ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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第13話

 とある配信者からジワリと広がった、バ美肉によるネット配信。

 バーチャルネット配信者三大紳士は【オーマン湖の精霊】【エロマンガ・ショート】【絶対健全まろん☆すくわ~る】の三つに分かれ、混迷を極めていた……。

 

 いや極め過ぎだろ、フルスロットルじゃねえか。

 

 炎上でもしたのかと思ってちょっと調べてみたらもう出るわ出るわ。

 そんな時間が経ってるわけでもないのになんかとんでもないことになっていた。

 

 【オーマン湖の精霊】は言わずもがな。

 界隈では火付け役として扱われており、使用カテゴリの特徴を掴んでいるキャラクターのクオリティもあって一躍時の人と化していた。

 本人のプレイングの拙さやボイチェン特有のボイスの濁りに関しては、だがそれがいいと概ねキャラ付けの一部として好意的に受け止められているらしい。

 

 【エロマンガ・ショート】はこの世界の言語でたまたまそれっぽく聞こえるだけの別の世界の言葉や名詞をテーマとして扱っている。

 一カテゴリだけではなく複数のカテゴリからそれっぽい名前のカードをかき集めたキメラを構築しているらしい。

 【オーマン湖】カテゴリも使用しているため火付け役へのリスペクトも忘れない熱心なフォロワーでもあるようだ。

 

 【絶対健全まろん☆すくわ~る】は本当に健全な名前のカードしか使ってないんだけど、カードの使用順や名前の組み合わせ、仕草や雰囲気でそれっぽさを演出しているという無駄に技巧を凝らした演者である。

 変な名前のカードをしばいて楽しんでいるだけの他と比べても中の人のガチ感があふれ出している。

 実力的な意味でも隔絶しているせいで、中の上くらいの人が中身なんじゃないかとも噂されていた。

 

 それぞれ違った方向に振り切ったヤベーやつらである。

 

 

 

 元々この世界の民度はそれほど悪いわけじゃない。

 ホビアニでよく見かけるような「そんな弱そうなモンスターで何が出来るっていうんだ!」とか息巻いてる連中は、この世界では最下層のかわいそうな生き物でしかないからだ。

 むしろそういうのは珍獣扱いでJKからすごーいもう一回言ってくださーいとかイジられる始末。

 私も一回やったことがある。

 

 テレビで放映されているトップランカーの公式戦を見れば、外見がどうだろうと強いやつは強いと嫌でも思い知ることになるし、そもそも効果テキストも読まずにイラストだけを見てそんなことを言い放つのは真面目に頭の出来を心配されるレベルだ。

 カードゲームという知的遊戯が社会的地位を築いているこの世界において、効果の把握も出来てないというのは割と死活問題に直結しているので。

 

 その辺の事情もあって、見た目や名前があんまりよろしくないデッキであっても、概ね受け入れられる傾向にある。

 各々の苦手意識もあるからちょっとは引かれたりもするけれど。

 

 だが【オーマン湖】は完全に外れ値である。あれを許すのは女子ではない。

 

 とはいえ誰だって自分の相棒を活躍させたいのは当たり前のことだろう。

 実力不足で十全に力を発揮させてやれないのを悔いることもあるだろう。

 

 そういう、潜在的な需要を抱えていたのだろう。

 

 一発ネタに極振りしたようなデッキを使ってもいい、むしろ使ったほうがいい。

 勝っても負けてもどちらにしてもネタになる。

 カワイイは正義。

 

 つまるところ、バ美肉配信はネタ系デッキを相棒にしている人たちにバズったのだ。

 

 火付け役となった例の変質者も、デビューのタイミングが良かったというのもある。

 巷では尻にパンを挟んでボクシングをするデッキが彗星の如くTier上位に食い込み始めていたからだ。

 

 ネタ系デッキに対する敷居が大きく下がっていたのは想像に難くない。

 

 ガチデッキによる実力勝負はCCCの公式大会以上のものなんて基本的に出てこない。

 ネット上で求められているのはカードゲームであってもエンターテイメント性の高い動画であることも後押しになったのだろう。

 

 そんなわけで独自の進化を遂げ、ネットの片隅で一定の人権を得るまで浸透していったバ美肉文化。

 

 これは、うん、たぶんあれだ。

 地元にいた頃にサブカルで散々摂取していたあれだ。

 

 ……私なにかやっちゃいましたか?(震え声)

 

 いやもう、これはマジでやらかした。

 異文化の持ち込みがここまで劇的な侵食を始めるとは思ってもみなかった。

 

 バゲットによる文化侵略を散々見ていたというのに、新規カードという実体がないからこそ油断していたというか。

 ゲームとは直接関係がないから想像力が働かなかったのだ。

 

 というか下火だったけど元々あった文化じゃん。

 何でここまで一気に開花してしまったのか、これがわからない。

 

 

 改めて、件のメールを確認してみる。

 

 件名は、助けて欲しい。

 そこに変化が現れることはない。

 

 そもそもの話、彼にだって自分の所属しているコミュニティはあるはずで、相談できる友人知人だっているはずだ。

 道端で一回ゲームしたっきりの私に助けを求めてくる理由が全然わからない。

 

 身バレしたくないという事情もあるのかもしれないが、前述の通りこの世界では割とすぐバレるし、彼があのデッキを愛用しているのは身内であればそもそも知っているはずなのだ。

 辻勝負でも使い慣れていたようだったし、言い方は悪いが女性相手だからセクハラクソデッキ扱いになるのであって、野郎同士のゲームで持ち出しても笑い話のネタになるだけだ。勝率は落ちるかもしれないが。

 

 そんなこんなでまあ、正直に言うならもう関わりたくない。

 だいたいあいつは変質者である。

 誰が好き好んで話を聴こうと思うのだ。

 

 なら何を悩んでいるかというと、本気で切羽詰ってる可能性がないわけではないからなのだ。

 連絡先を聞いてもいない相手の、一度見ただけのマイナーサイトのメールフォームにしか頼れなくなってしまったという可能性がゼロではないのである。

 

 世界の危機がその辺に転がってる世界なので、放置すれば更に面倒なことになりかねない。

 ストーカーだったら警察に相談すればいいだけという逃げ道もある。

 

 友人たちを巻き込むのは気が引けるし、薫さんは諸事情により今は連絡がつかない。

 

 なので悩んでいるのだが、悩み始めてしまった時点で結論は既に出てしまっているわけで。

 

 それでも結局文面を書いては消して書いては消して、送信ボタンを十分以上眺めた末に、その声に答えてしまった。

 

 返信はすぐ来た。

 直接会って話したいと、以前あいつに奢らせたカフェに来て欲しいとのこと。

 

 正直一対一で会いたいとは思えない。元々変質者だぞコイツ。

 

 だけど踏み込んでしまった以上は今更引くに引けないわけで。

 準備があるから2時間後にとメールを飛ばして返事も見ずに端末を閉じた。

 

 これから会う相手は、友人たちが顔を知っていたくらいには有名な変質者なのだ。

 ここしばらくは見かけていないけれど、手配書が風化するほど時間が経っているわけでもない。

 周囲から知り合いだと思われないためにも変装は必須事項だろう。

 

 いつもと違うメイクで別人感をかもしだし、取り出したるは女子会で仕入れた男装ファッション。

 私の体型は凹凸が少ないのでメイクでアクセントを出して男っぽい服を着ればそれっぽく見えるらしい。

 

 そして髪を帽子に格納してちょこんと伊達眼鏡を載せれば……いや無理があるよ、普通にカワイイ系の女子だよこれ。

 だいぶ印象は違うから別人判定にはなるかもしれないけどさぁ……。

 

 思わず天井を見上げて大きく息を吐いてしまった。

 何やってんだろう私。

 

 まあ、うだうだ言っていても仕方ない。

 

 書置きを残して家を出る。

 

 向かう先にあるのは天国が地獄か。

 できればBGMがそれな感じで愉快になってくれないものだろうか。

 

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