元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「”危険察知”がどんどん強くなってる……」
この下には何がいるんだ。
人間? それともボス?
モンスターも言葉を喋るっていうのはブラッドカオスドラゴンが教えてくれたし、両方の可能性がある。
いずれにせよ異質な気配はする。
今まで感じたことがない雰囲気だ。
「……神殿?」
下に降りた時、そこにあったのはボロボロの神殿だった。
壁も地面も脊柱も。
どれも朽ちてコケが生えている。
長い間放置されていたのか?
しかし、ダンジョンに神殿っていうのも不思議だな。
構造的に人の手が入ってるように見えるけど、なんでこんな所に?
『……見える』
また声が。
さっきよりもハッキリ聞こえた。
そして声の方向も……神殿の中か。
光も更に強くなり、異質な雰囲気も今まで以上に強くなる。
というか眩しすぎるな。
奥に進むには少し目を閉じてから行かないと。
「くっ……目が潰れそうだ」
光の先へ進む。
神殿に眠っているのは一体誰か、その正体はなんなのか。
疑問と警戒を同時に抱きながら、俺は奥へと進んで行った。
「え……」
光の量が減ったのを感じ、俺が目を開けるとそこにいたのは……
水晶に閉じ込められた少女の姿だった。
「なんでこんな所に……?」
長い銀髪で付く所に肉が付いている女性らしい体形。
とても神秘的な雰囲気で、絵本の中から飛び出してきたかのような愛らしさを彼女は持っていた。
てか裸じゃん、見ていいのか?
誰もいないのに妙に気にしてしまう俺。
というか今の俺は女の子だし……ってそういう問題じゃないだろ。
一通り身体をしっかり見た後、俺は目線を逸らしながら水晶を調べた。
「貴方だったの? ここに妙な気配があるとは思ったけど」
「それはこっちのセリフだ。ダンジョンの最深部に美少女がいるとか想像できねぇよ」
「美少女だって……ふふっ」
意外と気さくだな。
普通に会話できるし元気だし。
でも服は着てほしい。
色々と目のやり場に困るから。
「大丈夫だよ、女同士なんだから」
「女同士って……まぁ、そうだけど、その……」
「あ、でも元は男の子だもんね」
「え?」
なんで知っている?
この美少女とは始めて会ったのに、何故俺が男だった事を知っているんだ?
「全部見てたよ。ブラッドカオスドラゴンに喧嘩を売り始めてから、身体が女の子になってから、ここに来るまでずーっと」
「お見通しだった、というわけか……」
「そういうこと」
心が物凄く落ち着く。
色々気にしてたのが無駄だったような感じだ。
あー、なんか安心したからか目が……
「クソッ……なんでまた……」
「無理しない方がいい。多分、無理やり身体を変えられてホルモンバランスが崩れてるから」
「ホルモンバランス?」
「女性ホルモンは感情の起伏が激しいから……って地上の情報で知った」
俺が泣きやすくなったのはそれが原因か。
そういえば女の子は繊細なんだよ、とアニメか漫画で見たことがある。
ここまで繊細で脆いんだな……その苦しみを始めて理解したよ。
「で? お前はなんでここにいる?」
「封印された」
「……どういうことだ?」
「ウチは封印された。嫌われていたから」
封印? 嫌われていた?
イマイチピンとこないな。
「聞きたい?」
「……是非」
「んふふ、わかった」
ノリがめんどくさい女子なのは一旦置いといて。
俺は彼女から話を聞く事になった。
一応、片手間で水晶の構造を調べつつではあるけど。
「ウチの名前はマリー。こことは違う世界で生まれて、幼い頃に兵器開発の実験に使われた」
「こことは違う世界? まさか異世界ってことか?」
「貴方達からしたらそうかも?」
ってことはダンジョンは異世界からやってきたということになる。
この世界にはない物質がダンジョンでは取れるからなんとなく察してはいたけど、事実ってわかるとやっぱ驚くな。
うさんくさい学者が「これは宇宙人の仕業だ!!」と大真面目に語っていたけど、あながち間違いでもなさそうだ。
「ビルもないし車も電気もない、代わりに森や城があった。空気は間違いなく美味しいと思う」
「なんでビルとか車って単語が分かるんだ……」
「微かにだけど地上の情報が見えて聞こえる。それが唯一の楽しみ」
俺に遠くから話しかけたのもそれか。
そういえばホルモンバランスとかやけに現代的な知識も披露していたし。
少しずつ謎が解けてきた。
「その、異世界で行われていた兵器開発ってなんだ?」
「人間を天使にする実験。正確には神に等しい力を人間が得る為の方法かな?」
「異世界の規模やべーな……こっちからしたら宗教の怪しい売り文句にしか聞こえないぞ」
「ふふっ、うさんくさいのは向こうでも同じだよ」
天使とか神とか。
異世界では当たり前に信仰されていて、それが実在するって話だから凄い。
恐らく異世界でも圧倒的な力を持っていたのだろう。
こっちの世界で言う銃や戦車、または核に近い存在。
だから人間を天使にしよう、なんていうイカれた発想を本気で実現しようとするんだ。
「実験は手探りだし命は軽かった。だからみーんな途中で死んじゃった」
「で、唯一の成功例がマリーってことか?」
「そう。偶然と偶然が重なってできちゃったみたい」
軽く話してはいるがマリーの表情はどこか寂し気に見えた。
「天使は凄い。強いスキルと魔法のおかげで国ですら滅ぼすことができた」
「滅ぼした? なんでだ?」
「ウチが愚かだったから」
表情が暗くなる。
「ウチが暴れると研究員が皆褒めてくれた。だから人を殺して、街を滅ぼして、国を消した。何かを壊すことがいい事なんだってウチは本気で信じていたから」
笑顔は消え、顔も俯いて声が小さい。
「これを見て」
ブォンと空間に映像が表示される。
「……やべぇな」
そこには光によって壊されていく姿があった。
人も、自然も、物も、
全て一人の少女によって無慈悲に破壊されていく。
これが天使の力か。
「だから皆に嫌われちゃった。誰もがウチを殺そうとするし、研究者はウチを戦争の道具として無茶な扱いをし始めた……ただ仲良くなりたかっただけなのに」
幼いが故にコミュニケーションがわからなかったのだろう。
何が正しいのか、間違いなのかを、誰も教えてくれない環境の中で彼女は進んだ。
経験は知識と言うが、進み続けた彼女が気づいたのは、今まで自分がやってきた行為は間違いであったということ。
「遅かったか」
「……うん」
その時にはやり直すことなど不可能に近かった。
「でもね、勇者は仲良くしてくれたんだ」
「勇者?」
「勇者は世界から憎まれてるウチにこっそりご飯を持ってきてくれたり、遊んでくれたり、ウチの話をいっぱい聞いてくれたよ」
「勇者なんているんだなぁ。凄い世界だ」
「勇者はみんなから好かれていたからね。ウチにも優しくしてくれたから、本当に勇者なんだって思ったよ」
この世界にもSランク探索者とかは皆から好かれて慕われているけど、勇者みたいに象徴として扱われる人はいないなぁ。
ゲームでしか存在しない肩書きがあるのも、異世界らしいと言えばらしい。
みんなから嫌われているマリーを助けようとするのも、俺は想像する勇者の行動に近い……
「でもぜーんぶ嘘だった。ウチを封印するために近づいたんだって」
「は?」
そう思っていたが、勇者ですら裏切り者だったらしい。
(俺と同じってことか……)
絶望の中で唯一手を差し伸べてきた人を俺は希望として見ていた。
下野加奈と勇者。
時代と場所は違うが、俺やマリーが受けてきた事はどこか似ている。
「それでここに……」
「そういうこと。いいとか悪いとか人間とか、そういうのもどうでもよくなった」
無理やり頬をあげて笑うマリーの姿はどこか痛々しい。
なんでだろうな。
俺はマリーのことを赤の他人として見れない。
境遇が似ているからか、人間から裏切られ続けたからか。
マリーに対して俺は勝手に親近感を抱き始めていた。
「だったら何で俺を呼んだ? 俺だって一応、お前を裏切り続けた人間だぞ?」
「んー……」
マリーは人間が嫌いだと言った。
だとしたら素直に話す理由が分からない。
俺の事だって本当は殺したくて仕方ないと思うが……
「ウチみたいに悲しそうな目をしていたから?」
「っ……」
その答えに俺は胸の内がキュッとなった。
「あー、また涙が……悪い……」
「いいよ。いっぱい泣いて」
揺れ動く感情のままにまた涙が出る。
「何があったかまでは知らないけどね。それでもこの人はちょっと違うなぁって思ったから」
マリーも感じているのか?
俺と似たようなものを抱えている事を。
「そういえば貴方の名前、まだ聞いていなかった」
「俺は……門梨怜だ」
思い上がりかもしれない。
散々裏切られてきたのに、また人を信じるなんて甘すぎる。
俺も彼女も、他人なんて憎くて仕方ないのに。
「がむしゃらに生きて、信じていた人に裏切られて、気づけばここにいた……」
だけど、少しくらいなら事情を話してもいいと思っていた。