元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「うまくいったな……」
「あぁ、これで〆ですよっ!!」
何が何だかわからない俺の元にスキルが撃ち込まれる。
炎? 闇? 風?
具体的なスキルはわからないが一斉に撃ってきた。
それらはエメラルドグリズリーに向けたものでは無い。
全て地面に命中し、一気にヒビを大きくしていく。
「グォオオオオオオ!?」
「ど、どういうことですか下野さん!? これはなんなんですか!?」
「……」
意味がわからず問いかける。
その様子を下野さんはただじっと見つめ……
「ククッ……ばーーーか」
舌を出して笑い飛ばした。
「何もないガキってのは騙しやすくて助かるねぇ。私の計画を何にも疑わず付いてくるんだから」
「計画? まさか俺は……」
「そうだよ。ここの鉱石が欲しかったのさ」
点と点が繋がる。
「ただここのモンスターはとにかく強くてねぇ……だから、囮が必要だった」
信じ難い現実。
認めたくない絶望。
「私が情をかけた子供達の中でアンタが一番適任だったのさ……だって、もういらないから♪」
「っ!!」
今までの事が嘘だったと気づいた時、俺の中に負の感情が流れ込んでいく。
「ガキ一人を犠牲に鉱石が手に入るんだ!! 最高のビジネスだと思わないかぃ!?」
「「「「ははははははははは!!」」」」
騙した……騙された……
ここなら優しさがあると信じていたのに。
ここならいつか幸せが来ると思っていたのに。
「勝手に信頼したアンタが悪いんだよ。じゃあね~♪」
ピシッ!! ガラガラガラッ!!
理不尽な現実を前にできたのは、崩れゆく地面の下へ勢いよく落ちていくという現実。
憎しみも、
絶望も、
怒りも、
全てこの女には届かなかった。
◇◇◇
「こ、こは……」
冷たい……
確か俺は上から落ちて……そうか、ここに池があったから助かったんだ。
”身体強化”である程度の痛みには耐性があるし……
運がいいのか悪いのかわからないな。
「っ!? エメラルドグリズリーの死体……」
ただコイツは落ちる所が悪かったらしい。
頭がぐしゃぐしゃに潰れて大量の血を撒き散らしている。
Sランクモンスターと言えども、流石にあんな高いところから落ちたら助からないか。
とりあえず素材だけ取っておこう。
「一体、どこまで落ちて……」
エメラルドグリズリーの解体作業を進めている時、近くから物凄く強い殺気を感じた。
「ギャウアアアアアアア!!」
「っ!?」
思わず岩陰に隠れる。
なんだアイツ!?
鳥のような、蛇のようなモンスターだ。
エメラルドグリズリーなんか比較にならないくらい、物凄く強いオーラを感じる……
「グォオオオオオオ!!」
「ズモオオオオオオオオ!!」
「ブゾアアアアアアア!!」
次々に現れるモンスター。
咆哮のオーケストラが俺の心臓を早く動かし、思考を暗闇の中へと閉じ込めてしまう。
「「「「グォアアアアアアア!!」」」」
そしてモンスター達は本能のままに暴れ始めた。
血肉が爆ぜ、轟音は響き、死臭がどんどん濃くなっていく。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
なんだよここは!!
何でこんな所にいるんだよ!!
このままじゃ死ぬ。
こいつらに殺される!!
「はぁっ……はあっ……!!」
グシャア!! ゴシャア!! ドゴォ!!
戦いは終わらない。
化け物と化け物の争いは更に激しくなっていく。
その狂気に満ち溢れた現実を前に、俺は声を殺しながら涙を流し、隠れる事しかできなかった。
早く終わってくれ、俺を解放してくれ。
その願いを込めて。
ドォオオオオオオオオン!!
「っ!?」
次の瞬間、後方でとんでもない爆発が起きた。
凶悪なモンスター達も巻き込まれて、一瞬のうちに身体を蒸発させる。
なんだこれ!?
今度は一体なんなんだよ!!
爆発に吹き飛ばされながら、爆破されたポイントを見続けると……
「あ……」
先程のモンスター達なんて比較にならない。
赤黒い鱗に身を包んだ巨大なドラゴンがそこにいた。
「嘘……だろ……」
あれだけ強そうなモンスター達が一瞬で?
じゃあこいつはどれだけ強いんだ?
ここは一体なんなんだ!?
不安と絶望でいっぱいになっている俺に構わず、ドラゴンは俺の元へ近づいていく。
「あ……あ、あ……」
圧倒的なオーラと殺意が俺の身体を動かさない。
隠れていた岩はもうない。
目の前にいるのは捕食対象の弱い人間のみ。
俺にラッキーなんてものは存在しない。
生まれてからずっと、そしてこれからも。
だから死に方も選ばせて貰えないんだ。
「……」
絶望の中、ドラゴンはただじっと俺を見ていた。
「ニィ……」
「え?」
笑った?
今、こいつ笑ったのか?
「ククク……」
まるで人を見下すような気に入らない態度。
それが圧倒的強者であるドラゴンを前にしているのに、俺は既視感を感じてしまう。
だってそれは……
『勝手に信頼したアンタが悪いんだよ。じゃあね~♪』
俺を裏切った女の態度と似ていたから。
「ふざけんな……」
不思議と恐怖が消えていく。
「俺が何をした……何でこんな目に合わなくちゃならねぇ……」
代わりに湧き上がるのは……”怒り”
幸せなんて一切ない日常。
全てを奪われ、全て壊されてきた日々。
その中に残されていた光すら、闇だと気づいた現実。
「……な」
そして目の前で起き続ける不幸を前に何もできない自分の姿が池に映り込む。
ボロボロで辛気臭い、不幸を表したような存在。
誰からもサンドバッグにしていいとオーラが語っているみたいだ。
「ふざけんな……」
本当に……本当に……
「ふざけんなああああああああああっ!!」
全てが気に入らない。
俺は怒りのままにドラゴンへ突っ込んだ。
「あああああああああああっ!!」
がむしゃらで策なんて一切ない。
あるのはナイフと、なけなしのスキルのみ。
「……」
「クソッ……クソォ!!」
俺のスキルはほんの少しだけ身体を強化する”身体強化”のみ。
そんなスキルが戦闘で使えるわけもなく、役立つのは荷物運びの時くらい。
最恐のドラゴンに通じるワケがなかった。
「ハァ……ハァッ……!!」
無茶苦茶にナイフを振っても、ドラゴンの身体には傷一つつかない。
それどころか余計に俺の身体が疲れていくだけ。
血混じりの呼吸をしながら息を整え、見上げると。
「ニィ……」
あのドラゴンは、また笑っていた。
(許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない)
その顔を見る度に思い出す怒り。
多額の借金を押し付けて逃げた親戚。
その取り立てをしてくる闇金融。
友人はいないし学校の人は俺の事を嫌っていて、
信じていた探索者には裏切られて、ダンジョンの奥底へ突き落とされた。
「くっそぉ……!!」
何もできない自分が嫌だ。
このドラゴンを動けない自分の無力さが嫌いだ。
怒りのままに地面を殴りつけ、無力な現状を受け止め続ける。
「ニィ……」
それでもこいつは笑い続けた。
態度を変えず、何度も何度も。
だから俺も怒りをぶつけた。
そのクソみたいな態度を消し去りたくて。
俺の怒りに満ち溢れた戦いはここから始まった。