時刻は夕暮れ。
今日一日でずいぶんと距離を縮めた私たちは、茜色に染まり始めた街を歩いていた。
身体能力が見た目相応しかない魔王様のために、彼女の住居に荷物を運んでいる最中だ。
モノが多ければ配送とかも考えたけれど、幸いなことにみんなで手分けすれば事足りる程度。
アルちゃんのマジカルなバリアは結構融通が利くらしく、車輪付の籠のように成形して荷物と一緒に体力の尽きた魔王様も積載してくれている。
イメージ的にはスーパーの買い物カートである。
というか現地でお惣菜を買い込むときにラーニングして用意していた。
座席に幼女が座っているところまで含めて再現度が高い。
各々楽しかったことを語りながら、次の予定を空想し、次があるという当たり前のことに幸福を覚える人もいる。
そんなどこにでもある光景に、奇妙なざわめきが混じりこんだ。
進行方向に人だかりが出来ている。
そこにいる何かを避けるように、移動している中心点が人を掻き分け、こちら側に近寄ってきていた。
唐突に割り込んできた非日常な光景に、誰もが自然と口を噤み、成り行きを見守ってしまっていて。
はたしてそこに居たのは、夕暮れの赤にも染まらぬ目の覚めるような黄金で。
「あ、母さん? ごめん、面倒事に巻き込まれたから遅くなると思う。打ち上げもあるだろうし、晩御飯は外で食べて帰るよ」
「ママ! ちょっと世界を救ってくるから帰りは遅くなるかも!」
金糸雀を認識した現地民二名の行動は極めて迅速であった。
同行者にいかにもファンタジー風な装束に包まれたご一行がいるのを確認した瞬間、彼女たちは即座に自宅に連絡を入れていた。
というか対応が慣れ過ぎている。
私でもそんなノータイムでそういう思考にはならないぞ。
ため息をつきながらこちらも保護者にワン切りしておく。
あの人ならこれでなんか反応するだろう。
「え、えっと……?」
「アルちゃん、たぶんリアちゃん案件に巻き込まれるから遅くなるって連絡しといたほうがいいよ」
「わ、わかりました……?」
半信半疑といった様子で最後の同行者にも遺言を残すように促す。
魔王様は疲れ切って熟睡しているのでとりあえず放置。
このまま討伐されそうなら流石になんかするけども。
「ちゃんと行動出来るってことはウィーちゃんもついに巻き込まれたんだ! おめでとう!」
「嬉しくなーい……」
「うちらはこれで六回目だったかな。今度は最後まで見届けられるといいんだけど」
やっぱこの世界おかしいって。
二人とも一般人なのに覚悟決まり過ぎかよ。てかもうアトラクション感覚じゃねえか。
「私のときは結局神様のおうちまで行って、最終的にケツボクシングがこの世界に渡来してきたかな」
「そんな訳分かんないのに巻き込まれたくないし、普通の世界の危機ならいいけど……」
「普通の世界の危機とは」
言ってる間にもご一行は大通りの人波をかき分けながらこちらに歩みを進めていた。
先頭に立って案内しているのは金髪巨乳のリアちゃんで、そこに並び立っているのは金属製のバトルドレスを着込んで腰に装飾のついた剣を靡かせたポニテの女性。
そのすぐ後ろにはなんかこう宗教的なあれこれがありそうな露出の薄い衣装に身を包んだ聖女っぽい少女と、学生服のようなデザインのミニスカニーソの上に白衣を羽織り腰にはフラスコや試験管をジャラジャラと吊り下げた錬金術師っぽい感じのいの女の子が並んでいる。
種族女神の眷属であるリアちゃんも含めて、なんかそれっぽい勇者さま御一行の姿がそこにはあった。
「……闇の気配だとっ!? 何故これほど接近するまで気が付かなかったんだ!?」
たぶんご本人が寝てるからじゃないですかね。
ちょうどリアちゃんと目が合って彼女が手を挙げ挨拶をしようとしたその瞬間、イベントフラグでも踏んだらしい勇者様がなんかこう意味深な発言をぽろりしやがった。
謎の感知能力を発揮した勇者の発言に同行者たちも戦闘体勢に入り、何故か同行しているリアちゃんは空気の変化についていけず半端に手を上げたままぽかんとしていた。
彼女は街中であるにもかかわらず躊躇うことなく抜剣すると、その切っ先をこちらに向けてくる。
「例え異界に逃れようと、私たちからは逃げられない! 見つけたぞ! 混沌の魔王ダイス・ロール!」
その視線と剣で指し示しているのは私たちで。
もっと正確に言うのなら、爆睡している幼女様からは若干横にずれていて。
「……え、私!?」
目が合ったのは、どういうわけか私であって。
「何を惚けている! その世界を滅ぼして余りあるドス黒い漆黒の闇! どれだけ姿を変えようと、そればかりは隠すことが出来ないようだな!」
「いや人違いって言うか酷くない!? てかドス黒い漆黒の闇は混沌としてねえだろ純粋に黒いんだよ!」
「問答無用!」
「話聞けや!」
私には認識すら出来ない速度で斬りかかってくる不審者の攻撃は、突如出現した見覚えのあるバリアに弾かれる。
おそるおそる魔法少女の横顔を確認してみれば、表情がすとんとこそげ落ちた、美しさすら感じる無機質な顔がそこにあって。
「――敵、ですよね?」
「既にこの地でも眷属を……! これ以上の犠牲者を出さないためにも! 貴様は必ずここで倒す!」
そのせいで誤解が解けずに加速していく。
物理的にも超加速して戦闘を始めた二人はもう私の目には映らなくなってしまう。
「ここは憂いを絶つべきでしょう魔王様」
「そうだそうだ! やっちゃってください魔王様!」
「おまえらほんとふざけんなよ!?」
相手が物理攻撃に走ったせいで無害だと判断した馬鹿二人も悪ノリを開始し、事態は更に混迷を深めていく。
言ってる間にも魔法少女と斬り結ぶ勇者だけではなく、聖女っぽい子のセイントなパワーやら錬金術師っぽい子の投擲する謎の試薬が詰まった試験管や見るからな爆弾とかが飛んできて。
それらは女神様のカードに護られたプレイヤーである私たちに傷ひとつ負わせることもなく霧散していく。
後ろの連中にも流れ弾が行くが、全く動じる姿を見せていない。
ド派手なエフェクトのカードバトルでダイレクトアタックしたりされたりするのがカードゲーム系女子の日常である。
流石に光はちょっと眩しいのか目を細めているけれど、この程度の攻撃エフェクトはそよ風のように受け流していた。
そんな襲撃者たちにとって異常な光景が、誤解を更に深めることになるという悪循環。
というか下手に昔のコトぼかしたせいでどれだけ違うって言っても説得力が出ない……!
この状況で本当のこと話しても身内だって適当に誤魔化してる扱いにされるでしょ!?
「あーもう! いい加減にしろおおぉぉぉぉ!」
私の叫びに呼応してデッキケースから勝利の権能が溢れ出し、狼藉者たちを一撃で昏倒させた。
後に残ったのは笑い過ぎてお腹を抱えている友人たちと、止めを刺せないことに気付いて拘束に移行し始めたアルちゃん。
そして全く事態が飲み込めずに状況に置いて行かれているリアちゃんの姿であった。
魔王様は最後までお目覚めになることなく、憎たらしいくらい幸せそうに午睡を堪能されているのであらせられた。