勇者ロトの弟にチート持ちで転生したけど、異世界のダンジョンに転移したのは間違っているだろうか   作:醜い蛭子

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第一部 なんちゃって勇者、オラリオに立つ
第01話 転移して早々、厄災と遭遇す


 それは少年と少女にとって明らかに異常な事態であった。

 故郷であるアリアハンを旅立って凡そ一日。

 レーベの村で一泊した後に二人は早朝から「いざないの洞窟」に向けて出発し、そこにある「旅の扉」を使ってロマリオに向かう予定であった。

 この日に向けて幼き頃より修練を重ねてきた甲斐もあって道中の魔物は然したる脅威ではなく、二人は難なく洞窟の最奥にある「旅の扉」に辿り着く事が出来た。

 しかし二人を待ち構えていた異変はここからだ。

 「旅の扉」を抜けた先は祠である筈なのだが周囲は鬱蒼とした草木が生い茂り、足下には対となるロマリオ側の「旅の扉」も見つからない。

 それ理屈は分からないが曇りの日程度は視界が開けているにも拘らず、天井や壁が岩石で覆われた洞窟のような空間になっているようだ。

 そして明らかに目的地とは異なる場所に移動してしまった事に動揺する間もなく、更なる異変が二人を襲った。

 辺り一帯から凄まじい爆発音が立て続けに響いたかと思うと、空間そのものを揺るがすような振動が巻き起こる。

 それによって天井や壁が崩壊していく光景に何故かデジャヴを覚えながらも、少年は身を守る為に呪文を唱えた。

 

「【アストロン】!」

 

 自発的な行動を一切封じながらも、使用者と仲間全員の肉体を鋼鉄に変化させて敵の攻撃の完全に無効化させる絶対の防御呪文。

 勇者にのみ許された呪文である【アストロン】を唱えた少年──ノクスもまたその資質を有する者だった。

 ノクスはかつて非業の死を遂げたと言われながらも奇跡的な生還を果たした父オルテガと母ルシアの間に生まれた次男であり、兄は大魔王ゾーマから世界を救った真の勇者と謳われる勇者アルスその人である。

 アルスと同じくノクスもまた父のオルテガから勇者の資質を受け継いでいたものの、平和となった世界では本来なら無用の長物となる筈だった力。

 それを欠かさず鍛え上げていたのはアルスが残した言葉の為だった。

 実を言えばアルスはノクスが生まれる前に一度帰郷したきりで、ノクスは実の兄と顔を合わせた事がない。

 だが『まだやるべき事がある』とアルスの言葉に何か不吉なものを感じ取り、平和になった世界でもオルテガはノクスに厳しい鍛錬を課していたのだ。

 アルスの真意は未だ不明なままであるが、とある事情からノクス自身も強くなる為に修行をする事に異論はなかった。

 そして今の状況そのものは完全に予想外であるものの、図らずとも旅立つ以前にしっかりとレベルを上げて【アストロン】を習得していた事が功を奏する。

 

「何だったの、一体?」

 

 頭上から降り注ぐ岩石から身を守った後に【アストロン】が解けると、ノクスの旅の仲間で賢者の卵である少女──セレネは訳が分からないといった様子でそう呟いた。

 状況がまるで理解出来ないのはノクスも同じだが、それは別として先程感じたデジャヴと共に妙な胸騒ぎがする。

 直感に従い未知の密林を走り抜けるノクスだったが、その先の光景を見て思わず毒づいた。

 

「くそっ!本当にそんな事がありえるのかよっ!?」

 

 密林の中でも開けた場所に辿り着いたノクスが目にしたのは、綺麗に男女に別れて対峙する二つの集団。

 ルドラ・ファミリアとアストレア・ファミリア。

 ノクスはそれを見てある確信を抱くと同時に、既に一刻の猶予もない事を悟らさせられた。

 

「どうしたの急に?って、良かった人がいる!」

 

 後からセレネが追い付いてくるが、残念ながら状況を理解しているのはノクスだけだ。

 残された時間が少ない中で、ノクスがすべき事。

 ノクスはセレネの両肩に手を置くとやや強引に顔を突き合わせ、その目を真っ直ぐ見据えて言葉を紡いだ。

 

「セレネ、悪いが時間がない。黙って俺の言うことを聞いてくれ」

 

 幼馴染でもあるノクスが今まで見せた事がない表情にセレネも唯ならぬ事態である事を悟り、言われた通りに黙って頷く。

 

「これからすぐに強力なモンスターが現れるが、ソイツに呪文は効かない。だから俺が足止めするから、お前は自分の身の安全を守る事だけに集中してくれ。でも本当に余裕ありそうな時だけは、あそこにいる子達にもその事を伝えて一緒に避難して欲しい」

 

「わかったわ。【スピオキルト】」

 

 セレネは短く返事をすると、すぐさま呪文を唱えた。

 【スクルト】【ピオリム】【バイキルト】という防御と素早さと攻撃力をそれぞれ上昇させる3つの呪文を掛け合わせる事で更に効果まで倍増させた【スピオキルト】。

 恐らく世界でただ一人セレネだけが可能とする『合体呪文』によって二人の能力が底上げされる。

 焦りもあってか明らかに説明不足だという自覚はノクスにもあったものの、セレネが間髪を入れず補助まで施せたのは古い付き合いによる阿吽の呼吸に依るものか。

 それと同時に更なる異変を前にして、ノクスの言葉が正しいことをセレネは本能的に察する。

 引き絞った弦に刃を走らせたかのような、無機質な高音が響き渡った。

 迷宮(ダンジョン)が哭き、絶望が産声が上げる。

 

「……ジャガーノート」

 

 天井の奥に走った広く長く深い亀裂。

 そこからまるで零れ落ちる雫のように異形のモンスターが迷宮(ダンジョン)に降臨する。

 ドラゴンゾンビを更に殺戮へ特化した姿へと洗練させたかのようなモンスターの名がノクスの口から溢れた。

 しかしその凶悪さを知りながらも、実際にジャガーノートがどれだけの力を有しているかはノクスもまだ測り知れない。

 確かなのは相対的な力が未知数であるノクスとセレネを除いて、この場にいる全員にジャガーノートに太刀打ち出来るだけの力が無い事だけだ。

 そして仮にこのまま見殺しにしたとしても、ノクス達自身の力が及ばなければ結局は同じく末路を辿る事になる。

 だとすれば確実に生き残る為には、どんな形にせよジャガーノートに挑む必要があった。

 

「俺に宿りし聖魔の双竜よ。今こそ、その力を示せ!」

 

 そう念じると共に、ノクスの両手の甲にはそれぞれ異なる紋章が浮かび上がった。

 ノクスが生まれつき有していた力と、何の前触れもなく突如として身に宿っていた異質な力。

 『聖竜の加護』と『竜闘気(ドラゴニックオーラ)』、交じり合った竜の力は爆発的な相乗効果を生んでノクスに勇者をも超えた人外の力を齎す。

 言うなれば『聖竜闘気』。

 竜を象る蒼炎が如きオーラを纏ったノクスの姿は、その潜在能力全てを解放した証。

 この状態に耐え得る武器を持ち合わせていないという欠点はあるものの、それでも現状におけるノクスの最高到達点である事に変わりはなかった。

 そこから更にセレネの【スピオキルト】が上乗せされたノクスは、最初から正真正銘の全力を以ってジャガーノートに挑む事を選択する。

 本来は慎重な性格であるノクスにしては無謀と言える挑戦であったが、これから先の事も考えるならば少なくともアストレア・ファミリアには生き残って貰った方が都合が良い。

 無意識の内に勇者にあるまじき打算的な考えを孕んでいる事を自嘲しながらも、そもそもノクスは自分の事を勇者たる資格があると思った事は一度もなかった。

 未熟な精神性に不相応な力を生まれ持ってしまった意味をノクスはずっと探し続けており、それが今まさに試されようとしている気がする。

 

 

 

 迷宮に対して大規模な破壊活動が行われた際に、その防衛機能として生み出されるジャガーノート。

 故にジャガーノートはその標的とする対象を選ばず、ただ無作為な殺戮を繰り返す。

 そして不幸な事にその最初のターゲットとなったのは実際に迷宮に破壊を齎したルドラ・ファミリアではなくアストレア・ファミリアの方であった。

 しかし迷宮に明らかな異変が起きた事は感知しながらも、圧倒的な機動力を有するジャガーノートの超高速移動を目で追えた者は一人もいない。

 誰にも気付かれぬまま紫紺の『破爪』によってアストレア・ファミリアの眷属の一人ノイン・ユニックの身体が無慈悲に切り裂かれようとしたその刹那、陶器を叩き割ったような音が響き渡った。

 それと同時に叩き折られた『破爪』が宙を舞ったかと思うと、そのまま深々と地面に突き刺さる。

 そこで漸くアストレア・ファミリアの面々はジャガーノートの存在を完全に知覚すると共に、その厄災と対峙する少年の姿が目に焼き付けられた。

 

(良かった、俺の力は異世界のジャガーノート相手でも通用する)

 

 遥か彼方の記憶にある知識と違わず、ジャガーノートは物理的攻撃に対しては然したる耐性を持たないようで例え素手であっても攻撃が通じた事にノクスは胸を撫で下ろす。

 それに力を解放した状態ならばジャガーノートの動きを目で追う事も、それに追従する事も十分可能な事が証明された。

 この分なら一人残してきたセレネも普通のモンスター相手に後れを取る事も早々ない筈である。

 とはいえ破壊出来た『破爪』は6本ある内の1本で、あくまで横槍による不意打ちが成功した結果に過ぎない。

 恐らくあの『破爪』をまともに喰らえばいくら身体を強化していようと致命傷は免れず、決して気を緩められる相手では無かった。

 一方のジャガーノートもこの場においてノクスを一番の脅威と判断し、無機質ながらも確かな殺意がノクスに向けられる。

 ここからが死闘の本番。

 やはり『破爪』が砕かれた事実は多少なりともジャガーノートに警戒心を齎したのか、互いの間合いを測るように両者の間には僅かな静止が生まれる。

 ノクスにとって幸いだったのは、それを機にアストレア・ファミリアが素直にこの場から引いてくれた事だ。

 もし下手に魔法などで援護されて場が乱されるような事になれば目も当てられない。

 これで余計な神経を割かずに済むとノクスは目の前の敵のみに意識を集中させる中、先に動いたのはジャガーノートの方だった。

 これ以上『破爪』を破壊されるのを嫌ったジャガーノートは身体をその場で回転させると、その強靭な尾を鞭のようにノクスに向かって叩きつける。

 ノクスはそれを跳躍して躱すと同時に両の腕で強引にジャガーノートの尾を締め上げ、逆にその勢いを利用して力任せにその巨体を放り飛ばした。

 そのまま巨木にぶつかって体勢が崩れるのをノクスは期待したが、ジャガーノートは器用に身体を捻って巨木を蹴ると大きく跳躍する。

 今の攻防でノクスの事を真正面から相手をするには分が悪い強敵と認めたのだろう。

 ジャガーノートはノクスを撹乱するように天地を問わず跳躍を繰り返し、圧倒的な機動力による立体的な包囲網を敷かんとする。

 確かにこれだけ縦横無尽にしかも距離を問わない移動を繰り返されれば、普通なら防戦に回らざるを得ない。

 だがそれはあくまでも普通の話だ。

 

「【トベルーラ】!」

 

 【ルーラ】の亜種である自由自在な飛行を可能とする【トベルーラ】の呪文によって、宙に浮いたノクスは一気にジャガーノートへの距離を詰めた。

 凄まじい膂力に加えてその巨躯からは想像付かない圧倒的な機動力を有するジャガーノートであるが、その巨体は却って弱点にもなり得る。

 魔法が通じないジャガーノートの機動力を封じる為の最適解、それは超至近()距離による近接戦闘だ。

 それを仕掛ける当たってノクスとジャガーノート程の体格差があれば、体躯で勝る方の動きが制限されるのは自明の理であった。

 懐に入らんとするノクスと、それを妨げんとするジャガーノート。

 『聖竜の拳』と『破爪』が幾度となくぶつかり合い、周囲にその衝撃が撒き散らされる。

 完全に空中戦と呼べるものに戦いのステージを移行し、その熾烈さは時を重ねる毎に増していった。

 いくら空間全土の移動が可能と言ってもジャガーノートの動きが直線的なものに限定されるのに対し、自在に宙を飛べるノクスの方が確実に機動性は高い。

 それに対してジャガーノートは異形の身体を活かして、四肢に加えて強靭な尾も使った全身の凶器でノクスを責め立てる。

 互いに引くことがない一進一退の攻防が繰り広げられるが、やがてその均衡が崩れ去った。

 ノクスが集中的に狙っていた『破爪』の一つが砕け散ると、その勢いのままにノクスはジャガーノートの懐に潜り込む事に成功する。

 そこから力が許す限り拳の連打。

 竜の力を宿したノクスの拳はその一打一打がジャガーノートの全身を貫き、その外殻を剥がれ落としていった。

 遂にジャガーノートはその身を守る鎧を失い、力なく地面に向かって落下していく。

 しかし完勝という訳にはいかず、致命傷ではなくともノクスの身体は至る場所が深く切り裂かれ夥しい血が流れ出ていた。

 だが傷を治すよりも先にやるべき事がある。

 『聖竜闘気』は消耗が激しく、効力が切れる前に確実にジャガーノートに止めを刺さなければならない。

 

「【ドラゴンソウル】!」

 

 ノクスは自身が纏う『聖竜闘気』を一点に集中させると、ジャガーノートに向けて解き放った。

 解き放たれた『聖竜闘気』は東洋の龍を思わせる形へと変貌し、落雷が如くジャガーノートを撃ち貫く。

 他の技ではダンジョンに再び大きな損傷を与えかねない中、この【ドラゴンソウル】は標的のみを討ち滅ぼす事が可能だ。

 ジャガーノートの体内で暴虐の限りを尽くした『聖竜闘気』は、その役割を終えると外に向かって放出されると同時にジャガーノートの身体を爆散させた。

 そして激闘を終えたノクスの魂にレベルが上がった事を告げる音色が響き渡る。

 先日ノクスのレベルは上がったばかりであるにも拘らず、この短期間で再びレベルアップを果たしたのはジャガーノートがそれだけ多くの経験値を秘めた強敵だったという証だろう。

 

「……俺はお前の事を知っていて、その差が勝敗を分けた。ありがとう、お前のお陰で俺はまた強くなれた。【ベホイミ】」

 

 モンスターとしては初めて自分の事をここまで追い詰めたジャガーノートにノクスは素直な謝辞を述べると共に、取り敢えずの応急処置としてノクスは回復呪文を自分に施す。

 しかしジャガーノートという脅威は打ち倒したものの、問題が何一つ解決した訳ではない。

 とにかくセレネとすぐに合流した上で、諸々の確認も含めて現地の人間の協力が必要不可欠な状況であった。

 その候補としてノクスはアストレア・ファミリアに目を付けていたのだが、いの一番にノクスを迎え入れたのはまるで正反対のむさ苦しい男達が集まったルドラ・ファミリアだ。

 その目的は何かとノクスが問う必要もなく、ジュラを戦闘にそれぞれが武器を構えて襲い掛かってくる。

 

(知ってはいたが、本当に狂った奴らの集まりなんだな)

 

 アリアハンでも盗賊の類を相手にした事はあったが、ノクスは元いた世界でも更にその前の世界でも純粋に人を傷つける事だけも目的とした人間に出会った事はなかった。

 闇派閥(イヴィルス)、何がここまで人間を狂気に駆り立てるのか?

 だが剣を向けられた以上は、わざわざ見逃す道理はない。

 

「【マヒアクロス】!」

 

 しかしノクスが迎撃するよりも先に、氷刃を風に乗せて相手を切り刻む【マヒャド】と【バギクロス】の合体呪文【マヒアロス】がルドラ・ファミリアを襲う。

 悲鳴と共に血飛沫が風に乗って宙に舞う様は中々凄惨なものであったが、その悪行を知るノクスとしては全く同情する気にはならなかった。

 そして呪文を放ったセレネの方に目を向けると、やたらと目が据わった冷徹な表情を浮かべている。

 最早風前の灯であるルドラ・ファミリアに代わってノクスが恐怖を覚える一方、セレネの後ろにアストレア・ファミリアの面々が控えている事に気付く。

 その全員が信じられない物を見たような表情を浮かべているが、心境に関して言えばノクスも似たような思いだ。

 まさか『ドラゴンクエストⅢ』の世界に転生しただけでなく、そこから更に『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の世界に転移する事になるなんて。

 それに加えてこれから先に自分が知る物語とは全く別の未来が待ち構えている事など、今のノクスには予想しようがなかった。




キャラクターイメージ
ノクス
ドラゴンクエストⅢ勇者男
セレネ
ドラゴンクエストⅥミレーユ
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