「わ、私は手札から【ミラクルガールズ・ミラクル】を発動……出来るよね? うん、発動!」
友人たちと姦しく待ち合わせの場所に向かったところ、現地では地雷系ファッションに身を包んだピンクの子がゲームをしている只中であった。
どうにもたどたどしく、危なっかしく。
熟考しながらぺちぺちとカードを使っていく姿は見るからに初心者のそれである。
対戦相手はなんかこう一山いくらで値段がつきそうな典型的なチャラ男君だ。
素人丸出しのプレイングを見守るように眺めているその様は、まあ悪いヤツではないのだろう。
「このカードは私のバトルフィールドに【ミラクルガール】が居るときに発動可能。効果は【ガールズ】と名の付く設置物とそのカードに名称が記されたモンスターを手札に加えることが出来る!」
彼女が使ったのは展開系のカードのようだ。
発動条件が結構厳しいので効果も優良、むしろこのカードを使用する為にサーチカードを使いたいというジレンマもありそうな感じだけども。
「私は【ル
名称サーチにしてはなんか高度過ぎる方向性だな???
「それから手札に加えた【ルガールズ・ネスト】を発動! バトルフィールドの【ルガール】と名の付くモンスターを手札に戻し、そのカードよりレベルの高い【ルガール】を招来する! 【ミラク
その後もパワフルガールやオラクルガールが銀月のルガールとか半月のルガールに次々と姿を変えて野太い雄たけびを上げる様子がバトルフィールドに展開されていく。
ガールからルガールに、ルガールからガールに。
始動条件にちょっと難があるが、入れ子のような相互サーチで手数を増やしていく様子はコンボとしては上々だろう。
まあ、複数カテゴリを相乗強化する構築は見事なものだけど、彼女の出自を考えるとどうにも闇が顔を覗かせているような気がしてならない。
ルガールカードを単品で使用した場合にはなさそうな、身体に纏わり付いたバトルドレスの残骸が余計に異形感を加速させていた。
「計算上はこれで届くはず……一斉攻撃でトドメ! よし、勝ったぁ!」
最後はデータキャラみたいなことを呟きつつ、フィニッシュを決めた。
思わずといった感じで勝利に顔を綻ばせた彼女にほっこりしたのか、チャラ男君もまた満足げな笑みを浮かべていた。
彼には待機状態のカードがあったけれど、はたして使わなかったのか使えなかったのか。
途中から応援してたこっちにもちらちら視線を向けてたので、待ち合わせの相手が到着したというのには気付いていたようだったけど。
「っと、遅いのよあんたら! おかげで大変な目に遭ったんだけど!?」
「辻勝負ひとつで大変とか言ってたらこの世界じゃ生きていけないよ?」
あと礼儀として対ありはしようね。
向こうも別に落ち度とかあったわけじゃないし、闇のゲームとかでもないんだから。
恨むのなら自分が美少女に生まれたことを恨むがいい。
……という言葉は流石に飲み込んだ。
なんかこの子はそのまま受け止めるような気がしたので。
チャラ男君は軽く言葉を交わすと彼の友人たちに負けたことを茶化されながら清々しく去っていった。
なんというか悪印象が全くない。きっとああいうヤツがモテるんだろう。
「じゃあどこ行く? 定番だしカドショ?」
「その前に名前教えてよーウィーちゃんからも友達としか聞いてないしさー」
何の気なしに投げかけられた質問に、ピンク色の魔法少女は表情を強張らせた。
「……私は、私の名前は……決戦用照準特化型魔法少女ver0.06よ」
「じゃーマホちゃんでいい? 名前長いし」
「……えっ?」
「渾名付けるならもうちょっと捻ったら? ver0.06ならアルファ版っぽいしアルちゃんとかどう?」
「……あの」
あまりにも軽く流されたことに、彼女は困惑している。
別の世界出身である私はそれなりに気にしちゃうけど、生まれも育ちもこの世界の二人はそんなこと気にも留めない。
「おかしいと、思わないの? こんな風に、名前とも取れない呼称が付いているだけなんて」
「え、なんか変なとこあった? そういうカードの子なんじゃないの?」
「うちのクラスにもいるよね、
カードの精霊には、誰にでも見えるのと見えないのがいる。
私の知り合いだとリアちゃんも見えるタイプの精霊であり、彼女の最終学歴は中卒である。
つまり【最終勝利のビクトリア】ちゃんは、ごく普通に中学校に通っていたのだ。
この世界ではカードの精霊だろうと、別の世界の魔王だろうと、何の問題もなく住民として認められる。
ごく普通に市民権を得て、ごく普通に学校に通い、ごく普通に日常に混じっている。
決戦用照準特化型魔法少女ver0.06と名乗られても、ああそういうカードの精霊さんなのねと流されるくらいには、この世界において普通の名前というのはあまりにも幅が広い。
むしろ私の名前とか特徴がなさ過ぎて逆になんか意味深な名前なんじゃないの? とか勘ぐられるくらいには。
「…………バカみたい」
「あーっ、バカって言う子がバカなんだよっ!」
「うるさいから叫ばない。ウィー、そっちから誘ったんなら予定とか立ててるでしょ?」
「へいへーい。じゃあお嬢様方をエスコートさせていただきまーす」
友人に促されるままあらかじめ用意してきたデートコース、もとい、遊びの計画を端末から呼び出して。
『ぷろでゅーさー! たすけてくださーい! ご主人が、ご主人がー!』
なんか見え覚えがあるようなないような2頭身のチビキャラが画面全体に出てきて大音量で騒ぎ出した。
「……ミュートミュートと」
『無視しないでぇ! ご主人が! 酷いんですよぷろでゅーさー!』
ソシャゲが音量誤爆したみたいな微妙な空気が流れ出し、周囲から視線が集まっているのを感じる。
耳が熱いのも気のせいではないだろう。
「もうちょい静かに喋ってくれる? 具体的には最低音量からプラス1くらいで」
『むぅ~わかりましたけどー! 話聞いてくださーい!」
チビキャラがコミカルに動きながら画面端の音量バーに手をかけ、ぐぐぐっと下に降ろす。
ぶつくさ呟いている彼女の声もそれに伴って静かになっていく。
私の端末が完全に掌握されてるんだけどこれどうしたらいいんだろう。
てかこの子って容量どんだけなの? そんなに余裕あったっけ? 余計な通信量もかかってんのかなぁ。
「なにコレなにコレ!?」
「面白そうなの持ってるじゃん、どこのアプリ?」
そして左右から友人たちがのしかかり、肩越しに私の端末を覗き込み始めた。
「……情操教育中のカードの精霊が脱走してきた感じだと思う」
『だってぇ! ひどいんですよご主人が! ピーマン食べろって! 食べろってぇ!』
子供のように涙目で訴えているが、そんなくっそどうでもいいことで騒がないで欲しい。
いや真面目な意味で助けが必要じゃないのが分かったのはいいことだけどさぁ……。
「あーうん、往来で話すことじゃないから……防音室、いやうん。カラオケいこうカラオケ!」
とにもかくにもこの場から離れたい。
特にこいつが余計なことを言い出す前に。
「ねえねえ、この子なんて名前なの!?」
『よぉくぞ聞いてくれましたっ!』
「頼むから黙っててくれる!? あんたにここで名乗られると私が社会的に死ぬんだけど!?」
「ウィーってやっぱツッコミ気質だよね。今めっちゃ輝いてるよ」
「全然嬉しくないっ!!」
三人揃えば姦しく。おまけで一人と一匹足して。
ピンクの子から転がり落ちた「バッカみたい」が空気に溶けて。
私達の休日は思わぬ方向に駆け出したのでした。まる。