ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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第34話

 話を終えた私の身体には大量のコアラがしがみ付いていた。

 

 みんな化粧が崩れるのも気にすることなく、ぽろぽろと大粒の涙を流しながら私の名前を呼んでいて。

 

 気がつけば目から雫が零れていて、覚えている限りを鮮明に、詳細に、全部伝え終えたと思ったら、身体から力が抜けて。

 立っていることも出来なくなった私は、思い出に浸りながら嗚咽を漏らしてしまった。

 

「どうしてよ……なんで、なんでそんな……っ!」

 

 クールなように見えて人一倍友情に篤い友人は、言葉に詰まって何も言えなくなっていて。

 

「ウィーちゃん……ウィーぢゃぁん……!」

 

 元気印のいつも明るい友達も、今だけはその表情を曇らせてしまっていて。

 

「うそだって、言ってください……嘘だって……! そんな顔をして、帰りたくないなんて、思ってるだなんて……嘘だって言ってください……っ!」

 

 最近友達になった優しい少女は、泣き崩れながら、私の真意を問うていた。

 

「…………だって、帰ろうとして、帰り道を進んで、その先に……何もなかったらどうしたらいいの?」

「…………ぇ」

 

 私は、あのあと私の世界に何があったのか、知らないのだ。

 

「何が起きたのかは今でもわかんないよ。でも、確実に何かが起きてた。私がやったことで、絶対に流れが捻じ曲がった」

 

 あの教団がなんなのかは分からない。

 あの少女が何をしようとしたのかも分からない。

 あの隕石がどうなったのかだって分からなければ。

 あの世界が無事なのかどうかさえ、分からないのだ。

 

 ただひとつだけ分かっているのは、私の行動が、何かの結果をもたらしたということだけ。

 

「帰りたくないよ。帰るなんて行為を、したくない。帰り道に、帰る場所に、何があったか、直視して……私のせいで全部壊れちゃったのが分かっちゃったら……きっと、私も壊れちゃうよ」

 

 だからずっと、目を背けていた。

 無理に話さなくてもいいっていう、薫さんの厚意に甘えたままで。

 

 別の世界と連絡を取ることがそう難しいことじゃないのを知っても。

 別の世界から精霊という形で誰かがこちらを訪れることを知っても。

 別の世界から、人がそのままやってくることを知ったって。

 

 カードゲームが中心の、けれどちょっとおかしなこの世界の、面白おかしい様相に気を取られたフリをし続けた。

 

「んん~~、大丈夫だと思うけどなぁ?」

「話を聞く限り劇場形式の寄生型かな? 幻覚の範囲が広いのがちょっと気になるけどウィーちゃんが破いたのも正解だし、でも残党が残ってるかも……?」

「なら確認しにいこっか、ちょっとデッキ調整してくるね」

 

 そしてあまりにもさらっと流してる人たちがいるのに、目が点になった。

 

「え、あの……薫さん? リアちゃん?」

「あ、ちゃんと説明しないとだよね。ウィーちゃんが撃退したのって、自分のカードを相手に使わせて肉体を乗っ取るタイプのやつだと思うんだ。宗教団体を立ち上げて社会的地位を取ろうとするムーブもよく見かけるし……ウィーちゃんの場合はマッチポンプで救世主の枠にでも収まろうとしてたんじゃないかなぁ」

「そんなこなれた様に言われても困る」

「だってそういうの、もう20回はやっつけてるもん」

「そういや歴戦個体だったわこの子」

 

 日常的に世界救ってる子にとっては私の人生なんて日常茶飯事レベルだった。なにそれ。

 

 いやおかしいだろなんでこの世界滅んでないんだよ。

 あのレベルが20回とかどっかで誰かが躓いただけで終わりに向かうだろうどう考えても。

 

「それじゃみんなちょっと離れててねー。私のターン!」

 

 そして薫さんが虚空に向かってゲームボードを構え、先行1ターン目らしい状況でぎゅんぎゅんデッキを回し始めた。

 ひとしきり準備を整えてターンを渡すと、見えない誰かを相手にテキパキと伏せで対応をし始める。

 

 かと思えば勝手にバトルフィールドのモンスターが破壊される。

 明らかに一人回しではなく、ゲームのシステムが働いていた。

 

「え、あれなにやってるの?」

「世界の壁さんとのゲームだよ?」

「世界の壁さん」

 

 また聞いたことのない概念を常識レベルで語らないで欲しい。

 

「こっちから別の世界に行くには世界の壁さんとのゲームに勝つのが一番手っ取り早いんだ。薫さんならそう時間もかからないと思うからみんな荷物用意してね」

 

 その言葉に、私に縋りついていた三名がゆらりと立ち上がる。

 

「――そうなんだ。【アサルトアッシュ】の準備は出来てるよ」

「――リアちゃんだけで全部やらないでよ? 【バーバリアンブレイド】も血に飢えているからさ」

「――戦術システムアクティベーション。別の世界であれば、カードに頼らなくてもいいんですよね」

 

 待ってくれ、私の情緒を置いてけぼりにしないでくれ。

 アルちゃんのいざというときの攻撃性は見たことあるけど、君らキレるとそんなになるんだね。

 

「いや待って待って待って! そんな何か起きるとか決まったわけじゃないから!?」

「起きるに決まってるでしょ? リアちゃんが絡んでるのよ?」

「ごめんもう言い返せない!」

 

 前に遭遇したときのエンカウント密度を思い出すと絶対なんか起きるって確信出来ちゃったよどうすんだこれ。

 

 助けを求めるように魔王様にも視線を向けるが、呆れるようにジト目で返された。

 

「愛された者の宿命だ、諦めよ」

「せめてついて来てくれませんか?」

「魔王たる我が降臨すれば余計な不和を招くだけであろう。そも、過剰戦力に過ぎる。女神の眷属だけでも十分であろうに」

 

 ぐうの音も出ない正論である。

 いや、実際にリアちゃんが無双してるところは見たことないから戦力に関しては私じゃ見当つかないんだけどさ。

 

 私が見たことあるのってアレだぞ?

 尻にパンを挟んだ紳士とイチャついてる光景しかないんだぞ???

 

「御主が負けを知らぬ常勝の英雄であったのならば、こやつらと友誼を結ぶこともなかったであろう。御主の選択、御主の出会いは敗北を積み重ねた故の事。不屈の魔王たる我が断言してやる。――ウィーよ、御主は無数に積み重なる敗北の果てにここに到ったのだ」

「幼女の癖にカッコいいこと言いやがって……っ!」

「む、我の威光が漏れてしまったか。この器に威厳などは求めておらんのだがなぁ」

 

 くつくつと喉の奥で笑う魔王様の姿は、記憶の底にあったイラつくような白いクソガキとは重ならない。

 見えるのは眼帯で片目を隠して不遜な笑みを浮かべている、誉れ高き魔王の器だ。

 

「んん~~……じゃあ伏せ割って総攻撃でリーサル! いよっし! 対戦ありがとうございました! みんな、終わったよー!」

 

 世界の壁さんとゲームをしていた薫さんも無事勝利を迎えたようだ。

 

 いや相手の盤面どころかカードの宣言もなんもないのにどうやって勝ったんだよ。

 あれたぶんなんか間違えるとジャッジキル取られるやつだよね?

 

 世界ランカーの実力が果てしなさ過ぎて怖いわ。

 

「それじゃ先行って足場確保してるねー」

 

 そして嫌な記憶が刺激される空間の裂け目をするりと通り抜け、通り、抜けて――

 

「――薫さん!!?」

 

 咄嗟に声を荒げたけれど、異空間に入り込んでしまった彼女には、もう届かなくて。

 

 追いかけようとしても、腰が抜けたままで、まともに足が動かない。

 手を伸ばしたまま、バランスも取れずに床に倒れこむ、前に、友人たちが支えてくれて。

 

「……何か思い出したの?」

「薫さんならきっと何があったって大丈夫だよ! なんたって世界ランカーなんだからさ!」

「だからだよっ!!」

 

 私の悲鳴が部屋に木霊する。

 

 薫さんは強い。疑いようもなく、強い。

 最強ではないけれど、この世界で上から数えたほうが早い圧倒的な実力者だ。

 

 だから、だからこそだ。

 

 【アサルトアッシュ】でも、【バーバリアンブレイド】でも。

 リアちゃんの【マギカ】でも、魔法少女のアルちゃんだっていい。

 

 だけど、だけどだ。

 

 

「あの人だけ先行させたら私の世界が【うんこまん】に救われることになっちゃうんだけど!?」

 

 

 アレに救われる歴史が残るのだけはどうにかならんかという意見は、救われる側として傲慢すぎる考えなのだろうか。

 

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