その後どうなったのかという話をしようと思う。
神前試合の結果は、ササキさんがそのままフツーに勝利を収めた。
決め手になったのは空気に流されず堅実にバックを除去してからケツにパンを挟んだことらしい。
まあリアちゃん側はジリ貧だったし、LEDで相手に引かせてもそれで手元に来るのは相手にとって有利なカードなのだそうだ。
盤面不利でそんなことすればそのまま引き離されるだけなのは仕方のないことだろう。
本人はめちゃくちゃむくれてササキさんに宥められていたけれども。
件のササキさんは、脱サラしてパン屋さんを開業したらしい。
行方不明になっていた件もあってネット上をざわつかせていたりもしたけれど、事前に申請していたらしい有給が終わる前に帰ってきたので、この世界的には「あぁいつものやつか」で片付いた。
闇堕ちとか世界の危機が日常に紛れているこの世界特有の価値観である。
ついでにその店の隣にはケツボクシングジムなる建造物も設立されたそうで。
新弾に封入され一般に拡散してしまった例のカードを使いこなすための訓練施設として人気を博している。
戦闘用バゲットがカードから生成される物体であることも、彼が過去と折り合いを付ける一助となったそうだ。
いやほんとマジの話なのだ。
突如界隈に殴りこんできたケツボクシングカテゴリは強制敗北という重過ぎるデメリットを抱えているため基礎スペックが非常に高く、見た目なんぞ気にしない上位層がこぞって取り入れ始めたのである。
環境が動くぞーとどこぞの6位の人も本格的にメタ構築を作り始めていた。
まさにこの世界特有の価値観である。
リアちゃんに関してはササキさんのお店でマスコットをしているそうだ。
看板娘ではなく、マスコット。マスコットである。
外からも良く見える窓際のイートインスペースで美味しそうにパンを食べるのがお仕事らしい。
顔面偏差値の暴力で本当に幸せそうにもぐもぐ食べるから宣伝効果は大きく上がっているそうだ。
本人の働きたくないでござるもここでご飯食べてねくらいであれば普通にセーフラインであり、残飯を漁る日々から解放されてクオリティの上がった美貌を輝かせ、お金をもらって飯を食うというあまりにも贅沢な生活を送っている。
今までお世話になった路地裏在住の方々にパンの耳を配布するボランティアも始めたそうで、そうやって外出した際に変な事件に巻き込まれるのも今まで通りの流れらしい。
余談になるが、リアちゃんの巻き込まれ体質は別に女神様が強引に仕事を割り振っていたとかいうわけでもなく、自然発生している謎現象なのが明らかになった。
とはいえ補助金欲しさに自分から首を突っ込むことは減ったそうで、たまにササキさんと二人でご飯を食べている姿も目撃されているらしい。
魔法少女ちゃんはDoll-Houseに住み込みでバイトするようになっていた。
日によって髪色と性格が変わったりする一粒で二度美味しいウェイトレスはそこそこ売り上げに貢献しているようだ。
知名度が上がりすぎても情報屋としての仕事に支障が出るから痛し痒しとは聞いたけども。
あと日銭を稼ぎながらもどうにか元の世界に討伐完了の報告を送るため、試行錯誤を繰り返していたらしい。
いっそ女神様に頼めばいいのではと提案してみたら秒で終わった。また出落ちにして申し訳ない。
とはいえ彼女はカードゲーム初心者。
ナンパされたりしても人の良さから断り切れなかったり、ゲームでも普通に敗北して危機に陥るのも一度や二度ではなく、その度にマスターさんに助けられて好感度を伸ばしているらしい。
普通にラブコメやっててほんわかするね。
『私は幼い頃、パン屋さんになりたかったんだ』
テレビから流れてきた聞き覚えのある声に、脳中では詠唱開始の四文字が踊る。
もはや日常の一部と化した新弾のCM(45秒フルバージョン)を頭から追いやりつつ、濡れそぼった髪にドライヤーをかける。
結局のところ私の日常に大きな変化はない。
いやケツボクシングの広告が視界によぎるのは大き過ぎる変化ではあるけども。
神様と関わったからといってそれ以降は特に大きな事件に巻き込まれることもなく。
検査入院していた友人たちも何事もなく日常に戻り、カードをしばきながら思い思いの日々を過ごしている。
これからだって、少しだけカードゲームが常識に根付いた生活を続けていくことになるのだろう。
「ウィーちゃん聞いて聞いて! すごいコンボを思いついちゃった! ミソバゲットワンキルっていうんだけど……」
「それ全国放送されるって理解してやろうとしてます???」
髪も乾かさないままお風呂場からとたとたと駆けて来てドヤ顔を披露する薫さんにツッコミを入れる。
強制敗北なんてのが悪用されるのはカードゲームでは珍しくもないけれど、名前からしてもうイヤな予感しかしない。
バゲットを無理矢理装備させた相手の尻を執拗に攻撃してケツボクシングの強制敗北を押し付けるというあまりにもオソマしいコンボが嬉々として語られる。
キーカードは【うんこまん・ゲリーベン】だそうだ。くそがよ。
聞けばカード固有の攻撃モーションを利用した戦術になるらしい。
カードゲームにおいてモンスター同士のバトルは数値だけ淡々と処理されるのではなく、剣士なら剣技で、魔法使いなら魔法で、それぞれカードの特性に添った手段で攻撃する。
バゲットを尻に挟む都合上、ケツボクシングはバックスタブが致命傷になるという事実に気付き、カードのバトルアニメーションを精査して発見したコンボなのだという。
やってることはマジかよレベルで手間のかかる調査の賜物だ。
こういう努力を怠らないからこその世界ランカーなのだろうけど、出力される絵面が酷すぎて素直に賞賛することが出来ない。
ひとしきり語って満足したのか、彼女は私の前に背中を向けてちょこんと座る。
私の手元にはドライヤー。目の前には髪の毛が乾いていない女性がひとり。
何を催促されているのかは、まあ誰にでもわかるわけで。
「カードゲームにはさ、神様が二種類いると思うんだよね」
ただ待っているのも暇なのか、彼女はなんだか不敬にもなりかねないことを語り出した。
「勝利の女神様が実在する世界でそれは流石にどうかと思いますけど……」
「そーじゃなくって、なんていうのかな、リカちゃんってルールを司る神様でしょ? でもそれだけじゃカードゲームにならないんだよ。だからいるんじゃないかな、カードの世界観を造った神様ってやつが」
「それはまあ……言われてみれば、確かに? カテゴリ毎にストーリーとかあったりしますもんね」
カードゲームにはカテゴリが付き物だ。
大抵のカードはどこかのカテゴリに属しているし、汎用カードだってその汎用カードを格納しているカテゴリがあったりする。
この世界で生まれたカテゴリにはそれぞれ固有の世界観があり、ストーリーがあり、別の世界からやってきてカテゴリと化したカード群は彼らの故郷の姿を描いている。
「世界感ってさ、ルールとは違うんだよ。完全に独立してる。カードに描かれたイラストで、意味ありげな短文で、漫画でもアニメでもなく、途切れ途切れのワンシーンを繋ぎ合わせて独自の世界を表現するって、カードゲームにだけ許された表現だと思わない?」
「ですね。私も結構好きですよ、色々興味深いこと書いてありますもんね、フレーバーテキ、すと……」
その言葉を口に出したとき、ぞわりと頭の中で何かが繋がって。
「あの」
「
「んん~~? なーにー?」
ドライヤーに靡く飴色の向こうから、蒼よりも深い碧の視線がイタズラに成功したようにしてやったりと笑みを浮かべていて。
「なんか縮みました?」
「んん~~っ!!!!」
「あ、ちょっ、頭押し付けるのやめてください! まだ乾いてな……私のパジャマこれしかないんですけど!?」
「ふーんだ。今のはウィーちゃんが悪いんですー!」
子供のように唇を尖らせるのは、とても年相応には見えなくて。
「……ねぇウィーちゃん、この世界って楽しい?」
シャンプーの香りに紛れて漂うのは、彼女が好むミントのようなフレーバー。
「事件に巻き込まれるのは勘弁ですけど、まあそれなりに。友達も増えましたしね」
「ならよかった」
そのどこか超然とした笑みに、厄介な人に気に入られてしまったなぁと苦笑が出てしまう。
この世界はカードゲームで全てを決定する。
国同士の優劣も。
大企業の取引も。
戦争の結果さえも。
誰が神になるのかさえも。
カードゲームに絶対はなく、女神様はゲームにおいて公正で。
――たとえ神様だからって、一番だとは限らない。
私の普通は変わってる。
――ウィー・マイン
負けてないもん……負けてないもんっ!!
――最終勝利のビクトリア
拳を開いた。
手を握った。
――ケツボクサーササキ
生まれたことが無駄になった。
それを誰よりも喜んだ。
――決戦用照準特化型魔法少女ver0.06
我らの歴史は人の歴史。
――うんこまん
全てのカードに喝采を!
――カード・クラップ・カンパニー
どのフレーバーが好みだい? ―― 一服
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ウィー・マイン
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最終勝利のビクトリア
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ケツボクサーササキ
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決戦用照準特化型魔法少女ver0.06
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うんこまん
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カード・クラップ・カンパニー