元E級のTS探索者は大金持ちになりたい   作:早乙女らいか

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第14話 契約しよう

「さてさて、契約の話をしようか」

「契約?」

 

 そう言うとジェニー星崎は懐から何枚か紙をテーブルに広げた。

 書かれているのは細かい文字の数々。

 契約に関する事だろうか? 

 

「我がケイゼルコーポレーションでは現在、武器の製造やダンジョンに関連する道具類の販売をメインに行っている。特に業務用の関連商品類は人気でな、業界シェアNo.1だ」

「ふーん」

「あそこにある素材買取機もケイゼルの製品だぞ? 作ったのは私だがな」

「マジ!?」

 

 思ってたよりすげぇ人じゃん。

 

「で、そんな凄い企業のケイゼルコーポレーションが俺達に何の用が?」

「ふっふっふっ、簡単な話だ。君たちにケイゼル所属のダンジョン配信者になってほしいのだよ」

「ダンジョン……配信者?」

 

 聞いたことはある。

 だけど当時はインターネットにそこまで興味がなかったからか、詳しい事とか有名な人を一切知らない。

 

「ダンジョン内で配信をする人達の事。最近ではグループや企業も絡んで大規模になってる存在だね」

「地下からそこまでわかるのか……」

「見えるし音も聞こえるから」

 

 ふふんとドヤ顔を浮かべるマリーはウザ可愛い。

 企業が絡むってことは……なんとなく話が見えてきたぞ。

 

「ちょうど試作の武器のテストと宣伝をする人材を探していてね。他社に取られない将来有望な人物の存在を私は探していた」

「星崎さんじゃダメなのか?」

「本当ならやりたいけど私も広報などで忙しいのさ」

「なーるほど」

 

 素材買取機を開発した辺り、色んな仕事を複数抱えていそうだ。 

 

「で? なんで俺達に目を付けたんだ」

「ケイゼルネットワークで各種高難易度ダンジョンの入口を監視していた時、見慣れない美少女が二人もいてピンときたのさ!! これはいけるってね!!」

 

 ジェニー星崎の熱意と圧が強くなる。

 

 てか、サラッと監視ってヤバい事してんな。

 これも当たり前の事なのか?

 

「お、俺も?」

「勿論だとも!! クールで素っ気ない感じが物凄くいい!! 最高だ!!」

「怜は可愛いしかっこいい。よくわかってるね」

 

 褒められてるんだよな……?

 正直、女の子らしい振る舞いなんて皆無だと思っていたけど、それが逆に刺さっているらしい。

 

 でもなぁ。

 ダンジョンを出ていきなり素性の知らないところと契約するなんて……

 

「君は幸せが欲しいのだろう?」

「え?」

 

 星崎さんがニヤリと笑う。

 

「幸せには色んな種類がある。人によって何を求めているか違ってまた面白い」

「この人、ブラッドカオス?」

「多分違うぞ」

 

 胡散臭い内容とかはそっくりだけどな。

 小声で話す俺達に構わず、星崎さんはダンジョン配信者に対する熱意を俺らに伝えた。 

 

「だが全てはお金があれば成り立つ事。お金を必要としない幸せなど我慢の連続だ。少なくとも、お金があれば安心は得られるしね」

 

 一理ある。

 貧乏生活を続けていた俺にとって、毎日はお金のことを気にするばかりだった。

 

 切り詰めて、切り詰めて、切り詰めて

 わずかなお金は食費や生活費に。

 残ったお金は全て借金返済。

 

 余裕なんて1ミリもない。

 

(金……) 

 

 だから少しだけ心が動き始めていた。

 

「理想!! 夢!! 未来!! 君の求める漠然とした世界にもお金は確実に必要となる!!」

 

 テーブルに足を置き、手を強く握りしめて星崎さんは語る。

 

「ダンジョン配信者は素晴らしいよ!! お金だけじゃない、地位と名誉という素晴らしい財産も得ることができる!! 君達二人にはその世界で輝ける才能があるんだ!! それを生かさない手はないだろう!?」

「すっげぇ圧を感じる……」

「おっと、興奮してしまったね。すまない」

 

 公共の場で騒ぎすぎたからか、少し大人しくなる。 

 ツッコミはしなかったけど、ここには一応 食事をしてる奴らがいるってことを忘れないでくれよ?

 

「勿論、悪い所も存在する。戦いの連続、繰り返される恐怖……こんな生死をかけた仕事、やりたくないと言われても仕方がない」

「……そうだな」

「だが、それを乗り換えた先には莫大な遺産を手に入れることができる」

 

 星崎さんは椅子から立ち上がり、俺の方まで歩いて近づく。

 

「もう一度言おう怜くん。ダンジョン配信者になって全てを手に入れて見ないかい?」

「……」

 

 そして俺の方へ手を差し伸べた。

 

(金持ちか……)

 

 醜くて 欲深い、でも必要なもの。

 俺の求める幸せが何なのか、よく分かっていない。

 

 だけどお金があるに越したことはないという、星崎さんの意見にも同意できる。

 俺の不幸だって、ほとんどお金がなかったから起きたことでもあるし。

 

 でも、本当にその道でいいのか?

 

「怜」

「ん?」

 

 揺らぎ続ける俺にマリーが服の袖をちょいちょいと引っ張る。

 

「どんな選択をしても、どんな幸せを求めても、どんな欲望を抱えていたとしても」

 

 見透かされたように俺の悩みや思いを口にする。

 その姿に呆気に取られていた俺だったが、マリーの目は真剣そのもの。 

 

「ウチはずっと、怜のそばにいるから」

 

 その瞳に迷いはない。

 心強い言葉が彼女の選択だと俺は確信する。

 

(これも……過去の復讐になるか)

 

 今まで散々だった。

 お金も、地位も、欲しい物も

 何一つ得ることができなかった人生。

 

 その境遇を与えたヤツら以上に幸せを得る手段として、お金持ちになるのはシンプルで良さそうだ。

 

(普通の暮らし……食事……人生……)

 

 普遍的な幸せを想像する。

 

 それも一つの選択。

 ありふれた幸せ。

 

 その日常を想像した俺は……”飢え”を感じた。

 

「……星崎さん」

「なんだい?」

 

 その本能が答えだ。

 固く決心をした俺は星崎の目を見る。

 

「よろしくお願いします」

「ふふっ、素晴らしい選択だ」

 

 互いに固い握手を交わす。

 愚かでアホな選択肢をしたのかもしれない。

 下手をすれば茨の人生を歩むのに。

 

 だけど、俺は見たかったんだ。

 お金持ちになって全てを手に入れた世界というのを。

 

「なら、最初の一歩として二人に着替えてもらおうか」

「着替え?」

「人はまず見た目から。第一印象は大事だよ?」

 

 星崎さんが立ってどこかに行こうとしていたので、俺達も慌ててついて行く。

 そういえば服も銭湯で買ったシンプルなものだ。

 会社に行くんだから、もう少しちゃんとした服を着た方がいいのだろう。

 

「着替えは私の車に入っているから……こんな感じでどうだい?」

「ん?」

 

 一体どんな服を……と、想像していた俺に手渡されたタブレット端末には、上下しっかり揃えられた服装のプレビューが表示されていた。 

 

 えーと?

 スーツじゃないのはパっと見で分かるとして。

 

 フード付きの黒いコート、

 全体的にゆるい白シャツ、

 

 かっこいい系かな?

 こーいうオシャレな服は始めてだから楽しみだ。

 

 後はなんだろ?

 

 ピッチリとしたレザーのタイトスカート、

 ストッキングみたいに透けたニーハイ、

 ちょっとだけ底の上がったロングブーツ、

 

 ……ん?

 

「これ、マリーの服か?」

「何を言っている? その端末に表示されているのが君の服だよ」

「え?」

 

 これが俺の?

 本当に俺の服?

 

 明らかにレディースが混じってる気が……

 あ、そっか。

 今の俺は女の子だからか。

 

 いやでも、流石にスカートはなぁ。

 

「大丈夫、怜なら似合う。見てみたいな」

「……わかった」

 

 さっき後押ししてくれた恩もあるし、ここは素直に従おう。

 ダンジョン配信者というのは思っていた以上に大変みたいだ。

 

 俺たち二人は馬鹿でかい車の中に入り、移動しながら着替え始めるのだった。

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