「ウィーちゃん! クレープ買って来たよ!」
「あ、ありがと」
「ほらウィー、このアイス好きだったよね」
「え、うん、美味しいよねコレ」
「ウィーさん、えっと、その……えいっ!」
「むぐぅっ……!?」
「ウィーちゃん!」
「ウィー」
「ウィーさん!」
「構い過ぎだっつってんだろもう食えねえよ!?」
5人で掛けているカフェのテラス席には山盛りのスイーツが並べられていた。
各々財布からお金を出し合って私の好物を買ってきて好物を買ってきて好物を買ってきて。
いや気持ちは嬉しいしメンタルも持ち直したけど物理的に入らないんだよこの量は。
甘いものは別腹って言っても限度はあるんだけど!?
魔王様はからからと私達の惨状を眺めながらロイヤルデラックスパフェをもりもりと消費している。
幼女体型の顔よりパフェのグラスのが大きいんだけどそこはやっぱり魔王なのか、物理的な容量を無視して可愛らしいお口にどんどん吸い込まれていく。
私のツッコミでもう大丈夫だと判断した付き合いの長い二人はひとしきり頷くと、心配が後を引いているアルちゃんを宥めながら私の目の前からスイーツを回収し始める。
……ちょっと待てこのアイスは渡さねえよ?
別腹空ければもうちょい入るからこれ私のだからな???
トッピングの詠唱に寿限無くらいかかりそうな甘ったるいコーヒーを啜りながら、わちゃわちゃと流れていく日常に浸り込む。
魔王様にはああ言われたけど、私の事情を話したりはしていない。
話したくないというか、話せることがないというか。
私が薫さんに保護されている理由の一端でもあるため、その辺の調整が終わらないことには伝えられないとは伝えておいたけれど。
「あの……お二人とウィーさんがどのように知り合ったのか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
空気を変えるためなのか、アルちゃんがおずおずと話題を提示した。
左右から私の頬を突いていた二人は顔を見合わせると、記憶を遡るために視線を宙に投げ出した。
「えっと……あれだよね。ショップの前に落ちてたやつ」
「言い方」
「それは、どういう……?」
「この子、カドショの入り口で一時間くらいうろうろしてたのよ。うちらが入店するときにはもう居て、出るときもまだ悩んでて」
「だからお店の中に拉致ったのが最初だったよねー」
「だから言い方ぁ!」
あの頃はたしか、こっちに来たばかりでメンタルがヘラってたのだ。
カードとの向き合い方にらしくもなく悩んでいた時期というか、踏ん切りを付けるために何か変化が欲しかったというか。
「こんな感じで愉快なやつだし、それからつるんでる感じかな。あ、うちら二人は幼馴染だよ。家が隣なの」
「生まれた病院も小中高も一緒なの! すごくない!?」
「たまに疎外感を感じる友人Cでーっす」
「馴染み過ぎてこいつも幼馴染だった気がしてくるわ」
ぐりんぐりんと掌が回るのに合わせて私の頭も揺れ動く。
ひたすらに代わる代わる頭を撫でてくるのはそろそろ恥ずかしくなってきたんだが。
「そ、そういえば魔王ちゃんって最初に会ったときと姿が違うけど何でなの? 前のときはこう……もっと闇って雰囲気を前面に押し出してたというか」
ほら向こうにも可愛い子が居るぞと、話の矛先を魔王様へと向けてみる。
だが三人娘の誘導には失敗し、誰が膝に乗せてアイスを食べさせるのかを相談し始めてしまった。
私の尊厳がやばい。
「む、妙なことを聞くな……? 御主等も出かける際にはめかし込んでおるではないか。戦闘用の鎧姿と社交用のドレスで印象が異なるのは当前だろうに」
「めっちゃ納得した」
丁寧にお口をナプキンで拭ってから優雅に疑問にお答えくださった。
同時にあのお姿が魔王様のご趣味であることも確定してしまった。
真の姿のときはこう、意識に直接語りかけてくる感じの荘厳なボイスだったので性別不詳だったのだが、元から女性だったのだろうか。
「とはいえ少々難儀しておってな。こちらの世界で武力は不要と断じたのだが、流石に性能を割り切り過ぎた。日常生活にまで支障が出るのは我も反省しておる」
「あーキャラメイクに失敗した感」
「いらないと思ってたステが意外と重要だったやつだね! 魔法系だと必要筋力に困るやつ!」
「作り直したり出来ないの? 腕力も体力も幼女並って割としんどいと思うんだけど」
「相応に時間と労力がかかっておるのでな。地道に調整してはいるが……御主ら程度の肉体を得るにも十年はかかるだろう」
「もうただの幼女じゃんそれ」
胃袋はブラックホールだが、物理的な出力は見た目通りしかないらしい。
右手や眼帯から闇を溢れさせれば問題はないそうなのだが、あまり多用しては折角ヒトガタになってオシャレしてきた醍醐味が薄れるのだとか。
カードをしばくには問題ないようにも思えるかもしれないが、カードゲームは結構体力勝負なところがある。
何十分も頭をフル回転させながら運否天賦に一喜一憂し、ギャラリーの歓声に耐えつつも対戦相手と心理戦でも鎬を削る。
はっきり言って幼女のステータスでは厳しいと言わざるを得ない。
なんなら闇のゲームに巻き込まれると余計に体力を消耗するし。
まあ魔王様ならそんな状況だと逆に回復しそうだけど、男子小学生に置いて行かれる身体能力では色んなところで不便を感じるのだろう。
そんなわけで次の目的地がスーパーに決まった。
人数が居るときにお惣菜とか買い貯めておきたいのだとか。
魔王様は自炊とかしないタイプらしい。
大丈夫? 収入があるようには見えないんだけどちゃんと家計簿つけないとそのうちもやし生活とかになっちゃわない???
「あ、すみません、ここってカード割できますか?」
「はい、かしこまりました。担当の者を呼んで参りますね」
散々撫でられて乱れた髪を手櫛で直しながら、通りがかりの店員さんに声を掛けた。
腹ごなしに何も考えずにゲームをしたくなる日もある。
カロリーが脳に廻る前に手癖で回しちゃ勝てるものも勝てなくなるかもだけど、ゲームなんてそんなもんでいいのだ。
勝って嬉しい、負けて悔しい。
勝っても負けても次がある、人生に彩を加えるただの娯楽。
この世界ではちょっと比重が重いけれど、それでも世界の大多数は下位クラス。
カードゲームに全身全霊でのめりこんでいる訳ではない普通の人たちのおかげで、日常は廻っている。
たとえ闇のゲームで負けたって、カードにされて意識を失うくらいで強いプレイヤーたちが救出してくれる。
国や会社の運営に関わるような大きな舞台は、相応の実力者たちが誇りを持って君臨している。
喧嘩するのは誰にだって出来るけれど、武力で人を護るのは兵士の仕事。
ちょっと例えが物騒だけど、この世界の人たちのカードゲームに対するスタンスはそういう感じである。
優れたコミュニケーションツールであり、替えの利かない武器でもあるものが、そうやって受け入れられている。
だから胃袋に血液を取られてプレミを連発して負けてしまったって、友人たちにイジられるくらいなのだ。