TRPGしてたら自キャラになった・・・特化ビルドの一発屋で。 作:水道館
「ここはどこ!?」
「ここは始まりの街ファストウだが・・・」
「俺は何者だ!?」
「冒険者に見えるけど・・・」
「どうして私はこんなに忍者なんだ!?」
「にんじゃってなに~?」
どういうことだ!?俺は間違いなく自分の部屋で寝てたはず!
それが何がどうなったらよくわからんとこに忍者のコスプレして宿屋に泊まるんだ!?
訳が分からない!
「お、落ち着け・・・慌てたところで良いことなんか一つもない・・・」
「そうだね、落ち着いた方いいよ」
「頭でも打ったか?気は確かか?」
後ろを振り向くと鎧を着た男性が2人居た。
肩に手を置かれてニコニコと笑いながら───
「ちょっと同行してくれる?」
「ちょっとね?ちょっとだから。先っちょだけだから」
「・・・・・・・・・・・はい」
任意同行を俺に言い渡した。
◇
「えーっと・・・ニンジャ・カウンター・・・うん。確認取れた。ちゃんと【風車】に所属してる冒険者だね」
「ギルドカードも本物。問題なし」
「いきなり叫び始めて周りに知ってて当たり前の事聞いてるから驚いたよ。錯乱したのかと思った」
「寝ぼけてたって言っても寝ぼけすぎだけどな」
「申し訳ない」
「まぁ別に何か壊したとか怪我させたとかじゃないから大丈夫だよ。今回は特にお咎め無しで!」
「酔っぱらってたって事にしとくから、次から気を付けるように」
「迷惑をおかけした・・・」
「いやいや、もっと迷惑かける奴いるからこれくらいなんともないよ。気にしないで元気出して!」
「若気の至りってあるよな、わかるわかる。まぁ冒険者活動頑張れよ」
「ありがとうございます」
「頑張ってねー」と優しい憲兵達に見送られて外に出る。良い人たちで本当に良かった。
とぼとぼと外を当てどもなく歩く。
すれ違う人たちは俺に見向きもしない。こんなコスプレしてるのに。
「俺、ニンジャ・カウンターになっちゃったよ・・・」
どこぞの悪魔人間の実写映画のセリフが出るほど、俺は途方にくれていた。
まんま創作の忍者そのまんまみたいな服。
本来の自分よりでかい身長。
何より「ニンジャ・カウンター」と書かれたギルドカード。
間違いない。ここは寝る前に遊んだTRPG「アナザーワールド・ボウケンシャー」通称アナケンの世界だ。
自分の分身となるキャラクターを作って、スキルを覚えて冒険するTRPG。
確信できたのは街の名前。
始まりの街ファストウはアナケンで新規冒険者でゲームをする際にスタートする街の名前だからだ。
ギルドカードとかもアナケンにあるもの・・・というか所謂キャラクターシートの名称。
ギルド【風車】もアナケンで公式がルールブックに記載したギルド名で俺がニンジャ・カウンターを作る際に決めた所属ギルドだった。
これだけ情報が揃えば嫌でも確信してしまう。
「ゆ、夢だよな・・・?」
これは俺がTRPGにハマりすぎたせいで見ている夢。今でもそう思いたい。
でもにしては意識がしっかりしているし、日光も風も人の動きもリアル過ぎる。
リアル過ぎるっていうか本物だろ、これ。
「…死んだら目覚めたりしないかな」
よくある夢の中で死んだら目覚めるというやつだ。
確かレム睡眠の時にちょっとした刺激を夢の中で受ければ目覚めるとかそんなの。
腰に帯刀してあったナイフを取り出してみる。
「・・・・・・えい」
ちょっとだけ自分の指を切ってみた。
働く痛覚。
吹き出る血液。
激しい後悔。
「無理無理無理無理無理」
こんな痛みリアルに来てんのに死ぬの試すなんて絶対無理だ。
俺は安全に夢から覚めたいんだ。
そこそこの対処法見つけて妥協するぜ。
「自然に起きるの待つか・・・」
結局何もしないという選択肢になった。
自分で決めておいてなんだが無難すぎる。
だけど他に方法が無いのも事実。
「そのうち起きるだろ」
そう思い公園らしき場所にあったベンチに腰を下ろす。
天気がいいのは幸い。ゆっくりしよう。
~~~6時間後~~~
「だれかたすけて」
6時間経過した。
日はもう暮れ始めてそろそろ夜になりそうな時間。
それだけ待っても起きる気配は0。
マジで夢じゃなくて現実かもしれない。
もうだめかもわからんね。
「…俺帰れんのかな」
仕事もあるし両親だっている。
TRPG仲間だっていきなり連絡が取れなくなったら心配をかけるだろう。
なんとかして帰りたい。でも帰り方がわからない。
八方塞がりだ。
「腹減ったな・・・」
朝食べてから何も食べていないのもあって、自覚した瞬間一気に空腹になる。
何か食べないと・・・。
「…待てよ?宿屋に俺…て言うかニンジャ・カウンターか、泊ってたよな。じゃあ金持ってんじゃね?」
宿屋を出るときは請求されなかった為先払いだったのだろうが、それでも泊まっている時点で金はある筈。
そう思い宿屋から出るときに纏めてそれ以来開けてなかった荷物を開けてみる。
「えーっと・・・なにこれ、ビンにロープにテントに・・・って」
一つずつ確認していく毎にあまりにも見覚えがある所持品。
なにせ持っているもの全部───。
「これスタートセットじゃん!」
アナケンではどんなキャラクターを作っても必ず最初に手に入るアイテムがある。
それがスタートセットだ。
冒険者として最低限必要なアイテムが入っている、いわば初期装備のようなものだ。
公式もこれを所持していること前提でエネミーの作成をするようにってGMガイドに書いてたっけ。
「じゃあこのビンはポーションなのか」
確かスタートセットのポーションは一番回復量がしょぼい「ヒールポーション」だったはず。
HPが10しか回復しないアイテムだが、序盤ではこの10点回復がデカすぎるのだ。
何か怪我してしまったときに保険が出来たのは大きい。
「大事に使わないとな・・・」
そしてここで俺はようやく自分のギルドカードを見るという考えが出る。
ギルドカードはアナキンでのキャラクターシートの名称、つまり─。
「今の俺のステータスが書いてんじゃないか!?」
そう思い意気揚々とカードを見てみる。そこには─。
<<情報を更新してください>>
「どこで更新するんだよバカ野郎!!!」
なんて不親切なんだろうか。普通どこで更新してくださいって書くだろ。
もう少しユーザーの事考えた方がいいと思う。
なんだ、F5でも押して更新しろとでも言いたいのか。
連打してサーバーに負荷かけたっていいんだぞこちとら。
「・・・もしかしてギルドカードだからギルドで更新すんのかな」
安直な気もするけど他に心当たりがあるわけじゃない。
ずっとここで座っているのも意味がない。
幸いスタートセットにはお金・・・ゴールドも入っている。
金額にして3000、これも初期装備として渡されるものだ。
「どっかで食べ物買って食べてからギルドに行ってみるか」
公園に来るまでの間に案内板を見かけている。
そこに戻ってギルドの位置を調べようそうしよう。
途方に暮れていた時と違ってやることが出来ると少し気が紛れた。
ずっと座ってるだけでは解決しない以上、行動しないといけない。
「ゴールドは大事だからな!パン一個だけ買って我慢しよう!」
早速俺はギルドを目指しつつ、途中でパンを買うことにした。
[購入]パン・・・50ゴールド 残金2950ゴールド
「いらっしゃいませ~美味しい美味しいミックスジュースはいかがですか~?甘くて後味すっきりですよ~」
「・・・・・・・・・・」
[購入]ミックスジュース・・・100ゴールド 残金2850ゴールド
◇
「ここか、ギルド【風車】は」
歩きながら飲んでいたミックスジュースの残りを一気に飲み干してから、ギルドの門を開く。
夕方過ぎてもう夜だったがまだ営業中だった。
入ってみるとあまり人は居ない、もう少しで閉店ですみたいな空気だった。
受付嬢なんか頬杖をついて暇そうにしている。
「・・・あ、いらっしゃいませ。でも依頼はもう全部捌けちゃって・・・」
「いや、ギルドカードの更新をしたくてな」
「ああ、更新ですか。ではお預かりしますね」
よかった。ギルドで合っていたようだ。
ここで「は?何言ってんだこいつ」みたいにならなくて本当に良かった・・・。
一応今の俺はここのギルド所属の冒険者なのである程度自然に会話することを意識する。
「今日も受付大変だったろう。お疲れ様」
「・・・・・・・・・・・・・・え?」
やばいしくじったかもしれない。
世間話のつもりだったのだが、もしかしたら事務手続きでしか話してなかった仲なのかもしれない。
でもここでいきなり黙るのは印象が悪化しかねない。
そう思い世間話を続けてみる。
「いつも多くの事務作業をやってくれているだろう。そのおかげで【風車】の冒険者達は依頼をこなせている。いつもありがとう」
「え?・・・い、いやそんな・・・し、仕事ですので・・・」
「仕事ではあるだろうが・・・そういう裏方の仕事が無ければギルドは回らないだろう。冒険者だけ居たところで碌に事務作業なんて出来ないからな」
「そう・・・ですか。あ、ありがとうございます・・・」
よし、悪くない会話じゃないか?近所のコンビニ店員に話す感じを意識してみたが・・・。
程よく相手に感謝を伝える事で悪い気持ちにはならない筈だ。
「あ、あの・・・更新終わりました」
「ありがとう、助かるよ」
「い、いえいえ・・・」
さて、早速見てみるか。
ギルドカードに書かれていたのは───。
名前「ニンジャ・カウンター」
レベル・・・1
スキル・・・【仕返しの刃】【復讐者】【鋼鉄の意志】【異界の救世主】
いや異界の救世主ってなんだよ。
「異界の救世主・・・こんなスキル無かっただろ・・・」
ギルドカードを見ながら、疑問が口から零れる。
TRPG歴10年、アナケン歴8年の俺の記憶がこんなスキルは無いと言っている。
ルールブックは勿論、追加サプリでもこんなものは存在していない。
他のスキルは分かる。ニンジャ・カウンターを作る際に設定したスキルだからだ。
でもこの【異界の救世主】は知らない。ほんとに知らない。
なので知らないので聞いてみることにした。
「すまない、新しいスキルが出てきてな・・・どんなものか分かるだろうか」
「え?新しいスキルですか・・・?」
「ああ、この一番下にある【異界の救世主】というスキルなんだが・・・」
「・・・なにも書いてませんけど・・・」
「え」
見せていたギルドカードを見直す。確かにそこには【異界の救世主】と書いてある。
でも受付嬢は何も書いてないという。
「(見えていない・・・俺にしか見えない?)」
どういう理屈やねんと言わざるを得ない。
考えを整理しようと思ったが今は出来ない。
ただでさえ受付嬢に今ので変な目で見られているだろう。
これ以上不信に思われるのは避けるべきだ。
「い、いや何でもない。私の気のせいだった」
「そうですか・・・一応ギルドカードに変なところは無かったので大丈夫だと思いますけど念のため作り直しますか?」
「大丈夫だ、気遣いありがとう」
そう言ってギルドを後にする。
ひとまず一人になって落ち着こうそうしよう。
◇
「どうすりゃいいんだよ・・・」
落ち着いてできることなんて項垂れる事でした。
この公園が俺の定位置になってきたぞ。
幸い【異界の救世主】が分からないだけで他のスキルの内容は分かる。
だから使い方は分かるんだけど・・・。
「結局元の世界に戻る方法がわかんねーんだよなぁ・・・」
そう。最終的にそこに行きついてしまう。
この世界が夢なのか現実なのかは定かでは無いが、どのみち俺が居た世界では無いのは確かだ。
何とかして戻りたいのだが・・・。
「うーん・・・ん?」
1人で公園で唸る不審者をしているとやたらと目立つ人物が視界に移った。
まず髪の毛がピンク。これだけでも目立つのだが・・・。
やたらとデカい鞄。そんなに必要なのかと聞きたくなるような包帯。
そんな女性がずっと公園の前をウロウロしている。
「誰ぇ・・・怖いぃ・・・」
ただでさえ心細い状態なのに次から次へとこられるといっぱいいっぱいになる。
もっと一個ずつ順番に来てくれないか。
「・・・あれ、ピンク髪で包帯とデカい鞄?」
特徴を並べるとなぜか心当たりがある。
なんだっけ、確か・・・
「あ・・・・・!!!」
思い出した!あれは・・・あの髪は・・・!
「公式NPCのミロネ・・・!」
◇
公式NPC。
TRPGに置いて公式が世界観のために作成したキャラクター。
ある程度の設定と立ち絵。そしてPLと共に行動する時の為の戦闘データ。
これらがルールブックや追加サプリメントに記載されている。
言ってしまえばおまけのような立ち位置で、シナリオに出しても出さなくてもいいという便利キャラだ。
GMがPLに依頼受けさせたいなぁと思ったときに依頼者にしたり、このアイテム渡したいなぁと思ったら登場させて「頑張ってください!」的な事言わせて渡させたりと、困った時に雑に使える、それが公式NPCだ。
実際俺もGMをする時出したことがあるし、昨日終わったキャンペーンにも公式NPCは出ていた。
「ミロネは確か薬師のヒーラーだったよな」
ミロネは始まりの街ファストウに住んでいるという設定の人間の女性キャラだ。
心優しいが患者を助けるためなら危険な場所に自生する薬草でも取りに行く・・・っていうキャラだった筈。
曖昧なのは俺やTRPG仲間は基本的にファストウを舞台にすることが少なく、必然的に彼女を登場させないのだ。
「なんでこんなところに・・・」
いやここはファストウなんだからそりゃ住んでるだろという話だが、既に夜だ。
彼女のような薬師が夜にこの辺をうろつく理由が分からない。
「あ・・・」
こっちに気が付いたようだ。
どうしよう、今の俺は忍者の服着て覆面もしている不審者だ。
また憲兵にお世話にならないよな・・・と思ってたのもつかの間。
「あ、あの!冒険者の方ですか!?」
「あ、ああ。その通りだ」
「お願いです、どうか・・・どうか・・・」
こちらに近づいてきたミロネ。
非常に焦っている様子だが嫌な予感がする。
「私の依頼を受けた冒険者さんがオーガに攫われてしまったんです!助けてください!!!」
それを聞いた俺は確信した。
「(この依頼公式シナリオじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!!)」