ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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EP(エキスパンション)- 星降る夜の物語 -
第30話


『そのような矮小なユニットで何が出来る!』

『エルフはか弱い生き物だ。一体だけじゃ大きなことを出来はしない。だから彼らには森が必要なんだ! 焼かれてしまったエルフの森を! その守護神を、今ここに呼び戻す!』

 

 エルフたちから生み出されたマナで主人公のエースカードが降臨する。

 か弱く可愛らしいエルフたちを護り続けていた、荘厳な空気を湛えたカッコ良い大地の精霊。

 召喚された精霊は更に大量にマナを生み出し、新たなカードでフィールドに彼らの森が再現されて行く。

 

 主人公を、エルフたちを侮っていた悪役は突然の逆転劇に見るからに狼狽し、あっさりと盤面を覆されてしまう。

 

 だけど相手もまたラストを飾るに相応しい相手。

 それだけで決着を付けることは出来ず、ギリギリで踏み止まったそいつは更なる進化を遂げた邪悪なユニットを展開し、エルフの森を枯らし始める。

 

 そんな迫真のバトルシーンをテレビに齧り付きで見ていたのが、幼い頃の私だ。

 

「あ~~~~っ!」

 

 そして一番盛り上がったところで、今週の分は終わってしまう。

 次回、最終回とまで銘打たれてしまい、因縁のバトルの結末は来週までお預けになってしまった。

 

 その日まで、私はカードゲームなんてものは知らなかった。

 いつもその時間は女の子向けのきらきらしたのを見ていたし、たまたまチャンネルを合わせる前の番組がそれだったっていうのが、私とカードゲームとの出会いであって。

 

 だけどその5分にも満たないアニメのラストシーンが、私の中に大きく根付いてしまっていて。

 

 そういうものがあると知った私は、よくわかってないお父さんに今のはなんだったのかと根掘り葉掘り聞き始めた。

 お父さんはわからないながらも検索を駆使して、それがトレーディングカードゲームの販促アニメで、あのカードは実際に手に入れることが出来るということを教えてくれた。

 

 そして次の休日、せがんだ私の身体はおもちゃ屋さんに飛び込んでいた。

 お小遣いを握り締めて、ずらりと並んだTCGのパックのどれを買えばいいのかと立ち竦んだ。

 

 幸いにも販促アニメの影響でTCGを始めようとする私のような子供はいっぱいいたようで、店員さんが丁寧に対応してくれた。

 初心者向けのストラクチャーも紹介されたけどお金が足りなかったし、アニメで見た主人公のエースが描かれたパックを剥けばそれが手に入ると、無邪気に信じ込んでいたのである。

 

 だが現実は非情であり、初めて買ったパックから出てきたのは、当時の私にはよく分からない赤青白のカードだけ。

 主人公の緑のカードも、敵が使っていた黒のカードも出てくることはなく、大いに混乱したものだ。

 

 ムキになってもうひとパック買ったところで、お小遣いは底を突いてしまった。

 緑のカードは出なかった。

 

 更に私はデッキを組むのに40枚必要だという事実に愕然としていた。

 2パック剥いてもたった10枚、色も種類もバラバラでシナジーもなにもない、文字通りの紙束でしかない。

 

 フリースペースで遊んでいる人たちの物理的に積み重なったデッキの厚さに全然足りていないのは、当時の私でも一目で理解できた。

 

 デッキケースにスリーブ、マナをカウントするトークンやプレイマットといった周辺器機を買うお金だってもちろん足りてない。

 子供の懐にカードゲームは重過ぎるという現実を今更ながら突き付けられたのだ。

 

 だが私は悪知恵の働くほうである。

 当時はそこまで顕著ではなかったものの、割と性格も悪い。

 

 当然のことながら子供ひとりでおもちゃ屋さんに来ているわけではなく、その後ろには財布を持った保護者が控えているわけで。

 

 おねだりに屈したお父さんは後日、お母さんに怒られていたらしい。

 現場を見たわけではないから知らなかったけども。

 

 そうやって自分のデッキを手に入れた私は意気揚々とフリースペースに突撃し、当たり前のように惨敗した。

 アニメのように盛り上がるでもなく、現実は実にあっけなくて。

 

 ルールもろくに理解していないド素人が、複数束ねてキーパーツを抜き取る前提のストラクチャーを1箱だけ買って、2パック分の色違いの使えもしないカードまで混ぜ込んで、それで勝ってしまうのならゲームバランスのほうが間違っているだろう。

 

 初めての敗北は、流石にこのまま送り出すのはちょっとと気を使ってくれた店員のお兄さんだった。

 彼にルールを教わりながら、子供なので単純な足し算引き算を間違えたりしながら、思いっきり忖度してもらっても、ずらりと並んだお兄さんのエルフたちをやっつけることは出来なくて。

 

 さてはこの人が主人公なんだなとかアホなことを考えていたのは今でもよく覚えている。

 

 始まり方は、そんなもの。

 販促アニメの影響でどこでだって見られたような、よくある光景のひとつに過ぎなかったはずだ。

 

 負けを積み重ねても全然めげずにどうすればいいのかとうんうん頭を悩ませたり。

 最初のパックに入ってた白のレアカードが実はちょっとお値段のするやつで、価値がよく分かってないまま使わないからとシャークなトレードで緑のコモンの束と交換してしまったとか。

 初心者のあるあるはそれなりにこなしてしまったと思う。

 

 基本的に、私は負けたら意地になるタイプである。

 負けっぱなしは悔しいのである。勝ちたいのである。

 

 難しい文字は読めなくたって、どのコストのカードは何枚にするべき、みたいな構築論をなぞる事は出来る。

 確率やマナカーブの概念が理解出来なくても、書いてある通りにしてみればなんかうまいことカードが出せるなくらいは実際にやってみたらわかるのだ。

 

 そうして強くなった気になって意気揚々といつものお店でいつもの店員さんに挑みかかり、いつものように返り討ちにあう。

 ド素人が初心者になったくらいで勝利を掴めるほど甘くはなかった。

 

 私はアニメの主人公に憧れてゲームに入ったので当然ながら緑のエルフデッキ。

 強い効果もわからずにとりあえずコストの数字だけを合わせてみたコモンだらけの構築で。

 

 店員のお兄さんが愛用しているのも緑のエルフを軸にしたデッキ。

 カードショップで働いてるくらいにはカードゲームが好きな結構ガチ目の構築で。

 

 ミラーマッチに近いから実力差がもろに出るわけで。

 どちらが上だったのかは、まあ言うまでもないことで。

 

 構築が一気に改善したのはお兄さんも驚いてはいたけれど。

 最終回が放映されても結局勝つことは出来なかったけれど。

 

 彼に褒められるのは主人公に認められたみたいで、なんだか嬉しかったのだ。

 

 

 そんなのが、私の生まれた故郷の話。

 

 カードゲームで全てを決定するわけではなく。

 魂を奪い合う闇のゲームなんてのも、もちろんない。

 

 カードゲームが数ある娯楽のひとつでしかなかった世界。

 

 それでもいつの間にか、私の日常にはカードゲームが入り込んでいて。

 特別な何かがあったわけでもなく、誰にでもありえる当たり前の流れであって。

 

 こっちの世界に来て、私の普通(常識)変わってる(異質である)ことになったけれど。

 そんな大きな変化でなくても、少しずつ、私の普通(日常)変わってた(変化していた)のだ。

 

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