元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「ダンジョンコアを外に運ぶ。じゃないとダンジョンは消滅しない。それが探索者の仕事だろ?」
「コアがある限り、ダンジョンは何度でも再生するし魔素もたまる。爆発すれば……一斉にモンスターが外へ出ていく」
「その通りだ」
あらゆるデータをモニター上に表示される。
探索者の数は年々増えてるとさっきネットニュースで見た。
なのにダンジョンブレイク寸前の場所がこんなにあるなんて……
「今や探索者はコアを外に出そうとしない。自分たちにとって狩りやすい居場所を失ってしまうからね」
「まさか意図的に放置してるのか?」
「信じられないだろう? けど、これが現実だ」
慣れた狩り場所を維持する為にダンジョンを閉じない探索者。
イカれてるだろ……探索者の役割を完全に見失ってる。
「ダンジョンブレイク寸前の場所を我々はレッドアラートと呼んでいるが……連中はギリギリまで放置して狩れるだけ狩ってからダンジョンを閉じる。アホみたいなムーブが探索者の間で流行ってしまったよ」
「今はダンジョンブレイクが起きてないだけで、いつか絶対にやらかすと思うのですぅ。ダンジョンに絶対安全という文字は存在しないので」
そんなクソムーブが俺のいない間に流行ってたのか。
許せない、というより失望の方が強い。
そこまでして探索者の仕事にしがみつき、安定を求めようとするのかと。
「他のヤツらは攻略しないのか? 占有土地ってわけじゃないだろ?」
「面白い事にね……外部の人間が来たら中で殺してしまうのさ」
「えっ」
ぶっ飛んだ倫理観に思わずドン引きする。
「ダンジョン内で起きた事は外に持ち出さない。このふざけた法律が悪用された結果だよ」
「狂ってるね。欲に溺れた人間って感じ」
「探索者に殺されるリスクを背負ってまでダンジョンを攻略しようとは思わないからね。全く、愚かで面白いよ!!」
色んな事情が悪用された結果、地獄になってるじゃないか。
俺がいない間にダンジョン界隈は闇をより深くしていたらしい。
「で? そのダンジョン攻略が俺達の売りって事か?」
「その通り!!」
要は探索者達の後始末が俺達の仕事……ってことね。
「崩壊寸前のダンジョンの攻略、そしてダンジョンコアを外に出したくない探索者達との争い!! これはバズること間違いなしだ!!」
「は、はぁ」
ただそれだけで人気者になれるかは正直怪しい。
星崎さんにも何かシナリオがあるんだろうけど……
「なんだか大変な事に巻き込まれたな……」
「大丈夫。ウチと怜がいれば、探索者だって怖くない」
「……ありがとう」
マリーの肩を優しく抱き寄せる。
レッドアラートになるまで放置している探索者、か。
楽して生きたいのは誰でもそうだし、不安定すぎる探索者という職業で安定を求めるのは仕方ない。
「放置探索者達を突破して攻略すればリスナーから投げ銭がもらえるしスポンサーだって付くのですぅ」
「慣れたダンジョンで素材が取りやすい、リスナーからの投げ銭で更に稼げる……面白いね」
だけど俺は安定を捨てている。
もっと成り上がって莫大な富を手に入れたい。
それが挫折ばかりだった過去への復讐になるから。
「というわけで君達に早速行ってもらいたいダンジョンがある!!」
再びモニターをスワイプさせ一つのページがピックアップされる。
「ねばねば洞穴?」
「スライム系が多く生息するダンジョンですぅ。推定ランクB、ブレイク警報もレッドアラートになっちゃってますねぇ」
「かなり危険だな……」
早速レッドアラートのダンジョンを攻略するらしい。
ポンポンと話が進んでいくな。
「ここを縄張りとしている探索者はBランク、プロモーションの相手には最適だな」
「プロモーション?」
「紹介動画を兼ねて君達二人の実力や素性を見せる動画を作りたくてね。いわば配信のチュートリアルみたいなものだよ」
いきなり配信というワケではないらしい。
チュートリアルでBランクの相手をさせられるのも大分リスキーだと思うが、俺達の実力ならいけると判断したか?
「……なぁ、星崎さん」
「なんだい門梨くん?」
ふと気になった事を星崎さんに問う。
「レッドアラートに挑むのは正義の為か? それともバズるためなのか?」
俺はケイゼル改め星崎さんの求める未来がイマイチわからない。
俺もそうだ。
誰かを助けるためにダンジョンに潜るワケじゃない。
ただ自分が幸せになりたいからダンジョンに潜るだけだ。
星崎さんは何の為に行動しているのだろう?
「両方さ。ついでに救える世界があるなら、ある意味ラッキーだろう?」
手に持つコーヒーのカップを置いて、星崎さんは俺の方へと軽い足取りで近づく。
「私はリスナーに最高のエンターテイメントを届けたい。この刺激的なダンジョンという世界をね」
嬉々として語る星崎さんの瞳からは純粋さを感じた。
まるで新しいオモチャを買い与えられた子供のように。
俺は確信した。
彼女はただの好奇心で動いたのだと。
「ま、コアの爆発で被害が出ると楽しい雰囲気は出しづらいからね。私の求めるエンタメには必要ないと判断しただけさ」
「欲深いな」
「それは君もだろう? ハーハッハッハッ!!」
お互いやりたい放題だな。
少なくとも、しばらくは飽きない。
ハイテンションな星崎さんのノリにも慣れてきた。
◇◇◇
『着いたかね?』
「あぁ、入口前まで来た」
「同じく」
善は急げ、ということで俺とマリーはねばねば洞穴に来ていた。
『支給した武器は動くかい? 今回の戦いではなるべくその武器を使ってほしい』
「これか……」
腰に付けたブレードを抜く。
デザインはトリコロールの派手なカラーリングが施されており、柄の部分には謎のスイッチがある。
これが武器?
どう見てもオモチャにしか見えないが。
「一応命がけの戦いだってわかってるのか?」
『見た目は面白いがちゃんとした武器だよ。名付けてトライブレード!!』
「トライブレード?」
訳も分からず握りしめる。
すると頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。
「っ!? これはなんだ!?」
『トライブレードは説明書を頭に直接流し込める。複雑な機構を一瞬でインプットできるから土壇場で使用する場面でも最適なのだよ』
「意外とハイテクなんだな……」
最初はおもちゃだと馬鹿にしたトライブレードだが、頭の中にインプットされた情報を見るに結構ガチな武器だった。
見た目が面白いのは宣伝のため?
まさかこれをオモチャとして……流石にないか。
『使い方は分かっただろう? さーて、探索を始めたまえ!!』
「「はーい」」
環境、武器、身体
何もかもが今までと違う。
だけどマリーと一緒ならなんとかなる。
トライブレードを握りしめ、俺達はねばねば洞穴へと足を踏み入れた。