仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜 作:大島海峡
「はぁっ……はぁっ……はッ」
何者にも先んじて戦場を離脱した影山は、木に手をつき息を弾ませた。
出し抜いてやった、ザマを見ろという暗い悦楽と、それに対する疾しさが彼の心に同居して、なかなか呼吸は整わない。
それでもどうにかこうにか己の気持ちに一定の整理をつけた彼は、最後に背の筋を伸ばして立ち上がった。
だがその彼の喉輪を、女の、だが戦士の手が掴み取った。
そのまま締め上げると、今の今まで彼が寄りかかっていた木の幹へと背を叩きつける。
「がっ……は!」
誰の手かはあえて確かめるまでもない。激さず、面罵せず、だが明確な怒りの色を浮かべるクロトーの眼差しが、正面から影山を捉えていた。
「無駄なことは止めておけ」
そしてその肩越しに、大道克己の姿も認めた。
「どうせ、殺しても生き返るんだろう」
そう冷笑を浮かべる克己を一瞥した後、クロトーは舌打ちと共に影山を突き飛ばして解放した。
影山は、首を絞められたことに対する苦言よりも、騙した相手と再会したことに対する恐怖よりも、驚愕が上回った。
「信じられない……切り抜けたっていうのか……あの状況を」
だが程なくしてそれは、彼らと比較しての己の卑小さへの嫌悪へと変わった。
「笑えよ」
と、言った本人が自嘲を浮かべた。
「どうせ俺は、卑怯者だ。この状況をどうにかしようともがくお前らの足を、自分可愛さで引っ張った……挙げ句、それさえ誰かに都合よく利用されただけだった」
「あぁ、間の抜けた話だな」
影山が卑下する前より嗤っていた克己は、追い打ちをかけるように揶揄を飛ばす。
「じゃあ、どうすれば良かったのさ!」
自身の情けなさを噛み締めつつも、逆上をそのまま口にしながら、影山は頭を抱えるようにしてその場にへたり込んだ。
「こんなイカれた世界で、兄貴もいないのにッ、どうやって出口を見つけろ言うんだ……!?」
涙声でそう訴える彼に、「知ったことか」と吐き捨てるようにクロトーは返した。そう訴えたいのは寧ろ、彼女の方だったろう。
「そんなものは、お前が決めることだ」
それは、克己とて同じこと。
(いや……本当は、本当にこの男には、この地獄のゴールが見えているのか……?)
傲岸不遜な姿勢を崩さない克己は、クロトーに代わって崩れ落ちている影山の前に立った。
「だが……そうやって俯いた先の地面に、出口だの答えだのがあるのか?」
そう冷ややかに言った時には、克己の顔からは嗤いは引いていた。そこに滲んでいたのは、クロトーよりも根の深い怒りだけだった。
影山に裏切られたことよりも、彼が全てを悲観して首を垂れたことだけが、何よりも克己を苛立たせたようだった。
その叱責じみた問い掛けに、影山はゆるやかに顔を持ち上げたのだった。
〜〜〜
再び、三人は歩き始めた。
ただしその順番は入れ替わっており、先行するのは克己、やや遅れてクロトーで、さらにその後をトボトボと力無く、影山が追従する。
無論、『許すから共に来い』などという都合の良いことは言っていない。計は破れ、当面の仲間と目した相手からは見捨てられ、逆に彼らが早々に脱落した。他にあてもないために、勝手について来ているだけだった。
「……どうする? ブチのめして置いていくか?」
扱いに困ったように、苦り切った顔のクロトーが問い掛ける。
まったく惨めったらしい有様だが、そうしたくなる理由も、背後を盗み見ているクロトーには分かる。
大道克己は、やはり何かを持っている。このヴァルハラを凌ぐかもしれない、何かを。
単純な力や技の問題ではない。ただそれだけなら、囲まれた時点で彼女諸共その運命は尽きていたはずだった。
終わることのない地獄の中で、それでも変化や突破口を求めるのなら、彼に賭けるしかないのではないか、と。
「好きにさせておけ」
克己は答えた。
「こちらから構ってやる暇は、無いんでな」
と言った克己は、わずかに己の腕のあたりに視線を落とした。
それからわすかに顔をしかめるようにすると、その見ていた辺りにまで、黒い上着の袖口を伸ばして覆ったのだった。