ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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第21話

 翌日の早朝、顔を洗う為に洗面所に足を運べば、むっすーと不機嫌顔を晒している系女子と対面した。

 

 鏡の中の私は現実の私と同じ気分らしく、公式が出してる問題集にイカサマジャッジキルなんて載せるんじゃねえと憤りを感じているようだ。

 そんなんだから常々この世界は絶対ホビアニじゃないという妙な確信に包まれるのだ。

 

 顔を洗って歯を磨き、寝癖と格闘していると、私をこんな気分に貶めた張本人があくびをしながら顔を出す。

 

「おはよー、よく眠れたかな?」

「おかげさまで」

 

 思考の片隅にあったゲームスペースは昨晩で店仕舞いしており、ぐっすり寝たのもあって頭の中はしゃっきりしている。

 

 もしかしたら夢の中でモーリアーをボコボコにぶん殴ったのもの一助になっているのかもしれない。

 ダンディな髭面が見られなくなるくらいにはぼっこぼこにしてやった。

 それくらいのストレス発散は別に責められるようなことではないだろう。

 

 場所を譲る為に一歩引き、小柄な飴色の頭越しに髪のセットを継続する。

 しゃこしゃこと歯を磨く音と、ヘアアイロンのスチームの音が洗面台に木霊して。

 

「一晩経ったのに納得してなーいって顔してるね」

「あれで素直に納得する人が居たら逆に驚きますけど」

 

 うがいを終えた薫さんが鏡越しに目を合わせてくる。

 彼女の瞳と後頭部を同時に視界に収めながら、不貞腐れたような答えを返してしまうのは仕方がないだろう。

 

 場所を移してダイニング。

 人数分の食パンをトースターに放り込み、野菜をカットして丁寧に盛り付け、常備されているアイスコーヒーをグラスに注ぐ。

 薫さんのはストレート、私の分には氷を入れて。

 

 細々とした調理をしている間にタイマーが音を立て、仕事を終えたトースターから成果物を受け取って、二人そろっていただきます。

 

「ぶっちゃけあの仕打ちは私でなくてもキレると思うんですよ」

 

 一週間も寝不足になりながら頭を回していたというのに、実はこの問題は論理パズルじゃなくて記憶力のテストですとか言われたら普通にキレる。

 しかもあのカードが使用されていたのは最後の挑戦問題だけであり、比較対象となる正規版の効果テキストは問題集の中に一度も記載されていない。

 つまりはガチガチの知識問題なのだ、あれは。

 

「てか勝利の女神様が宣誓やってるゲームで改造カードが出てくるとか思わないじゃないですか。何考えてあんな問題が載ってるんですか。CCCですよねあの本作ったの」

「いや、あれ実際に公式大会で出てきた盤面だよ。しかもそのまま犯罪王のプレイヤーが勝ってる」

「……はぁ!?」

 

 トーストに齧り付こうとした口が半端に開いたまま固まった。

 

 そりゃジャッジキル以外で突破できそうにない盤面なのは散々思い知らされた。

 ……でも、そのまま勝った? 改造カードを咎められることもなく?

 

「えぇ……あれ許されるんですか? マジで???」

「過去の戦歴にまで遡って勝利を取り下げるとかはないからねぇ。それにあの人は後の大会で正規版を相手に指摘させる逆ジャッジキルまでしてたし、結構有名なんだよ。今でも知ってる人は知ってるんじゃないかなぁ」

「やり口が無法過ぎる……」

 

 食べ終わった皿を横に避けながら、へんにょりとテーブルに身を預ける。

 つけっぱなしのテレビからは、朝のニュースの最後に【全てのカードに喝采を】というCCCの理念が流れている。

 

 いやどう考えても()()の適用範囲が広過ぎるわ。

 改造カードまでセーフだったらもうなんでもアリじゃねえか。

 

「変なこと聞きますけど、バレなきゃイカサマってしてもいいんですか?」

「んん~~? 何言ってるのウィーちゃん。先天性の超能力で勝手にカード作ったりデッキトップを操作するのはよくて、後天的に磨き上げた技術で同じことするのはダメって、それ公正じゃなくないかな?」

「言っちゃうんだ!? 言っちゃうんだそれっ!!?」

 

 いやどう考えてもタブーでしょそれ!

 

 テーブルに両手を着いて身を起こし、本気で言ってるのを見て愕然とする。

 この世界ならありえなくもないかもしれないけど、ホビアニだったら絶対言っちゃダメなやつなんですけど……。

 

「そもそもこの世界って色んな世界出身の人が入り乱れてるでしょ? だからどこからがイカサマかっていうのが滅茶苦茶曖昧なんだよね」

「……具体的にお聞きしてもよろしいでしょうか」

「相手の瞳に映ったカードを読み取るのってピーピングになるのかな? 視線の動きってゲーム中には重要なファクターなんだけど、それが見えてしまう人は相手の目を見たらダメなの?」

「あー…………確かにマホちゃんたちなら出来そう……」

「ファンタジー人類って身体能力高いからねぇ」

 

 単純にバカ高い視力で相手の手札を見透かすとか。

 優れ過ぎている聴覚で相手の心理状態を把握するとか。

 そもそも人類が持ってないヘビみたいな体温感知の身体機能とかで私たちとは異なる情報を拾い上げるとか。

 

 右手が光る謎能力で都合のいいカードを手札に引き入れるとか。

 

 はっきりとイカサマと呼ぶことの出来ないイカサマなんて、きっとこの世界ではあまりにもありふれている。

 

「それに改造カードとは言うけどさ、LEDでデッキから引き抜いた新カードと、CCCが印刷したカード。()()()()()って呼べるのはどっちなのか分かる?」

「…………改造カードも、CCCの刷ったカードも、本質的には同じ扱いってことなんですか」

「そゆこと。もっと正確に言うなら、ゲームボードが読み込んでくれるカードを世界で最初に人の手で作り上げたのが、カード・クラップ・カンパニーなんだ」

 

 この世界のルールに定義されたアイテムを、世界で初めて複製することに成功した団体。

 そう聞くととんでもないことをやっているのがよく分かる。

 

 それが腐りもせず驕ることもなく世界を運営する組織として動いているのだから、そりゃ世界的な大企業にもなるだろう。

 

「一般に流通してるカードってCCCが量産してるんだけど、大量生産してる以上はどうしたってエラーカードは出てくるからね。そういうのは、仲間内とかで使うだけならセーフだけど、咎められたらダメですよって扱いになってるんだ」

「……まあ、そこまでは言われれば何とか納得はできます」

 

 つまるところ、改造カードだってただのエラーカードの一枚ってことなのだろう。

 たまたま都合のいい感じに効果テキストの印刷ミスがあった、エラーカード。

 

 来歴を考えると、一応は納得出来てしまうのが悩みどころだ。

 

「まあ都合のいいカードが突然湧いてくるってLEDと大差ないしね。それに()()()()()()()()()()()()()()なんて、最近よく見るでしょ? ちゃんと対処出来るなら、その程度のデメリットカードってそこまで問題にもならないかなぁ」

「すみません、それが問題にならないのは薫さんくらい実力がある人だけだと思うんですけど」

「んん~~、それが言えるから私もウィーちゃんを焚き付けたんだよねぇ」

 

 にんまりとした何かを企んでいるような楽しそうな顔が、こちらを見ていた。

 

「上位クラスまで上がるには実力以前に精神性が大事なの。この話を聞いて、そんなことしていいわけがないって頭ごなしに否定せずに、やられたらどう対処するのか、どのくらい実力があれば対処できるのか、()()()()()()()()()()()()()()()()。それをちゃんと考えられるのなら、その子はいずれここまで登ってくる」

 

 差し込んでいる朝日でそう見えるだけなのか、飴色の髪は彩度を深め、深緑の瞳は爛々と輝いている。

 朝食を食べ終えたばかりで空になったお皿の並ぶ、どこにでもある日常の空間が、威圧感に支配されていく。

 

「言ったでしょ? 楽しみにしてるってさ」

 

 この世界でも有数の強者が、圧倒的高みから私のことを見下ろしていて。

 

「謎に超越者ムーブするのやめてもらえます?」

「んん~~、そこは空気読んで欲しかったなぁ……!」

 

 ぺちこんぺちこんと気の抜けた音でテーブルに駄々を捏ねる自称おねーさんが、相も変わらず目の前に。

 

 御手洗さんちの食卓は、今日もまた平和である。

 

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