元E級のTS探索者は大金持ちになりたい   作:早乙女らいか

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第1話 幸せになりたい

「勝手に信頼したアンタが悪いんだよ。じゃあね~♪」

 

 巨大なモンスターと共に地面が崩れ落ちる。

 

 絶望、憎しみ、怒り。

 その全てが俺の中で一気に膨らんでいく。

 アイツだけは許せないと心が叫ぶ。

 

 しかし、それらが届く事はない。

 

「ちくしょう……」

 

 手を伸ばしても、叫ぼうとしても、

 目の前に広がっているのは腹立たしい程の笑顔を浮かべた女の姿。

 今更、俺に変えられることはない。

 

「クッソオオオオオオオオオ!!」

 

 信じていた人に裏切られ、ダンジョンという狭い空間では死が待っている。

 それが、門梨怜というEランク探索者の最後だと俺含めて誰もが思っていた。

 

 ◇◇◇

 

「クソッタレ!! てめぇのせいでまた負けたじゃねぇか!!」

「うぐっ!!」

 

 俺は不幸だ。

 幼い頃に両親を亡くし、残された遺産や家は親戚たちの手によってほとんど奪われた。

 

 一応、親戚が俺の面倒を見てくれることになったが……環境は最悪だ。

 

 飯は作らない。

 毎日暴力と愚痴の繰り返し。

 遺産は全てギャンブルへ勝手につぎ込まれ、俺は存在するだけのサンドバックと化す。

 

 生きるって何が楽しいんだろう。

 

 痛みと絶望に包まれた毎日を、ただ必死に生きていた俺はいつも考えていた。

 学校でも扱いは変わらず、むしろいじめられて傷が増えるだけ。

 

 そうして中学を卒業した頃、親戚は家から姿を消した。

 多額の借金を俺に残して。

 

「チッ……これだけかよ」

「……すみません」

「憂さ晴らしに殴らせろ!! この借金野郎が!!」

 

 総額八百万の借金。

 しかも闇金業者から借りたせいで、法外な利子がどんどん増えている。

 とてもじゃないが、中学を卒業したばかりの小僧に払える額ではない。

 

 だから高校には行かず、俺はダンジョンを冒険する探索者になった。

 

「ゲホゲホッ……」

 

 三十年前。

 世界中にダンジョンが現れ、そこでは未知のモンスターが人々を襲った。

 同時に人類にはスキルという未知の力が与えられ、モンスターと戦う手段を得た。

 

 驚くことにモンスターを倒したりダンジョン内で取れる素材は未知の物ばかりであり、それらは経済や産業を大きく発展させるキッカケになった。

 

 だから必要だったのだ。

 ダンジョンに入って有用な素材を集める探索者という存在が。

 

「今日はこれだけか……」

 

 だけど全員が稼げるわけじゃない。

 強いやつはどんどん難しいダンジョンへ潜り、弱いやつはいくら経っても弱いダンジョンにしか潜らない。

 

 弱いダンジョンの素材なんて大体価値が低い。 

 俺もその”弱い”に分類されていて、ダンジョン内で一攫千金を狙える程、優れた存在じゃなかった。

 

 ランクだって一番最低のEランク。

 最高ランクのSなんて夢みたいな話だ。

 

(それでもやるしかなかった)

 

 一番稼げるのはダンジョンだったから。

 借金の返済をしつつ、何とか食事にありつける探索者という仕事は俺に選択肢を与えない。

 

 後、優しくしてくれる人もいたから。

 

「大丈夫かい? これでも食べて元気を出しな」

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言ってパンやお菓子をくれる女性探索者。

 彼女は下野加奈。

 ”カナフロンティア”というパーティのリーダーでAランクの探索者だ。

 

 下野さんは俺みたいな落ちこぼれ探索者に凄く優しくて、親が無くなって以来初めて信頼できる人。 

 お腹が空いている時にご飯をくれるし、荷物持ちとして一緒にダンジョン内へ入って、少ない稼ぎを得ることができた。

 

「はははっ!! いっぱい食べろよ!!」

「そーだぜ!! 食える時に食わねぇと!!」

 

 優しい世界は本当にあったんだ。

 

 絶望しか知らない俺に光を与えてくれた彼女に俺は物凄く感謝していた。

 だから推奨Sランクのダンジョンという危険な場所に行かないかと誘われた時、二つ返事で了承したんだ。

 

 ◇◇◇

 

「油断したらあの世行きだよ。全員気を引き締めな」

「「「は、はいっ!!」」」

 

 光を反射する不思議な壁に囲まれたダンジョン。

 

 ”宝物の欲地” 

 

 貴金属や宝石類の材料となる素材が大量に眠っている場所で一攫千金を狙ってここに入る探索者は後を絶たない。

 

 だが推奨ランクはS。

 ここに生息するモンスターはどれも凶悪で、ベテラン探索者ですら気を抜いたら一瞬で殺されるレベル。

 

 だから宝物の欲地という名がついた。

 欲望にまみれた探索者が命を散らしていくから。

 

「しっかし大丈夫なんすかねぇ。今のところモンスターもいないみたいですし」

「何も戦う訳じゃない。今回はクリスタルを採掘して帰るだけ。装備だって逃げに特化してるだろう?」

「でもぉ……」

 

 今回、下野さんが宝物の欲地に挑んだのは、ダンジョン内に眠るクリスタルやエメラルドといった宝石類を採掘するためだ。

 ただ、準備をしっかりしすぎて荷物が多くなってしまった為、俺が荷物持ちとして呼ばれたわけだ。

 

「怜は大丈夫かい? 結構な大荷物だけど」

「これくらい大丈夫ですよ。俺にできることだって、限られていますし」

「そうか、無理はするんじゃないよ」

 

 鼓舞も込めてパンッと背中を叩かれる。

 大事な荷物を任されてるということは、それだけ下野さんに信頼してもらってるということ。

 

 俺の保有スキルでできるのはこれくらいだ。

 

 ”身体強化”

 その効果は身体能力を少しだけ向上させるだけ。

 

 スキルをベースに多くの探索者は魔法というものが使えるのに、俺には何一つない。

 だから力仕事をすることしか俺のスキルに使い道はなかった。

 

「ん? この光は……」

「おぉ!!」

 

 警戒しながらゆっくり歩くこと三十分。

 突如、光り輝く開けた場所に出たかと思えば。

 

「凄い……」

 

 辺り一面に宝石類の材料となる鉱石が生えている。

 地面だって輝きすぎて鏡みたいに反射していた。

 

 これが宝物の欲地……

 探索者が行きたがるわけだ。

 

「怜と優太は見張り!! 私達はここを掘るよ!!」

「「「あいあい!!」」」

 

 こうして採掘が始まった。

 

 ◇◇◇

 

「だいぶ取れたねぇ」

「これだけあれば億万長者も夢じゃ……」

「バカ、等分するの忘れてるだろ」

 

 バッグに詰め込めるだけ詰め込まれた鉱石の数々。

 ここまでモンスターに出会ってないのが奇跡だ。

 

 というか本当にいるのか?

 何か不自然な気も……

 

「グゥ……」

「え?」

 

 今、何か唸り声のようなものが……?

 

「っ!! 全員警戒態勢!!」

「「「おうっ!!」」」

「グゥウウウウウウ!!」

 

 天井から!?

 大きな唸り声と衝撃音を鳴らしながら、エメラルド鉱石を身体に生やしたクマみたいなモンスターが姿を現す。

 

「エメラルドグリズリー……推定Sランクのバケモノだね」

「ひっ……」

 

 こ、殺される。

 見られただけで動けない。

 一瞬でも動けば殺されるような恐怖が全身に襲い掛かる。

 

(まさか狙っていた?)

 

 不自然なまでにモンスターがいなかったのは、探索者がエメラルドを回収して、油断していた時を襲うため?

 だとしたらマズい。

 

 採掘作業でみんな疲れているし、フルパフォーマンスを発揮するのは難しい。

 このままじゃ全滅も……

 

「いいかい怜、そこを動くんじゃないよ」

「へ?」

 

 だけど下野さんは冷静だった。

 怖いくらいに。

 

「やるんですかい?」

「襲うなら油断した時か採掘が終わった後だと思ってたからねぇ。チャンスはここしかないよ」

「……へいへい」

 

 皆もおかしい?

 

 何でそこまで冷静でいられる?

 何で淡々と話が進んでいる?

 

 カナフロンティアはAランクパーティ。

 だけど推奨AやBランクのダンジョンへ潜った時には、いつも張り詰めたような顔でいたハズ。 

 

 こんなに落ち着いているのは不自然だ。

 

 その違和感に気づいた時、俺は逃げてしまえば良かったんだ。 

 

 ピピーッ!!

 

「っ!?」

 

 背負っていたリュックから甲高い音が鳴ったと思えば、大量の煙が吹き出す。

 

 ゲホゲホッ!!

 変な匂いですっごく煙たい。

 

 一体これは……

 

「グゥウウウウ!!」

「へ?」

 

 次の瞬間、エメラルドグリズリーが俺に向かって真っ先に襲いかかった。

 

「わああああああああ!?」

 

 リュックを捨て必死に逃げ回る。

 だけど攻撃は止まらない。

 

 逃げて、逃げて、逃げて、

 必死に攻撃から身を守る中で俺の視界に入ったのは、

 

「クククッ……」

「え?」

 

 下野さんの不敵な笑みだった。

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