TRPGしてたら自キャラになった・・・特化ビルドの一発屋で。 作:水道館
目を覚ました時には、俺はベットの上だった。
どうやら生きているらしい。
周囲を見ると俺の持っていた荷物がカゴに入れてあった。
ベットから降りて荷物を漁る。
「無事だったか…」
俺の手にはギルドカードが握られている。
そのギルドカードは─俺のものでは無い。
名前「リルラール」
レベル・・・9
スキル・・・【タイタンアーム】【サンダーブラスト】【ブリザードアロー】【シャドウバイト】【魔法の熟練者】【プロテクトシェル】【カウンターマジック】
レベル9なのにスキルが7個しか無い。
明らかに異常なギルドカード、やはり何かある。
「リルラールが冒険者じゃ無いならギルドカードを持ってないかもしれんと思ったが…」
以前受付嬢にギルドカードはどうやって作るか聞いた時に─。
『ギルドカードですか?簡単ですよ。ギルドで作ってあるこの特殊な魔法紙を本人に近づけるだけです』
『それだけで作れるのか…悪用されたりしないのか?』
『ギルドで厳格に管理されていますし、何より既にギルドカードを持っている人に対しては反応しないんです。私たちギルド職員も反応させない為に持っているんですよ』
『成程…便利なものだな』
ギルドカードを持っているものには新たに作られないならば、持っていない相手の情報を手に入れる事はできる。
この島のギルドに頼み込んで一枚だけ貰っておいた。
島長からの頼みだと言ったが普通に嘘だ。
緊急事態だったから許してほしい。
後で謝ろう。
「しかし…生きているんだな」
あの状況で生きている。
リルラールは俺を見逃したのだ。
あの時の【シャドウバイト】は俺の急所を外していた。
そもそも【サンダーブラスト】の時点でそうだ。
あんなもの本来素早さの遅い俺が避けれる訳が無い。
つまり、あれはわざと避けれる範囲での攻撃に収めていたのだ。
「失礼しま…ニンジャさん!起きたんですね!」
「ミロネ…」
「よ、よかった…あの後救助隊の人達が来てくれて私達回収されたんです。カロルさんもミレッラさんも無事ですよ」
「そうか…そうだろうな」
殺す絶好の機会の俺を見逃したなら、島長達も無事だろう。
「…リルラールの行方は…分かるか?」
「救助隊が来た時には既に居なかったみたいです、宝玉も無かったので持ってどこかに…」
「そうか…」
俺に【シャドウバイト】を使った時のリルラールを思い出す。
あの時、あの子は─震えていた。
その震えが怒りなのか、恐怖なのか。
多分、どちらもなのだろう。
「ミロネ、2人はもう目を覚ましてるか?」
「は、はい。ニンジャさんが最後でしたので…」
「分かった、話したい事がある。呼んできてくれないか?」
「わ、分かりました!あ、動いちゃダメですからね!目覚めたばかりなんですから!」
ミロネが駆け足で部屋から出ていく。
彼女だって怪我をしていたのに、わざわざ俺の面倒を見てくれてた以上、あまり迷惑をかけたく無い。
大人しくしておこう。
ベットに戻りリルラールのギルドカードをもう一度見つめる。
「【カウンターマジック】…」
俺の視線は、スキル欄の最後の場所から離せなかった。
◇
「体調はどうですか、島長」
「ああ、問題ない、しかし…あの強さは一体…」
部屋の中から島長さんと師匠さんの話し声が聞こえる。
ニンジャさんが軽くこちらを見てから扉を開けた。
「失礼する、今いいだろうか」
「おお!目を覚ましたか。お前さんも生きていて何よりだ」
「心配をかけたようだ、怪我の具合はどうだろうか」
「何、傷は塞がった故問題ない…まぁ少々ダメージを受けすぎたから安静にしろと言われてしまったが」
だが!と島長さんは拳を握って力強い声で話す。
「今度は不覚を取らん!拉致された者は助け出せた!すぐにリルラール討伐隊を組む、その時は君達にも力を借りると思う。どうか島を守る為に─」
「すまない、その件だが…少し待ってほしい」
「…何?」
「何か問題があるのかの?」
「リルラール…彼女…いや、あの子の討伐隊を組む事はしないで欲しい」
「…理由を聞いても良いか?」
「まず大前提として討伐隊を組んだとしても負けるだろう。あの子があれ程の強さを持っているのは持っている杖が関係している」
ニンジャさんが持っていた本を島長さん達に見えるように開く。
「あの杖はこの秘宝辞典と言う本に書かれている『全知の杖』だ。この杖は使用者の魔力を無尽蔵にし、魔法の威力も跳ね上げる力を持つ。貴方達があの子に勝てなかったのは、無限に撃ち込んでくる魔法に対処しきれなかったからだろう?」
「それは…そうだな」
「ならいくら討伐隊を組んだとて無理だ。被害が大きくなるだけ…何よりあの子を刺激してしまうだろう」
「刺激?刺激も何も、既にあやつは何度も島民を拉致して…」
「ではリルラールが教祖になってから連れ去られた拉致被害者や突入に参加した者に死者は出ていたか?」
「それは…居ないな」
「それは偶然では無いのか?」
「偶然なんかじゃ無い。あの子は人を殺してしまう事を避けているんだ」
「な、何を馬鹿な!ならば何故拉致なんぞ…」
「この日誌を見て欲しい、教団の地下で見つけたものだ」
ニンジャさんは私達には先に見せてくれた、血に濡れた研究日誌を取り出した。
「…この検体というのは…」
「リルラールの事で間違い無いだろう、ここに来る前に雇われていた奴に聞いた」
「ああ、救助隊がてっきり味方だと思って回収したお尋ね者か…」
「だが実際にリルラールは父親である前教祖を殺害しているじゃろう、これは捕らえた信者から既に聞いてあるぞ。…まぁ殺されてもそりゃそうじゃとしか言えんが…」
「これに書かれている実験ではレベルが上がったと書いてある。恐らくレベルが上がった時に【カウンターマジック】を覚えたんだ」
「【カウンターマジック】…だと?」
「【カウンターマジック】は覚えていると、自身に危機が迫った時に自身の意思とは関係なく発動するスキルだ。効果は対象に自身の魔力を全力でぶつける…」
「まさか、実験が危機だと体が反応して…?」
「体のあちこちを弄くり回されたんだ、防衛反応が出てもおかしくない」
「つまり父親を殺したのは事故だと言いたいんじゃな?」
「そうだ、本人は殺人を拒絶している、死亡者ゼロがその証拠だ」
「では何故ファントムドラゴンの封印を解こうとしておるのだ…説明がつかん」
「…今のあの子は度重なる実験によって精神が不安定になっている。そこに目の前で父親を事故とは言え殺害してしまった。
相談できる相手なんていない。周りは新たな教祖と崇めてくる。そんな自分を誰も助けてくれない…そのうちこの島そのものに憎しみを抱くようになったのだろう」
「…それで?お主は何を言いたい、結論を言って欲しい」
島長さんからすごいプレッシャーを感じる。
当然だと思う、今この島は風前の灯。
あの子がやろうと思えば、ファントムドラゴンを解放して島のあらゆる生物の命を奪えるだろう。
ニンジャさんは島長さんの目を真っ直ぐ見て─。
「私は─俺は、あの子を助けたい。だからどうか、チャンスをくれないか。あの子を助けるチャンスを」
そう言い切った。
「チャンス・・・か」
「俺達が行ってあの子を止めれないのなら、討伐隊を出していい」
「・・・何故そこまでする?お主無関係じゃろ?同情でもしたか?」
「同情をしていないと言うのは噓になる、だがそれよりも今なら届くからだ」
「届く?」
「俺は一度・・・手を伸ばす事すら出来なかった、結果として親友を失った。だが今度は届く距離なんだ。来るのは遅かった、手遅れだった。あの子は無茶な研究をされて父親を殺してしまった。きっと俺達が想像できる範囲を超えたレベルの苦しみを味わっただろう。でも─まだ生きている、まだ手が伸ばせる。震えて泣いて苦しんでるあの子に、俺は手を伸ばせる」
ニンジャさんが深々と頭を下げた。
「頼む、どうか─」
たっぷり30秒は経っただろうか。
島長さんが再び口を開く。
「それは仲間の彼女らに了承は取っているのか?」
「ああ、先に言ってある」
「ではお主らはどう思っているのだ?聞かせてくれ」
島長さんが今度は私達に聞いてくる。
口火を切ったのはミレッラさんだった。
「泣いてる子供が居るのなら、豪華なハンカチで拭いてあげるのが貴族の嗜みですわ!」
「僕も子供が苦しんでいるのは嫌だし・・・何よりニンジャには借りがあるからね」
カロルさんも答えて、後は私。
ここに来る前に4人で話した時の記憶が過ぎる。
『リルラールは【糸】に操られていたが既に解放されている』
『ニンジャさんが近くに居なかったのに・・・ですか?』
『ああ、だからあの子は既に何度も死を経験している。日誌に書いてる内容から推察するにファントムドラゴンを支配するために、な』
『でも解放されたなら・・・』
『私はどこまで行っても、ただの消耗品だった・・・本人が言っていた言葉だ」
『・・・子供が言っていい言葉では無いね』
『皆のようにはいかなかった。俺は・・・間に合わなかった。もっと早く来ていれば別の結果があったかもしれない・・・それでも、諦めたくはない』
『・・・はい』
『一人では無理だ、今のリルラールは話を聞いてくれる状態では無い。一旦落ち着かせる必要がある』
『どう・・・するんだい?』
『魔法使いは強力なジョブだ。だが一つだけ明確な、魔法使いにしかない弱点がある』
『なんですのそれは』
『魔法使いは戦闘中に杖を破壊されるとマインドダウン・・・一時的に魔法を使えなくなるんだ。それを起こす』
『彼女の杖・・・【全知の杖】だっけ。それは破壊するって事かな?』
『そうだ、それの協力をしてほしい。だが非常に危険だ、最悪リルラール側が望んでなくてもこちらが死ぬ可能性がある』
『一応作戦は・・・あるのでしょう?』
『ああ・・・準備が必要だがな』
『なるほどね・・・』
『先に言っておく。これは決して強制なんかじゃない。嫌なら嫌と言ってくれ、他の手を考える』
『ニンジャさんは、行くんですよね?』
『ああ、行くさ』
貴方が行くなら、私の答えは決まっている。
「私はニンジャさんの仲間ですから、どんなことがあっても力になります。例えそれが世界を敵に回すことになっても・・・」
「だって、それが私のやりたい事ですから」
「・・・そうか」
島長さんは目を閉じて一息付く。
「一日待とう、お主らには上層部の捕縛に手を貸してくれたしな・・・」
「ありがとう・・・感謝する」
「・・・子供を殺そうとしていた儂に礼などするものではないぞ」
「そちらの立場を考えれば、当然だろう。あまり自分を卑下しないでくれ・・・行こう」
部屋から出て、ニンジャさんに付いていく。
あの作戦・・・上手く行くかな・・・。
「ミロネ、カロル、ミレッラ」
ふとニンジャさんが私達の名前を呼ぶ。
前を歩いてるから表情は見えない。
「ありがとう」
でも大体予想できた。
それなりに・・・この人の事、分かってきたかもしれない。
◇
杖を持った緑髪の少女は一人でそこに座っていた。
どこから持ってきたのか、手にはパンが握られている。
「・・・・・・・・」
少しだけ齧る。
ゆっくり咀嚼して飲み込もうとした時。
自身の目の前で弾け飛んで肉塊と化す父親の姿がフラッシュバックした。
「!!!!!・・・・・オエ!エエエ!!!アエッ・・・・」
結局いつものように吐き出す。
胃液が地面に撒き散らされる。
持っていたパンを地面に投げ捨てた。
「・・・殺した・・・殺しちゃった・・・私が・・・」
膝に顔を埋めて誰にも聞こえない声で呟く。
【糸】から解放された日から、少女は食事をまともに取っていなかった。
「殺したんだから・・・憎いんだ・・・私は全部・・・許せないんだ・・・」
自分に言い聞かせるように。
あの殺人には理由がある。
自分は父を、島民を、冒険者を、この島を。
憎んでいる、恨んでいる。
だから─殺したのだと。
「だからこれが正しいんだ・・・この宝玉を・・・封印を解い・・・て・・・」
みんな滅ぼす。
それが私のやりたい事。
きっと、そうに違いない。
「ウウ・・・ウウウ・・・」
やりたい事をしている筈なのに、苦しい。
今までの恨みを晴らせる機会なのに、嬉しくない。
もう死ななくていいのに・・・消えてなくなりたい。
「みんなしね・・・しんじゃえ・・・」
誰もこの少女に手を伸ばさない。
今は、まだ。