ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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第3話

「あっ」

「あっ」

 

 休日のぽっかりと空いた時間。

 ゴミ出しをしていないことを思い出したので地域指定のゴミ袋をサンタのように担ぎながらゴミ捨て場に向かった先で。

 

 ネコミミフードの美少女がゴミを漁っている場面と遭遇した。

 

「……おはよう、リアちゃん」

「…………おはよう」

 

 知らない仲ではないというか、このあたりの有名人というか。

 

 ネコミミフードのリアちゃん、歴戦の浮浪者、サバンナアニマル第0号、厄介事吸引機。

 他にも数々の二つ名……二つ名? を冠して上の下に属する高ランクプレイヤーだ。

 

 そして同時に野生のホームレスでもある。

 

 ある意味でこの世界の闇を端的に表している個人とも言えるだろう。

 

「えっと……なんか食べてく? 残り物しかないけど……」

「…………ありがたくいただきます」

 

 浮浪者に餌付けするなんて以前は考えられなかったけど、彼女の場合は割と事情がある。

 

 というのも、彼女はホビアニで言うところの主人公枠のような星の下に生まれているようで。

 四六時中闇のゲーム案件のような世界の危機に巻き込まれる人生を歩んでいるらしいのだ。

 

 お祓いに行けば闇堕ちした神様と闇のゲームになり。

 買出しに行けば謎の組織が隠し階段から出てくるのと遭遇して闇のゲームになり。

 何もかも放り出してバカンスに出かけたら現地の悪党と闇のゲームになる。

 

 その結果、まともに学校にも通えずに学歴は中卒、就職も出来ずバイトの経験もなく、資格や車の免許すら持っていない。

 だけど世界の危機には巻き込まれるから食費を削ってでも強迫観念のようにパックを剥くのをやめられない。

 転がり落ちるように浮浪者の道へと辿り着いてしまった可哀想な少女である。

 

 ご近所さんも彼女のことは鉱山のカナリアというか、ゴミを漁り出したら世界の危機が迫ってるという指標にしているというか。

 なんかたくましいから普通に勝って帰ってくるだけまだマシだとは思うのだけど。

 

 改めて考えても闇が深過ぎるだろこれ。

 闇の意味が違い過ぎて闇のゲームとかそういう次元の話ですらない。

 

 だけど一般人どころか大した実力もない居候の身としては、ご飯を食べさせてあげるくらいしか出来ることはないわけで。

 

「最近見なかったけど大丈夫だったの?」

「えぇと……カレシのおうちに泊まってて……」

 

 その一言で全てを察した。

 あぁそのカレシさんが闇堕ちしちゃったんだなぁと。

 

 もそもそと残り物を詰め込んでいくリアちゃんは間違いなく美少女である。

 

 黄金に煌く長髪に透き通るような空色の瞳。顔立ちは尋常ではなく整っていて。

 出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる、食生活を考えるとどうやってスタイルを保っているかも分からない抜群のプロポーション。

 若干薄汚い衣装さえ貫通して魅力を振りまくその姿は、今まで色気のある話を聞かなかったのが不自然な程だった。

 

 本人の実力もあって無理矢理どうのというのは心配することではないのだけど、それでも上には上がいる。

 何なら世界最強だってコロコロと入れ替わる切磋琢磨が終わらない修羅の世界だ。

 カードゲームに絶対はないのだから。

 

 サラダのレタスが宙に浮く。

 まるでそこに見えない何かが居るかのように歯型が浮かび、小人がそれを食べるかのように体積が減っていく。

 

 私には見えないけれど、彼女には所謂カードの精霊が憑いている。なんならゲーム中に右手も光る。

 この世界ではLEDと呼ばれているタイプの能力者である。

 

 LegendaryEgoisticDraw。通称LED。

 ホビアニでよくある、右手やデッキを光らせて都合のいいカードを創造したり引き込んだりする現象。

 それは、この世界ではルール上合法として扱われている。

 

 そんなんアリかよと思うかもしれないが、アリなのだ。

 

 だってよく考えてみて欲しい。

 

 【うんこまん】がダイレクトアタックしてくるのと比べたら、そんなのあまりにも穏当過ぎる(断言)。

 

 そもそも視覚的に宣言してくれるのだから止めどころが滅茶苦茶分かりやすい。

 

 右手が光ったら妨害を投げればいいし、ドローロックをかけてもいい。

 デッキトップバウンスでドローするカードを確定情報にしてもいい。

 ピーピングでデッキに入っているカードを確定させてしまってもいい。

 

 単に都合のいいカードを引き込める程度であれば、どうとでもなるのがカードゲームだ。

 というか別に知力が上がるわけでもないから件の難読系だって綺麗に刺さるのだろう。

 

 カードゲームは右手が光るだけで勝てるようなものではない。この世界では特に。

 純粋にデッキ構築やプレイングの熟練度を伸ばさなければランキング上位に登るのは難しい。

 そこが下の上と中の下との間に隔たる大きな壁なのだそうだ。

 

 右手が光るなんてよくある能力は、この世界だとおまけ程度の扱いなのである。

 

「ごちそうさま」

「おそまつさまでした。……人手が必要なら薫さんに相談しようか?」

「あー……今回ちょっと事情が込み入ってて……」

「めっちゃ面倒なことになってそう」

 

 リアちゃんは巻き込まれ体質なので基本的に事情がよく分からないまま力業で解決することが多い。

 

 その彼女が状況をちゃんと理解しているというのはそれはそれで異常事態ということでもあるのだけど……カレシさんが関わってるならまあ事情は把握してるだろうというのも理解できる。

 

「えっとね、最近カレのとこに泊り込んでて、あ、カレすっごく料理上手でね、ホームベーカリーでパンとか焼くのもすっごい美味しくて……」

「それ長くなるやつ?」

 

 ぽわぽわした表情で頬を染めながら説明するリアちゃんの表情は恋する乙女のそれであり。

 

「でもなんでか部屋に帰ってこなくなっちゃって……待ってたんだけど備蓄もなくなって、買出しに出たらオートロックで締め出されちゃって……」

「鍵持って出なかったのはリアちゃんの注意不足じゃない?」

 

 なんかもう止めようにもあとからあとから惚気が止め処なく飛び出してくる。

 

「アパートの管理人さんに開けて貰おうと思ったら名前も知らないって言われて、あ、これヤバイことになってるなってようやく気付きまして……」

 

 聞き出した内容はなんかもう違う意味で闇が深くなりそうな流れであって。

 

「ごめん、結婚詐欺とかに巻き込まれたようにしか聞こえないんだけど」

「ちがうもんっ! どうしてみんな同じコト言うの!?」

 

 涙目で弁明するリアちゃんの言葉にはもはや説得力というものが存在しなかった。

 

 恋は盲目というか、結婚詐欺にあった人も同じコト言いそうだなぁと思ってしまっても仕方がないというか。

 

 なんかこう、絶妙に協力したいとしたくないの狭間に漂う案件というか。

 関わったら絶対面倒事に巻き込まれるのが想像に難くないというか。

 いっそ真っ当に世界の危機であったほうが気が楽だったというか。

 

「……まあなんにしてもさ、カレシさんに会いに行くんでしょ? お風呂貸してあげるからシャワーでも浴びてきたら?」

「え、いいの!?」

「常識的な範囲なら大丈夫。洗濯するなら着替えも用意しとくけど」

「ありがとう、お願い!」

 

 浮浪者らしく若干の匂いを振りまきながら満面の笑みで脱衣所に駆けていく背中を見送って。

 

 この家には重量税が課されないタイプの体積が小さい人類しか生息していないのにあとから気が付いた。

 善意で貸し出すのに私達の服が発育で暴力されるのは流石にあんまりではなかろうか。

 

 とはいえ彼女の一張羅が洗い上がるまで神の手掛けた芸術作品を白日の元に晒すのもいかがなものか。

 

 ちょっと考えた結果、まあこれしかないよねと端末を操作する。

 

「もしもし薫さん? リアちゃん拾ったからお風呂に入れてあげてるんだけど」

『んん~~? 最近見なかったけど急に来るじゃん。今回の相手はどんなのか聞いてる? 宇宙人?』

「カレシさんが行方不明だって」

『めっちゃ面白そう。ポップコーン買って帰るね』

「私コーラ苦手なのでサイダーがいいです」

『はいはーい』

 

 これでよし。

 うん、なんか色々と端折った気がするけどともかくヨシ!

 

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