元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「なんで……なんで俺が女の子に……?」
理解できない。
できるはずがない。
ドラゴンに喧嘩を売り続けて、
やっと攻撃が入ったと思ったらボコボコにされて、
全てを諦めて死を受け入れた時、あのドラゴンがわけのわからない事を言いながら俺に血をぶっかけて、
目を覚ましたら女の子になっていた。
「どうしろってんだよ……」
底知れぬ不安が俺を襲う。
いきなり女性の身体になって、今までと全然違う感覚が違和感しかない。
それに情報量の暴力を前に心が悲鳴を上げていた。
怖いよ、苦しいよ、助けてよって
幼い頃に捨て去った弱気な感情が何故か蘇っている。
ポタッ
「へ?」
頬に水が流れる。
池に顔を突っ込んだ覚えはない。
血も乾いていて水気はない。
じゃあ、これは……
「泣いている……俺が……?」
俺が涙。
俺の不安が生み出した涙だ。
何故泣いている。
何故苦しんでいる?
起きた事は壮大だが、感じている不安は些細な事。
何も泣く事はない。
そう頭で理解しているのに、何故か心の苦しみが抑えられなかった。
「前より不安定だ……早くなんとかしないと」
精神の不調に気付いた俺は誤魔化すように次の事を探す。
他に何が変わった?
身体の性別が変わった事以外で俺は何ができるようになった?
動き、試し、そして気付く。
身体が軽い?
俺の身体はドラゴンの薙ぎ払いで重傷を負っていたハズ。
加えて血をぶっかけられて全身に激痛が走っていたのに。
今は何ともない。
それどころか今までの人生で一番動きやすいまである。
スキルに変化でも起きたのか?
「スキルオープン……」
自分のスキルは詳細な説明含めてスキルウィンドウというものに表示される。
こうしてスキルオープンと言えば、目の前にパソコンのウィンドウ画面のようなものが出るんだけど……
「は?」
ウィンドウ画面を見た瞬間、俺は驚いた。
◇保有スキル◇
・破竜強化
・血塊錬成
・威圧
「増えている?」
一つしかなかったスキルが三つになった?
というか元あった”身体強化”も変化してるし。
なんでだ?
あのドラゴンに挑み続けていた時は、こんなスキルはなかったのに。
疑問に疑問を重ねる中、俺は自らについた血を見て一つの結論を出した。
「あのドラゴンの血か……?」
ブラッドカオスの血を浴びた瞬間、全身が焼けるような激痛がした。
まるで新しい肉体に無理やり再生されたような感覚。
その結果、俺は女の子になって新しい力を手に入れた?
だとしたら意味がわからない。
アイツが俺に力を渡すメリットが……
「……いや、いい」
気にしても仕方がない。
あのドラゴンはもういないのだから。
新しい力をあのドラゴンに試そうと思ったのに。
どこに行ったか知りたいし、先に進むか。
「その間にスキルを……?」
歩きながら新しいスキルの説明を読み込もうとした時、天井から殺気を感じた。
「シュウウウウウ!!」
「っ!? デカイ蜘蛛!?」
糸を出しながら八本の足をウネウネ動かす、蜘蛛型の巨大モンスター。
その攻撃の直前に何かを感じた俺は、身体を素早く動かして遠くに離れる。
瞬間、俺がいた地面が糸によって粉々に砕かれた。
なんでいきなり現れたんだ!?
まさかドラゴンがいなくなったから……
(流石に死んだか……クソッ!!)
ここにいるモンスターはどれも化け物揃い。
ブラッドカオスドラゴンにやられた連中ですら、人間にとっては苦戦する相手だろう。
「ちっくしょう……また涙が……」
不安を感じてまた涙を流している。
この身体はおかしい。
些細な不安を深く捉えすぎている。
せっかく新しい力を得たのに!!
泣きじゃくりながらラスボスみたいなヤツに殺されるなんて……ってあれ?
「なんでかわせたんだ?」
というか天井にいることがわかっていた。
かわす動きだって多少余裕があったし、殺気やオーラだってあのブラッドカオスドラゴンに比べたら大した事は無い。
今までの俺より明らかに素早い。
その違和感が少しずつ自信に変わっていくのを感じた。
「……スキルオープン」
再びスキルウィンドウを開いた俺はスキルの詳細文を軽く読んだ。
……なるほど。
色々書いてあるけど、まず最初に理解したのは、
「シュアアアアアアア!!」
これは絶望じゃないって事だ。
「シュアッ!?」
天井スレスレの所まで跳躍する俺。
視界には巨大蜘蛛。
俺の行動が予想できていなかったのか、唖然と見上げている。
隙だらけだな……
今までの俺なら、どんな隙があってもダメージを出すスキルや魔法に恵まれていなかった。
「燃え盛れ……”破竜炎弾”!!」
だけど今は違う。
戦える力を手にしたんだ。
「シュウアアアアアアアア!!」
そこそこ大きい火球が巨大蜘蛛に直撃する。
全身が燃えていき、巨大な身体にどんどん焦げを作っていく。
これが俺の力?
ドラゴンが持っていた力の一部?
とんでもないモノを得てしまったな……
「シュアアアアアッ!!」
「っ!! 結構器用なことしやがる!!」
だが巨大蜘蛛も簡単にやられないらしい。
瞬時に巨大蜘蛛の糸で巨大な布を作り出し、全身を包み込むように広げたのだ。
この一瞬でそこまで頭が回るか……やっぱり宝物の欲地は普通のダンジョンではないな。
「シュアアッ!!」
「な!?」
少し考え事をしていた隙を見て、巨大蜘蛛が俺の足に糸を絡ませた。
「うぉおおおおおお!!」
ドォオオオオオン!!
そのまま勢いよく壁へ叩きつけられる俺。
音と衝撃だけならあのドラゴンのなぎ払いに近いものを感じたが、不思議と痛みはそこまでなかった。
”身体強化”が強化されている影響だろう。
今までの身体とは全然違う。
「やりやがったな……!!」
だけどあの巨大蜘蛛は絶対にぶっ殺してやる。
感情が沸き上がり、俺は再び涙を流す。
些細な事で泣くなよ、イライラするなぁ。
その怒りと共に、身体についた傷口から勢いよく血を吹き出させる。
「”血塊錬成”」
血は下に流れ落ちず、空中を漂って固まっていく。
その塊はまるで剣のようだった。
相当器用な事ができるな。
自ら得たスキルを前に俺は頬をニヤつかせた。
「”エンチャント”」
生成した赤黒い剣に炎魔法を付与する。
「いける……」
燃え盛る炎の剣。
それを巨大蜘蛛に向けて突きつける。
明らかに異常な存在。
巨大蜘蛛は本能で感じ取ったのか、俺から少しずつ距離を取ろうとする。
「逃がすかよ」
その甘えが命取りになるとも知らずに。
俺は巨大蜘蛛の元に一瞬で距離を詰め、そして……
「”破炎斬”」
巨大蜘蛛の身体を真っ二つに斬り裂いた。
◇◇◇
「はぁっ……はぁ……」
疲れた。
身体ではなく主に精神的な部分で。
感情が揺れ動く度に泣いてしまうから、心の疲労が激しすぎる。
だけど、それ以上に強い力がある。
「これがドラゴンの力……俺の力なのか……」
大きく二つに切断された巨大蜘蛛の死体を俺が作り出したと思えない。
不思議な感覚だった。
急に自信と戦闘意欲が湧いて、ざっと見て覚えたスキルや魔法を使いこなしていた。
これもドラゴンのおかげ?
それとも怒りで色々と狂ったせい?
わからない。
わからないが、これが使える力である事は理解した。
「しかし便利だな……この錬成は」
血を軽く出してナイフを錬成する。
”血塊錬成”
効果は自分の血を利用してある程度の武器や道具を錬成できるというもの。
やろうと思えば剣とか、弓とか、もしかしたら銃も作れるかも。
ただ、俺の練度が足りないのか、今の俺では剣や槍といった単純な構造の物しか錬成できない。
「それでも十分なんだけどな……よっと」
俺は錬成したナイフを使って巨大蜘蛛の身体を解体する。
解体は結構力を使う作業なのに、まるでペラペラの紙を扱ってるかのようにスイスイ斬れる。
ナイフの精度がいいっていうのもあるだろうが、やっぱり俺自身の単純な力が増している。
それはもう一つのスキルが原因だろう。
”破竜強化”
その効果は……全部理解できていない。
とにかく情報が多すぎるんだ。
一応、前より身体能力が上がっているのと、闇と火の魔法が使えるという部分はわかった。
後はじっくり読まないとな……あの一瞬で全部を把握するのは無理だ。
「”ファイア”」
まぁ魔法を使って火を起こせるのは便利だ。
ずっと寒い暗い生モノばっかの生活だったからな。
巨大蜘蛛も素材と肉に斬り分けたし、焼いて食べてみるか……
蜘蛛を食うなんて正気じゃないだろうが、土とか草とか食ってた頃に比べたらごちそうに見えるんだ。
さぁて、いただきまーす。
「おえっ」
マズい。
とにかくマズい。
味の代わりに臭みがにじみ出てる。
ゲテモノはちゃんと下処理をしないとダメだな。
もし帰れたらあったかくて美味しいものが食いたい……
「クソッ……」
下野加奈……絶対許さねえ。
こんな所に突き落としやがって。
お前のせいで俺は女の子になってしまったんだぞ。
いないヤツに怒りを向けつつ、俺は泣きながらクソマズい蜘蛛肉を食べ続けた。