「ドロー! 変なカード! ドロー! 変なカード! ドロー! 変なカード! ドロー! 変なカード!」
デパートの屋上にはリアちゃんの元気な声が響いていた。
デッキトップからカードを引くという動作を高速で繰り返している。
引き抜かれたカードは手元に残ることはなく即座に投げ捨てられ、大量にドローしているはずのデッキは何故か厚みが変わっていないという不可解な現象すら起きている。
――相手の本体がカードだから右手を光らせて無慈悲に拉致しまくっているのである。
事情はわかってなくても類似解決例が訳分かんないくらい積み上がってるからなんとなくで解決策を思いついてそのまま実行して解決しまうという、リアちゃん特有の「なんか解決した」を目の前でまざまざと見せ付けられていた。
しかも今回は相手の方向性がある程度掴めているため、最適解を選ぶのに一切の躊躇いがない。
「あれ乗っ取られたりしないんですか?」
「あの手の輩はゲームの中で使わなければ即座に乗っ取りは出来ないんだよ。持ってるだけだと徐々に徐々にって感じだし、リアちゃんはその手の耐性が滅茶苦茶高いからね。女神の直系だけあって力的な何かがミッチミチだから、内側に入り込んでもこう、放射線除菌みたいになっちゃうらしくて」
「神の力をそんな風に例えてるの初めて聞きました」
引き抜かれたカードはそのまま焚き火の中に放り込まれていく。
流れ作業でカードたちが焼却され悲鳴を上げていく様は、世界の危機の解決ではなく害虫の駆除作業かなんかであった。
「もっとこう……異種ゲーム戦とか、最終決戦的なやつが起きるんじゃないかと思ってたんですけど……」
「ウィーちゃん、それはちょっと夢見過ぎじゃない? 私達の世界じゃないんだから別にカードで解決しなくたっていいんだからさ」
「それカードゲーム中心の世界の人が言います???」
現実から目を背けるように視線を横に移動させれば、そっちはそっちで別の無慈悲が繰り広げられていて。
「【アサルトアッシュ・パンプキンチャリオット】!」
「【バーバリアンブレイド・ブレイクバースト】!」
「「このカードの効果で全ての敵に攻撃を行う!」」
色々とキマっている二人はユニゾンを決めながら目に見えていない"全ての敵"に対して無慈悲な全体攻撃を仕掛けていた。
カードの効果が現実に影響を及ぼすのは、闇のカード関連だとままあることだろう。
それはつまり、特定の手順を踏むことで、カードの効果を現実にまで拡張することが可能だということだ。
だからってこんな概念攻撃みたいな使い方するんだと、私には馴染みのないカードの扱い方を心得ている友人たちに、やっぱこの子たちもあの世界の住人なんだなと奇妙な納得が齎されていた。
いやもうホント、あの世界の人類にとって、カードゲームのルールは拘束具だったんだなってしみじみと感じている。
自由にカードを使用して効果を発揮してもいいとなると、こんな理不尽が展開されるとは思ってもみなかった。
【アサルトアッシュ】は搭乗型巨大ロボを駆るお姫様のデッキだ。
あの世界の童話に元ネタがあるらしく、【アサルトアッシュ・パンプキンチャリオット】や【アサルトアッシュ・グラスヒールクラスター】なんかでキーカードが段階的に強化されていき最終形態に到るという、ワントップのスロースターターのデッキである。
最終形態への進化に注力し過ぎて他がおざなりになったり、いざ進化してもリソースを吐きすぎて失速してしまったりというのがいつもの負けパターンでもある。
【バーバリアンブレイド】は文字通り蛮族の武器をモチーフにしたデッキ。
複数効果があるが順番にしか発動出来ず、デメリット効果の後にしかメリット効果を使用出来ないものもあったりするという、蛮族の名とは裏腹に結構頭を使うタイプの降臨型デッキだ。
純構築だと実質的にハンドレス戦法にならざるを得ないというピーキーな性能に、本人の頭の出来も相まって実はあんまり使いこなせていないという残念な事実があったりする。
今回もそこそこプレミしてるみたいだし、リアちゃんの最適解というのもおこがましい何かに比べたら可愛いものだろう。
だがよく考えてみて欲しい。
数メートル規模の巨大ロボと、それと真っ向から殴り合える蛮族系女子が実際にその暴を振るい出したらどうなるのかということを。
そうだね、蹂躙だね。
私の生まれた世界は、なんかこう、普通だ。
いや私の基準になってるから何があっても全部普通って言えちゃうんだけど。
カードゲームで全てを決めるわけでもなければ、尻にパンを挟んでボクシングをする謎の競技が蔓延っているわけでもなく、魔法少女が魔王と争っているわけでもない。
別の世界から持ち込まれたものは大抵こっちの世界にはないもので、当然ながら対抗策もありはしない。
そんな世界を牛耳ろうとしていた侵略者たちの実力も、まあ相応のものでしかなくて。
向こうも必死になっているのか直接こちらに出向いて来るのもいるのだけど、そんなやつらにはパステルカラーの光線が淡々と照射されていた。
女児向けアニメみたいな可愛らしい見た目とは裏腹に尋常ではない殺傷力が込められた魔法少女の通常攻撃が、支配された人々の持つデッキから寄生体本体のカードだけを恐るべき精密さで焼き払っていく。
黒髪眼鏡のままバトルドレスに変身し、無表情で無感情にビームを連射してるアルちゃんの姿を見ると、もしかしてマホちゃんは安全弁だったのではといらん心配が湧いてくる。
うん、私やることねーな。いつものことだけど。
思ってたより侵略が進んでいたというか、こっちに戻ってすぐに蹂躙が始まったからろくに事情も把握していないんだけど、なんかこう、私のときと同じようにこの場所に集まって何かをしようとしていたみたいなのだけど。
だがもうなくなった。
こいつらはこいつらでカードゲームで世界を支配しようという輩だったのかもしれないが、勝利の概念防御みたいに理不尽な強制力を持ってなかったのが運の尽き。
彼らを圧倒的に上回る別の世界の暴力を前に、瞬く間に侵略者たちだったものが積み上げられていく。
そもそもひとりで世界の危機を解決出来る人材が複数いるし、何度も巻き込まれて場馴れしている友人たちに、最終決戦兵器魔法少女まで降臨している。
これもうカードゲームじゃねーよマルチバース能力バトルモノだよ。
しかも一方的に蹂躙してるとか情緒もクソもねえじゃねえか。
「んん~~、暇になってきたし私も遊んでこようかなぁ」
「薫さんは座っててください、頼みますから」
クソがあるならそれはそれで困るんだけどさぁ……!
「ドロー! 私のカードっ!! みんなー、見えないとこにいるやつは全部片付いたよー」
そうこうしているうちに未確定情報が全て消えたらしく、役目を終えたリアちゃんは汗を拭いながら元気な声を上げていた。
見えてなければ必中って、潜伏して浸透するタイプの相手にしてみればあまりにも理不尽過ぎる能力である。
残った敵はアルちゃんが捕捉してるだろうし、これはもう終わりでよさそうかな。
そんな風に気を抜いていると、不意にこちらに視線が集まっているのに気が付いた。
見渡してみると、寄生体から解放された人々が私たちを見つめていた。
あいつらがどういう生態をしていて、寄生された側がどういう状態だったのかは分からないけれど。
友達がいた。
知人がいた。
好きだった人がいて。
家族がいて。
白いドレスの少女がいた。
「えっ?」
突如、腰に付けたデッキケースが爆発する。
普段から持ち歩いてる向こうの世界のケースではなく、こっちのカードに合わせて作られた、ひと回り小さい昔のケースが。
宙を舞ったカードは不自然な軌道を描いて少女の手に収まり、そいつと私を繋ぐように、闇としか形容しようのない空間が広がっていく。
「ウィーちゃーん」
空間が閉じる直前、にんまり笑って手を振る薫さんが声をかけてきて。
「ふぁいとっ!」
「帰ったら覚えとけよこのやろう!」
絶対この人が仕込んでたやつだと、確信を持って吐き捨てた。