「……ん」
エアコンの風が当たったことで出来たカーテンの隙間から差し込む日光が、ちょうど目元に当たり、俺—遠山キンジは、自分以外誰も居ない学生寮の寝室の二段ベッドの下ベッドで目を覚ます。
それと同時に鳴り響く目覚まし時計の耳に響くアラーム音を、寝起きのため少し機嫌の悪い俺は目を細めながら少し叩くように止める。
起きる際に恐らく全人類が思うベッドから離れたくない、魔力のような物を感じる。
だが、朝の支度をするために嫌々ながら俺はベッドから出て、寝ぼけた脳を覚ます為に顔を洗いに洗面所に向かう。
洗面所に着いた俺は蛇口を少し捻って水を出し、顔を軽く洗っていく。
「……ふぅ、すっきりした」
洗った顔をタオルで水気を拭き取り、キッチンに向かう。
最近購入した電気ケトルに水を注ぎお湯を沸かし、インスタントのコーヒーの粉を耐熱用コップに入れる。そして少しして沸いた電気ケトルのお湯を先ほどコーヒーの粉を入れたコップに注ぎ、コーヒーを完成させる。
熱いコーヒーを持ってリビングに向かい、机と一緒に置かれたソファーに腰掛け、コーヒーを飲みながら片手でリモコンを操作し、テレビをつけて朝のニュース番組を見る。
「……平和だ」
そんな事を呟きながら優雅な時間を過ごすこと十数分、そんな至福の時間は突然終わりを迎える。
「ピンポン」と部屋のインターホンの音が鳴る。
その音を聞きながら俺は「こんな時間にいったい誰だ?」と、その人物が何となく分かっていながらもそう呟いて、ソファーから立ち上がり玄関に向かう。
玄関ドアのドアアイをのぞき込み誰か来たのか確認すると、そこには四角い風呂敷を手に持っている、白と赤を基調としたセーラー服を着た長い黒髪を持つ、グラドルのようなスタイルの少女が立っていた。
俺にとっては一応幼馴染という関係になる星伽白雪だ。
それを確認した俺は鍵を外して、ドアを開く。
「あ、おはようございます、キンちゃん!」
「……おはよう白雪、あといつも言っているがキンちゃんは辞めろっていつも言っているだろ」
「あ、ごめんなさい、キンちゃん、あ、また私……」
そんな様子の白雪を見て、俺は内心でため息を吐きながら
「誰かに見られたらマズいからとりあえず入れよ」
男子寮に女子が居る事がバレたら色々マズい事になる為、俺はそう言って白雪を部屋に上げた。
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白雪を連れてリビングに行き、対面するようにしてお互いソファーに座る。
それにしてもこんな朝早くに何しに来たのだろうと思い白雪に聞く。
「それで、こんな朝早くに何しに来たんだ?」
「あ、あのね、昨日まで合宿で伊勢神宮に行ってたでしょ、それでキンちゃんのお世話何にも出来なかったから」
風呂敷の包みを解きながら返答する白雪に「そんなことしなくていいのに」と言うと、泣いてしまうのが目に見えて分かるので、言わずに口を噤んでいると、解き終わった風呂敷の中身を白雪はテーブルに置く。
「だからね、これ作って来たの」
素人目でも分かる見るからに高そうな二段の重箱の蓋を開けつつ、そう言った白雪は、中に入っている料理の説明をし始めた。
海老の甘辛や銀鮭、西条柿や卵焼き、俺の好きなものを詰め合わせたような中身に思わず、少しだけ目を輝かせてしまう。
「これ食べてもいいのか?」
「うん、キンちゃんに食べてほしいの、春休みの間キンちゃんがコンビニのお弁当ばかり食べているんじゃないかなって思ったら、心配になっちゃって」
そう言い箸を渡してくれる白雪に図星のため何も言えない俺は、箸を受け取り「いただきます」と言ってから、黙々と食べ始める。
それにしてもうまい、俺の好みド真ん中の味付けをされている料理を食べつつ、白雪と将来結婚する奴は羨ましいな、と思った。
あまりにもおいしいので顔に小さな笑みを作りながら、ものの数分もしない内に完食した。
ちなみにその間白雪は、蜜柑の皮を剥き、アルベドを取りながら、ニコニコしてこちらを見つめている。
野郎が食べているところなんて見ていて何が楽しいのだろうか?
食後の蜜柑も食べ終わり。
「ふぅ、ご馳走様でした」
「ふふ、お粗末さまです、キンちゃん」
そう言ってくれる白雪に俺は少し笑みを作りながら。
「いつもありがとな白雪」
「え?……あっ、あっ、あっ、キンちゃん様もありがとう、ありがとうございます!!」
感謝を伝えた俺に、何故か感謝で返してくる白雪は少し頭を下げている。
それによって白雪の方を見ていた俺の視界には、頭を少し下げた事によって丸見えになってしまっている、白雪の大きな谷間と制服から少しはみ出ている黒い下着が映り込む。
それをがっつりと見てしまった俺は、大きく目を見開き、ゲホゲホと何度も大きく咳き込みながら、急いで立ち上がりベランダに続くドアへと退避する。
俺には遠山家の人間が持つ特殊体質である、『ヒステリア・サヴァン・シンドローム』——名前が長いので今後はヒステリアモードと言わせて貰う——を持っていないので気にする必要は無いが、つい昔の癖でやってしまった。
何故俺がヒステリアモードを持っていないのか、疑問に思っただろう、それに返答するのであれば、端的に言うと
まぁ、それでもいいと思った、遠山家の人たちは捨て子だった俺を拾って育てて愛も与えてくれたから。
ヒステリアモードが無いのも問題ない、家族と同じ力を持っていないのは悲しいが、それに代わる
さて、自分語りもここまでにして、立ち上がって近づいてきた白雪との会話に戻るとしよう。
「キンちゃん、今日から一緒に二年生だね、はい、これ防弾制服」
「あぁ、ありがとう」
白雪が手渡してくれる、防弾制服のブレザーを受け取りながら俺は、白雪に感謝する。
武偵校の制服は防弾繊維で使用しており、ある程度の弾丸なら貫通させない優れものだ。まぁ、衝撃までは無くせないので当たるととても痛いが。
防弾制服のブレザーに袖を通す前に、リビングに置いてある刀掛台に掛けてある鞘に納められている大小ある二つの刀の鍔のない
そうしていると白雪は、寝室から俺の使用する拳銃、『ベレッタM92F』とショルダーホルスを持ってきてくれる。
「ベレッタもね、弾が散らかっていたから装填しておいたよ」
「要るかな、ベレッタ」
俺はそう言いつつも、両方を受け取り慣れた動作で装着していく。
俺の戦闘スタイル的には、拳銃はあまり使うことが無いので、このベレッタはほぼ飾りと化してしまっている。
まぁ、それでもいつかは使う時が来るかもしれないので、一応は携帯するようにはしている。
あまりにも使わなさ過ぎるため、偶に携帯し忘れる時もあるが。
「駄目だよキンちゃん、校則にあるでしょう、武偵校の生徒は、学内での拳銃や刀剣の携帯を義務付けるって」
白雪の言った通り、武偵校では面倒くさい事に、学内では拳銃や刀剣の携帯をどの学科の生徒もする必要があるのだ。
まぁ、俺の場合は、刀を二本も持っているので、その条件もクリアしているのだが、白雪は俺に関する事だけは心配性になってしまうので、一応のため拳銃も携帯させてくる。
それに最近は——
「それにまた、武偵殺しみたいなのが出るかもしれないし」
『武偵殺し』
武偵を殺す殺人鬼だ。
今までも何人もの犠牲者が出ており、その中の一人には、俺にとって大切な人も入っている。
だが武偵殺しは、つい最近捕まったことがニュースにも取り上げられていたはずだ。その事を白雪に言うと。
「で、でも模倣犯みたいなのが出てくるかもしれないし」
そう言いながら俺のブレザーの襟を直してくれた白雪は、その瞳に今にも溢れそうな程の涙をつくる。
「今朝の占いでキンちゃん、女難の相が出てたし、キンちゃんの身に何かあったら、わたし……わたし」
星伽の巫女である白雪の占いの的中率は高い、ということはつまり、俺に何らかの面倒ごとが近づいて来ているのだろう。
勘弁してくれ、俺は面倒ごとが嫌いだし、武偵だって辞めるつもりなんだから。
まぁ、だが今はとりあえず泣いている白雪をどうにかするとしよう、大切な幼馴染が泣いている姿なんて、俺は見たくないからな。
「わかったよ」
白雪の頭をポンポンと数回軽く撫でる、「き、キンちゃん様!」と驚きながらも、蕩け顔を晒している白雪を苦笑しつつ、刀掛台に掛けてあるもう一本の日本刀を手に取り、鞘から少し刀身を出す。
『夜見
漆黒の刀身の根本には『
この日本刀の銘は『
この日輪刀は他の刀と一つだけ違う所があり、所有者である俺が触ると刀身の色を変えるのだ。
俺以外が触っても、刀は少しも色を変えないのは謎だが。
じいちゃんから聞いた話だが、この日本刀は夜見と一緒に捨て子だった俺と一緒の場所に捨てられていたらしい。
恐らく俺の本当の親が置いて行ったものなのだろう。
(何故本当の親は俺を捨てたのだろう)
この刀を見るとそう思わずには居られない。
そんなネガティブ思考を斬り捨てるため、日輪刀を鞘から完全に抜き、白雪に当たらない方に神速の一閃をし、素早く納刀する。
いつまでも手に持っていても邪魔なので、日輪刀を腰のベルトに差す。
「キンちゃん様かっこいい、やっぱり先祖代々、正義の味方って感じだよ!」
「正義の味方か……」
正義の味方
聞こえはいいが、現実はそんなにいい物ではないことを、俺は知っている。
俺にとっての最も正義の味方であった人は、人々を護って死んでしまい、その上、世間はその人々を頑張って護って死んでしまった正義の味方を批判する。
果たしてそんな人々を護る価値があるのだろうか。
そんな考えが浮かんでしまっている時点で、俺には正義の味方なんて言う存在には成ることは永遠に出来ないのだろう。
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着替えや武器の携帯を終えた俺は、ノートパソコンの電源を付ける。
「先に登校していてくれ、メールを確認してから俺も出る」
「じゃあ、その間にお掃除とかお洗濯とか」
「いや、大丈夫だから、白雪は生徒会長だろ、早めに登校しとけよ」
まだ家事をするつもりだった白雪に、俺がそう言うと、「後でメールくれると嬉しいです」と言い残して、渋々といった感じで白雪は学校に登校していった。
ガチャンと、玄関のドアが閉まる音を聞きながら俺はメールを確認する。
十数分後、漸く着信していた複数のメールを確認し、返信が必要な物は返信し終えて、腕に付けている腕時計で時間を確認すると。
『08:00』
「やっべ!もうバスが出てるじゃねぇか!」
乗る予定だったバスがもう出発していることに気付いた俺は、ノートパソコンを閉じ、机の脚に置いてあった鞄を持って立ち上がった。
今からバスは間に合わないし、次のバス停まで走れば間に合うだろうが、(生まれてこの方疲れたことは無いが)めんどうなので嫌だ。
ならば仕方ない自転車で行くことにしよう。
自転車なら今から出れば、少し速度を出すだけで間に合うだろう。
そう考えた俺は寮の駐輪場へと早歩きで向かった。
この時の俺は知らなかった。
武偵を辞めて普通の生活を送りたい俺が生涯、この時にこの選択をしたことを後悔することになるなんて。
初めましてライズの鏡です!
緋弾のアリアに嵌ってしまい、気づけば書いていました!
不定期投稿になってしまうと思いますが、逃げずに済むように頑張るので、温かい目で見守っていてください、お願いします!
一通り確認したつもりですが、もし脱字や誤字を発見した方が居ましたら、報告をよろしくお願いします。
気になることがあれば、感想で聞いてもらえれば、ネタバレにならない程度に返信させていただきます!
感想、評価いただける嬉しいです!!
では次回でまたお会いしましょう!!