ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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第36話

 飲み込まれた闇の中には、人と呼べそうなのは私とそいつしかいなかった。

 空間の様相は元の環境をトレースしているらしく、奇しくもあの日のように、舞台の両端にデッキを構えた両者が佇んでいる。

 

 観客はひとりもいない。

 空っぽになった客席は、誰も巻き込まれなかったことの証拠でもあり。

 負けたところで助けは……普通に来そうだからまあ余裕を持って当たれるだろう。

 

 向こうに戻れば聖女様だって控えているのだ。

 最悪死んだとしてもどうにかなる以上、緊張したって仕方がない。

 

『貴様に目を付けたのが我々の唯一の失敗だった』

「あ、長くなりそうだし巻きでいい? ほら、さっさと構えなよ」

 

 なんか語り出しそうなクソガキを無視し、ゲームの開始を促しておく。

 

 いやもうさ、こいつらの事情とか興味ないのよ。

 

 実はこんな悲惨な過去がーとか、本当は仲良くなりたかっただけなんですーとか。

 今更そんなの知ったことではないのである。

 

 精霊だろうと犯罪は犯罪。

 お前らは自分で思っているほど特別な存在なんかじゃない。

 カードゲームが中心の世界ではその考えが主流であるし、私もその流儀には従うべきだと思う。

 

『――負けた者は全てを失う闇のゲームだ! 主導権はこちらにある! 貴様はこのデッキと戦えるカードを保有していない! これがゲームである以上、勝利の女神の権能さえ貴様を護ることはない!』

()()調()()()()()()()()()()()。じゃなきゃあの人があんな雑に送り出すわけないでしょうが」

 

 勝ち誇ったクソガキの宣言を前に、ゲームボードにセットしたデッキは問題なく読み込まれる。

 

 なんで私が異種ゲーム戦なんてあると思っていたのか、それが答えだ。

 

 昔のデッキを預けていたのは薫さんが興味を持ったのもあるけれど、それ以上に異なるルールのゲーム同士で対戦が出来るように調整を行うためなのだ。

 どれだけ勝利の女神様が酷使されたのかは知らないけれど、調整は終わったと聞いたのだから、こいつの言い分が通る事なんてない。

 

 あの世界でカードゲームが中心になっているのは、勝利の女神様の権能がカードゲームによる決着を強要しているからだ。

 それを持たないこいつらの言葉に世界のルールを決定付けるような重みなんてなく、ただ自分たちの持つ異能に収まる範囲のことしか、か弱い人々に対してしか強権を振るうことなんて出来はしない。

 

「ほら、先攻後攻どっちか決めなよ。片方が譲ってあげれば好きなほうに決められるらしいからさ」

『――我々の先行だ! マナプールに緑を追加! 緑1マナをコストに【焼け出されたエルフ】を召喚し、ターンエンドだ!』

 

 どうやら相手のデッキは私のデッキほぼそのままのようだ。

 とはいえ緑系統であれば初動でエルフが焼け出されてくるのはおなじみの流れ。

 

 敵にも主人にも雑に焼かれてしまうエルフたちの悲哀を感じる、懐かしい一手だ。

 

 マナコスト制のカードゲームでは、ゲームの進行はゆっくりだ。

 先行1ターン目に相手から妨害が飛んでくるような異次元の空中戦が飛び交う環境ではなく、堅実に、あるいは意表を突きながら、ターン毎に返し返され、盤面とリソースを伸ばしていくのが定石となる。

 

 召喚ターンには使用できないとはいえ、マナを生み出す能力を持った【焼け出されたエルフ】は盤面の加速に直結する。

 実質的に相手に除去を強要する点も、残ればリソースを生み出し続ける点においても、優秀な初動カードと言えるだろう。

 

 もちろんワンキルや無限ループに繋がるようなコンボはあのゲームにも存在する。

 だけどその起動には、キーパーツの回収やマナリソースも含めて多少の時間がかかる。

 

 少なくともいきなり宇宙を見せられて吹き飛ぶことはない。

 

「私のターン」

 

 反応は無し。

 普通に後攻1ターン目を迎え、カードをドローする。

 

 引き込んだカードを見て、大きく息を吸い込み――覚悟を決める。

 

 

 リアちゃんや薫さんは雑に協力してくれたし。

 友人たちは私の過去に憤って奮起していて。

 魔王様にも背中を押してもらったけれど。

 

 

 ――だからって私がキレてないわけねぇだろうが。

 

 

 片手で手札を保持したまま、デッキケースの中身を手繰り寄せる。

 それはカードではなく、デッキと一緒にお守りのように入れている、小さな箱。

 

 その蓋を開けて、中にある小さな突起を口に咥えて一気に引き抜いた。

 

 

 過去の話で、みんなには話さなかったことがある。

 それは、故郷から投げ出されて、あの世界に辿り着いてからどんな経緯で薫さんに保護されるようになったのかということだ。

 

 あんな風に、宝物だったカードをゴミのように破り捨て、二度と見たくもなくなるような悲惨な結末の先に、カードゲームが中心の世界に迷い込んで。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という理由が、そこには秘められていて。

 

 

 静かに目を瞑れば、あのときの光景が今でも克明に思い出せる。

 どこかの路地に投げ出され、足を捻っただけで済んだのが幸運だったのかも分からずに、人々の歓声に導かれるように進んだ先で。

 

 

 【うんこまん】と【アナルアナライザー】が激突していたのだ。

 

 

 【うんこまん】と【アナルアナライザー】が激突していたのである。

 

 

 いやもう衝撃的なんてモンじゃなかったわ。

 

 カードゲーム世界特有のARによる大迫力で、子供の落書きみたいなのと悪ふざけの権化みたいなのがバトルを行っていて。

 それを駆る両者は大真面目に【うんこまん】と【アナルアナライザー】のカード名を大声で叫んでいて。

 

 あまりの落差に、私は噴き出した。

 心の底から笑って、涙が出るくらい笑って、過呼吸でぶっ倒れるくらい笑い転げてしまって。

 

 笑顔の作り方さえ忘れていた私の心を救ってくれたのは、間違いなく、クソみたいなヒーロー(うんこまん)との出会いだったのだ。

 

 

 私は結構、形から入るタイプである。

 故郷でやっていたカードゲームでも、主人公のデッキを真似たのが始まりだった。

 

 ()()()()()()()()()()から漂うのは、私の好みに合わせたシトラスのフレーバー。

 

 闇のゲームの空間には、私たち以外誰もいない。

 だからこそ、恥も外聞も気にする必要なんてない。

 

 初手で【コントラディクト】を起動しなかったのは、私が【システムエラー】ではなく別のデッキを握っているからだ。

 

 最初の動きは決まっている。

 

 劣化したコピーデッキの使い手もそうだったし、本家本元のオリジナルでも同じ動き。

 

 

 

「私はバトルフィールド中央に【うんこまん】を招来するよ!」

 

 

 

 第一人者に師事している私に使いこなせないわけがない、世界最強の一手を叩き付けた。

 

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