仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜   作:大島海峡

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6.死神のパーティータイム

 エターナルと、ダークライダーたちの集団。

 二つの陣営。圧倒的な戦力の開きがある闘争。

 そのうちの一人は仮初の味方だとて、克己が孤立していることは間違いない。

 

 黒と、白。大雑把に大別すれば、ライダー達のメインカラーはその二つである。否、克己の変身するエターナルのみが、マントを除けば白である。

 

 おおよそのイメージにおいて、白が清純・正義で黒が混沌・奸悪と相場が決まっている。

 だが、このヴァルハラにおいて、その陳腐な判断基準に何の意味があろうか。地獄に堕ちた者に、何の義が立つというのか。

 

 だが、そんな中でもルールは、確かに存在する。

 この乱戦を生き抜き、最後に立った者こそが、すなわち強者だという。

 すでにして何度も死んでいる彼らは、それを目指して、現在進行形で身も心も、削り合っている。

 

 青き光線を引いて、刃が躍る。真正面からエターナルに斬りかかった、ダークドライブのものだった。

 だが、その派手さに比して、殺気は鈍い。おそらくはブラフ。

 

「僕はお前よりも未来の仮面ライダー。この程度の攻めでは、その差は埋められないね!」

 加え、露骨な挑発。となれば本命は――

 

 大きく振りかぶった瞬間、一転して刃を引いた彼は身を屈めて克己の懐に潜り込み、ガントレットと一体化した把手部分で不意打ち気味に殴り掛かる。

 

 だがその動作の一切を読み切っていた克己は、掬い上げるように繰り出されたそれをマントを翻すことで勢いを鈍麻させ、残るのは正面から、掌で受け止め、肘へと流して殺し切る。

 

「この地獄に来た時点で、俺も貴様も過去の遺物。もはやそこに差などあるまい」

 そして、言葉でも負けない。冷笑と共に返し、エッジを翻して逆袈裟に反撃する。

 

 衝撃に両足を浮かべた彼に足裏で追撃を与えつつ、自身も飛び退く。ちょうど彼のいた空間に、踵が降って来た。

 炭酸系グミより精製された眷属を以て変身するクローンライダー、ビターガヴである。

 

 タイミングを見定めての奇襲も空振り。だがそこに拘泥する様子など微塵も見せず、そのままの勢いでストンピング。『ジュワッ』という漫画的な擬音がそのまま可視化され、物質化され、それを掴むと克己へと叩きつける。

 

 と同時に、その腹の『口』を改造した矯正器具、黒いガヴから、紫光と共に黒い両手剣が吐き出された。

 その柄が克己の腹を叩き、そのバウンドでビターガヴの手へ。

 

「ジャーン!!」

 幼稚なオノマトペと共に、擬音と剣とで二刀流。乱暴に振り回し続ける。

 衝撃と共に火花を散らしながら、直撃を承知で、ノーガードで克己は殴り返し、かつ刃を腕の関節部に叩きつける。

 

 お互い、その激しい攻防により、腕があらぬ方向に曲がっていた。

「ふん……」

 つまらなさそうに、脱臼でもそうあっさりは戻らないだろうという手軽さで、大きく振られたエターナルの腕は、骨の異音と共に元通りに。

「やるじゃん!」

 さも楽しげに、声を弾ませるビターガヴの湾曲部もまた、まるで意思を持った生物のようにうねり、ひとりでに修復された。

 

「隙ありィッ!」

 その克己の背より、もう一体のガヴが押し迫る。既にしてその腹口より半ば、剣の柄が抜け出ている。

 ……それに対し、マントの内より繰り出した蹴りが、一瞥もなく繰り出された。

 ガヴの口へとその剣は押し戻された。漏れる苦悶の声は、えづくが故か純粋な苦悶か。

 背を曲げた彼の身柄に上段を回し蹴りを繰り出し、地に転がす。

 

 残る一人は、すでに剣を展開し、ドレッドと剣を交えている。

 シャープな筋を描いて抜き出されるレイピア、ブラッディーUC。それによる刺突の数々を、ビターガヴガブレイドによる強引な大振りと、それに伴う刃風が跳ね飛ばす。流儀も間合いも呼吸もあったものではない猛攻に、ついには剣はクロトーの手を離れた。

 

 だが、洗練された動き、繊細な所作など、元より己に望むべくもない。徒手空間となった彼女は、本来の戦闘スタイルに戻る。

 肩口に大剣の刃が叩き込まれる。それが引いて装甲と肉が抉られるより先に、強引に腕を伸ばし、ビターガヴの『ベルト』を掴んで己へと寄せる。

 

 と同時に、自身のドライバーへ、もう一方の手でケミーカードを読み取らせた。

 

〈ゴリラセンセイ・ドレイン〉

 

 にわかに万倍の力を得たドレッドは、そのまま彼を浮かび上がらせて、地面に叩きつけた。

「この……っ、離せよ!」

 焦燥と苦痛の入り混じる声と共に、ビターガヴは抗う。だがそれを構わず、クロトーは強引に押し切った。

 背を打ちつけるたびに、草木は薙がれ土は捲れ上がり、やがては剣を取り落として転がり、力は抜け声が途絶える。

 

 だが、ふとした瞬間にクロトーの手から重みが抜け落ちる。

 濡れた弦が切れるような音と共に、感触が伝わってきた。断末魔が、轟いた。

 見れば、掴んでいたベルトがその身から引きちぎれて、離れていた……否、剥がれていた。

 その断面にいくらかの皮膚を残し、鮮血がそこから滴る。

 

 人の姿に戻ったクローンは、血の泡を噴き、目を剥き開かれた腹部より臓腑や骨片を曝しながら絶命した。

 

「ベルトでは無かったのか……気分悪い」

 舌打ち混じりに毒づきながら、クロトーはガヴを捨てた。

 

「クロックアップ!」

〈Clock up〉

 

 影山と、ベルトの機械音声が輪唱する。

 と共に、目にも留まらぬ速さで、四方八方を移ろい、直線的に動き回りながら打撃をエターナルとドレッドへと与えていく。

 単なる高速移動ではない。彼のみが、時間の流れの空間を形成し、その中を駆け巡っているのだ。

 

 影山には、両の獲物の動きは緩慢に見える。相手には、視えざる何者かの攻撃が己らを薙ぎ倒しているかのように感じるだろう。そして傍目からは、勝手に二人が跳ね回っているかのように見えるだろう。まさに、その領域だけは、何者にも侵されざる影山の――マスクドライダー・パンチホッパーの独壇場だった。

 

〈ゾーン! マキシマムドライブ!〉

 

 その独壇場から、突如として影山は引き摺り出された。

 一瞬後には眼前にはナイフの切先。咄嗟に捩ったその身に、それが掠めて火花を散らした。

 

〈Clock over〉

 そのまま地を這う彼は、冷たい笑声と共に肉薄するエターナルに、苛烈なる追い討ちを受け続けた。

 

「おい、ゴーダ! 何を傍観している!? 加勢しろッ!」

 そう声を荒げる影山に対し、直近に陣していたゴーダは鼻を鳴らして腕を持ち上げた。動きは緩慢。だがその掌上に生じた光球は、激しく明滅を繰り返している。

 

 それを、飛ばした。戦場の中心。両陣営の、何者をも鑑みることなく。

 その爆風に巻き込まれ、パンチホッパーは低い悲鳴と共に転がった。

 

「貴様……味方まで攻撃してどうする!?」

 起き上がりざまに反転し、ゴーダに掴みかからんとする。

 だがその手は容赦なく捩じられた。そのまま、引き千切られんばかりの強さに苦悶の声をあげる影山は、クロックアップの装置を作動して逃れようとする。だが取られた腕と痛みが、それを赦すことはなかった。

 

「何を勘違いしている? お前はただの餌だ。獲物が食いつけばそのまま使い捨てられるだけのな」

 ゴーダは、冷ややかに宣告する。そしてその言の通りに『処分』せんとなお強く締め上げる。

 その横合いから、炎と煙の帷を切り払うように、黒いマントが靡いた。

 

「くおォォォッ!」

 気焔一声。爆発を突っ切って現れたエターナルは、そのままエッジを振りかざした。

「ふん……」

 鼻を鳴らして影山を突き飛ばしたゴーダは、両手より伸びた鋭い爪で応戦した。散った火花が青く咲き変わり、それらが舞う中

 

〈ファング! マキシマムドライブ!〉

 エターナルエッジに、付属していたファングの記憶(メモリ)を挿入する。

 野生的に、荒々しく伸びあがった、蒼白の斬撃。刃から発せられたそれが空を裂き、その間にある一切を薙ぎ払う。

 爪を交わすようにしてとられたゴーダのガードを正面から、力任せに打ち崩し、半歩ばかり退かせた。

 

 ――その決着の見えない争いは、終わりの兆しを見せた。

 壁が、多方からこちらに向かってきている。

 天から地を余さず遮り、その表面を、赤や黄色などが警告色で閃かせ、波打たせている。

 その速度はさほどには見えないが、それは未だ遠目であるからだ。実際は、かなりのスピードであり、程なく、そして確実に彼らの側へと向かってきている。

 

「馬鹿どもが……たった二人相手に手こずりすぎだ……ッ」

 己のことは棚上げにしつつ、ゴーダは毒づく。

 時間の限度、エリアの制限。それらを証するものであり、触れた瞬間にすべてが終わり、敗北が決定する。

 それを知るがゆえに、他のライダーたちも動いた。

 

「まずい」

 呟いた影山は、ベルトの側面を掌で叩く。

 クロックアップを起動させた彼は、脱兎のごとく、誰よりも先んじて逃げ出した。

 

〈ブルキャンスパイシー!〉

 危機を察する理性、ないし本能は持ち合わせているらしい。

 一体を失ったビターガヴたちも、それに拘泥することなく離脱に動く。

 一方が生み出したバギーのハンドルを手に取り、もう一方が乗り込む。

 

 そしてクロトーも、それに倣った。

〈ゴルドダッシュ・ドレイン〉

 一枚のカードをドライバーに読み取らせ、前方に実体化させる。

 黒い面のようなフロント部に、紫のアイライト。グレーの車体は、重装であり、二人の男女ならば余裕で搭載できるだろう。

 ビークルタイプのレベルナンバー7、ゴルドダッシュ。

 バイクのようだが、人造の生命体。さらにその模造品である。

 

「乗れっ! あれに触れると終わりだ!」

 素早く跨るや、克己に向けてそう鋭く促す。

 

 ゴーダもまた、徒歩ではない。

 前もって用意していたライドベンダー。仕留めきれなかった獲物に未練はあるが、自販機型の待機状態にさせていたそれに踵を返す。

 

 だが、それが眼前で爆破された。横合いから飛んできた、大振りの光球によって。

 その元を目で辿れば、指先に雷電を残留させていたダークドライブが、自身のネクストライドロンに乗り込むところだった。

 

「貴様……ッ! まさか」

 最初から、これを狙っていたのかと悟る。

 わざわざ森林地帯を場所に選んだのも、予備のマシンを使わせないために。

 

「ライダーは騙し合い、なんだろ? ……心配しなくても、あの二人は()が、しっかり仕留めてやる」

 嗤いを含ませながらそう言い渡し、『エイジ』の車はタイヤを浮かせて木々をすり抜けていく。

 

「ふざけるなァッ!」

 怒情のままにそれを追いかけんとしたゴーダの前に、エターナルの白いボディが割り込み、立ち塞がる。

「ついでの置き土産だ」

 そう嘯くや、ガイアメモリをドライバ側面のスロットに挿入する。

 

〈アイスエイジ……マキシマムドライブ!〉

 冷気が氷柱の形をとって、エターナルの右脚に集約される。その直撃を喰らったゴーダの身体に白い霜が下りる。それはたちまち総身に回り、動きを麻痺させた。

 その反動を利用して飛び退いた克己は、そのままゴルドダッシュの後部に飛び乗り、その場を後にした。

 

 ――あるいは、ゴーダが、その溢れ出んばかりの欲望のエネルギーを発揮すれば、瞬く間に融解出来ていたのかもしれない。

 だが運に見放された者に対しては、その一瞬時の猶予さえ、このヴァルハラは許容しない。

 

 そのまま帳に呑み込まれた彼は、声も無く、光の微粒子として分解されたのだった。

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