元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「ォオオオオオオ!!」
巨大亀が叫ぶ。
壁をぶち壊して広くなった空間でも、その咆哮は周りを大きく振動させるほどだった。
こいつ……さっきまでの蜘蛛やウサギとは大違いだ。
大きさもそうだが、何より全身から感じるパワーがヤバい!!
動きは遅そうなのに、油断できないな……
空中で巨大亀の動きを見つつ、俺は”血塊錬成”で武器を錬成していた時。
ヤツは消えた。
「っ!?」
あの大きさが一瞬で!?
どこに行った!?
まるで瞬間移動をしたかのように姿が消え、さっきまで巨大亀がいた場所にはぽっかりと大穴が空いている。
……っ!?
何かが動いた?
いや、周りは特に何も……
「ォオオオオ……」
「は?」
今度は俺の後ろに!?
まさかこいつ、瞬間移動ができるのか!?
巨体の癖にここまで距離を詰めてくるとは……!!
相当ヤベェかもな!!
「「「ピョォオオオオオ!!」」」
「で、今度はウサギ軍団か!!」
亀の甲羅からウサギ軍団が姿を現し、俺めがけて一斉に突撃してくる。
武器も何も持っていない、見た目だけなら 可愛らしいウサギなのに、鋭い目つきと殺気だけでここまで印象って変わるんだな。
「”煙幕”!!」
「「「っ!?」」」
俺は炎魔法の煙を周囲に撒き散らした。
ただの煙ではなくチリやホコリ、そしてそれなりの熱を帯びている為、妨害の精度としてはかなり高い。
ただ、風向きによってはこっちにも影響が及びそうだな……この辺は地形や環境を見極めてから使うとしよう。
「”幻影装”」
煙幕で見えなくなっている内に俺は闇魔法で自分の姿を消した。
炎魔法は火力特化の攻撃が多くてシンプルだけど、闇魔法は癖のあるサポート系が多い気がする。
使用者のセンスが問われてる、ということか?
(今のうちに離れて……)
ウサギ軍団は俺を完全に見失っている。
その間に距離を取り大技の準備をと思った時、巨大亀が動き出した。
「ォオオオオオオオ!!」
なんつーバカデカい波!!
周囲をプールにできそうなくらい大量の水を吹き出し、強い波力で押し寄せてくる。
見えないなら全体攻撃で無理やり見つけようって魂胆か!!
脳筋だけど結構考えてる……!!
「”血塊錬成”!!」
俺はすぐさま”血塊錬成”で盾を生成に前に突き出す。
そして炎魔法を付与し、大量の水に対して受けて立とうと身構えた。
「うぐぅううううう!!」
流石に強いな!!
気を抜いたら一瞬で流されそうだ。
俺の全身を襲う勢いで波は押し寄せてくる。
それでも”破竜強化”で得た強靭な肉体と、”血塊錬成”の盾でなんとか防げたおかげで、俺は傷一つ負うことはなかった。
「ォオオオオ!!」
「また瞬間移動……っておおっ!?」
ズドォオオオオオン!!
再び瞬間移動した巨大亀が今度は俺の真上に瞬間移動をして、そのまま推し潰そうと一気に迫ってきた。
”危険察知”がなかったら即死だった……!!
恐らく大量の波を盾で防いだから、その衝突した跡を見られたんだと思う。
二手、三手と先を行く巨大亀。
遅れを取り続けたら確実に死ぬな。
これは俺の方からガンガン仕掛けるしかない!!
覚悟を決めた俺は”血塊錬成”で再び武器を生成する。
「……でか」
錬成したのは巨大ハンマー。
固くてデカい巨大亀をぶっ叩くのに最適だと思ったが、俺の身体より大きく錬成してしまった。
覚えたてのスキルだからか細かい調整が上手くいかないのかもしれない。
でも余裕で持てる。
”破竜強化”の力はすげぇな。
「「「ピョオオオオオオオ!!」」」
ウサギ軍団が四方八方から高速で迫ってくる。
スピードで劣るハンマーでウサギに攻撃に当てるのは難しい。
俺は既に錬成していた大量のナイフをウサギ軍団に向けて一斉に放ち迎え撃った。
「「……」」
ガキガキガキィン!!
襲いかかるウサギ軍団。
それを防ぎつつ返り討ちにする大量のナイフ。
その中心で俺は巨大な亀と対峙していた。
「ォオオオオオ!!」
「っ!?」
空間が歪む。
視界がぐらついたかと思った瞬間、俺の身体がさっきとは違う場所に転移していた。
場所は巨大亀の足元。
相手も転移できるのかと驚いたのも束の間。
巨大亀の周りに大量の魔法陣が展開された。
「あっぶね!!」
魔法陣から大量のレーザーが発射される。
無差別な攻撃だ。
俺だけでなく周りにいたウサギ軍団もまとめて焼き払っている。
仲間というより、あくまで利害が一致した協力関係って感じか?
生き物の怖さを感じる。
「これじゃ近づけないか……」
大量のレーザーも、
それをかいくぐって攻めてくるウサギ軍団も、
両方とも厄介だ。
「いって!!」
徐々に追い込まれてるし、俺の身体に傷もついている。
埒が明かない。
「あぁ、クソッ……やめろよぉ……」
だいぶ安定していたのに、不安を感じた途端また涙を流す。
その動揺が身体に多くの傷を残す、
追い詰める、
苦しめる。
「ォオオオオオオ……」
攻め込めない現状と防御に徹しているという現状に対する苛立ち。
俺の中で少しずつ怒りが込み上げてきた。
「……違う」
怯えてどうする。
俺は強くなったんだ。
「”炎装……」
逃げ続けて失い続けたあの時とは違う。
自分の弱さに絶望し続ける日はもう終わった。
「爆裂撃”」
覚悟を新たにした俺は巨大亀へと突撃する。
炎をまとった全身が周りにいるウサギ軍団を通り抜けながら燃やし尽くしていく。
(……いてぇ)
ウサギ軍団の攻撃が当たる。
レーザーがかする。
全身が焼けそうなくらい痛い。
それでも俺は進み続ける。
ある程度の攻撃は我慢すればいい。
肉体は”再生”で回復できる。
それ以上に今まで受けた精神的な苦痛に比べたら、こんなの大したことがないと俺は気づいた。
「ハァアアアアアアア!!」
道中のウサギ軍団が減ってきた頃、俺の身体が巨大亀に迫った。
このまま硬い身体をグッチャグチャにぶっ壊してやろうとしていたのだが、流石に喰らったらマズいことを賢い巨大亀は察していた。
「ォオオオオ!!」
俺の身体が激突する瞬間、巨大亀は瞬間移動でどこかに消えた。
やっぱりか。
威力には自信があったから、巨大亀は絶対にかわしてくるだろうなと俺は予想した。
正攻法で大ダメージを与えるのは難しい。
ウサギ軍団もまだまだ甲羅の中に隠れているし、ヤツは長期戦向きの戦い方をしている。
「……見える」
だからもう一つの攻撃を俺は用意していた。
最初の方に錬成したハンマーを使って。
「”火炎豪壊”」
炎のハンマーを”危険察知”が強く反応した場所へ思いっきりぶん投げる。
ハンマーは燃えながら勢いよく飛んでいき、何も無い壁へと向かっていく。
瞬間移動は連続で発動できないハズ。
もし発動できるんだったら、より高度な動きで撹乱してくるに違いない。
「ォオオオオッ!?」
だから移動地点を予測した。
破壊力の籠った一撃を巨大亀にぶち込むために。
瞬間移動した亀は目の前に突然現れた巨大なハンマーにあからさまに驚いている。
慌てて魔法陣を展開し防御網を作っていたのだが、そんな急ごしらえの対策で防げる程、俺のハンマーは甘くない。
「砕け散れ……!!」
バキバキバキィッ!!
魔法陣を無慈悲に破壊し、そのまま勢いよく甲羅へと激突するハンマー。
硬い甲羅に大きなヒビが入り、やがて周りに広がっていく。
異変に気づいたウサギ軍団が逃げようとするがもう遅い。
何故なら全てを終わらせるつもりだったから。
「”破竜炎弾”」
巨大な火球が周りを飲み込む。
ヒビの入った甲羅を背負った巨大亀なんてただの動く的。
破壊力に優れた火球を防ぐ手段など、アイツらには存在しなかった。
ドォオオオオオオオオオン!!
「……ふぅ」
全てが燃やし尽くされていく。
これで全部片付いたな……
何体かウサギの死体が散らばっているから拾っておこう。
さっきの蜘蛛よりは食えるだろうし。
あー、でも結構穴が空いたな。
地面だった所が甲羅になっていて、それがなくなったから巨大な空洞ができている。
”空中歩行”があるから落ちる心配はないけど、流石に空中に居続けるのはちょっと疲れるみたいだ。
スキルも無限ではないってことか。
「ん?」
今、空洞の下の方で何かが光った?
一瞬だけど青白い光が確かに……
『……誰?』
「っ!?」
今度は声!?
俺に直接語り掛けているのか!?
それと同時に”危険察知”が今まで以上にビリビリと強く反応している……!!
まさかブラッドカオスドラゴンか?
いや、声質が違うし女性の声だ。
この下に俺以外の人間がいるのか……?
「……行くか」
情報が少ない今、何かを得られるチャンス。
最下層について、
ブラッドカオスドラゴンについて、
そしてその倒し方を……
俺は”血塊錬成”で剣とナイフを錬成し、”影走り”で俺の周りにナイフを漂わせながらゆっくり下へ降りていった。
一応、最大限の対策はしているが、この下にいるやつはかなり強い。
いや、巨大蜘蛛や巨大亀なんか比較にならないレベルのバケモノがいるかもしれない。
即死にだけは気をつけながら進もう……