ホビーアニメじゃないらしい   作:こまつな

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第5話

 ちょっと奥まった路地を進んだ先にある、ひとつの店舗。

 ドアにはOPENの看板と店の名前を示すDoll-Houseの文字がお洒落な筆記体で記され、その横にはお勧めのメニューが記された小さな黒板がちょこんと置かれている、

 

 からんからんとドアベルに迎えられたシックな店内では、カウンターに丁寧に飾られたアンティークドールと、巌のような筋肉を纏ったスキンヘッドの大男がお店のロゴマークが刺繍されたエプロンと共に出迎えてくれる。

 

「ぷふっ……!!」

 

 横から噴出すような声が聞こえたと思ったらリアちゃんが口元を隠していた。

 いや、確かにちょっとミスマッチかもしれないけどそんな笑うようなことだろうか。

 

「んん~~、ここの精霊たちがイタズラしてるんだよ。ウィーちゃんには見えないけどね」

「あ、そうなんですか。……いや薫さんもホラーみたいになってません?」

 

 私の考えてることを察してくれたのか、薫さんが補足を入れてくれる。

 のだが、彼女の服には夥しい量の手形が浮かび、髪の毛も四方八方から引っ張られるように広がっているという言いようのない雰囲気を漂わせている。

 

 状況的に精霊さんによる干渉なのだろうけど、もはや完全にホラー映画のワンシーンと化していた。

 

「私も見えるには見えるんだけどなんかめっちゃ嫌われてるんだよね……」

「使ってるデッキがデッキなので納得しか出ません」

 

 カードの精霊についてはあまり詳しくないけれど、まあ人格がある以上は好き嫌いもあるのだろう。

 

 闇のゲームを除けば視覚以外の影響が薄い私たちプレイヤーとは違い、カードの精霊たちはバトルフィールドの上で実際にバトルを行っているように見える。

 あんなのをけしかけてくる輩に対して湧き上がる恐怖と殺意がどれほどのものなのか、私は心の底から共感することが出来るはずだ。

 

 そもそもここが飲食店だというのも少なからずあるかもしれないけれど。

 

「マスター、とりあえずランチプレートとコーヒー3つずつお願いね」

「さっきポップコーン食べたのであんまり入らないんですけど……あ、コーヒーにはミルクもお願いします。リアちゃんは?」

「奢ってくれるならアイスコーヒーがいい!」

 

 全身に纏わりつかれているのを気に留める様子もない薫さんに続き、手頃な席に腰を落ち着ける。

 

 カードの精霊というのには大きく分けて4種類いるらしい。

 

 大雑把に誰にでも見えるタイプと見えないタイプがいて、そこから更に二種類。

 カードが主体になっているものと、精霊が主体になっているものに分けられる。

 

 カードが主体のものは、カードから精霊が生まれたもの。

 主にこの世界産の精霊であり、文字通りの意味でカードから生まれ出た不思議な生き物。

 精霊の中では主流派に当たるそうだ。

 

 精霊が主体のものは、所謂中の人が先にあってそれをモチーフにカードが生成されるという、逆の手順を辿っている。

 正確な意味では【カードの精霊】ではなく【精霊のカード】とでも呼ぶべき、別の世界の住人がカードという媒介を通して活動しているタイプ。

 

 リアちゃんの連れている精霊は後者で、このお店の精霊は前者なのだそうだ。

 今まであまり意識してなかったけれど、やっぱりそういう部分は実にホビアニのあるあるっぽい感じである。

 

 はへ~と意味のない言葉をもらしながら情報を咀嚼していると、バゲットサンドとコーヒーがふわふわと宙を飛んで各々の前に静かに着地する。

 

 欠食少女は既に小さな口を大きく開いて齧り付いていた。

 君さっきうちでもご飯食べてなかったっけ?

 

 

 

 Doll-Houseという喫茶店は奥まった路地の先にある隠れ家的な名店……というだけの普通のお店、ではないらしい。

 

 もうひとつの顔は、情報屋。

 それもこの状況で薫さんやリアちゃんが訪れることを選択するほど、凄腕の。

 

 繰り返しになるが、この世界はカードゲームが中心に廻っている。

 そんな世界で信頼できる情報というのがどれだけ価値を生み出すかは想像に難くない。

 

 情報というのは紛れもない武器だ。

 特にカードゲームにおいてその側面は無視できないほど大きなものになる。

 

 公式大会がテレビで放送されているし、ネットを活用すれば表面上の構築を調べることはそう難しくはない。

 だけど詳細まで分かるわけではないし、停滞が敗北に繋がる以上はどんなデッキも常に更新され続けている。

 

 対戦相手のデッキ構築が分かればメタを張ることは容易なことだろう。

 そこまで直接的ではなくても、1本でも多くのリプレイを入手できれば相手の癖を分析するのに役立つだろう。

 

 今回のように世界の危機に関する情報を得られなければ、下手したら手遅れになりかねない場合もあるだろう。

 

 そして同時に、優れた情報屋は優れたプレイヤーでもある。

 

 何せ本人が情報という武器を最大限活用できる立場にある。

 その上、ゲームで勝てば聞きたいことを聞き出すことが可能というのがこの世界。

 正の循環が止まらない限り、その役割が風化することはないはずだ。

 

 

 ……のだけど。

 情報のやりとりが精霊さんを介して行われているため、現状私は空気である。

 若干の疎外感も感じてしまう。

 

 他の二人が真剣な表情で虚空と会話しているのを尻目にバゲットサンドを齧るくらいしか出来ることがない。コーヒーも美味い。

 そもそも流れで付いてきただけで私の役割とかは特にないのだ。

 炭酸でお腹が膨れてるからこれも食べ切れそうにないし、なんかもうなんかである。

 

「や、やっと見つけた……」

 

 からんからんとドアベルがなり、聞こえてきたのは少女のボヤキ声。

 見ればさっきの魔法少女が若干煤けた姿で入り口からこちらに視線を向けていた。

 

 そしてそんな彼女の前に、筋肉質で大柄の男性が立ち塞がる。

 

「なっ、何よ……っ!」

 

 思わぬ相手の登場に羽のついた玩具のようなステッキを構える姿に哀愁を感じてしまう。

 この世界の人類ならそんなものではなくデッキを構えるのだ。心構えがなっていない。

 

「ここは飲食店だ。軽くでいい、汚れは払ってから入店してくれ」

「…………ごめんなさい」

 

 彼の言葉は誰がどう聞いても正しかった。

 

 視線を逸らした彼女がステッキを軽く振るうと、しゃんらららんとどこが発生源かも分からない謎の効果音が鳴り響き、パステルカラーの謎の光が足元からせり上がる。

 

 それが納まるとピンクの少女が立っていた場所には、学生服に身を包んで眼鏡をかけた黒髪の少女が佇んでいた。

 

「あの、入っても……?」

「……少し待っていろ」

 

 色々と言いたい事を飲み込んだらしいマスターはカウンターの奥に入ると、初心者用のストラクチャーとデッキケース、それからゲームボードというこの世界の三種の神器を手に戻ってくる。

 

「これがこの世界での最低限の身嗜みだ。理由は分からなくてもとりあえず身に付けておくといい」

「あ、ありがとうございます……?」

 

 少女はよく分からないまま装備を整えると、改めておずおずとこちらに近づいてくる。

 変身していたときより結構性格が大人し目に見受けられる。

 やっぱり性格が変わるとかもあるんだろうか。

 

 あと魔法少女の変身バンクは思ったより地味だった。

 やっぱり本人だけではなく背景の謎演出も大事なんだなぁと思わずにはいられない経験である。

 

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