TRPGしてたら自キャラになった・・・特化ビルドの一発屋で。 作:水道館
公式シナリオ「冒険者をオーガから救い出せ」
はっきり言おう。このシナリオはクソだ。
アナケンは素晴らしいTRPGだ。自信を持って言える。
膨大なスキル、自由度の高いステータス配分、足りそうで足りない絶妙な経験値設定。
それら全てをいい感じにバランスを取っている神TRPGだと言える。
でも公式シナリオ、テメーはダメだ。
何がダメってまず難易度設定だ。
基本的にアナケンはシナリオに推奨レベルが設定されている。
自作シナリオにも設定しなければならず、PLはこの推奨レベル内でできる限りの強化をしてシナリオに挑むことになる。
そしてこの「冒険者からオーガから救い出せ」の推奨レベルは【1】だ。
出てくるオーガのエネミーレベルが3なのに、だ。
この時点でまず間違っている。
アナケンは確かに様々なビルドを組むことが出来るがレベル1では当然限界がある。
キャラクターを育成するために必要な経験点が足りないのだ。
経験点はシナリオをクリアして手に入れる、セッションのご褒美みたいな物だ。
当然初期作成レベル1のキャラクターにそんなものはない。
レベル1のペーペーの状態で格上に戦いを挑まなくてはいけないのだ。
更に難易度を上げているのが救出要素。これが糞。
今回ミロネが依頼した冒険者が捕らわれている訳だが、制限時間が存在する。
公式シナリオに記載されている時間は「依頼を受けてから3日以内」。
この時間が過ぎると捕らわれている冒険者はオーガの美味しいご飯になる。
当然シナリオはクリアにならず、失敗となる。
ちなみにオーガの場所に移動するまで半日経過するため、実際の制限時間は2日しかない。ふざけてる。
そしてシナリオが失敗すると─。
『あああああああああああごめんなさいごめんなさい!!!私が!私が依頼なんかしたからぁぁぁ!!!』
と、ミロネが発狂してセッション終了、お疲れさまでしたという事になる。
人の心とか無いんか?
そもそも基本ルールブックに載ってるシナリオなのにどうして初心者に優しくないんだよ。
こんなの初心者が作ったキャラじゃクリアまず無理だぞ。
せめて失敗EDをもうちょいマイルドにしてほしい。
発狂しましたー、終わりましたーでは救いがなさすぎる。
という事でこのシナリオを初心者にプレイさせるのはアナケン界隈では御法度、論外だ。
せっかくアナケンに興味を持ってくれた人にこんな発狂EDの確率が高いシナリオやらせてどうすんだ。
不愉快になって終わりだろこんなの。
新規が来なくなったコンテンツはオワコンまっしぐらなので初心者には優しくしないとダメなのだ。
ただ一応公式を擁護しておくとこのシナリオ、クリア自体は出来る。
アナケン経験者がガチでビルドを組んで役割分担して最適行動を取ればちゃんとクリアは出来るのだ。
なのでこのシナリオはある程度アナケンを遊んだPLがやる分には高難易度シナリオとして悪くないのである。
まぁそんな高難易度シナリオを初心者にお勧め!と書いてる時点でこの擁護は意味が無いのだが。
(そんな依頼が来ちゃったよ・・・)
はっきり言って断りたい。
俺は元の世界に帰りたいだけなのにこんな危険な事してどうするんだ。
ミロネが必死に頭を下げているのは分かる。すげーわかる。
でも怖すぎるし、何よりこの世界で死んだらどうなるか分かったもんじゃないのだ。
─断ろう。申し訳ないが自分の命の方が大切だ。
「すまない…今私はそれどころでは無くてな・・・他の冒険者に依頼してほしい」
「そんな!どうかお願いします!」
「本当に申し訳ない。レベル1の私より高レベルの者に頼んでくれ」
「そんな!どうかお願いします!」
「君の気持ちは分かる。だが無理だ」
「そんな!どうかお願いします!」
「・・・・・・・・・・・」
「そんな!どうかお願いします!」
ミロネが壊れた。壊れたレディオより壊れた。
一定間隔で頼んでくる「どうかお願いしますbot」になってしまった。
発狂早くね?と思っていると自分の懐が光っているのに気づく。
「なんだ?…ギルドカード?」
ギルドカードがピカピカで草。
このカード暗いところで光るのか。
ほねほねザウルスかよ。
「・・・【異界の救世主】が光ってる・・・」
よく見るとギルドカードのスキル欄、それも【異界の救世主】だけ光っているのだ。
どうしてこれだけと思った次の瞬間、最悪の可能性が頭をよぎった。
「もしかして・・・救えって事・・・?」
嘘だと思いたい。だが状況が物語っている。
いきなり自キャラになって、アナケンの世界に来て、公式シナリオが始まろうとしている。
つまり───これは───。
「この公式シナリオをクリアしないと…帰れない?」
◇
その後、引き受けると言ってみるとミロネは元に戻った。
どうしてさっきまで同じ言葉を繰り返してたんだ?と聞いたら何を言っているのか分からないという顔をしていた。
どうやら、先ほどの壊れたミロネは俺しか知覚していないみたいだ。
RPGで無理やり話進めるための選択肢じゃねーか。
「ど、どうしたんですか?ニンジャさん、立ち止まって・・・」
「い、いや何でもない・・・早く行こう」
「は、はい!行きましょう!」
こうして俺はミロネの依頼を受けることになった。
ただ俺とミロネだけで助けることはぶっちゃけ無理だ。
俺はレベル1だしミロネはそもそもヒーラー、しかも回復魔法を使うヒーラーではなくポーションを投擲するタイプのヒーラーだ。
回復魔法の方なら補助魔法も使えるのだが・・・無いものは仕方ない。
というわけでギルドに来て協力者を探すことにした。
ミロネの依頼金支払いが多くなってしまうが許可は得た。
遠慮なく雇おう。
「失礼、一日の間に何回もすまない」
「あ、ああ。ニンジャさん。そろそろ閉店時間なので終わるところでしたよ」
「間に合ってよかった。実は依頼を一緒に受けてくれる冒険者を探している。誰か居ないだろうか」
「あー・・・それなら、あそこに」
受付嬢が示し方向を見るとそこには机に突っ伏して寝ている青年が居た。
「カロルさん、カロルさーん。起きてください」
「んん・・・もう閉店かい?」
「閉店時間は近いですけど違います。あなたに合同依頼の要請が─」
「やあ!初めまして!僕の名前はカロル!孤高の冒険者さ!君たちが僕と共に依頼をしたい冒険者かい!?任せてくれ!このカロル、必ず君たちを依頼成功に導こう!!!」
合同依頼と聞いた瞬間、飛び跳ねるように起き上がった。
切り替えの早さが異次元だ。にしても・・・
(カロル・・・カロルかぁ・・・)
冒険者カロル、こいつも公式NPCの1人だ。
人間の剣士で少し魔法が使えるキャラだった筈。
お調子者で大言壮語、実力も別にそんな高くないキャラだったはずだ。ちなみにぼっち。
だが今のこの状況、例えカロルであってもありがたいことには変わりない。
「そうだ、彼女が依頼していた冒険者がオーガに捕らわれた。それを救出したい」
「オーガですか!?そんな!オーガのレベルは3!ニンジャさんでは厳しいです!」
受付嬢が止めてくるがそんなことわかってる。
それでもやらないとまたミロネの無限ループが始まるから受けざるを得ないのだ。
また「どうかお願いしますbot」になられても困る。
「しかし今すぐに出なければ救えない。助けを求められたのだ。応えないわけにはいかない」
取り合えずそれっぽいRPをしておく。どうもこの体になってから誰かと話す際、口調が変わってしまう。
もしかしたらニンジャ・カウンターのキャラに引っ張られているのかもしれない。
「ニ、ニンジャさん・・・ありがとうございます!」
「か・・・かっこいい・・・!」
「・・・そうですか。分かりました。どうかご無事で。待ってます」
なんか三人の琴線に触れたようだ。
TRPG歴10年間のRPは無駄じゃなかったみたいだ。
「オーガと聞いて少し腰が引けてしまったが・・・君に後れを取るわけにはいかないね。共に頑張ろうニンジャ!」
「あ、ああ。よろしく頼む、カロル」
こいつもしかして良い奴なのか?冷静に考えて自身より格上の魔物と戦うのにこう言えるのは、本当に大物なのかもしれない。
カロルに対しての認識を改めて、俺たちはオーガの住処に向かうことになった。
◇
「オオオオオオオ・・・・」
ズシン!ズシン!
・・・でけぇよオーガ。
やばいおしっこ漏れそう。
冷静に考えて俺みたいなただの会社員があんな化け物と戦えるのか?
無理だろ、適当に潰されて終わりだ。勝てるわけがない。
恐怖に震えていると突然心が落ち着いてくる。
(【鋼鉄の意志】の効果か・・・)
ニンジャ・カウンターが取得しているスキルの一つ、【鋼鉄の意志】は精神系のデバフを無効化するという強スキルだ。
精神系のデバフには魔法やエネミーの能力などが主にあるが、ニンジャ・カウンターでこれを取ったのには別の理由がある。
(アナケンはHPが1桁の状態だと行動の判定にマイナス入るからなぁ)
そう、ニンジャ・カウンターは受けたダメージを自身の火力に変換するビルドだが・・・当然攻撃を受ければHPが減る。
その際、1桁時のマイナス修正があるとせっかく火力を高めた攻撃が避けられて終わってしまう。
だが【鋼鉄の意志】はそのマイナスすら打ち消してくれる神スキルだ。
実際俺もTRPG仲間達も、何を取るか困った時は取り合えず【鋼鉄の意志】を取る。
それくらい便利なスキルなのだ。
(この恐怖心が消えるのも【鋼鉄の意志】のおかげだな)
やはり【鋼鉄の意志】は神スキル。
これからも【鋼鉄の意志】を使い倒そう。
「ニンジャ、オーガは見えたけど連れ去られた人が見えないよ」
「恐らく最近手に入れた獲物だから住処の奥に隠してると思われる。住処の入り口は1つしかないから、真正面から倒すしかなさそうだ」
「か、勝てるんでしょうか・・・?」
「やるしかないだろう。大丈夫だ、信じてくれ」
一応作戦のようなものは考えている。
これさえ決まれば、格上のオーガでも倒せるだろう。
「行くぞ!」
「OK!」
「は、はい!」
オーガの目の前にわざと目立つように立ちふさがる。
「オオオ・・・?」
「オーガよ、貴様が捕らえた冒険者…返してもらおう!」
「グオオオオオオオオオ!!!」
言葉が通じているのか不明だが、こちらを敵と認識したようだ。
「頼んだぞカロル!」
「任せてくれ!」
俺の合図と共にカロルは魔法を発動する。
「【アイスフィールド】!」
カロルの言葉と共にオーガと俺の足元に氷が張り巡らされる。
そして─。
「今だミロネ!」
「え、えぇぇい!!!」
ミロネがオーガの足元にポーションを投げ込む。
すると─。
キン!!!
「グオオオオオ!?」
オーガの足が氷漬けになった。
これが作戦。
魔法【アイスフィールド】は戦闘エリアを氷の床にする魔法だ。
これ単体だと滑りやすくなって全員の回避力が下がるだけの魔法なのだがここでアイテム「ウォーターポーション」を使用すると話が変わる。
なんと投擲した場所に位置するキャラクターの足を凍らせて、移動を少しの間できなくするという効果が発動する。
これは公式が【アイスフィールド】が使われなさ過ぎて、エラッタで追加されたテコ入れなのだ。
まぁこれがあってもあんま使われなかったけど。
これだけの為にわざわざ【アイスフィールド】取らねぇんだよな・・・。
「よし、これなら一方的に─」
このまま続けて動きを止めていればオーガの背後から一生チクチク攻撃していれば勝てる。
そう思っていた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ブオン!
オーガが自身の持っていたこん棒を、投擲しなければ。
「・・・え」
バカな、なんでだ。
オーガに投擲系の攻撃なんて無いだろ。
エラッタで追加されたのか?
違う、違った。
俺はずっと勘違いしていた。
確かにこの世界は俺の知っているアナケンの世界だ。
でもTRPGでは無い。
ルールブック通りにしか行動できない訳じゃないのだ。
だからエネミーデータに書かれていない行動も取れる、取れてしまう。
そしてこん棒の行く先は─。
「あ───」
ポーションを投げつけていた、ミロネだった。
このままだと直撃してしまう。
巨大なこん棒がすさまじいスピードで迫る。
あんなものが当たれば、後衛職のミロネは一撃で死ぬだろう。
(どうする)
この世界はTRPGじゃない。
(どうする)
死ねば終わりかもしれない。
(どうする!!!)
俺は・・・どうしたらいいんだ。
『ニ、ニンジャさん・・・ありがとうございます!』
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
全力で走ってミロネの方に向かう。
【アイスフィールド】で床が凍ってるおかげで滑ってスピードが出た。
なんとかミロネの前に出る。そして─。
グシャ
こん棒が俺の頭に直撃した。
「ニンジャさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」