元E級のTS探索者は大金持ちになりたい 作:早乙女らいか
「……そっか。そんな事があったんだね」
「マリーに比べたら大したことないけどな」
「ううん。そういうのは大小では測れないから」
「……ありがとう」
今までの事やここに来た経緯。
その全てをマリーに話した。
苦しい事を話すたびに何度も泣いて話が止まってしまったけど、マリーが頷きながら真剣に話を聞いてくれたおかげで最後まで話しきる事ができた。
それと話し終わった後、心の中が少しだけ軽くなったような気がする。
「人間を信じるって難しいというか、ロクでもねぇなって今でも思う……」
「自分が悪いのもあるけど、やっぱり酷い目に会うと信じられなくなっちゃうよね」
信じるとはなんなのか。
その意味すら曖昧になっていく現状。
「だからあのクソドラゴンに八つ当たりしてたらいつの間にかすげぇ時間が経ってたよ」
「ブラッドカオスドラゴンに喧嘩を売るなんて凄い。なんで力を渡したかはわかんないけど」
「やっぱヤバいのかアイツ?」
「このダンジョンどころか最強クラスのモンスターだよ。ウチですら全然歯が立たない」
「……マジか」
やっぱアイツ、滅茶苦茶強いんだ。
あれだけ長いこと喧嘩を売りまくったのに、俺ってよく生きてるよな。
「もしかしてまた戦おうと思っていた?」
「あぁ。探し出して今度こそ……って」
「やめた方がいい。SSSランクのブラッドカオスドラゴンに挑むには準備が足りていないから」
「SSSって……」
探索者の最高ランクがSだぞ?
そのSがもう二つ追加されるなんて、どれだけヤベーやつなんだよ。
というか準備が必要なのか?
Sランク以上になると倒すのに何かが必要そうな言い方だったが……まぁいいや。
今の俺では倒せないとわかった瞬間、身体の力が一気に抜けてその場に座り込んだ。
「俺は何も出来ない現状にムカついて、全てをぶち壊してやろうと思っていたら、あのドラゴンが力をくれた。俺という存在が世界をカオスにできるとかワケわからん事を言ってたけど」
「ブラッドカオスドラゴンは何を考えてるかウチにもわかんない。内容も宗教勧誘みたいでつまんないし」
「……何度も話してるのか」
「もう来るなって言ったら来なくなったけどね」
確かに人の事散々煽ったり、殺しかけたと思えば力をくれたり。
何故か俺を女の子にしやがったし。
本人はカオスを求めていたりと本当によくわからない存在だ。
一つだけわかっているのは、ブラッドカオスドラゴンが最強のモンスターであるということだけ。
……この怒りはどこに向けたらいいんだろうな。
「でも人に話せてよかった。ありがとう」
頭の中がむしゃくしゃしている俺にマリーは笑顔で語りかける。
「マリーはここを出てやりたい事とかあるのか?」
「やりたい事? んー……」
俺はただの憂さ晴らし。
だけどマリーは本気で人間を殲滅しようとか、そういう強い憎しみは感じない。
「具体的にはわかんない。けど……」
何か別のものを求めているように見えたが……
「……幸せになりたい」
「っ」
その答えが俺の心の中へスッと入っていく。
(幸せ……か)
忘れていた……というか望むには辛すぎる夢だった。
絶望ばかりで生きるのに必死な毎日。
休めばお金は稼げないし、借金返済から遠のいてしまう。
俺にとって幸せは呪いだった。
絶対に訪れない夢であり、辛すぎる現実を更に辛くするだけの無意味な存在。
だから考えないようにしていた、
忘れるようにしていた、
その閉じこもっていた扉を彼女は優しく開けた。
「その夢さ……パクってもいいか?」
「え? いいけど……」
涙を流しながら、俺は再び決心する。
全てを壊すだけでなく、その先にある俺が望む世界を手に入れるために。
「代わりにマリーをそこから出すから」
「ウチを?」
その世界にマリーは必要。
いや、夢を蘇らせてくれた恩人に対するお礼みたいなものだ。
「”血塊錬成”」
結晶を壊すべく、俺は槍を錬成する。
しかも大量に。
「で、でも……この結晶は簡単に壊せな……」
この結晶は勇者が作りあげた。
確かに結晶自体は固いが、勇者はマリーに対して不意打ちを使わないと勝てないレベル。
そのマリーがブラッドカオスドラゴンには勝てないと断言していた。
「”破王槍”」
じゃあ、ドラゴンの力を受け継いだ俺の力なら?
「……貫け」
炎と闇をまとった禍々しい槍の束が結晶に襲いかかる。
狙うのは四隅。
広い範囲でヒビを入れて、結晶そのものを完全に破壊するために。
パキッ……
ビキキッ
「嘘……」
「俺さ、全てを壊してやろうとか、何かに対してずっと怒ってばっかで先の事何も考えてなかったんだよ」
とある一本の槍が結晶にヒビをいれる。
それを合図に他の槍も結晶にダメージを与えていく。
「でもさ、今まで俺を陥れてきたヤツらより幸せになることも……ある意味最高の仕返しなんじゃないかって思う」
パキンッ!!
ヒビは大きくなり、彼女の白い肌が徐々に外へと解放されていく。
「だからさ……」
完全に砕け散る結晶。
それは凍りついた世界に閉じ込められたマリーの心を溶かしていく。
「一緒に幸せにならないか?」
「……」
結晶が完全に砕け散った後、俺はマリーの手を差し伸べた。
「ふふっ、わかった」
少しだけ悩んだ後、マリーは頷いた。
僅かな微笑みがボロボロの神殿の中で輝いており、無意識に俺の心臓をドクンと動かす。
「一緒に幸せになろ、怜」
「ああ……っ!?」
そして俺の手を取った瞬間、マリーは背中から二枚の白い翼を生やした。
「久しぶりに羽を出した……スッキリする」
「これが天使の……」
美しい……
輝く二枚の羽が美少女であるマリーの姿をより神々しいものに変えていく。
息を飲むほど美しい、とはこういう事なのか。
廃墟に降り立つ天使の姿。
俺は無言のまま、口を開けて彼女を見つめていた。
この夢をいつまでも味わっていたい……
なんて甘えたことを考えるくらいに俺は見惚れていたのだ。
「怜、捕まって」
「へ? おお……っ!?」
グォオオオッ!!
夢に囚われた俺を、上空へ一気に飛び上がるマリーが現実に引き戻す。
「すげぇ……”空中歩行”よりも早い」
「天使状態の飛行速度は凄い。地下から地上まであっという間」
”空中歩行”では辿り着くのに時間がかかる高さまで彼女は飛び上がる。
「”聖光”」
飛ぶのを邪魔する天井は魔法で跡形もなく吹き飛ばす。
光線のような魔法が固い天井を豆腐みたいにあっさり砕いていく。
これが恐れられた天使の力。
勇者に狙われた力。
彼女を……マリーを世界から孤立させた力。
「ねぇ、怜?」
「ん?」
マリーの力について色々と考えていると、俺の顔を覗き込みながら話しかけてくる。
「さっき水晶を調べるフリをして、ウチの裸を見てたよね?」
「……ごめんなさい」
「いいよ、ウチも裸だったし。それに女の子同士でしょ?」
「身体はそうだけどさ……」
正直殴られてもおかしくないと思うが、マリーは恥ずかしそうに笑うだけで何も追及しなかった。
優しすぎるだろ。
中身まで天使なのかよ。