない目で左右を睨み回し、歪めた口の中では過剰に分泌された唾が糸を引いている。

 

〈……ま、長く続くとこうやって毀れる奴も出てくるわけだが……おい〉

 ユエツが声で示唆するや、参加者たちの間や外野から、黒豹の機械人形たちが影のごとく競り出した。

〈Blocking Panther〉

 そして、ベルトのバックルから銃型のデバイスを抜き取るや無機質な挙動で、狂乱する男に無数の銃弾を浴びせかけた。

 騒音は止み、どうと倒れ伏した男の身柄を、その内の数体が引きずって部屋を後にする。

 

 おそらくは『彼女』たちは、ユエツの忠実な尖兵。審判であり、看視者であり、粛清者。

 この世界と状況になぞらえるなら、黒い(ブラック)|戦乙女〈バルキリー〉といったところか。

 

〈だが彼の言う通り、勝利者にはそれなりの見返りも用意させてもらっている。たとえば、元の世界の復活。たとえば、生前の願いの成就……それが我々に可能なことは、今君達自身の置かれた状況を想えば理解できるはずだ〉

 

 もっとも、と言葉を区切って、冷笑を滲ませながら続けた。

 

〈逃げてくれても構わない。用意もされていない出口を必死に探し回った挙げ句、他の参加者にとって食われ、終わりのない死をループし続けてくれても、我々にとってはそれはそれで座興の一つにはなるのだからね〉

 

 その言葉は全体に向けられたものではなく、あくまでそれを図ったクロトーに絡ませられたものだった。

 

「もう一つ、方法はある」

 絶望と落胆に首を沈ませる彼女の前を、クローズアップするように『眼玉』たちが寄り集まる。その環視から庇うように克己は立った。

 

「お前たちを殺して、その力を奪うってのはどうだ――『目付き』が気に入らないんだよ、どうも」

 コンバットナイフのような眼差しがドローンたちを捉え、その目力に気圧されるかたちで、それらは散った。

 

〈は――ハハハ〉

 だがスピーカーの向こうの相手は、それを一笑に付したようだった。

〈良いねぇ。最近はそういう叛骨心を向けられることも無くなったから、新鮮だよ。是非その殺気を、死合でも発揮してくれたまえ〉

 

 まるで児戯のように取り合わず、適当に流す感じで受け応えたユエツは、浮ついた調子で、

〈では、ゲーム再開といこうじゃないか〉

 と宣言したのだった。

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