仮面ライダーアウトサイダーズ the other 〜永遠のヴァルハラ〜   作:大島海峡

9 / 17
8.天を仰ぐか、地を見るか

「はぁっ……はぁっ……はッ」

 何者にも先んじて戦場を離脱した影山は、木に手をつき息を弾ませた。

 出し抜いてやった、ザマを見ろという暗い悦楽と、それに対する疾しさが彼の心に同居して、なかなか呼吸は整わない。

 

 それでもどうにかこうにか己の気持ちに一定の整理をつけた彼は、最後に背の筋を伸ばして立ち上がった。

 

 だがその彼の喉輪を、女の、だが戦士の手が掴み取った。

 そのまま締め上げると、今の今まで彼が寄りかかっていた木の幹へと背を叩きつける。

 

「がっ……は!」

 誰の手かはあえて確かめるまでもない。激さず、面罵せず、だが明確な怒りの色を浮かべるクロトーの眼差しが、正面から影山を捉えていた。

 

「無駄なことは止めておけ」

 そしてその肩越しに、大道克己の姿も認めた。

「どうせ、殺しても生き返るんだろう」

 

 そう冷笑を浮かべる克己を一瞥した後、クロトーは舌打ちと共に影山を突き飛ばして解放した。

 影山は、首を絞められたことに対する苦言よりも、騙した相手と再会したことに対する恐怖よりも、驚愕が上回った。

 

「信じられない……切り抜けたっていうのか……あの状況を」

 だが程なくしてそれは、彼らと比較しての己の卑小さへの嫌悪へと変わった。

 

「笑えよ」

 と、言った本人が自嘲を浮かべた。

 

「どうせ俺は、卑怯者だ。この状況をどうにかしようともがくお前らの足を、自分可愛さで引っ張った……挙げ句、それさえ誰かに都合よく利用されただけだった」

「あぁ、間の抜けた話だな」

 

 影山が卑下する前より嗤っていた克己は、追い打ちをかけるように揶揄を飛ばす。

 

「じゃあ、どうすれば良かったのさ!」

 自身の情けなさを噛み締めつつも、逆上をそのまま口にしながら、影山は頭を抱えるようにしてその場にへたり込んだ。

 

「こんなイカれた世界で、兄貴もいないのにッ、どうやって出口を見つけろ言うんだ……!?」

 涙声でそう訴える彼に、「知ったことか」と吐き捨てるようにクロトーは返した。そう訴えたいのは寧ろ、彼女の方だったろう。

 

「そんなものは、お前が決めることだ」

 それは、克己とて同じこと。

 

(いや……本当は、本当にこの男には、この地獄のゴールが見えているのか……?)

 傲岸不遜な姿勢を崩さない克己は、クロトーに代わって崩れ落ちている影山の前に立った。

 

「だが……そうやって俯いた先の地面に、出口だの答えだのがあるのか?」

 そう冷ややかに言った時には、克己の顔からは嗤いは引いていた。そこに滲んでいたのは、クロトーよりも根の深い怒りだけだった。

 影山に裏切られたことよりも、彼が全てを悲観して首を垂れたことだけが、何よりも克己を苛立たせたようだった。

 

 その叱責じみた問い掛けに、影山はゆるやかに顔を持ち上げたのだった。

 

 〜〜〜

 

 再び、三人は歩き始めた。

 ただしその順番は入れ替わっており、先行するのは克己、やや遅れてクロトーで、さらにその後をトボトボと力無く、影山が追従する。

 無論、『許すから共に来い』などという都合の良いことは言っていない。計は破れ、当面の仲間と目した相手からは見捨てられ、逆に彼らが早々に脱落した。他にあてもないために、勝手について来ているだけだった。

 

「……どうする? ブチのめして置いていくか?」

 扱いに困ったように、苦り切った顔のクロトーが問い掛ける。

 

 まったく惨めったらしい有様だが、そうしたくなる理由も、背後を盗み見ているクロトーには分かる。

 

 大道克己は、やはり何かを持っている。このヴァルハラを凌ぐかもしれない、何かを。

 単純な力や技の問題ではない。ただそれだけなら、囲まれた時点で彼女諸共その運命は尽きていたはずだった。

 終わることのない地獄の中で、それでも変化や突破口を求めるのなら、彼に賭けるしかないのではないか、と。

 

「好きにさせておけ」

 克己は答えた。

「こちらから構ってやる暇は、無いんでな」

 と言った克己は、わずかに己の腕のあたりに視線を落とした。

 それからわすかに顔をしかめるようにすると、その見ていた辺りにまで、黒い上着の袖口を伸ばして覆ったのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。