ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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第27話

「……で、どうしようこれ」

 

 太陽もすっかりと地平線の彼方へと沈み、部屋の外は既に夕闇に包まれていた。

 1LDKの公営住宅の片隅に縛り上げられた不審者三名が転がされており、私たちも含めて合計八人は流石に手狭に感じてしまう。

 

 部屋の鍵を拝借して予定通り荷物を運び入れ、備え付けの冷蔵庫に生ものを、寝室には魔王様を丁寧に収納して。

 

 一仕事を終えた我々はたぶん事情がわかってないだろうリアちゃんに一応の事情聴取をする流れになった。

 

「ええっと、困ってるみたいだから声かけたんだけど……」

 

 返ってきた答えはおおよその予想通り。

 この世界ではたまに見かける別の世界から来た野性の英雄たちであり、こちらに逃げ込んだ魔王を追って痕跡を探していたのだそうで。

 

 案内人がいてもあいつらカード持ってなかったのかという疑問には、リアちゃんだしという説明が適当になるだろう。

 全財産をパックにぶち込む金銭感覚を持つ彼女が知り合ったばかりの赤の他人に奢ると思っているのであれば考えを改めたほうがいい。

 

 件の魔王はデオチドットコムで名前を検索しても出てこなかったけれど、ここは視聴者投稿サイトなので出落ちした魔王がすべて掲載されているわけではない。

 そもそも情報サイトではなく娯楽系のウェブサービスなのだ。

 その信頼度は決して過信していいようなものではない。

 

「というかウィーのことは勘違いにしても、あの魔王様が混沌の魔王で合ってるの? あの子の好みからすると普通に闇属性で、混沌とは違う感じじゃない?」

「結構堅実な感じだよねー。混沌とか言ってる魔王様が住民登録して公営住宅借りてるとか想像出来ないしさー」

「ごめん別の世界基準の普通で悪いんだけど闇の魔王が住民登録して公営住宅に住んでるのもだいぶ想像しづらいんだけど」

「実際にいるじゃない」

「それはそうだけども」

 

 なんとなくスルーしてしまっていたが、やっぱこの世界は懐が深すぎると思うんだ。

 たぶん魔王様が引越し蕎麦をお届けに来ても平然と受け入れて挨拶するでしょこいつら。

 

 魔王様も魔王様で適応能力が高過ぎる。

 初見のときだって既にデッキをこさえていたし、特に軋轢なくこの世界のルールに順応しているのは魔王という職業としてはかなり珍しい部類だと思う。

 

「その……私が処理しておきましょうか?」

「駄目」

「闇属性は魔王様だけで十分かな!」

「アルちゃんは幸せになって……いやもう本当にさ」

 

 淡々と闇を溢れさせそうになっている魔法少女をみんなで抱きしめても、解決策は特に出ることはなく。

 

「それにちゃんと解決すれば新弾が出るかもだから……!」

 

 物欲に塗れた女神様の直系もひとまず置いといて。

 

 現状、前に進みそうな選択肢は眠りについた魔王様を目覚めさせるか、不審者たちに直接尋ねるかの二択だろう。

 後者だとまた騒ぎ始めそうだし、とりあえず友好的な御方に説明を願おうかと結論が纏まりそうになったところで。

 

「くぅ……ここは……?」

 

 事態がややこしくなりそうな方向に勝手に進みだした。

 

「マルチ! クィリー! くそっ……捕まってしまったのか……! 殺すなら殺せ!」

 

 こちらからアクションをするまでもなく目を覚ました勇者ちゃんは華麗なくっころを披露し、同様に仲間たちも転がされていることに気が付くとそのままの状態で暴れ始めた。

 

「……えっ? そんなっ! ノアナ様! クィリー様!」

「……んぅ? あー……二人とも、ちょっと落ち着いて。殺されてないなら交渉の余地はあるってことでしょ」

 

 その物音でお仲間の二人も意識を取り戻してしまう。 

 なんだよこいつらそういう星の元にでも生まれてんのか???

 

 ただ、どうにかひとりだけ冷静な子がいるのは不幸中の幸いと言うか。

 

「あー、こっちは何も分かってないから事情を説明してもらっていい?」

「魔王に話すことなど何もない!」

「ノアナはちょっと黙ってて」

 

 すげぇ、まともに会話が成立するだけでめっちゃ知的に見えるぞこの子。

 

 とりあえず騒いでいる勇者は放置して、推定錬金術師のクィリーさんをソファーに案内する。

 

「……うん、やっぱり人間に見えるね。魔力を感じないからボクたちとは少し違うみたいだけど」

「じゃあ何で躊躇いなく襲ってきたの???」

「間違ってたら蘇生すればいいかなって」

「倫理観が全然ちがーう……」

 

 引き金の軽さと命の軽さが比例してるタイプの世界観かぁ……。

 この分だと混沌の魔王とやらもその辺で事故死してそうだなぁ。

 

 彼女が話してくれた内容自体はリアちゃんの説明の焼き回しだ。

 当事者だからこその肉付けが増えたくらいで、現状欲しかった情報は手に入らない。

 

 ならもう仕方ないかと、さっきコンビニで買ってきた未開封のストラクチャーをぽんと置く。

 

「……これは?」

「開けてみれば分かるよ」

 

 彼女は勇者から飛んでくる野次を聞き流し、ひとしきり警戒はしたものの、他に選択肢がないことを悟ったのか恐る恐る箱の蓋を開ける。

 そして、一番上に乗っているカードを確認すると、少しだけ気を緩めたように見えて。

 

「二人とも、この子たちはたぶん大丈夫だ。むしろ女神様に近しい存在かもしれない」

 

 勝利の女神様によく似ているリアちゃんの顔を改めて確認すると、彼女は仲間たちにそう告げた。

 

 聖職者がいるから宗教的に大丈夫なのかとは思ったけれど、その辺は割とファジーみたいだ。

 

「結局私のこと闇がどうこう言ってたのってなんだったの……?」

「何かを感じ取ったのは間違いないと思うけど、勘違いじゃないかなぁ。もう分かってると思うけど、ノアナって思い込みが激しいタイプだから」

「くっそ迷惑なんだけど」

「同感。後処理するこっちの身にもなって欲しいよ」

 

 苦笑を浮かべる苦労人と硬い握手を交わし、残った二人にもストラクチャーの箱を渡す。

 半信半疑ながらも仲間の言葉で信じるほうに偏ったらしく、彼女たちも同様に勝利の女神のカードを手にすることになる。

 

「……なるほど、私達の攻撃が通じなかったのは女神様の加護だったのか。であれば闇の眷属であるはずがない。早とちりしてすまなかった」

「相手にしてるのが闇なのか混沌なのかはっきりしてくれません???」

 

 無事に誤解が解けたのか、思いのほか素直に頭を下げる勇者様。

 

「わ、わたしはなんということを……」

「ママも大丈夫って言ってるから気にしなくてだいじょぶだよ」

「ま、ママ……? 女神様が、ママ……!?」

 

 やらかしたことが想像以上で必死になって頭を下げている聖女様。

 

「へぇ、これってボクの姿絵かい? ふむ、色々書いてあるね……」

「あ、基本ルールから説明するね!」

「初心者は丁寧に沼に沈めないとね……」

 

 我関せずとカードの把握に努め始める錬金術師。

 

「くぁ……すまぬ、我としたことが眠りに落ちておったようだ」

 

 そして状況が落ち着いたこのタイミングで我らが魔王様が深き眠りからお目覚めになられた。

 

「……む? 客人か? そちらの女神の眷属は見覚えがあるが、他は知らぬな。御主らの友であればやぶさかでもないが、家主の許可もなく他者に敷居を跨がせる行いは感心したものではないぞ」

「あ、そこはごめん。荷物放り出して他に連れてくのも難しかったからさ」

「事情があるのなら説明せよ。事後承諾だが許可を出さんこともない」

 

 常識的なこと言ってるだけのはずなのに、さっきまでの勇者の対応を見るとどう考えても魔王様の器が大き過ぎるんだよ。

 どっちに従うかって聞かれたら私はなんの迷いもなくこっちに傅くと思うんだ。

 

「なら折角だしゲームしよう!」

「……む?」

「この子たち、自分が描かれたカードが手に入ったみたいだからね。普通に自己紹介するよりこっちのほうが面白いでしょ?」

「くっくっくっ……そう来たか! ならば構わん! 我を楽しませてみせよ!」

 

 積極的に絡みに行っていた二人はもう仲良くなったらしく、実にこの世界らしい交友の深め方を提案してきた。

 もちろんノリのいい魔王様は含み笑いをしながら快く受け入れてくださって。

 

 

「あ、流石にガチ初心者なんでちょっと時間くださーい!」

「基本ルールも把握してないから30分……いや1時間は欲しいな。晩御飯とかお風呂済ませて待っててよ」

 

 

 ババーンとポーズまで取っていたのにしばらく固まったあとスンッっと小さくなり、私に視線を向けて来た。

 捨てられたチワワみたいなつぶらな瞳を向けないで欲しい。

 

「買ってきた惣菜はどこに入れた?」

「……寝起きだしさっぱりしたものがいいよね」

「油物を寄越せ。今から少し暴を見せねばならぬ」

 

 幼女がから揚げ頬張ってても可愛いだけだと思うんだけど、そこのところなの大丈夫でしょうか?

 

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