ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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EP(エキスパンション)- 小麦と共に歩む道 -
第2話


「俺は【寿限無、寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の、水行末・雲来末・風来末、食う寝るところに住むところ、やぶらこうじのぶらこうじ、パイポ・パイポ・パイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナの、青き瞳の(ブルーアイズ)究極(アルティメット)長助(ロングヘルパー)】をバトルフィールドに招来する! このカードにより俺のフィールドに存在している全ての寿限無名称を持つモンスターは、カード名を正確に読み上げない限り、攻撃と効果の対象にならない耐性と対象を取らない効果に対する耐性を獲得する! それはこのカード自身も例外ではない!」

 

 テレビの中では坊主頭の青年が無駄に長い口上を述べている。

 彼のバトルフィールドに現れたのはやたらと名前の長い、和風で昔の町人のような姿をした素朴なモンスター。

 

 あまりステータスは高くはないが、完全ではないにしてもかなり強固な耐性をばら撒くという非常に強力なカードと言えるだろう。

 

「な、なんだと……!?」

 

 対戦相手も困惑している。

 彼だって初心者なんかではなく、仮にもこの対戦カードを手にした超一流のプレイヤーだ。

 

 カードゲームの強さの指標として、世界ランキングというものがある。

 それを基準に、上の上や中の下みたいなざっくりとした分類に分けることも出来たりする。

 

 最上位の10名が上の上、そこから100位までが上の中、1000位までが上の下といった感じに、ざっくり10倍ずつ枠が広がっていく。

 世界ランカーである10位までが他と隔絶しているのはもちろんのこと、上の下と中の上、中の下と下の上辺りにも大きな壁が隔たっているのだそうだ。

 

 そのあたりは現世界ランカーの薫さんでも躓いたそうなので、本気で壁として機能しているらしい。

 ちなみに私は下の中くらい。脱初心者といったところである。

 

「別に大した耐性ってわけじゃないだろ? なにせカード名なんて、例外なくカードに明記されているんだからな」

「ネーム欄ギッチギチじゃねえか! ルビの部分とか完全に読ませる気ねえだろ!?」

 

 どっちかというと私は対戦相手の悲鳴のような叫びに同調する側である。

 カードゲームなんだからカードゲームしろよと声を大にして言いたい。視力検査じゃねえんだぞ。

 

「んん~~、おはよう。……お、やってるね。南都(なんど)くんどう? 勝ってる?」

「おはようございます。まだ序盤ですしなんとも……」

 

 起きてきた薫さんと挨拶を交わしながら、朝食の準備を進めていく。

 

 テレビで流れているのはCCC――Card(カード)Clap(クラップ)Company(カンパニー)が主催する公式戦の生放送だ。

 朝の7時からニュースでもアニメでもなくカードゲームの試合が放映されているところにこの世界のこの世界らしさを感じる。

 

「忠告しておくが、このデッキには似た名前が多いから俺もたまに間違える。普段は縮めた渾名で呼んでるしな。オウム返しにしただけじゃ耐性は突破できないと考えたほうがいいぜ!」

「お前のカードなんだからもっと大事にしてやれよ!」

「いいや、これが俺なりに考えた、こいつらを大事にするやり方なのさ」

 

 CCCはカード中心のこの世界でカードの流通や大会を取り仕切っている大企業。

 

 だけど、彼らがやっているのは基本的に仲介に過ぎなかったりする。

 カードを販売し、大会の会場や日程も提供しているものの、彼らの保有する戦力にも限界があるからだ。

 

 薫さんを始めとした世界ランカーたちは会社に所属することなく好き勝手やっているし、勝利の女神様という絶対的な上位存在だって君臨している。

 そういう意味で、至極真っ当に世界を支えているタイプのメガコーポであるともいえるだろう。

 

「落語の寿限無って知ってるかい? このカードの元ネタなんだが、助けを求めようとして長い名前のカードでゲームをしている間に溺れちまったっていう、救いのない話さ。だから渾名で呼んでやるくらいが、こいつらにはちょうどいいのさ」

 

 この世界特有の文化なのか私には馴染みのない雑学に頭の中のヘーボタンを押しながら、サラダにドレッシングをぶちまける。

 ちょっと入れすぎた気がするけどたぶん大丈夫だろう。たぶん。

 

「更に俺はカードを1枚待機状態にしてターンエンドだ。何か対応はあるかい?」

「……いや、そのまま通す。俺のターン、ドロー!」

 

 アイスコーヒーを冷蔵庫から取り出してグラスに注ぐ。

 片方は氷を入れて、もう片方はストレートで。

 

「俺は手札から【赤巻紙青巻蝦蟇黄巻亀】を招来する!」

「……っ! そのカードは……」

 

 最後にトースターからパンを取り出し、出来上がった朝食と共に家主の待つソファーに腰掛ける。

 

 

「なんか名前からして舌噛みそうですね」

「どっちも難読タイムアウトのデッキタイプだよ。これは長くなるなぁ……」

「カードゲームのデッキタイプじゃない……」

 

 焼き上がったばかりのトーストを齧りながら、私の知るカードゲームとはジャンルの違うカテゴリに頭を抱える。

 

 いや、既に出てきたカード名だけでも何を狙っているのかは非常にわかりやすいのだ。

 あのデッキを使っている彼らだって本気でゲームに向き合っているのは間違いないだろう。

 

 タイムアウト……持ち時間を使い切らせる形でのルールキル。

 単にライフを0にするだけがカードゲームの勝ち筋ではないのだから。

 

「ウィーちゃんの故郷じゃこういうデッキを使う人っていなかったの?」

「まあカードゲームはあくまで娯楽のひとつだったので……」

「んん~~、たまに他所の世界出身の子と話もするけど、ホント変わった文化だよね」

「それはこっちも同じこと思ってますよ」

 

 この世界はカードゲームで全てを決定する。

 だけどあくまでも()()()()の話に過ぎない。

 

 この世界というからには別の世界もあり、別の世界である以上、そこには別の常識とルールがある。

 そして、別の世界というのはそれこそ星の数ほどあるのだそうだ。

 

 この世界ではカードゲームが全てだが、実際に動く模型のバトルで全てを決める世界もあれば、魔法中心のファンタジーバトルで勝敗を付ける物騒な世界もあるし、尻にパンを挟んだ前傾姿勢でボクシングをするとかいう意味不明な競技に命運を託すクレイジーな世界も存在するらしい。

 

 そういった様々な世界と交わりながら、カードのカテゴリとして落とし込む形で融和を成しているのがこの世界だ。

 ある意味で一番狂ってるとも言える。

 

 ……まあ、悪いことばかりではないけれど。

 逆に言ってしまえば、どんなモノでも受け入れてくれる、尋常ではなく懐の深い場所でもあるのだから。

 

 

 そしてテレビの中では新たに【殺戮の蕨】というカードが招来していた。

 

 

「あれってなんて読むんですか? というかカード名を宣言してない……?」

「ワラビだね、サツリクのワラビ。耐性は自分だけだけど寿限無と同等、カード名を言ってないのも効果のうちだよ」

 

 単純に名前が長い、舌を噛むように読みづらい、読解難易度が高い。

 難読という言葉でこれだけ多様な妨害を用意されるのはもはや詐欺ではないだろうか。

 

 というかカードゲームしろよ。母国語のテストじゃないんだぞ。

 

「難読系はああいう風に難しい文字が使われてるのもあるんだ。一定以上の知識がないと耐性を突破できないから、難読デッキって警察の主装備になったりもしてるんだよね。ウィーちゃんみたいにお行儀のいい子達がお世話になることはないんだけどさ」

「えぇ……」

 

 どうしよう、やってることはカードゲームとは思えないのに滅茶苦茶合理的に運用されている。

 

「あと他の世界からやってきたばかりの連中にもしっかり機能するからね。難読タイムアウトは結構歴史が深いデッキなんだよ」

「字が読めなかったせいで目的が果たせなかった悪役とかもう憤死するでしょうそれ」

 

 薫さんのデッキといい、プライドの高い連中には嫌というほど刺さりそうなのが本当に恐ろしい。

 

 何が怖いってこの世界の人たちはそれを分かった上で運用しているのだ。

 カードゲームで勝つ為に、ルール違反以外なんでもするという凄みがある。

 

 

 攻防は一進一退、どちらも高レベルの難読使いということもあってタイムアウトに至ることもなく、耐久型のデッキ同士がじわりじわりと削り合いを続けている。

 

 そこだけ見れば心理戦を含めた高度なカードゲームのやりとりだった。

 やたら長い名前とか読みにくいのとか読めないのとかを除けば、参考になる部分は山ほどあった。

 

 ゲームの開始宣言から3時間後、番組枠の延長の末に勝利を手に掴んだのは、寿限無使いのプレイヤーの方だった。

 

「あー負けちゃったかぁ……プレミもあったし経験の差が出ちゃったかなぁ」

「……見入っちゃってた。あんなふうにプレイするんですね、上位陣って」

「ま、おねーさんのほうが強いんだけどね!」

 

 無い胸を張ってふふんとドヤ顔を見せてくれる薫さん。

 頼りになるし可愛いし、本当にこの人は強いと思う。

 

 ――全てのカードに喝采を! この番組はCardClapCompanyの提供でお送りしました。

 

 世界ランク防衛戦を映していたテレビがCMへと切り替わる。

 大会運営委員会の眼鏡の人が、あんまり似合わない笑顔を浮かべて謝辞を並べていた。

 

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