アリアとの取引をした、その翌日。
アリアが帰ったことで数日ぶりに一人で優雅な朝を迎える事が出来た。
そんな朝を終えた俺はいま——
(もうここに来ることはないと思っていたんだけどな)
東京武偵校の『三大危険地域』である
正直今からでも帰りたいが、アリアと約束してしまったしな。出来るだけ約束は破りたくない。
「行くか……」
ため息交じりにそう呟きながら俺は施設の大型門を通る。
すると——
「なんだ?」
先程から感じていた少ない視線の数が一気に増えた。
バレない程度に小さく周囲に視線を向けると、こちらを見ながら何やらコソコソと喋っている生徒が何人も居る事に気付く。
(……居心地が悪いな)
目立つのが苦手な俺は思わずそう思ってしまう。
そのため意趣返しという訳ではないが、何を話しているのか聞かせて貰おうか。
常人では聞き取ることが不可能ほどの小さな声を俺の聴覚が捉えた。
「おい、あれ……」
「ああ、間違えない……」
と、要領を得ない会話しか聞こえてこない。そのためもう少し詳しく聞こうと聴力に全集中しようとした次の瞬間。
「あ!キンジ先輩!!」
突然大声で自分の名前が呼ばれたため、思わず驚きながらそちらの方へ視線を向けると。
こちらに両手を腕ごと大きく振りながら近づいてくる、あの幼児体型のアリアよりも小さな体型の少女が目に入った。
「あかりか、久しぶり、元気そうだな」
そう言いながら少女——
「はい、とっても元気です!キンジ先輩はどうですか?」
「俺か?……まあ、まずまずだな」
「そうなんですか?……なにかあったらいつでも言ってください!」
そう満面の笑みで言ってくれるあかりの頭を撫でながら、妹が居たらこんな感じなのかな?と、あかりが妹になった世界線を想像してみたが、最高だった。俺に妹はいないが、もし仮に出来るとしたらあかりのような妹が欲しい。
そんな胸中を表に出さず、あかりと軽い世間話(頭撫で継続中)をしていると。
「……キンジ先輩?」
そんな声が聞こえてきたので、思わず冷や汗を流しながらあかりから視線を外し、そちらに向けると。
二人の少女が居た。
一人は初対面の金髪ポニーテールで高身長のかっこいい系少女、こちらは何の問題もない、俺があかりを撫でていることに驚いているが今は放置でいいだろう。
問題なのはもう一人の方だ、長い黒い髪を持つザ・大和撫子系少女——
何故怒っているのかは全く分からないが、その圧に俺は思わず一歩後退ってしまう。それと同時にあかりの頭撫でも出来なくなった。
そうすると何故か志乃からの圧はぱったりと消え去った。
もう一度あかりの頭撫でを再開しようかとも思ったが、それをしたらヤバそうな気がしたので止めておいた。
撫でられのが終わって悲しい匂いを発しているあかりには悪いが、また今度するので許してほしい。
「……志乃も久しぶりだな」
「ええ、25日と4時間ぶりです。キンジ先輩」
「…………」
…………触れないでおこう。触れてしまったら何かが終わる、そんな気がする。
そのため俺は志乃からの視線を外し、初対面の少女に向ける。
「……お前は?」
「あっ!自己紹介が遅れてすみません、自分は一年の
「そうか……もしかしたら知っているかもしれないが一応言っておく、俺は遠山キンジだキンジで良い、よろしく頼む」
「はい!もちろん知ってます、あのキンジ先輩ですよね!!キンジ先輩の噂は色々聞いてます!!」
「…………噂?」
この東京武偵校で俺は結構な知名度があると理解はしていたが、火野の言う噂については一切知らない。
これを機に俺が周囲からどう思われているのかも知るのもいいかもしれない。そう思った俺は火野に聞いてみる。
「なあ火野が知っている俺の噂について聞かせてくれないか?」
「分かりました、あと、私の呼び方もライカで大丈夫です」
そこから俺は火野——いや、ライカから俺の噂とやらを聞いた。
『入試で受験生全員と抜き打ち試験官を五人も倒し、試験を数分で終わらせた男』
『入学直後に黄金世代と言われてヤンチャしていた、当時の三年生であるSランク三人とAランク上位二人を同時に相手して、無傷で上勝ちした男』
『百を超えた銃弾を全て日本刀一本で斬り落とした男』
等々…。身に覚えしかない噂の数々を聞いて、思わずその場で頭を抱えそうになった。
何をやっているんだ、過去の俺よ!
と、俺が心の中で醜く過去の自分に責任を擦り付けようとしていると、ハッ!っと何かを思い出した様子のあかりが俺に話し掛けてくる。
「そういえばキンジ先輩はなんで強襲科の訓練場に来たんですか?」
「ん?………あぁ、それは」
特に隠すような事でもないと判断した俺は、昨日のアリアとのやり取りを説明した。
話し相手がアリアだったということは言わずに。
分かりやすい説明だったと思う、たぶん。
「ということは、キンジ先輩は強襲科に帰ってくるってことですか!?」
あかりには分かりにくかったようだ。
あかりがそう大声で言うと、周囲に居た野次馬たちも先ほどよりも大きい声でざわざわし出す。
これは流石に訂正していた方がいいだろう、俺が強襲科に戻るなんていう噂を勝手に立てられても困る。
「いや、そうじゃない、一回だけ自由履修として強襲科の授業を取るだけだ」
そう周囲の野次馬にも聞こえる程の声量で訂正の言葉を口にする。
すると野次馬たちのザワザワ声も収まった。
どうやら誤解は解けたみたいだな。
俺がその事に胸を撫で下ろしていると——
「そっかキンジ先輩、戻ってくるわけじゃないんだ……」
——あかりが悲しそうな匂いを漂わせて、顔を伏せていることに気付いた。
……やっぱり強襲科に戻るのも。
いや、ダメだ!あかりには悪いが強襲科に戻ることだけは勘弁だ。
だがこのままあかりを悲しませたままにする訳にもいかないため、俺は話題を変える。
「そういえば、噂で聞いたがあかりに
誰に聞いたのかは忘れたが、そんな噂を思い出し問う。
「知っていたんですか!?」
「ああ、あかりの事なら大抵は知っているさ」
俺がそう言うとあかりはえへへ、とにやけ出した。妹の様な存在だしな、ある程度は知っておかないと。
そう考えていると志乃の方から強烈な怒りの匂いがまた漂いだした。
何を怒っているんだ、志乃は。
分からないが、あかりが元気になったなら良しとしよう。
「じゃあ、俺はやることがあるから行くぞ」
これ以上ここにいると志乃の怒りが爆発しそうな気がしたため、じゃあなと言ってから、俺は後輩たちと別れた。
俺と別れるのが悲しそうなあかりには、また今度遊びに行く約束をしてから。
すると、先程よりも志乃の怒りの匂いが何故か更に強くなったので、俺は急ぎ足でその場から離れ、施設の中に向かった。
この世界のキンジくんはあかりや志乃の二人と既に関係を持っています。あっ、いやらしい意味ではないですよ?
さて、あかりと志乃の二人とどこで出会ったかは、また後々本編で書くと思うので気長に待ってください。
何故志乃があんなに怒っていたのかも後々本編で書きますよ、今言えることはキンジくんは女たらしだという事だけですかね。
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では次回でまたお会いしましょう!