元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「ハァアアアアア!!」
一週間経過。
ドラゴンはずっとここにいる。
相変わらず見下すように笑っているが、それ以外は何もしてこない。
同時に俺も何も出来ていない。
そんな現状にイライラしながらも、俺はドラゴンに挑み続けた。
他のモンスターはドラゴンに恐れているのか、近づこうとすらしていない。
◇◇◇
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」
一ヶ月経過。
大量の荷物の中に食料が。
後は近くにいる虫なんかを焼いて食べているからか、生きるために必要なものは揃っていた。
水も池があるからなんとかなる。
生きてはいるがドラゴンには何もできていない。
それでも見下すような笑い方は止めておらず、相変わらず俺の怒りと殺意を湧き上がらせ続けた。
◇◇◇
「フッ……フッ……」
三ヶ月経過。
がむしゃらにやってもダメだとやっと気づいた。
だから自分を鍛え直した。
剣とか、筋トレとか、戦術とか。
そんな所。
相変わらず傷一つはつけられていないが、俺もこのドラゴンに対してムカつき続けている。
だから殺すことは絶対にやめない。
ここに居座り続けていることを後悔させてやる。
◇◇◇
「……」
半年経過。
飯が少ない。
虫も飽きた。
調味料もない。
水だけはあるがそれだけで人間は生きていけない。
だから何でも食べた。
死肉とか土とか雑草とか。
生えているものは何でも食べた。
それでも俺はこのドラゴンを殺したい。
相変わらず笑ってやがる……マジで許さねえ。
◇◇◇
「……」
どれくらい経っただろう。
喋る事と他の事を考えるエネルギーを全て無くして、このドラゴンを殺すことだけに集中していた。
脱出とか他にやる事あるだろってたまに考えたけど、今更考えたくないと現実逃避した。
相変わらず俺は弱い。
鍛えても鍛えてもドラゴンには傷一つつかない。
考えても考えても何も進まない。
何度も心が壊れそうになった。
というか、もう既に壊れてる気がする。
ナイフはとっくの昔に砕け散った。
物資ももうない。
だから素手でドラゴンに殴り続けるという無謀をひたすら繰り返す毎日。
アホだ、バカだ、愚かだ。
そんな事はわかっている。
わかっているんだよ!!
俺が何も出来ないことくらい、俺が全部失ったのは全部俺が悪いんだってことくらいわかってる!!
でもこの怒りをぶつけたかった。
怒りのままに何かを壊したかった
それが空虚で何もかも失われた俺に残された、目的のような生きがいだったのかもしれない。
ブシュッ……
「え?」
そんな俺に少しだけ希望が見えた。
「はは……ははは……」
ドラゴンに傷が!!
血が出ているぞ!!
何度も何度も同じところを殴り続けたから、やっと弱って傷になったんだ!!
ハハハハハハハハハ!!
フハハハハハハハハ!!
俺だってやればできるんだ!!
俺だっていつかは成し遂げ……
「ゴフッ……!?」
その僅かな希望の光を、ドラゴンのなぎ払いが無慈悲に消し去った。
「ガッ……ア……」
嘘だろ……こんなに強かったのかよ。
なぎ払いを一発食らっただけで、俺の身体がもう動かない。
「クソッ……クソォ……」
ナメプされているのは分かっていた。
圧倒的強者であるドラゴンに弄ばれている事も。
でも浮かれたんだ。
傷をつけた時は、俺でもドラゴンに勝てると勘違いしてた。
だってさ。
今まで自分の力だけで何かを進めた事はなかったんだよ。
ほんと、愚かだ……
「アアアアアアアアアアッ!!」
動かない身体で力を振り絞り俺は叫ぶ。
同時に蘇る、俺を見下し裏切ってきた人々との記憶。
『クソッタレ!! てめぇのせいでまた負けたじゃねぇか!!』
壊したい。
全部ぶっ壊してやりたい。
『憂さ晴らしに殴らせろ!! この借金野郎が!!』
俺に理不尽を与え続けたやつらを、
惨めで何もできない俺という存在を、
『勝手に信頼したアンタが悪いんだよ。じゃあね~♪』
全部、全部ぶっ壊す!!
ぶっ壊してやる!!!!!!!!!!
「ハァッ……ハァ……」
ドラゴンの重い足音が近づく。
傷をつけたことに怒りを感じ、俺を殺そうとしているのかもしれない。
そもそも俺をずっと笑いながら見下して、もがき苦しむ姿を見ていたのはなんなんだ。
……まあいい。
それも終わりだ。
「許せねぇ……」
深い後悔の中で、俺は最期を迎える時を待ち続けた。
「……お前、面白いな」
「?」
ドラゴンが……喋った?
「知識も力も何もないお前が、このブラッドカオスドラゴンに立ち向かい続けるなんて正気じゃない。だから見守っていたが……なるほど」
ブラッドカオスドラゴン?
それがこいつの名前か?
「お前を動かすのはなんだ? 欲望はなんだ?」
ベラベラと達者に話すドラゴンの会話を俺は瀕死の中で聞き続ける。
目だけは絶対にこいつから離さないようにしながら。
「そうか……怒りだな」
「ッ!!」
そんな事をしたからか、心の内を見透かされたのかもしれない。
「ただの怒りじゃない。自分を含めた全てに怒りを感じているのか……これは面白い!!」
楽しんでいる。
こいつは俺の抱えている怒りを見て楽しんでやがる。
「弱いから何もできない、弱いから不幸なままでいる。弱いから全てを奪われて、全てを壊されてしまう!! それがお前にとっての一番の怒りか!!」
「アアアアアアアアアアアアッ!!」
「ハハハハハハハ!! 図星のようだな!!」
ふざけやがって!!
見世物じゃねぇんだぞ!!
ますます怒りを込み上げさせ、傷口から勢いよく血が吹き出す。
死に近づいて行くのにも関わらず、俺はドラゴンに対する怒りを抑えなかった。
「そうだな。まずはお前の怒りを利用させてもらおう」
「は……?」
そんなぐちゃぐちゃになった俺の頭が一瞬だけクリアになる。
「お前がこの世界にどのような”混沌”を生み出すのか。その未来を見せろ」
力? 混沌? 未来?
わけも分からず話を聞いていると、ドラゴンは先程俺がつけた傷の付近に力を入れ、俺に向けて血をぶっかけ始める。
しかも大量に。
謎の行動に意味がわからなかったが、その効果をすぐに思い知る事となる。
「ガ……アアアアアアアアアアッ!!」
全身が痛い!! 熱い!!
身体が溶けて無くなる!!
しっぽのなぎ払いなんて比にならない激痛が俺を襲う。
まるで身体の内側から何かが変わろうとしているみたいだ。
瀕死の身体で地面を転がり続け、必死に痛みから耐えようと動き続ける。
「クククッ……面白い人間を見つけた。この世界もまだまだ楽しめそうだな」
その言葉を最後に俺の意識は途絶えた。
同時にドラゴンの声も聞こえなくなった。
◇◇◇
「あぁっ……が、あぁ……」
痛みは続く。
少しだけ目が覚めて、
また痛みで気絶して、
また目が覚めて
この苦しみはいつまで続くのだろうか。
(暗い……)
記憶の全てが真っ暗だった。
絶望と苦しみの連続。
ひたすら劣等感に襲われ、己の力不足に怒り続ける毎日。
この世界に光なんてないんだと、俺は思っていた。
『それでいいのか?』
問われる。
今のままでいいのかと声が聞こえる。
ドラゴン? それとも幻覚?
わからない。
でも、はっきりそう聞こえた。
『何が欲しい? 何を求める?』
俺は考える。
今を壊すには、
過去を超えるには、
未来を掴むには、
今の俺には何が必要だ?
「力……」
一つの答えが強く俺の中から浮かび上がる。
「力が……欲しい……」
俺の抱えるものを全て壊す方法。
それはシンプルなもの。
だけど、俺を俺から解放するには……
力が一番必要だと思ったんだ。
『ならば使いこなしてみろ』
闇の中に一筋の光が差し込む。
『全てを破壊し、理想を掴め……』
その言葉を最後に、声と痛みは消え去った。
◇◇◇
「何が起きたんだ……?」
目を覚ました時、周りには何もなかった。
他のモンスターの気配もない。
ブラッドカオスも姿を消した?
あの激痛は夢だったのかと思ってしまう。
ぷるんっ
「え?」
身体が揺れている?
正確には一部分が小刻みに動いていた。
身体は血だらけで生臭い。
それはブラッドカオスドラゴンに血をぶっかけられたから。
だけどおかしい。
今までの身体と何かが違う。
身体の重さも、
動く感覚も、
全身のバランスも、
何もかもが変わっている。
一体何が……
「……胸?」
起き上がった俺の視界に映り込んだのは、膨らんだ二つの胸。
近くに女の子がいる?
でも人の気配は感じないし、そもそもこの場には俺しかいない。
じゃあ、この胸は……
「へっ……!?」
膨らんでいる。
俺の胸元が女性のように膨らんでいる。
なんでだ!?
俺は男だぞ!?
筋トレで膨らんだ胸にしてはあまりにも大きくて柔らかいし、動く度にぷるぷる揺れている。
それだけじゃない。
「全部だ……全部変わっている……」
声が高くなっている。
髪が伸びている。
指が細くなっている。
肌が前より柔らかくて、お尻と足には特に脂肪が付いている。
そして自身の股間部に触れた時、前まであったものが無くなっていた。
まさか。
まさか俺は……
「っ!! 顔は、顔はどうなって……!?」
慌てて近くの池に駆け寄った。
池に近づき恐る恐る自分の顔を覗き込むと、
「誰だこれ……」
そこに映されていたのは、女性のように可愛らしい顔だった。