元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「ここが外……」
「前の世界と空気が違う。少し煙たい?」
知らない建物がいくつかあるが、外の世界は最後の記憶に映っていた世界とそこまで変わっていなかった。
知っている景色、
殺伐なダンジョンとは違う平和な空間、
人間と少しの動物だけが存在する現実。
本当に帰ってこれたのか……
「怜? 大丈夫?」
思わず足が崩れる。
同時に涙も出る。
怒りに身を任せ、時間を無駄にしたのは事実。
だけど恐ろしい空間から抜け出したいという弱音も確かにあった。
安心する。
凄く安心する。
あぁ、やばい。
メンタルがボロボロに崩れそう。
ただでさえ情緒不安定なのに耐えきれない。
「よく頑張ったね、えらい」
「マリーのおかげでもあるよ……少しだけ休んでいいか?」
「ん、分かった」
近くのベンチに座り心を落ち着かせる。
モンスターを気にせず過ごせるのはいつぶりだろうか。
そもそもどれくらい経ったのかも知らないし。
「車……!! 走ってる!!」
リラックスモードに入ってる俺に対して、マリーは目を輝かせながら外の世界を楽しんでいた。
知らないものばかりだもんな。
ほっといたら興味を惹く場所に行きそうだ。
「ん?」
足元に新聞の一ページが飛んできたので拾った。
これで何年かわかるな……
「うっわ……やべぇ」
周りは変わっていない。
だけど年月は想像よりも経っている。
その事実を新聞が証明していた。
「2041年9月?」
「一年と半年前だ……」
俺が最後に覚えているのが2040年の3月。
つまりそこから一年半が経過したということだ。
力を得たとはいえ、かなり時間を無駄にしてるなぁ。
まーじで何やってるんだ俺……
「あの人達、なんか格好……」
「もしかして痴女?」
通行人が足を止めて俺達の方をジロジロと見始めた。
俺とマリーは布一枚羽織ってるだけの薄着。
しかも俺は女の子になってるから破壊力はさらに増している。
(これが見られる感覚か……)
明らかに胸や足をジロジロと見られている。
特に男性から。
その不快感と恥ずかしさを前に、俺は自らの腕で身体を隠した。
「……逃げよう」
「ん? あー、晒されるから?」
「そうそう……ってなんでそこまで知ってんだよ」
「これぞ天使ネットワーク、的な?」
天使様のスキルハンパねぇな。
車とかも知ってたみたいだし、現世の事について俺の想像より知っているんじゃないか?
「あれはコンビニ? 今度入ってみたい」
「……色々終わったら行こうか」
「やった♪」
説明が省けるのは助かるけどさ。
もっとこう、異世界人っぽい部分とかないんですかね?
あまりにも現世になじみ過ぎている美少女天使様を連れ歩きながら、俺は一人考えていた。
◇◇◇
「ここは?」
「探索者協会だ。ここで素材の買取やクエストの受注ができるんだが……」
改めて俺達の恰好を見る。
俺は一年半を池の水で過ごしたからめっちゃ汚い。
全裸だったマリーには俺の上着を着てもらっているけど、俺よりも薄着で露出が多すぎる。
今すぐ清潔な体と服が必要だ。
「ゲットした素材である程度は稼げるから……マリー」
「ん?」
「これ渡すから、あそこの入り口でお風呂セットと服を……」
指さした方向にあるのは探索者協会に隣接された銭湯。
通称”探索者温泉”だ。
血生臭い戦闘をこなす探索者は帰る度に血や汗、砂埃などでボロボロになる。
そこで探索者協会に汚れを落とせる銭湯と簡素な服などを販売する売店が隣接されたのだが……これがバカ受けした。
めちゃめちゃ安くお風呂に入れる上にお菓子や軽い食事などが頂ける。
更に新しい服まで用意されているので、手ぶらで寄って清潔なまま帰ることが可能。
それらの要素が探索者達の需要にうまくヒットしたのだ。
「待て。入り方わかる?」
「わかんないかも」
ここで綺麗にしてから素材の売買をしようと思った。
だけどマリーは異世界人で、この世界について少し疎い。
スキルである程度の情報を知ってるみたいだけど、それは興味のある分野限定の話であって。
女性の仲間とかがいたらわかりやすかったんだけど……どうしようか。
「あそこの個室は使えないの?」
「え?」
探索者温泉の隣にある個室湯と書かれた場所。
こんなのができたのか?
「いや、でもマリーとは……」
「今は女の子同士、だよ?」
「っ……そ、そうだけどさ……」
言われて思い出した。
今の俺は女の子。
今まで通り男性用のスペースを使う事は許されない。
だけど、俺が女性用のスペースを使うというのも……
「……わかった。一緒に入ろう」
「ふふっ♪ すみませーん、二名お願いしまーす」
恥ずかしすぎて折れてしまった。
自分が女風呂に入るなんて、無理だ無理。
けど、マリーと一緒に入るのはセーフ?
もうわかんねぇよ……
◇◇◇
(女の子の……身体……)
ずっと布で隠していた。
今まで動画でしか見た事のない、普段は見えない女の子の部分。
その全てが俺の視界に映る。
勿論、それは自分の身体。
だけど、何故か直視できない……
(隠さないと……)
全てを脱いだ後、急いでタオルで身体を隠す。
些細な事ではあるが、胸元までタオルを覆うという行為が女の子になったという自覚を更に強くした。
「怜、隠さなくてもいいよ」
「いやっ、でも……ってうわぁあああああ!?」
「?」
振り向いた時、そこにいたのは一糸まとわぬ姿のマリーだった。
「なんで隠さないんだよ!?」
「だってお風呂だよ? どうせ脱ぐんだからいいじゃん」
「俺が元男だって忘れてない?」
「うーん……」
刺激が多すぎる。
上下左右正面。
全てが淫らな空間になっている気がする。
あぁ、動揺したからまた涙が……
「少しずつ慣れよう」
「へっ?」
そんな俺の涙をマリーの手がぬぐった。
「女の子の当たり前。慣れたら楽しいから」
「い、いいのかな……なんか罪を犯してる気分なんだけど……」
「大丈夫だよ。だって」
そのままマリーは微笑みながら全身を使って抱きしめる。
「怜は可愛いから」
耳元でささやかれた言葉に対して、俺の本能が電流を受けたように強く反応した。
(凄いドキドキする……なんで?)
高揚感……?
今まで感じた事のない喜び。
可愛いなんて言われたことない。
かっこいいも言われたことないけど。
でも、マリーに可愛いって言われた時、俺の中で何かが変わりかけた。
「じゃ、もっと可愛くなるために身体を洗おうね」
「う、うん」
扉が開く……?
わかんないけど不思議な感覚。
でも嫌じゃない。
困惑と興奮が交じり合う中、俺はマリーに手を引かれながら浴室へと足を踏み入れた。