「【システムエラー・アルタンドフォース】を発動、追加コストとしてデバッグカウンターを3つバグカウンターに変換。このターンのバトルフェーズと、追加効果でバトル後の処理を全てスキップするよ」
「くっ……防御が硬い……!」
「まずいね、バトル後に伏せるつもりだったから、返しのターンの防御が……」
「ですがさっきは先に待機状態にしたせいで発動前に除去されてしまいましたし……」
「その辺の心理戦が耐久型の醍醐味だからねぇ」
これだけ大人数が集まっていればゲームは1回や2回では終わらない。
手を変え品を変え相手を変え、交流会はゲーム大会へと姿を変えた。
「まあこれエンド時の自壊デメリットとかも飛ばしちゃうから一長一短なんだけどね。私のターン。――ターン開始時にバグカウンターを全てデバッグカウンターに変換、個数は7個。変換数が5個を超えたからデメリットを選択するよ。私はバトルフェーズのスキップを選択。それから効果でデバッグカウンターをプラス1」
「全然攻撃してこないからデメリットになってないじゃないか……!」
「デメリットなんて踏み倒すものですしー? では改めて、カードをドロー。【システムエラー・デフラグブラフ】を発動、コストとしてデバッグカウンターを6つバグカウンターへ変換。変換したカウンター3つにつき1枚、使用済みのカードを待機状態で復帰させるよ」
「ここは止めどころだよ! マルチ!」
「はいっ! 待機状態の【鎮魂の儀】を発動します! このカードが場にある限り、墓所への干渉を禁じます!」
「おっと、すかされたか。単純な無効化だったら追加効果が発動できたんだけど」
「無効化されたのならおとなしく無効化されておいてくれ……!」
すっかりゲームに馴染んだ三人娘も、波に乗った私のデッキには歯が立たず。
アレな名前だって笑いのピークを過ぎてしまえばもはや気にならない。
なにせうんこまんが頂点を競っている世界なのだ。
探せばというか別に探さなくてもこれより酷いデッキなんていくらでも転がっているし、なんなら野良試合でも遭遇する。した。
割と狂ってるな、うん。
彼女たちのデッキは揃うと強いが揃えるのが難しいというLED御用達の構築のようだ。
聖女と呼ばれるだけあって約一名には素養があるから十分回せているのだけど、軸になっている勇者を除去されてしまうと一気に崩れるという欠点も明白だ。
耐性付与に蘇生もありと盤面維持の手段は豊富だけどその分攻め手に欠けるので、より耐久に特化した私みたいなデッキが相手だと突破が難しい。
バーンや特殊勝利もなく地道に削るしかないというのは、おそらく彼女たちの本来の戦い方に近いのだろう。
執拗に勇者が除去されるのを見て本人は嘆いていたが、マストカウンターを撃たれるレベルのキーカードであることは誇ってもいいと思う。
それに、カード単体で見ても結構パワーが高いのだ。
勇者や聖女というのはカードゲームではよく見る称号なので汎用カードにそこそこサーチ手段が揃っている。
あと何気に勇者のバトルモーションがバックスタブなのも環境では追い風だ。
勇者名称で背面攻撃が出来るカードは非常に珍しいため、尻にパンを挟む連中への対応策として結構な出張性能が見受けられる。
なにせ明確に穴を狙ってくるからなこいつ。ピンポイントメタ過ぎるだろうが。
錬金術師さんは……他のデッキでの活躍はちょい難しいか。
サーチ先がポーション名称なら使いでがあるんだけど自分の名前を参照してるからなぁ。
「デバッグカウンターが0かつバグカウンターが10個以上のとき【システムエラー・コントラディクト】をコストに【システムエラー・レッドスクリーン】を発動。……通れば特殊勝利になるけど、どうする?」
「【カウンタースペル】を発動して打ち消すぞ! そのカード発動の瞬間がそのデッキ最大の隙だ!」
「なら私も【カウンタースペル】で無効化するね」
「馬鹿なっ!? 汎用カードは使えないのではなかったのか!?」
「そのデメリットは【コントラディクト】の常駐効果だからコストにしてどかしちゃうとフツーに発動できるんだなコレが。手札で腐ってた汎用カードの群れを超えられるかが最後の壁でーす」
「くっ……まだだ! 【裂光剣アナ・ルヴァイブ】の最後の効果! 自身と引き換えにカードの発動を無効化する!」
「それ無効化能力まで持ってんのかよ。汎用性たっかいなぁ……まあ二枚目の【カウンタースペル】で」
「クィリー! 何か無いか!?」
「うーん……残念だけど、もう打てる手が……」
「……お見事ですウィーさん。わたしたちの負けですね」
「いよっし! この瞬間が一番ハラハラするんだよなぁ! 対戦ありがとうございましたーっ!」
勝利の女神様の祝福により張り詰めていた糸がぷつんと切れ、内側からは喜びが溢れ出す。
いやもう結構危なかった!
残りの手札もほぼブラフであと1枚しか妨害握ってなかったから本当にギリギリだった!
だってこのデッキ、汎用カードのサーチとか出来ないもん! 素引きしないといけないんだもん!
手札で腐りがちになる汎用カードを握ってないと逆にこっちが即死しかねないのが【レッドスクリーン】の【レッドスクリーン】たる所以だろう。
発動条件にデバッグカウンター0とあるので、純構築だと完全に無防備になってしまうのは勇者ちゃんが見抜いた通り。
メインエンジンというか完全に【コントラディクト】に依存したデッキなので、これで勝てないとそのままなぶり殺しの憂き目に遭ってしまう。
かと言って汎用札を入れ過ぎると普通に事故る。
その辺がこのデッキの面白いところうんぬんかんぬん。
対戦を終えた三人と順番に握手していく、つもりでいたら、なぜか一人目が手を離さなくて。
「君は何を躊躇っている?」
至極真面目な顔をして、勇者と呼ばれる少女が私の瞳を覗き込んでいた。
「……いや、何の話? 正直心当たりが無いんだけど……?」
「他の者ともゲームをしたが、君だけカード捌きに躊躇いがあった。特にターン開始時の処理だ。カウンターの処理だったか……あのときに一瞬視線が何も無い場所を泳いでいるだろう?」
「あー……それ、矯正中の悪い癖でして……」
言われてしまえば、それははっきりと自覚のある部分だ。
ただ、躊躇いというわけではなく、無意識に違う動きをしてしまうのを矯正しているだけであって。
「違うな」
だけど勇者と呼ばれるような人物の眼力は、奥深くまで貫いていて。
「剣士が剣を振り方を身体に覚え込ませるように、この世界の武器であるデッキからカードを引くという動きも、各々特徴を持って身体に染み付いている」
彼女は大量生産技術が必要なカードゲームなんて存在しなかったファンタジー世界の出身で。
世界を託されるに値する優れた直感を有している人材で。
「君のそれは身体に染み付いた一連の動作のはずだ。必要だからこそ、そちらに視線を向ける癖を付けたのだろう。これは素人だからこそ出てくる発想なのかもしれないが……君は元々別のカードゲームをやっていたのではないか? 流れてしまう視線の先に重要な何かが置かれているような、ルールが異なる代物を」
「…………っ、それ、は」
この世界に、カードゲームと呼ばれているものはひとつしかない。
トランプみたいなちょっとしたテーブルゲームは別の世界から流れてきているけれど、これほどしっかりとしたルールと情熱を持って組み立てられた――
「うっそぉ!?」
「なにそれなにそれ!?」
言えば必ず興味を持たれるのは分かっていた。
既に言ったことがあるからこそ分かっていたんだ。
カードゲームと共に生きているこの世界の人たちが、カードゲームに興味を持たないなんてこと、あるはずがないんだから。
「……興味深い話だけどやめときなよ」
「うむ、他人の過去など興味本位で掘り返すものではない。既に一度、それも日も跨がぬうちに失敗しておるだろうに」
冷静な面々が止めてくれるけれど、それでも一度火が着いた興味を完全に消すことは出来ないのだろう。
ちらりちらりと流れてくる視線は、どうにも居心地の悪い空気を醸し出していて。
「……すまない、不躾だったようだな」
「もうちょい気遣いとか覚えたほうがいいと思うよ」
「善処しよう」
流石に気まずくなったのか、下がっていく勇者ちゃんは仲間たちのお説教を受け始めた。
代わりに近寄ってきたのは、飴色の髪に翡翠の瞳を持つ、ミントの香りを漂わせた小柄な女性で。
「んん~~、というわけでウィーちゃんの昔の話を聞いてみようの会を始めまーす」
「いつからいたんですか、薫さん」
彼女はパァンと手を鳴らして注目を集めると、謎イベントの開会を宣言する。
連絡は入れたからそのうち駆けつけてくるとは思ってたけど、タイミングもやってることも謎過ぎる。
そのおかげで一気に空気が緩くなったのはいいんだけど、私だって昔のことなんて思い出したくないんだが。
「ようやく調整が終わったから口止めは今日までです! ほらこれ、ウィーちゃんのカード」
薫さんの小さな手から、小さなカードケースが渡される。
この世界のカードでは大き過ぎて入らない、規格の違う、私のデッキだったモノ。
久方ぶりに箱を開けても、以前と枚数は変わっていない。
それを確認できたおかげで、悩んでいるのも一気に馬鹿らしくなってしまって。
本当に、私の保護者は、何もかも見透かすように、分かっててやってんだから性質が悪いのだ。
「何から話せばいいのかわかんないけど……」
一度大きくため息をついてから、取り出したカードをみんなに見せるようにテーブルにおいた。
汎用的な初動カードで、見たら焼けとももう焼けてんだよとも言われたりした、
「私は昔、チャンピオンだったんだ。学生レベルの大会でって話だけどね」
もしかしたら今日リアちゃんが遭遇したのは、勇者たちでも魔王様でもなく。
別のゲームを持ち込んだ私だったのかもしれないと、記憶の蓋を開けていく。
普通とは常識で、普通とは前提で、普通とは当然で。
異なる世界に身を置いたのなら、その全ては異常となる。
――ウィー・マイン
一人殺せば人殺し、十人殺せば殺人鬼、百人殺せば英雄だ。
ならば千の年月と万の敗北を乗り越えた者は、いずれ魔王にさえ到るだろう。
――不屈の魔王エス・ケープ
神はサイコロを振った。一人の少女が勇者になった。
神はサイコロを振った。勇者の武器が剣に決まった。
神はサイコロを振らなかった。名前は自分で決めたのだ。
――勇者ノアナール
教会は、彼らの名誉のためにその名を秘匿した。
歴史から消された名を探り当てた者は、彼女の名誉のためにその名を秘匿した。
神より賜った真名をみだりに名乗ってはならないという教えを、聖女は真摯に護り続けた。
――聖女オチン・マルチン・ピローン
名で売れるようになったポーションはいずれ腐る。
こんな名前でも売れるポーションを作り続けるんだ。
――錬金術師ビヤ・クィリー
俺たちからこれ以上何を奪うつもりだ!?
マナが欲しい? そのくらいならまぁ……。
――焼け出されたエルフ
どのフレーバーが好みだい? ―― 一服
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ウィー・マイン
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不屈の魔王エス・ケープ
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勇者ノアナール
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聖女オチン・マルチン・ピローン
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錬金術師ビヤ・クィリー
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焼け出されたエルフ