「我はバトルフィールドに【ダークネス†カオス†ブリンガー】を招来する! ふははははっ! 格好良いではないか! こやつこそ我が僕に相応しい!」
「うおぉぉぉぉ! すげー! かっけー!」
「そうだろうそうだろう! だが容赦はせんぞ! 【ダークネス†カオス†ブリンガー】でバトルだ! 小僧のモンスターを蹴散らしてしまえ!」
「迎え撃て! 【勝利の使徒ビクトール】!」
「その程度の雑魚モンスターで我の僕は止められるものか!」
「いいや! 【勝利の使徒ビクトール】は戦闘では破壊されない! たとえどれ程の攻撃にさらされようと、こいつの防御は揺るがない!」
「な、なんだとー!?」
その光景に、私はちょっと感動していた。
まともである。
ものっそいまともなカードゲームの光景である。
魔王ちゃんの厨二の入った初心者ムーブも含めてあまりにも可愛らしいやり取りに感動で涙も出てきた。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
カードゲームって言ったらこういうやつなんだよ。
決して見た目がアレ過ぎるカードでメンタルダメージを狙ったり、名前が長過ぎたり難し過ぎたり読み上げにくかったりでタイムアウトを狙ったり、パンを尻に挟んで殴りかかったり、カード名がセクハラ染みていたり、改造カードでイカサマしたり。
そういうのはもうゲームの腕前じゃなくて別の何かが試されていると思うのだ。
番外戦術も必要だってのはそりゃ理解出来るけど、私はこういうフツーのカードゲームっぽいカードゲームも好きなのである。
少年のデッキは以前も使っていた【ビクトリカ】カテゴリだろう。
やや耐久よりだけど特殊勝利頼りではない堅実な構築が見て取れる。
魔王ちゃんの方は中学二年生くらいの年代に凄まじい勢力を誇る【ダガー】というカテゴリだ。
どういうデッキかと聞かれれば、なんだか懐かしいような香ばしい名称のカードたちが彩る厨二病御用達のビートバーンである。
何気に†の部分は読み上げなくてもよいがなんかそれっぽい雰囲気で名前を呼んであげてくださいという特殊過ぎる裁定が採用されていたりもする。
見ればお爺さんも後方腕組み師匠面でうんうんと頷いている。
通い慣れていた少年の様子を見るに、たぶん彼はこの人のお店でカードを手に入れデッキを組み上げてきたはずだ。
魔王ちゃんと青春っぽいやり取りをしている部分も含め、思い入れはひとしおなのだろう。
まだまだプレイングに粗は見えるけど明らかに少年のが実力は上だし、たまにぴかっと右手が光っているのも相まって終始優位に進めている。
だが魔王ちゃんも負けじと右手の包帯から漆黒の闇を滲ませ、デッキからカードを引き抜いていた。
……ああいうタイプもいるのか。
初めて見たけど闇属性のLEDならエフェクトも闇っぽくなるよなぁというのが本日の知見である。
一進一退の攻防は互いのライフを削りながら順調に続き、魔王ちゃんの猛攻を凌いだ少年にターンが渡る。
おそらくこれが彼のラストターンになるだろう。
手札も盤面も手薄になり、このドローで逆転の一手を引けなければそのまま押し負ける、そんな状況で。
――彼の右手は今日一番の輝きを放っていた。
「――いくぜっ!」
「――こいっ!」
二人もこのターンが分水嶺になると確信を固め、覚悟を決める。
ビクトリカの特殊勝利条件も整っていないこの盤面で、彼が引いた逆転のカードは――
「俺は手札から【焼きたてのバゲット】を使用する!」
頑張れよ……そこは混ぜモンの汎用カードじゃなくてビクトリカカテゴリで逆転してみせろよ……っ!
「【焼きたてのバゲット】……?」
対して魔王ちゃんは怪訝な顔をしており、その名前から効果が予想できていない。
いやまあそりゃそうだけどさ。
このカード名であんなふざけた効果が発揮されるとか誰も思わねぇよ。
「俺はこのバゲットをケツに装着し、俺自身をバトルフィールドに招来する!」
「……うん? …………うん???」
突然意味不明な言葉を叫び出した少年のセリフを魔王ちゃんの頭は理解を拒否したようだった。
ケツにバゲットを挟むだとか、自分自身を招来するだとか、男子小学生の好きなそうな要素を詰め込んだ切り札を手に、彼は意気揚々とバトルフィールドに躍り出る。
「うあっちいぃぃぃぃいぃぃっ!!?」
そして焼きたてのバゲットを尻に挟み、そのあまりの熱量に悲鳴を上げて飛び跳ねた。
当然の如くケツからはバゲットが零れ落ちている。
魔王ちゃんのエクストラウィンである。
「……え? なにこれ? 勝ったの? 我勝ったの???」
勝利の女神様の祝福を受けている最中にも、彼女は混乱状態から戻っては来なかった。
今更の話であるが【焼きたてのバゲット】はとても熱い。
特殊敗北に関わる部分なのでそこはしっかりと再現されている。
プロのケツボクサーであるササキさんですら素手で保持出来ずに持て余すくらいには。
彼の鍛え上げられた尻とプロ仕様の耐熱ボクサーパンツがなければまともに使用できないカードだからこそ、手札からポン出しで無双を始めるあのカードの出力は許されているところがある。
マホちゃんが扱えているのはファンタジー人類故の頑強さと耐熱魔法とかバリアとかそういうのが理由だろう。知らんけど。
普通の人はオーブンから出たばかりのクソ熱い状態で固定されている【焼きたてのバゲット】ではなく、店頭のショーケースに並んでいる頃を表現した【出来立てのバゲット】や、時間が経って硬くなり防御系にステータスが偏った【硬くなったバゲット】を使用するのだ。
ターン経過でこの順番に弱体化していくのが本来の仕様なのだけれど、途中の段階からでも使用できるのはバゲットカードの取り回しの良さでもある。
とはいえ、まともな訓練もなく使用出来るほどケツボクシングカテゴリのキーカードは甘くはない。
そうでなければ、ケツボクシングジムが繁盛するわけがない。
「……おい小娘。我らはカードゲームをしていたのではないのか? なんで小僧は尻にバゲットを挟むとか言い出しておるのだ? しかもなんか勝ったぞ……?」
「そういう効果のカードだからだね」
若干遠い目をしながら彼女の疑問に回答する。
うーんこの初心者特有の置いてきぼり感。
私も幾度となく経験してきたので心の底からその気持ちは理解出来る。
どうしよう、私この子をめっちゃ応援したい。
きっと色んなこと共感して愚痴を言い合える仲になれると思うんだ。
「くっそー俺には使いこなせねえってのか……! だが次は負けないからな!」
「待て、これを勝ちにカウントされるのは我の沽券に関わる。いや本当に、訳も分からんのになんか勝ったでは我の自尊心が満たされんのだ」
「言ってることが難しい!」
「こんな勝ち方、納得出来るかああぁぁぁぁぁ!!」
地団太を踏みながら大声で叫ぶ小さな姿はとても魔王には見えない。
でも勝利の形に拘るのは魔王っぽいというべきか。
この子はたぶん、さあ回復してやろうとか言い出すタイプの魔王様なんじゃなかろうか。
「ええい! もう一度だもう一度! 次こそは我の力で……我のっ! 力でっ! 貴様を八つ裂きにしてくれる!」
「スマン尻が痛いから今日は勘弁してくれ!」
「そうかバカ! 身体に気をつけろよバカ! 治らんようなら病院にかかるんだぞバカぁ!」
ぜいはあと息を荒くし、尻を庇いながら去っていく少年を見送ると、魔王ちゃんはぐりんと勢いを付けてこちらに振り返る。
「おい小娘! 貴様が相手をしろ! 我は不完全燃焼なのだ! もはや誰でもいいから血祭りにあげねば気が済まぬ!」
「別にいいけど、ひとつ聞いてもいいかな?」
呼ばれるままにフリースペースに降り立ち、デッキをゲームボードにセットする。
立ち位置はさっきまで少年が立っていた場所。
対するは、イラついているのか全身から闇っぽいオーラが漂っている魔王ちゃん。
私にも視認出来てるってことはカードの精霊とはまた由来の異なるエネルギーなのだろうか。
闇のゲームに使ったりするやつかな……?
「勝気なのは可愛いんだけど……なんで私に勝てると思ってるの?」
「……我に対して不遜な物言いとはいい度胸だな! 手加減はせんぞ!」
「出来るほど強くは見えなかったけどなぁ」
「貴様あぁあぁぁぁっ!!」
対戦前の煽り合いもまたカードゲームの作法だろう。
この世界だと番外戦術も色々あるし、こんなのは習うまでもない初歩の初歩だ。
「我の先行だ!」
「あ、ゲーム開始時にデッキから【システムエラー・コントラディクト】を発動するよ。そのまま効果でデバッグカウンターをひとつ追加」
「そんなのズルではないか!?」
「デメリットも多いし、そういう効果だからねぇ」
見た目小学生のガキに侮られてイラっと来たとかではない。絶対にない。