仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜 作:大島海峡
「こっちだ」
その影山なる男は、克己がイエスともノーとも言わぬまま、勝手にその場を仕切り出し、残りの二人を先導していく。
道から外れ、いよいよ草深い森の中へと分け入る。前後左右定かならぬ状況はまるで、自分たちの未来を暗示しているかのようで、クロトーの心を陰鬱なものとさせる。
「ついて行って大丈夫なのか?」
うんざりした調子で彼女は、数歩分先を行く克己に問うた。
すでに何度胴や頭を撃ち抜かれ、仮初の命を奪われたかもしれない。だが、それでも無意味で不毛な死を重ねることだけは勘弁願いたいところだった。
「と言って、ゲームに参加しない方向でお前が動くのなら、良くも悪くも変化を求めて進んでいくしかあるまい?」
「無計画にも程がある。いっそのことあの塔に直接乗り込んだほうがまだマシだ」
そう苦言を呈した時、克己は初めてクロトーへと首を振り向けた。
「……あの塔、今までにたどり着いて優勝したライダーってのは、どんなヤツがいる?」
「さぁな」
「知らないのか?」
「生き返れるって時に、わざわざ負かした相手のところへ勝ち誇りに戻ってくるほどヒマではないだろ」
克己は形容しがたい表情を浮かべ、唇を歪めて動かした。
「……やっぱりな」
と、短いながらも多分にシニカルさを含ませた独語と共に。森の中から、木々を飛び越えて顔を見せる、敵の中枢を仰ぎ見た。
「おい、喋ってないで急いでくれ」
影山が二人を振り返り入った・
やはり、何かそこに焦れた様子と作為とを感じ、ますます剣呑だと思うクロトーだった。
――故にこそ。
開けた場所に行き当たった時、にわかに丘陵に駆けだした影山を見ても、さほど驚きはなかった。
彼が向かった先には、一人の男が待ち構えて。
その髪、目は、遠目にも見紛うことはない。先のゲームにて克己の背を刺した相手。
『火野映司』を名乗っていた男だった。
そして背後にも、いくつかの気配が浮かび上がる。
事、ここに至れば馬鹿でも判る。
やはり影山の賛意は偽りだった。そして奴の手引きにより、完全に囲まれていた。
「悪く思うな。これは、そういうゲームだ」
影山は言い訳めいたことを吐かしたが、目に見えてその表情には勝ち組の側にいるという優越が滲んでいた。
「なるほどな……もう少し、正体は隠しておくもんだと思っていたが」
皮肉と呆れを半々に、克己は冷笑を零した。
「数を恃んで騙し討ちか。俺が死んでる間に、仮面ライダーってのは、ずいぶん安い名になったようだな」
映司は気だるげに、かつ人間らしからぬ仕草と共に、首を左右に揺すって返した。
「ライダーは騙し合いでしょ」
と。
「……とは言え、まぁお前に腹は立ってるけどな……さっきはよくもやってくれたなぁ」
憎悪の黄炎を双眸に揺らめかせて、自らのドライバーらしきものを腹に据える。
「君は詰めが甘いんだよ。そもそも、嘘が雑過ぎる。いつくかの真実を織り交ぜてこそ、相手に完全に信じ込ませることができる。だから返り討ちに遭ったんだ」
そう鼻にかかった調子で克己たちの背後から声がかかった。
「君たちには高いポイントが設定されててね。それでみんなで山分けしようって話になったんだ。ま、あんだけ馬鹿正直に運営に喧嘩売ったのが悪い」
この手様な空間にどこから乗り入れたものか、黒い高級車らしいマシンに背を預けた、白い近未来的な服を身に着けた男。その腰にはすでに、シートベルトにタコメーターを取り付けたようなベルトが巻かれていた。
少年の面影さえ残している若者だがしかし、それらしからぬ老獪さと冷酷さを、表情や佇まいから感じさせた。
「余計な口を挟むな、エイジ」
と、映司が睨み返した時、克己とクロトーは若干当惑した。
「おいおい、お前だってエイジだろ? ……お前こそ、黙れ」
という揶揄が返されたことで、二人が同音の名を持つという発想に至った。
「このお兄さんたちが遊んでくれるのォ?」
と、舌っ足らずな少年の声音が、車の裏側から飛んできた。
顔をそこから覗かせたのは、何処にでもいるような若者だったが、理性の薄そうな表情の作りをしている。
……ただ一つ違うことがあるとすれば、まったく同じ背丈、顔の三人が、横並びになっていることだった。
「あぁ、存分に遊んでもらうといい」
と穏やかながらも無慈悲な許諾と共に、車の側の『エイジ』も、右の手首に身につけたブレスレットに、ミニカーのようなユニットを走らせ、そして呟く。
「Start our mission……変身」
〈Drive! Type Next!〉
そのまま背の車が人型になったかのような黒いボディに、稲妻のようなラインと、バイザーが青白く閃く。その車から飛んできたタイヤが、肩から胴にかけて被さるように融合する。
「これだけ優位に立てば、ダークドライブで十分さ。一っ走り付き合えよ」
と宣う。
「変身……」
一方もう一人の『エイジ』も、メダルを装填したドライバーを、専用のスキャナーで読み取る。
「あれは、コアメダル……財団Xの次期投資対象と目されていたというアレか」
克己が独語した。クロトーはクロトーで、それが自分たちとは別系統による錬金の産物だと看破した。
〈ゴーダ・ゴーダ・ゴーダ!〉
歌うように自らの名乗りをあげる。あれから堕落したのか、あるいはただの模倣か。かつて見たライダーの姿は、害虫の如き装飾により、大きく歪められている。
「変身!」
〈スパーキングミ! ヤミー!〉
顔の半ばをそれぞれ掌で覆いつつ、三つ子らは異口同音に唱える。
菓子箱のごとき小物を、露わにした腹の『ドライバー』に読み取らせレバーを回せば、何処からか飛んできた瓶の形状の容器が彼らを覆う。舌を出して紫色に発光する目を剥き、恍惚の表情を浮かべる彼らの姿が、満たされていく炭酸質の液体に溶けていく。
それが割れ、中から現れたのは、のっぺりした顔の、黒と赤を基調とする三体の怪物だった。
「変身」
勝利を確信したかのような余裕の笑みと共に傷痕を歪め、影山は自らの周囲を跳ね回っていたバッタ型のデバイス捕まえ、前後で異なる色の内、銅色の側を前にして、シンプルなベルトのバックル、その開けたカバーの上にセットした。
〈Change Punch Hopper!〉
そして金属片に包まれていく影山は、角を尖らせたバッタの造形の、鈍色のライダーへと変貌した。
「言わんことではないッ」
クロトーは舌打ち交じりに毒づくの、すでに時遅しである。腹を括り、二枚のカードをドライバーにスライドさせる。
〈スチームライナー〉
〈ユニコン〉
「変身……!」
古びた扉を押し開けるようにレバーを引けば、
天馬が彼女の周りを巡り、かつ燃える腕骨がそれを捉えて彼女の身柄に叩きつける。
〈ドレッド・壱式〉
派手に火花が散った後、顕現するのは冥黒の戦士。
白い獣の装甲を右肩にまとい、細剣を手に取る。
人工生命体ケミー、そのレプリカを二重錬成によって運用する、ドレッドの第一次進化形態だ。
……そして、克己は各々の変身を見届けた後、自身もまた、ケースから抜き取ったロストドライバーを腰に固定した。青い端子のガイアメモリを片手で握り。永久機関を表したイニシャルの下にあるスイッチを指で押し込む。
〈エターナル!〉
「変……身」
自らの内になおかすかに残る、生への実感と執着。それを噛みしめるように彼は呟き、赤いバックルのスロットにメモリを収め、伸ばした腕で右に倒した。
〈エターナル!〉
他に比すればシンプル極まるその音と共に、その魔性の小箱に収蔵された地球の記憶が死している彼の肉体を、永久の兵士へと変換させる。
白いボディと三又の角、それを覆う黒いマント。黄色い目。そして両腕に宿るのは青き鬼火。
仮面ライダーエターナルは、今ここに仮初の復活を果たす。
「まとめてかかって来い」
転送された短剣型の近接武器、エターナルエッジを自らの手の内で回しつつ、克己は冷ややかな気を放つ。