ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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第37話

[Error-効果対象が認識出来ません-]

 

「まぁたぁ!?」

『くっ……今度はなんですか!? もうエラーメッセージをこちらに見せてください! 対処しますから!』

「やだよ! そうやって手札見るつもりなんでしょ!?」

『そんな躾のなっていないことをするように見えますか!?』

「おまえら私の世界に何したか言ってみろよ!」 

 

 大見得を切って火蓋が落とされたラストバトルは……盛大にグダっていた。

 

 私とこいつの因縁は十分過ぎて、ゲームの舞台も闇空間とおあつらえ向き。

 最終決戦となる異種ゲーム戦が始まった。そこまではまあいいのだ。

 

 問題はどういう風にルールが調整されているのか、説明なんてものが全くなかったことである。

 

『待ちなさい、其方のルールと混ざったということは、我々がブロックを宣言せずともフィールドのエルフを無視出来ないはずです』

「え、でもこいつ直接攻撃持ってるし……」

『それならば【フォレストエルフの近衛兵】にも攻撃対象を誘導する能力がありますが」

「……一回殴ってみていい? エラー吐いたらそれに従う感じで」

『……いいでしょう』

「よし、【うんこまん・ゲリーベン】でダイレクトアタックするよ!」

 

[Error-攻撃対象を正しく選択してください-]

 

「なら攻撃中止かなぁ、ステ低いから返り討ちにあっちゃうし……」

 

[Error-攻撃対象を正しく選択してください-]

 

「んんんん????」

『……もしや既に攻撃の宣言は行ったという扱いになっているのでは? 対象の再選択を強いられているだけで』

「はぁ!? ちょっと! ダイレクトアタック出来ないならそもそも攻撃宣言しないんだけど!?」

 

[Error-攻撃対象を正しく選択してください-]

 

「……ああもうっ! 【フォレストエルフの近衛兵】を攻撃対象に指定するよ!」

『…………えぇ、返り討ちにしましたね』

「…………よし、もうエラー出てないから進めよう」

『……あぁもうもどかしい! なんなんですかこれは!?』

「それはこっちのセリフだっての! 取説とかないのこれ!?」

 

 ぶっちゃけ私も調整が終わったとは聞いたがどういう形で体裁を整えたのかは全く聞いてない。

 流石に女神様もそれなりにエラーが出ることを想定していたのか、ルール違反のジャッジキルが飛ぶことはないのだけど。

 

 間違った指示を出したのならエラーメッセージが吐き出され、その要因を確認する為にゲームが一時中断する。

 少し進んではまたエラーが出て、またエラーが出て、またエラーが出て。

 

 私の世界を乗っ取ろうとして、今まさに私の命も狙っているはずの相手と、ああだこうだと共に頭を悩ませて問題を解消しながら、牛歩の如くゲームが進められる。

 

『大体おかしいですよ! 何であの流れでカードを破り捨てるんですか!? あれのせいで計画が大幅に遅れてしまったんですよ!? カードの再生にどれだけリソースが必要だったのか分かってるんですか!?』

「うっさいなぁ! 追い詰められたら人間何するか自分だって分かんないんだよ!」

 

 そんな空気だからお互い険悪なままでいることも出来なくて。

 相手の尊大な態度もいつのまにか普通の女の子みたいに砕けていて。

 

『……我々はただ、安住の地に根を降ろしたかっただけなのに」

「聞いてないし、聞かせないでよ。私にはそんなの分からない。大体やり方が悪過ぎるでしょ。ただの移民としてやってきたなら、話を聞いてくれる人もいたってのに」

『そのような方法など、我々は知りませんでした。森から焼け出されて、ずっと、何年も、何十年も、何百年も放浪し、我々に突きつけられたのは、奪わなければ奪われるという真理だけだったのですから』

 

 もういい加減、彼女が何なのかは予想が付いている。

 さっきから差し込まれる愚痴みたいな語りを無視するには連帯感が芽生え過ぎてしまったし、見えないフリをするにはその長い耳は目立ち過ぎた。

 

 何よりも、頭が落ち着いてくればその出で立ちには見覚えがあった。

 初代【焼け出されたエルフ】のカードイラストの端のほうに、白い衣装の少女が描かれているものがあったのだと。

 

『【フォレストエルフの白木巫女】を召喚します…………エラーは出ませんね』

「なら対応で。待機状態の【ボットン便所の落とし穴】を」

 

[Error-効果対象が正しくありません-]

 

「今度はなんだよ!?」

『待ってください! 私には効果耐性などはありませんよ!? ……いやそんな罠に嵌りたいわけではありませんがっ!!』

「せめて正体明かす場面くらいグダらずに進行しようよ!?」

『ミスをしたのは貴女ですよね!?』

 

 ぐだぐだにぐだぐだを重ねて、馬鹿みたいに時間をかけて。

 

 そうなればもう、結果は火を見るより明らかになって。

 

「……く、はぁ…………はぁ…………っ」

『……あやまることは、しません。貴女にも、私にとっても、我々にしてみても、それを投げかけるべきではないのですから』

 

 闇のゲームの空間では、精神力と体力を常に消耗し続ける。

 

 千年近くも放浪を続けたエルフの生き残りと、十数年しか生きていない小娘では、精神の強度に差があるのは当然で。

 

 体力だって限界があるのかどうかも分からない。

 こっちはカードを落とさないようにするのに必死だってのに。

 

『たとえこの勝利に何の意味もないとしても……貴女を依り代に選んだことは間違いではなかったと。貴女と話せたことは無為ではなかったと。それが分かっただけでも、この勝負に価値はありました』

「なに、を……勝った気で、いるの……!?」

『……もう諦めてください。分かっているのでしょう? この対話こそが、貴女の師の思惑だったのだと』

「下がうんこまみれだから膝なんてつきたくないんだよ!」

『それを私に言わないでもらえますか!? というかこちらは文句言わずに耐えてきたのですが!?』

 

 まとめてに吐き出した息と引き換えに、凄まじい臭気が鼻を焼く。

 電子タバコはとっくに落としてしまっていて、無事に元に戻るのだとしても二度と口には咥えたくない様相だ。

 

「けほっ、こほっ……ふーっ……名前、教えてよ」

『……えっ?』

「【フォレストエルフの白木巫女】は、役職で、カード名、でしょ? 貴女の、名前は、なんて、いうの……?」

『…………名前、私の、名前…………わかりません……ずっと昔に、落としてしまったようで』

「そっか。ごめん」

『あやまらないでください。こちらからは、決して、その言葉をかけてはならないのですから』

 

 きっと、彼女は悪い子ではないのだろう。

 

 悪いやり方しか知らなかっただけで。

 そもそも森を焼かれた被害者でもあって。

 

 それでも彼女たちは、【焼け出されたエルフ】の旅団は、私の世界に牙を剥いた。剥いてしまった。

 それを私は許せないし、許してはならない。きっと、彼女たちのためにも。

 

「最期に、もうひとつだけ、いいかな」

『…………はい』

 

 しおらしく、私の言葉を待つエルフの少女に、無理矢理頬を吊り上げて、最期の言葉を投げかける。

 

 

 

「話が長いんだよ、ばーか」

『へっ?』

 

 

 

[勝敗が確定しました。勝利の女神ビクトリカの名の下に、あなたに勝利と祝福を]

 

 最初から最後までぐだぐだになってしまった最終決戦は。

 

 タイムアウトという、ある意味もっともそれらしい結末を迎えることになったのだった。

 

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