TRPGしてたら自キャラになった・・・特化ビルドの一発屋で。   作:水道館

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解放

 

一瞬意識が飛びそうになったが、すぐに持ち直す。

今の俺の頭は多分酷いことになっているだろう。左目見えないし。

でも痛みが来ないのだ。

軍人のように訓練もしてないのに痛みに耐えれているのは明らかに【鋼鉄の意志】のおかげだ。

アナケンでHPが1桁になった時に行動にマイナス補正が入るのは、こういった痛みに悶えるとかの再現なんだろう。

でもそれがない。

つまりこれは。

 

「(ピンチはチャンス!!!)」

 

今の俺のHPは間違いなく1桁だろう。

そしてこの状態なら俺の残りのスキルが使える。

 

「【復讐者】!」

 

スキル【復讐者】はダメージを与えてきた敵に攻撃する際、ダメージにプラス補正が入り即座に─。

 

「その対象に隣接することが出来る!」

 

スキルを使おうと思った瞬間、自分の身体が勝手に動く。

自分でもびっくりなスピードで移動し、オーガの隣に立つ。

 

「!?!?」

 

突然自分の横に俺が現れて面を食らったのか、オーガは目を見開く。

その体はこん棒を投げた体制のまま、足元は氷漬け。

ここまで有利なら、当てられる。

 

 

「【仕返しの刃】!!!」

 

どこぞの長男が頑張る漫画に似た名前のスキル【仕返しの刃】。

これは自分が攻撃を受けてHPが減少した次の攻撃に使用できる。

受けたダメージを自身の攻撃にそっくりそのまま上乗せして攻撃する。

ただし命中にマイナス補正が入るというピーキー過ぎるスキルだ。

 

ドブシュ!!!

 

 

俺のナイフがオーガの首に突き刺さる。

尋常ではない血を噴き出しながら、オーガは沈黙した。

 

 

「はぁはぁはぁ!」

 

 

一気に体の動きが悪くなる。

痛みは【鋼鉄の精神】で問題無いが、体の方がガタが来ているのかもしれない。

 

「───!!!!!」

「───!───!」

 

ミロネとカロルが何か叫んでいる。

恐らく俺の名前を呼んでいるのだろうがよく聞こえない。

頭にこん棒が直撃した時に聴力がバカになったのかもしれない。

 

「───!!!」

 

ミロネが俺の体を支えてくるが、身長がかなり離れているせいで支え切れていない。

だが何よりも。

 

「無事で・・・よかった・・・」

「───・・・。───・・・」

 

なんたってシナリオは依頼者が死んだら失敗に決まっているからな!

ここでミロネが死んでしまったら、ここまでの苦労がパーだ。

地味に移動が疲れるんだよオーガの住処。

無駄に森の中にあるし。

 

「(あ、やばい眠い)」

 

急に眠気が襲ってくる。

冷たい何かが頭にかかるが眠気に耐えられない。

 

「(でもこれでシナリオクリアだろ)」

 

オーガを倒せば冒険者の救出に障害は無い。

カロルも居るし大丈夫だろ。

これで帰れなかったら笑うしかないが。

 

そうして、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ繰り返しただろう。

何回目の依頼だろう。

もう数えるのなんてやめてしまった。

 

『んーじゃあミロネを盾にして攻撃を防ぎます!』

『お前やばすぎw、GM良いの?』

『いいよいいよおもろいし』

 

 

痛い。

 

 

『うわーミロネちょうど射線じゃん。どうすっか』

『もう範囲魔法で巻き込めば?一発なら耐えれるでしょ』

『それもそうか。死なないし、いいだろ・・・あ、クリった・・・』

 

 

やめて。

 

 

『えー報酬こんだけ?少なくない?』

『これだと装備更新できないね・・・』

『あーじゃあミロネは自分の大切なものを売ってお金作ったってことで報酬増加!』

 

 

やりたくない。

 

 

『ミロネめっちゃ可愛いじゃん!嫁にしたいな~』

『嫁とか古すぎんだろ、平成?』

『お前のキャラにキスでもしたってことで満足しとけ』

 

 

気持ち悪い。

 

 

気づいたときには同じ期間を繰り返していた。

オーガに攫われた冒険者の救出する依頼を頼む日々を。

色んなことをされた。

 

理由もなく殴られた。

無理やり前線に出されて肉壁にされた。

オーガもろとも殺された。

大切な形見を売らされた。

好きでもない相手にキスさせられた。

 

私の意志じゃない。

でも体は勝手に動く。

まるで誰かが私を動かしているかのように。

 

気が狂いそうだった。

でも狂えない。

私が狂う事を許されているのは、冒険者が依頼に失敗した時だけ。

それもすぐ終わる。

全部最初の、依頼を頼む時に戻る。

 

何度も、何度も、何度も、何度も。

殺されたり、いいように使われたり、凌辱されたり。

苦しくても、悲しくても、逃げ出したくても、出来ない。

 

私にその行動は許されていない。

私の意志は関係ない。

私は・・・ただの人形。

 

最早、私が思うことは一つになった。

 

「(前よりマシだといいな・・・)」

 

とにかく前より酷くない事を願うだけ。

とにかく早く終わるのを願うだけ。

 

ずっとずっと、そうだった。

 

 

 

 

 

この人に出会うまでは。

 

 

 

「ニンジャさん!!!!!」

「ニンジャ!大丈夫かニンジャ!」

 

ニンジャさんが私を庇った後、すぐにオーガを倒した。

頭から血が止まらず、全身血まみれになっている。

限界が来てしまったのか、ニンジャさんは倒れそうになる。

 

「危ない!!!」

 

体が勝手に動く。

この時だけ、私の意志と体が一致した。

 

「無事で・・・よかった・・・」

「え・・・。ニンジャさん・・・」

 

 

初めてだった。私を庇うような事をした人は。

初めてだった。私を気遣うような言葉を言ったのは。

初めてだった。─私が無事で、笑う人は。

 

その時、私をずっと縛っていた糸のようなものが。

 

ブチィィィ!

 

音を立てて切れた。

 

 

「───あ」

 

体が、動く。

私自身の意志で。

ずっと縛られていた体が動かせる。

感情を表に出せる。

私の今の感情を。

 

 

「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

自分の鞄の中のヒール系ポーションを全部ニンジャさんに使う。

一気に傷が塞がっていく。

でも流れ出た血は戻らない。

顔色は真っ青だ。

 

「だめ、だめだめ!いやだいやだいやだ!!!」

 

増血作用のある薬草をすり鉢ですり潰して口に流し込む。

意識が無いから飲み込めないので口移しで飲ませる。

心臓が動いてない、呼吸もしていない。

心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。

 

「死なないで!死なないで!死なないで!」

「やっと、やっと解放されたの!」

「私を助けてくれたの!」

「私の無事を喜んでくれたの!」

「だから居なくならないで!生きて!私あなたに何も返せてない!!!」

 

死なせない、絶対に。

何があっても。

私を地獄から救い出してくれた人を。

私の救世主を─。

 

「死んじゃ嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

オーガの住処から何とかファストウに戻ってこれた。

途中で乗り合い馬車を見つけれたのは運がいい。

捕らわれていた冒険者も無事生きていたので、依頼は達成になる。

・・・だが気分は晴れない。

 

「ニンジャ・・・」

 

ギルド『風車』にある医務室で眠り続けている彼を思えば、依頼成功を喜ぶことなど出来なかった。

応急処置自体はミロネさんがずっとしてくれてたとは言え、血を流し過ぎた。

心臓も呼吸も止まっていた時はダメかと思ったが、ミロネさんの必死の処置で何とか一命を取り留めた。

だが予断は許さない状況であることは変わりない。

 

「・・・」

 

自分の手のひらを眺める。

ニンジャがオーガに止めを刺した瞬間、自分の体が自分の意志で動かせるようになったのだ。

ずっと自分を縛り付けていた糸が切れた、そんな感覚だった。

ギルドにずっと待機しているのが殆どだったが・・・。

 

『カロルって存在価値あるの?』

『公式NPCの枠無駄に使ってる説あるな』

『ステータスも低いしスキルも使いどころ無いもんなぁ。連れてかなくてもいいだろ』

 

「・・・・・・・」ギリッ

 

言い返すことすら許されず、縛り付けられて、ピエロを演じらされる。

はっきり言って屈辱の極みだった。

 

「だが…ミロネさんほどでは無いんだろうね・・・」

 

あの変わりよう、恐らくではあるがミロネさんも僕と同じように操られていたと推測できる。

何度も何度も繰り返して、悪魔のような冒険者にいいようにされていたのだろう。

だが─彼が解放してくれた。

 

「ニンジャ・・・君は一体・・・」

 

いつものように現れた冒険者だと思った。

1人だけなのは気になったがそれくらいだと思ってたが・・・。

 

「彼はちゃんと、僕たちを人として見ていた」

 

今までの冒険者達は何か達観というか・・・別の存在のような感じがしていた。

まるで物語を外から見ているような─。

でもニンジャは違う。

 

『そうだ、彼女が依頼していた冒険者がオーガに捕らわれた。それを救出したい』

『しかし今すぐに出なければ救えない。助けを求められたのだ。答えないわけにはいかない』

『やるしかないだろう。大丈夫だ、信じてくれ』

 

彼の言葉はどれも全て、話している人に向かっていた。

その時点で違っていたが・・・。

 

「あの時の、ミロネさんに向けていった言葉」

 

『無事で・・・よかった・・・』

 

あれは心の底から、本心で言った言葉だ。

聞いた者なら分かる。

あれほど優しくて安堵した声は、嘘じゃない。

 

「・・・・・・」

 

戻ってきてからも、ミロネさんはずっとニンジャの看病をしている。

自分も疲れている筈なのに、一度も休んでいない。

常にニンジャの様子を見続け、何かあればすぐに対応している。

 

「どうか・・・目を覚ましてくれ」

 

君には大きな恩が出来たんだ。一生かけても返せるか分からないくらいの。

借金は嫌だからさ、早めに返していきたいんだ。

 

「・・・朝か」

 

夜が明けてしまった。

結局一睡もしていないが・・・些細な事だ。

立ち上がって身支度をする。

 

「看病に必要そうな物、買ってこないとね」

 

眩しい朝日が窓から入り込む。

ずっと眺めていた医務室の扉が明るく照らされる。

 

 

朝になっても、僕の救世主は目覚めなかった。

 

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