TRPGしてたら自キャラになった・・・特化ビルドの一発屋で。 作:水道館
公式シナリオ「ミレッラお嬢様の冒険」。
ミレッラというお嬢様キャラの護衛として彼女を守りながら、街から離れた遺跡を探索するシナリオ。
公式シナリオのギリ良心枠と言われるこのクエストは以前のオーガのように格上とガチンコするシナリオではない。
所謂ダンジョン探索のシナリオなのだが、エネミーの強さはまともだ。エネミーは。
何がやばいかと言うと、罠の鬼畜さである。
当たり前のように解除出来ない罠を複数仕込んでおり、苛烈さもぶっ飛んでいる。
酸の入ったプール、落とし穴、床から棘なんて優しいもので、引っかかると部屋ごと火炙り地獄や壁が迫ってきて圧死とか平然とやってくる。
まさにデス遊園地だ。
様々な死に方を体験できる。
更に問題はミレッラの存在だ。
彼女はエンカレッジというジョブのレベル3。
決して弱いわけではない。
エンカレッジは支援職で味方に主にバフ、控えめではあるが回復も出来たりと居て困ることは無いジョブだ。
じゃあ何が問題かと言うと、彼女のシナリオ中の行動にある。
高飛車な彼女はまず話を聞かない、すぐに部屋に突っ込んで罠を踏むのだ。
当然だがこのシナリオの罠は踏むと、隣に死がこんにちはしてくる物ばかりなのですぐ死にかける。
更に回復したらしたで「た、たまたまですわ!」と言ってまた突っ込む。
簡単に言えばお邪魔キャラとして作られたのだ。
「(でも別にすげぇ悪いキャラとかでは無いんだよなぁ・・・)」
高飛車で話聞かないのはあれだが基本善人なのでPLがダメージを受けると心配してくれるし、戦闘面ではがっつり活躍する。
個人的にはそんなに嫌いなキャラでは無い。
そもそもそんな行動をしているのも、シナリオにそう書いてるからなので彼女はシナリオの犠牲者なのかもしれない。
「ニンジャ様?何をとろとろ歩いてるんですの?早く冒険ですわ!!!」
「ああ、すまない。今行く」
昨日、ギルドに行くと「ミレッラお嬢様の冒険」の依頼が貼られていた。
これ幸いと依頼を受けて、顔合わせをして今に至る。
そんなすぐ受けていいのかという疑問が仲間の二人から言われたが・・・。
「(このシナリオ、マップ覚えてるとマジで簡単なんだよなぁ・・・)」
そう、このシナリオの難しさの大部分はどこにあるか分からない罠だ。
エネミーは最下層に居るボス、デュアルウルフも推奨レベルと同じ【3】だ。
しかもレベル3でもこのシナリオに関しては、オーガより倒しやすい。
つまり、昨日必死に宿屋で記憶を捻りだして地図を描いた俺には余裕という事。
「(まぁミレッラが【糸】で操られている保証は無いけど・・・もし操られてるなら、早く解放した方いいもんな)」
どういう手段で地雷卓のリプレイをさせられているのかは不確かだが、少なくとも俺がシナリオ中ならループする事は無さそうだ。
しかし本当に誰が何の為にそんな事をしているのだろうか。
何か負のエネルギーを貯めているとかそんな感じ・・・?
流石に考えがニチアサ過ぎるかな?
ふと最悪の考えが脳裏によぎるが─。
「(いや、そんな筈は)」
あんなゴミクズ共が異世界にも居るとか考えたくない。
あんな、人を追い詰めて、死に追いやって、それを笑うような─。
「ニンジャさん・・・?大丈夫ですか?」
「ん、どうかしたか?」
「その・・・凄く怖い顔していたので・・・」
「覆面しているのによく分かったな」
違う、そこじゃない。
自分で突っ込み入れるぐらい間違えた。
顔に出てたか・・・気を付けないと。
「あーいや、すまない。少し考え事をな」
「そうですか・・・悩みがあるなら言ってください!」
「悩み」
「・・・・・・」
「私が悪かった、だから脇腹を抓るのはやめてくれ」
【鋼鉄の精神】は戦闘中しか発動しないから痛いんよ。
爪食い込んでるから多分青くなってる。
「ニンジャ、話すのもいいけどそろそろ遺跡に着くよ」
「と言うか!私を放置するとは何事ですの!?」
「いや、放置はしていない。話してないだけだ」
「それ放置!放置ですわ!」
そうこうしているとミレッラが行きたいという森の中の遺跡に到着した。
ボロボロな入り口だが、中はある程度形を保っているらしい。
「ここ!ここですわ!私の冒険が始まるのですわ!」
「でもミレッラさんレベル3ですよね?ニンジャさんより高いのに冒険初なんですか?」
やめてくれ、地味にこの中で一番レベル低いの気にしているんだから。
「これでも特訓してたから当然ですわ!」
「へぇ・・・どんな特訓してたんだい?」
「買ったエクスポーションがぶ飲みですわ!」
「特訓・・・?」
それ金で経験値買っただけじゃねぇか。
あれ一本5万Gだぞ。
「まぁレベル3なら不覚を取ることは無いだろう」
「勿論!では早速「待て待て」ぐぇ」
いきなり死にに行ったミレッラの首根っこを掴んでおく。
目離したらどうなるか分かった物ではない。
エンカレッジは他と比べるとスペランカー並みの耐久しかないのだ。
「実はここの地図を手に入れてな、以前ここに入った冒険者がいたようだ」
「ホントですか!これなら迷わず行けますね!」
「準備がいいね、助かるよ」
「地図がある冒険なんて地味すぎますわ!」
「地味の何が悪い、死ぬよりマシだろう」
派手に拘って死んだらただのバカでしかない。
避けられる危険は避けるべきだ。
「私が先導する。三人は出来る限り離れないで付いて来てくれ、罠があるからな」
「分かりました!」「了解」「こんなところに居られませんわ!突っ込みますわ!」
【糸】に操られているからなのか、素なのか。
判断しかねるまま、俺たちは遺跡に入った。
◇
「この部屋は足元から槍が出てくる、スルーだ」
「こっちはどうなんですか?」
「そこは開けた瞬間矢が出てくる、開けるな」
「ニンジャ、床の一部が飛び出ているよ」
「フェイクだ。隣の床を踏むと爆発するから端を通るぞ」
「これは・・・もしかして隠された遺物・・・!?」
「その箱絶対開けるなよ、毒ガス出てくるから」
「ほわぁぁぁ!」
「話聞いてた?」
ちょいちょいミレッラがやらかしていたが、誰も被害を受けることなく進んでいく。
B4Fまであるこの遺跡は最下層まで行ってボスを倒せばミレッラが満足してクリアとなる筈だ。
その為にも。
「おっと、ここだここ」
「何かあるんですか?」
「落とし穴がある、最下層へのな」
「じゃあ避けるべきじゃ・・・」
「いや、これを利用する」
部屋に入って落ちてた瓦礫を適当に投げる。
ガコン!という音がして床にデカい穴が開いた。
「うわおっきい・・・こんなの入ったら誰も避けれませんよ・・・」
「私なら避けれますことよ!」
「ミレッラさん頼むから落ち着いて、近づこうとしないで」
「カロル、ミレッラを離すなよ」
先ほどミレッラが少し開けた毒ガスが入った箱を落とし穴に投げ捨てる。
当然箱は落下していき、硬い床に当たる音がした。
「グオオオ!!!」
「え!?魔物の鳴き声!?」
「よし、やはり居たな。最近ここの地下を巣にしている魔物が居ると聞いてたんだ」
「・・・という事はつまり」
「ああ、ここの巣直通の落とし穴に投げ込める罠を投げまくるぞ」
そう、これがこのシナリオでデュアルウルフがオーガより楽な理由。
この落とし穴に毒ガスが出る箱やら酸が入ったプールの中身をぶちまけることで戦う前にダメージを与えられるのだ。
ちなみにデュアルウルフは知能が低いので、何をされているか分からない。
やりたい放題だ。
「(まぁ完全にマンチキンだが・・・命かかってるからな)」
という事で遠慮なくぶちまける。
恨みは無いが、藻掻き苦しめ。
「ガアアアアアアアアア!!!」
「これ冒険じゃないですわ!絶対違いますわ!」
それはそう。
だが勝ちゃいいのである。
受付嬢も言ってた。
◇
最下層まで降り、デュアルウルフが居る部屋の前まで来た。
軽く臭いを嗅いでも何ともない為、毒ガスは抜けたようだ。
「よし、打ち合わせ通り行こう」
「了解!」
「が、頑張ります!」
「ようやく私の力を見せる時が来ましたわ!」
ドアを開けて一気に部屋に入る。
そこの中心には既にそれなりのダメージを受けたデュアルウルフが居た。
「ガアアアアアアアアアアアア!!!」
かなり気が立っている、そりゃそうか。
すぐに俺とカロルで前に出る。
デュアルウルフはすぐに攻撃を仕掛けてくるが─。
「【パリィ】!!!」
その巨大な爪を、カロルは持っていたレイピアで弾き飛ばした。
スキル【パリィ】はカロルのような軽戦士系でのみ使えるスキル。
自身の器用度と相手の命中値で対抗判定をし、上回った時に相手の攻撃をキャンセルし、回避にマイナス補正をかけるという、器用度の高いキャラでならかなり優秀なスキルだ。
カロルは若干器用度に不安が残るが、それでも俺より高い。
実際上手くいっているので頼りになる。
「【戦士の激励】!」
ミレッラが俺にバフをくれる。
【戦士の激励】は近接攻撃をするキャラクターにダメージ増加の効果だ。
「これなら【仕返しの刃】無しでも!」
ナイフをデュアルウルフのがら空きな胴体に突き立てる。
力の能力値が上がったのもあり、ナイフは易々と皮膚を貫通した。
「グギィィィ!!!」
「よし、弱ってるのもあって行けそうだ!カロル、【パリィ】は無理しない程度で頼む!」
「任せて!」
「ミロネは被弾したら回復頼む!」
「はい!」
「ミレッラ!」
「なんですの!?ラストバトル、大活躍を─」
「下がってろ!」
「そんな!」
もう必要なバフ無いから・・・。
◇
巨大な体が地面に倒れこむ。
どうやら勝てたようだ。
通常攻撃だけでもなんとかなるな。
「そうだ、ミレッラ─」
後ろを振り向くと、茫然とした顔のミレッラが居た。
「え・・・終わった…?生きてる・・・?」
「・・・【糸】に操られていたか・・・」
やはり、公式シナリオに出る公式NPCが【糸】で操られているで間違いなさそうだ。
助けられてよかった。
「う、うああああああああああああぁぁぁ生きてますわぁぁぁぁ」
「よかった・・・【糸】が切れたんだね」
「な、なんかブチッて・・・ずっと私殺されてて・・・」
ぽろぽろ泣き始めてしまったミレッラをミロネが優しく宥める。
暫くは泣き止まなそうだ。
「早速1人助けられたね」
「ああ・・・何とかなりそうかもな」
今回のシナリオは楽な方だったのもあるが、こんなに順調に行けるなら希望が見えてきた。
戦いにもこの体の動かし方にも慣れてきたのか、なんと今回被弾は0だ。
無傷で戦闘が終わる、素晴らしい事だ、ほんとに。
完全勝利、いい言葉だと思わんか。
「さて・・・ゆっくりでいいから外に出よう、詳しい話は街に戻ってからだ」
「そうですね、帰りましょう!」
「ミレッラさん大丈夫?立てるかい?」
「は、はいぃぃぃありがとござますぅぅぅ」
泣き続けるミレッラを連れて、俺たちは遺跡を出るのだった。
ハ?
ツマンナ
コイツダ
コイツガイトキッタ
ナニコイツ ジャマ
シネヨコイツ
マタイトキラレタ
ウザイ
コロソウ
クリアサセルナ
ベツノツナゲヨウ
ホカノツナゲヨウ
ナニトツナゲル?
コレ イイネ
ゼッタイカテナイ ゼッタイシヌ
ハヤクケソウ
ハヤク
ハヤク
遺跡を出て、街道を目指す。
外は既に夜になっており、月明かりが俺たちを照らす。
「今日は星が見えるな」
「そうだね、依頼達成にはピッタリじゃないか?」
「帰ったらゆっくり星空見たいですね!」
「おなかすきましたわぁぁぁぁぁ」
結構元気だな、良いことだ。
最悪、ループの時の経験でPTSDになっている可能性もあった。
空腹を訴えれるだけマシだろう。
「さて、早く帰って──」
そう思ったとき。
ふと後ろを見ると──。
ミロネの首筋に鋭い鎌が迫っていた。
「ッッッ!!!!!」
咄嗟にミロネを安全な方に突き飛ばす。
その後、突き飛ばした右腕の感覚が無くなった。
ブシュゥゥゥ!!!
「・・・え?」
俺の右肘から先が無くなり、血が吹き出る。
ミロネの呆けた声が、静かな夜に響く。
鎌の方に目線をやると─。
真っ黒な複眼が、こちらを見つめていた。
「キュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「キラー…マンティス…?」
そこには、
キラーマンティスが殺意を撒き散らしながら、雄叫びを上げていた。