元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「着いた?」
「うおおっ!? こ、ここは……」
懐かしい場所だ。
一面が鏡のように輝く鉱石だらけの空間。
俺はここで下野にはめられて、
エメラルドグリズリーに襲われて、
囮として奈落の底に落とされた……
「怜?」
「あぁ、悪い。変な顔してたかな?」
「大丈夫だよ。もしかして怜はここで?」
「……」
静かに頷く。
マリーも察したらしく何も言うことは無かった。
「しかし鉱石も地面も綺麗だな……昔とはいえかなり掘ったのに」
「ダンジョンコアさえあれば何度でも再生する。地面も壁も素材もモンスターも全て」
「へー……」
だから全部元通りになっていたのか。
Sランクという高難易度もあってほとんど人が寄り付かなかったのも大きそう。
(まさかダンジョンコアにそんな力があったとはな……)
探索者の目的は最深部にあるダンジョンコアの破壊。
ダンジョンコアを破壊することでダンジョンが完全に消滅するからだ。
もし破壊しないまま放置していると、ダンジョンが暴走してダンジョン内から外へモンスターが溢れ出してしまう。
モンスター達が外で暴れ回る姿はニュースで何回か見た事あるけど……本当に地獄みたいな光景だったな。
「どうする? 少しだけ掘る?」
「このまま帰っても生活が苦しいだけだからな……少し持って帰るか」
「ん」
”危険察知”は反応してないし少しは余裕があるだろう。
そう思い”血塊錬成”でツルハシを錬成していた時だった。
「よぉ」
「「っ!?」」
ダンジョン内の空間が歪み、そこから漆黒の竜が姿を現した。
ブラッドカオスドラゴン……!?
今まで姿を見せなかったのに一体何故!?
「ここを出ていくみたいだからな。見送りにきた」
「見送り?」
「いらない。帰って」
「クックック……素直じゃないなぁ……」
不気味な笑い方をしながら話す姿にマリーも明らかに嫌そうな顔をしている。
絶対裏があるよな。
他人を助ける、なんて考えはブラッドカオスドラゴンには存在しない。
俺を相手にしてた時と同じく遊びに来たのだろう。
「おい、何で俺を女の子にした!! おかげで精神不安定で大変なんだぞ!?」
「まさか女の子になるとは想定外だったぜ。可愛くていいじゃねぇか」
「ちっ……」
完全なイレギュラーって事か。
素晴らしい力だが肉体に関してはふざけんなと何度も言いたい。
「今日は最高だ!! 俺の力を受け継いだ人間と人造天使が地上に出る!! これは世界がひっくり返りそうだな!! ガハハハハハッ!!」
「……うっせぇ」
狭い洞窟内でブラッドカオスドラゴンの叫び声が響く。
だが、俺には一つ気になっていた事があった。
「なぁ」
「ん?」
「なんで俺に力を与えたんだ?」
救いとは真逆の考えを持つドラゴンが何故俺みたいな落ちこぼれに力を与えたのか。
その理由を知りたい。
「この世界をカオスにするため。そして……」
ブラッドカオスドラゴンはニヤリとさせながら答える。
「ずっと俺様を楽しませてくれると確信したからだ」
「……はぁ」
思わずため息をつく。
結局自分が楽しめればいいってワケね。
分かってはいたけど、コイツの身勝手さには呆れる。
「そこの天使だってそうだ。人理から外れた異質な存在が地上に出たらどうなると思う?」
「ウチは破滅に興味はない。欲しいのは幸せだけ」
「破滅だけが娯楽じゃない。カオスとはありとあらゆる変化の全てを現す」
マリーが斬り捨てた事にも一切動じず、むしろ嬉しそうに話を続ける。
「俺様がこの世界にダンジョンやスキルを持ち込んだのもそうだ。魔法を忘れ科学を発展させた世界が旧時代の異物を取り込んだら……」
「は!? まさかこの世界のダンジョンやスキルって……」
「全部俺様の仕業だ」
今、とんでもない事言わなかったか?
この世界にダンジョンやスキルを持ち込んだって。
「自分で世界を破壊するなんてつまらないだろう? だが、世界を変えて人間がどう動くかに興味はある。人間は最高のカオスを生み出す知恵を持っているからなぁ?」
「世界中がこの事を知ったら戦争が起きそうだな……」
「それもいい!! 戦争も素晴らしいカオスだ!!」
まさかカオスの為に俺達の世界を滅茶苦茶にしたのか?
(……イカれてるな)
邪悪だ。
このドラゴンは邪悪すぎる。
自分が楽しめれば他がどうなろうと知った事じゃない。
人間基準なら可愛らしい考えだが、こいつの場合は規模がでかすぎる。
天災とも言える事をこのドラゴンは遊び感覚でやってしまったのだから。
「お前は俺に何を期待している? 悪いが自由にやらせてもらうぞ」
「むしろそうでないと面白くない。自由にこの世界を楽しめ……クククッ」
「……なぁ、こいつって何でも喜ぶタイプか?」
「ドMだよ、そういう事にしておく」
そう聞くとますます不快感が増していく。
何を言っても喜ぶし、これ以上文句を言うのも疲れてきた。
「だがお前は俺様と似ている」
「はぁ?」
「いつかわかるさ……」
ブラッドカオスドラゴンと俺が?
わけがわからん。
自己中な部分は認めるが、それ以外は全然違うだろ。
「ま、お前たちの行動を見守らせてもらおう。もう一度会いたくなったら……最深部まで来い」
「うるせぇ」
「もう会いたくない帰れ」
「クククッ……相変わらず人間は面白い……」
静かに笑いながら、ブラッドカオスドラゴンは異空間を作り出しその中へと消えていった。
「どうする?」
「一旦地上に戻るか……あー疲れた」
力をくれた事には感謝する。
だがお前を楽しませる事には反対だ。
俺は俺でやりたいようにやらせてもらう。
「アイツは一生出てこないでほしい。ウザイから」
「それな」
散々煽り散らかした上に、殺せないレベルで強いというクソウザコンボを兼ね備えたドラゴン。
自分が楽しむために俺を強化して女の子にするとか……本当にイカれてるよ。
「まあアイツのおかげでマリーと出会えたし感謝も……」
「しない方がいい。絶対ロクなことにならない」
「確かに」
また変なことをされたら溜まったものじゃないからな。
ここは黙って帰ることにしよう。
「しっかしどれくらい経ってんのかな……スマホもぶっ壊れてるしよくわかんないんだよな」
「ウチも時間の流れに関してはよくわからない。長く封印されすぎて狂っちゃった」
「あぁー……」
何百年だっけ?
そんだけ封印されてたら一日の価値なんて無くなるよな。
「長く封印されてもウチは可愛い……よし」
むしろ精神崩壊せずにかわい子ぶる余裕を持てるのが凄い。
一周回って振り切った可能性もあるけど。
「……出口か?」
奥の方で光が見える。
長く空けている間に外の世界はどうなった?
不安、期待、興奮、
あらゆる感情が俺の中へとぐちゃぐちゃに流れ込み、心臓の鼓動を早くする。
落ち着け、もうすぐ出口なんだ。
ゴールは見えている。
だから安心しろ……
ギュッ
「大丈夫だよ」
「……ありがとう」
震える俺の手をマリーが握ってくれた。
同時に不安が消えていく。
一歩ずつ、俺は前へと進む。
迷走だらけのダンジョン生活が光というゴールによって終わりを迎えようとしていた。