仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜   作:大島海峡

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7.デッドチェイス

 克己たちを、二つの死が追っている。

 片方は、残ったライダー達。彼らを挟み込むようにして、二台の『車』で追いかけて来ている。

 

 そしてもう片方は、エリア制限の隔壁。追いつかれれば、如何なるライダーの力も存在も、無に帰す。

 

 クロトーが呼び出した、バイクの如きもの――レプリゴルドダッシュに二人乗りしながら、木々を抜けていく横で、例の三つ子――もとい一人減って二人一組のビターガヴが並走している。

 そのマシンの馬力でもって、前方の樹木を薙ぎ倒しながら、戯れるように急接近しながら体当たりをかますのを、巧みなドライビングテクでもって躱す。

 だが、敵の攻めはそれだけでは終わらない。

 

〈ブルキャンスパイシー!〉

 と、相乗りしている一人が腹の口に読み取らせるや、そのバギーと同系統と、巨大なガトリング砲が転送され、

「よっこいしょっと!」

 という掛け声と共に、搭載される。

 

 その砲身の後ろに一体が着き、彼が手動で起動させたことで回転を始める。

 すると、飴玉のごとき弾頭が際限なく射出された。

 太い幹をへし折り、穿ちながらなお速度と威力を落とすことなく、容赦なく克己たちに撃ち込まれていく。

 

 その弾威から逃れるべく反対方向へとハンドルを切ったクロトー。

 だが、その進路に光の雨が降り注ぎ、苔土を抉る。慌ててヘッドを戻した彼女たちの頭上を、漆黒に雷光を奔らせた車体――ネクストライドロンが暗雲の如く遮っていた。

 

 その側面に展開したホログラムの銃座から撃ち出される光弾が、執拗に、そして確実に、彼らより選択肢を削っていく。

 天地より挟み込むが如き十字砲火が、二人を苛み、追い込んでいく。

 

「このままでは埒が明かんな」

 そう毒づくと同時に、克己はおもむろに後尾より立ち上がり、そのまま飛び上がった。

 

「おいっ!?」

 身投げに等しい暴挙に、仰天したクロトーに、

「お前はそのまま森を突っ切れ」

 と、本人は落ち着き払った声で命じる。

 そして、自身のロストドライバーのスロットに、

〈アクセル! マキシマムドライブ!〉

 赤いガイアメモリを、装填して掌で押し込む。

 

 アクセルメモリ。頂くその名の通り、加速の記憶を秘めた一本である。

 その力と特性を得たエターナルは、着地するや、他のマシンに超高速でもって駆け始めた。

 自分に向けられたいくつもの砲撃を掻い潜り、バギーの横につく。追い越し追い越され、並走する。

 

 そうした中で、克己はその両脚を速めて一瞬車体を追い越すや、己の肩からマントを外して、風に流した。

「うわっ!?」

 砲手の視界がそれで塞がり、その手が止まる。自ら作ったその隙を、克己は逃さない。

 

 バギーの側面を、回し蹴り、穿つ。

 赤熱の轍が、虚空に、そして車体に刻まれる。

 

 ビターガヴたちの駆るマシンが、その衝撃により大きく傾ぐ。にわかにバランスを失った彼らは横転し、地に投げ出された。

 ゴーダ同様に、時間があればそれは十分に立て直しが可能な過失であった。しかして、彼と同様にその猶予は無かった。

 

 二体と一台、諸共に光壁に追いつかれ、一息に併せ呑まれて、粒子へと還る。

 だが、頭上(ここ)に一挙両得を狙う豺狼が在る。

 言わずもがな残りの一機。ダークドライブと彼の乗車するネクストライドロンである。

 

 さながら爆撃の如く――雷が降り注ぎ、森を焦がす。光と炎が、地を埋め尽くす。

「ふん――」

 運転席にて得意げに鼻で嗤った『エイジ』だったが、その車体に、ぐんと重みが加わり、やや右に重心が寄った。

 

 ダークドライブが右顧すれば、そこには白いライダーが取りついていた。

「よう」

 と声がかかると同時に、サイドガラスは拳で打ち砕かれ、割れた箇所から身体を潜り込ませて乗り込んで来た。

 

 ダークドライブは驚くと同時に、すかさずその手にブレイドガンナーを握り、グリップ部分で殴りつけた。

 エターナルは、避けもしない。避ける余地もない。その胸部で直撃を受けながらも、

 

「良い腕だな」

 と揶揄を込めて返す。彼に、痛みというものは存在しない。

 ゆえにすぐさま反撃に転じ、狭い室内、殴る、蹴るの容赦ない応酬が繰り広げられる。

 逆サイドのドアが、内側から蹴破られる。そして揉み合い組み打ちを制したのは、ダークドライブだった。

 

 馬乗りになるや、ドアから半ば外に放り出される体勢となった克己の喉輪を締め上げ、頚椎を折らんばかりに圧迫する。

 

「しぶとい化物め。そのまま落ちて死ね」

 と、下に向けてさらに押し込む。克己の喉が震える。だがそれは、負荷のためではない。

 ――先述の如く、死者に苦痛はない。

 

 もし、重大なダメージを伝えるものがあるとすれば、それはまさに致命傷。仮初の生命が再び摘み取られんとする、その間際のことだ。

 そしてその時こそ、克己は自らの存在がなお現に在ることを噛みしめることの出来る瞬間だった。それゆえの、歪な歓喜である。

 だが――

 

「何度死ねるとしても、こんなつまらない死に方はごめんだね」

 そう嘯く克己の手は、すでにドライバーからエターナルメモリを抜き取っている。

〈エターナル!〉

 マキシマムスロットに装填されたメモリからガイダンスボイスが流れた瞬間、その足裏から蒼炎が揺らめき、陰かしたそれが車内を焼く。二人の凶相を照らし出し、陰を、妖しく浮かび上がらせる。

 

「馬鹿な……正気か、貴様ァ!」

 焦慮はエイジの擬態を超え、地となり声に出る。

 このようなところで、必殺技――これほどの熱量の解放などすれば、どうなるか。分からないはずがないと。

 だが同時に理解もできる。

 

 逃げ場などなく、頼みの車を失えば、もはやこの場を離脱する術はない。

 すなわち、奴をトライドロンに乗り込ませた時点で、良くても相討ち――詰みであると。

 

〈エターナル! マキシマムドライブ!〉

 隙を突いて、鬼火渦巻くその脚部を、防御や欺瞞の余地を与えず、ダークドライブへと叩きつける。

 ダークドライブは天井に叩きつけられ、逆に克己はその反動と、その後に起こった爆風を利用して外へと吹き飛ぶ。

 

「ウアアアああッ!?」

 悲鳴を裏返しながら、エイジは車もろともに爆散した。偽りの身体を捨て、辛うじて逃れ出た『108』とナンバリングされた彼のコアもまた、追いついて来た死の壁に取り込まれて消滅した。

 

 風に踊らされる克己にもまた、それは平等に迫り来る。

 だがその間際、飛び出す一台の影があった。クロトーだった。バイクの擬似生命体に跨る彼女は、前輪を掲げるように跳躍し、克己に手を差し伸べる。

 救いの天使、というにはやや物騒で無骨ながら、大人しくその手を掴み、後部座席へと舞い戻る。

 

「そのまま突っ切れと言ったはずだがな」

「吐かせ。私がこうすることも、読み通りだったんじゃないのか」

「まさか」

 戯けたように言いつつ、克己は続けた。

「だが……やはり見立て通りに、お前は当たりだ」

 

 それ以上交わす言葉もなく、失敗者たちが悉く均された魔の森を、克己たちは駆け抜けて行ったのだった。

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