少し大きくなった頃。
パックを買うのを我慢してまでDVDを借りて一話から履修し、主人公の活躍を楽しみにしていたというのに。
第二期が始まったアニメでは知らない主人公が知らないデッキを使い始めて私を愕然とさせていた。
しかも青使いである。
正確には青白の複合デッキだったけども。
二期の主人公はクール系のキャラだったのだ。
いくら初心者といえど青使いの性格が悪いのはわかる。
子供相手でも容赦なく打ち消しを投げてくるのが青使いである。
今では私もそっち側なので彼らの気持ちはよくわかるのだけども。
だけどそれが戦術というか勝ち筋であると冷静に理解するには私は幼過ぎたのだ。
そして当然の話であるが、販促アニメの主人公デッキは流行る。それはもうめっちゃ流行る。
行きつけのおもちゃ屋さんでもよく見かけるようになり、負けるにしても何もさせてもらえない負け方は悔しさより空しさが勝るのだ。
ムキになってエルフデッキを握り続けても、元々底辺に低かった勝率は雀の涙にまで落ち込んでいた。
ようやく勝てるようになっていたというか周囲が勝たせてくれるつもりで手加減してくれてるなら勝てるというレベルには到達していたというか。
この頃になると、私は負けても全然めげずに挑んでくる幼女としてお店のマスコット扱いされていたらしい。
カードゲームが男の子っぽい趣味だと気付くのもまだまだ先のこと。
だけど子供のお小遣いでは無理なのだ。
一からまったく別のデッキを構築しなおすなんて全く足りないのだ。
そもそもようやくカードの動き方を覚え始めていた頃の話だ。
やってることがシンプルなビートダウンからいきなりコントロール系のデッキに転向なんて無理に決まっている。
親の敵でも見るように、けれど新主人公を軸に展開していく物語もまた面白かった。
初代の主人公がカードと出会うところから始まるのに対し、彼は最初から自分のデッキを持っていた。
そのデッキの正体と、何故彼が敵と戦っているのかが物語の焦点となっており、子供の私でも流れがわかる丁寧な展開に思わず引き込まれてしまった。
まあ販促アニメなんてそんなもんである。
でも最初のボスに雑なエルフデッキ使いを出すのはどうかと思う。
前作主人公のデッキやぞ? 露骨に下手な回し方してんのが幼女でもわかるレベルだぞ?
私みたいじゃんとか思っちゃう幼女の気持ちも考えて欲しかったんだけど???
まあラスト前あたりで丁寧に伏線が回収されていたんだけども。
それからもう少し大きくなって。
ちょっとおませになってスカートの丈を考えたりもするようになった頃。
アニメの第三期では学園モノが始まっていた。
今までは男の子が主人公だったのだけど、今作では信号機カラーの女の子たちが主役である。
ガラリと作風が変わったのであれ番組間違えたかなとカードバトルのシーンが始めるまで不安に苛まれたのもいい思い出だ。
カラーテーマが複数ある以上、主人公格も複数名いたほうが話が盛りやすいことに運営も気付いたのだろう。
あとは客層を広げるためにもポップな方向性に舵を切ったのではなかろうか。
今だから客観的に分析出来ることなのだけど、当時の私は好きなアニメに女の子っぽいきらきらした要素まで投入されたことで一気にテンションが上がっていた。
と思ったら女子特有のドロドロしたモンを流し込まれてうわぁってなるのもお約束の流れである。
販促アニメで闇堕ちは基本なのだ。
足を掬われたり、悪しき者に巣食われたり、それでも最後には救われたり。
やけに黒が悪役扱いされることも多いので黒テーマ=悪いやつというイメージが固まってしまうのもあまりよくないと思う。
そんな頃、家のお手伝いをするとお小遣いが増えることに気付いた私は積極的に家事の手伝いに名乗り出た。
物欲からの行動だけど、家事が一通り出来るようになったのは今でも役立ってるので欲張ってよかったと思う。
通い始めた学校でもアニメの影響は大きく、デッキを持ち込んで先生に没収される生徒も何人かいた。
ちなみに私もそのひとりであり、一緒に職員室に取り返しに行ったその子たちとは友達になった。
こっちの世界じゃ考えられないかもしれないけど、まあ玩具の持ち込みという扱いだったと軽く流して欲しい。
話を戻そう。
友達になった子達も行きつけのショップがあるらしく、今度はそちらに遊びに行くことになった。
そのお店は私が普段通っていた、おもちゃ屋さんの片隅にカードも置いてあるって感じではなくて、それこそこっちでもよく見かける本格的なカードショップだった。
シングル買いやストレージという概念を知ったのはそのときである。
私のお気に入りのお店が、実はカードショップではなかったというのも驚きの事実だった。
剥いたパックとストラクチャーだけで勝負していた今まではなんだったのかと、知識不足のせいで愕然とするのも何度目だったのだろう。
格安ストレージの前に何時間も陣取ってカードを吟味したり、やたら効果が強いのに雑誌の付録で100%手に入るせいで雑誌一冊分の値札が付いたライバルのレアカードに笑ったり。
新しく知り合った友人やたまたま店に来ていただけのゲーム好きの人と勝負をしたり。
エルフデッキをぶん回しながら一期のよさをひたすら語ったり。
ひとつのお店しか知らなかった私の小さな世界は、その日確かに大きく広がって。
お金にも余裕が出てきて、キーカードを確実に入手する方法も知った私の勝率は、目に見えて伸びていったのだ。
それでも負け越していたのだけれど。
それからもっと大きくなって。
今と変わらない背丈になった頃。
販促アニメは四期目に入り、落ちてくる隕石をカードゲームで止めるのだとシュールギャグみたいな展開に入っていた。
相手が天高くに鎮座していることからソリティア染みたひとり回しの回が増え、こういう滅茶苦茶なコンボもあるのかと年相応の賢さを身につけた私はちゃんと理解できるようになっていた。
このくらいの時期にネットで解説動画なんかを漁り始めた。
ネットリテラシーをちゃんと学んだのでようやく両親からネット環境が解禁されたのである。
デッキの組み方、最低限のマナー、対戦で注意すべき点、実用性のないロマンコンボなどなど。
普通に対戦しているだけでは分からない細かいことやら、自分では握らないデッキがどんな動きをしてくるのかといったことの研究にも役立った。
あとバーチャル配信者にもちょっとハマった。
自分で配信する方向に行かなかったのだけは英断だったと思っている。
この頃の私は色気づいていて。
バイトから正社員になった店員のお兄さんに向けているのが、たぶん初恋なのだと気付いたのだけど。
何度も見かけていた女の人がお兄さんの彼女なのだと知って、感情を爆発させて、デッキも置いて走り出して。
日が暮れるまで静々と泣いて、何やってんだろうと後悔して。
謝って、デッキを回収して、家に帰って、もう一度泣こうと見上げた先に。
月の隣に、昨日まではなかった、輝く何かがあることに、私は初めて気付いたのだ。
唐突に、何の前触れもなく出現していた輝きに。
ちょうど似たような光景を、アニメで見たのを思い出して。
否定するでもなく、呆然とするでもなく、泣き喚きもしなければ、悲観的にもならなくて。
降って湧いた非日常を尊ぶように。
まるでホビーアニメの世界のようだと、少しだけ、わくわくしている自分がいた。