勇者ロトの弟にチート持ちで転生したけど、異世界のダンジョンに転移したのは間違っているだろうか   作:醜い蛭子

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第02話 この世界でリレミトは紛れもないチート

「【ベホマラー】」

 

 セレネが全体回復呪文【ベホマラー】を唱えるとまだ完全に傷が癒えていなかったノクスだけでなく、ルドラ・ファミリアが起こした爆発によって多少なりと傷を負っていたアストレア・ファミリアにまで回復の効果が行き渡る。

 それを受けてアストレア・ファミリアの治癒師であるマリューが驚いた表情を浮かべている辺り、呪文がこちらの世界で役に立たないという事も無さそうだ。

 他にもノクスには色々と確認しておきたい事があったが、ここは迷宮の第30階層。

 ジャガーノートが出現した影響かモンスターがすぐさま湧き出るような気配はないものの、あまり悠長にしていては命取りになりかねない。

 とはいえこの中で互いの事を把握しているのはノクスだけであり、特にセレネは見知らぬ場所に跳ばされたという異常な状況もあってか警戒心を露わにしている。

 さてどうしたものかとノクスが考えを巡らせる中で、口火を切ったのはアストレア・ファミリアの団長であるアリーゼだった。

 

「えっと、とにかくまずはお礼を言わないとね。ありがとう、悔しいけど私達ではきっとあのモンスターには太刀打ち出来なかったわ」

 

 ノクスがジャガーノートと交戦を始めた際にすぐさま撤退の判断を下したのは恐らくアリーゼだったのだろう。

 アリーゼ自身は戦いを全て押し付けてしまった事に何処か引け目を感じているような表情を浮かべているが、彼我の戦力差をしっかり把握できるのはリーダーとして絶対に必要な資質だ。

 それにアストレア・ファミリアにこうして貸しを作るのはノクスの目論見通りであり、何の当てもない異世界において寄る辺を得る為の足掛かりにするつもりであった。

 

「どういたしまして。それとアイツらはどうするんだ?」

 

 ノクスが目を向けた方にはセレネの【マヒアクロス】でズタボロになったまま、ルドラ・ファミリアが無様に地を這いつくばっている。

 ここが本当に「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」と完全に同じ世界なのか判断出来ないとはいえ、いきなりノクスに切り掛かってきた事を考えればルドラ・ファミリアが碌でもない人間の集まりである事は間違いないようだ。

 今の状態でダンジョンに取り残されれば助かる見込みは無いだろうか、こういう時にアストレア・ファミリアがどういうスタンスなのか確認する意味でもノクスはアリーゼに尋ねた。

 

「……闇派閥(イヴィルス)はこれまで数えきれない罪を犯してきた。犠牲になってきた人達の事を思えば、とても慈悲を与える事は出来ないわ。このまま自分達が犯してきた罪を悔やんで貰う、それがアイツらに与えられるせめてもの罰よ」

 

 このまま放置しておけば恐らくルドラ・ファミリアの最期はモンスターの餌食という末路を迎える事になるだろう。

 中々残酷な仕打ちに思えなくもないが、これまでの所業を考えれば致し方ない。

 だがノクスが懸念するのはジュラの存在だ。

 ノクスが知る物語の中でもジュラはジャガーノートから逃げ果せただけでなく、今もアリーゼの後ろに控えるリューに滅多刺しにされても生き延びるという強運の持ち主である。

 万が一にもこの状況でジュラが生き残るような事があれば、特に攻撃呪文を食らわせたセレネに対して逆恨みを抱きかねなかった。

 僅かな逡巡を経てノクスはジャガーノートの戦いでは終始使う事がなかった剣を抜く。

 

「急に何のつもり?」

 

 突如として剣を抜いたノクスに対してアストレア・ファミリアの全員が身構えるが、ノクスは構わずルドラ・ファミリアに向かって歩を進める。

 そしてある程度の距離にまで近付いたノクスが徐に剣を振るうと、倒れていたルドラ・ファミリアを凄まじい熱量を秘めた炎が包み込んだ。

 

「魔剣!?でもこの力はそれ以上の?」

 

 かつてノクスの兄であるアルスが実家に残していった伝説の武器にも劣らぬ力を秘めた宝剣「雷神の剣」。

 「雷神の剣」は純粋に武器として高い攻撃力を有するに留まらず、何と使い手として選ばれた者が振るえば【ベギラゴン】の呪文を放つ事が可能だ。

 この「雷神の剣」をノクスは旅立ちに際してオルテガから譲り受けており、旅を始めたばかりの者が所持するには些か過剰な得物と言えた。

 尤も魔法を反射するジャガーノート相手では【ベギラゴン】は使えなかったし、ノクスの『竜闘気(ドラゴニックオーラ)』に耐えられるだけの強度はない。

 いや実際に試した事がある訳ではないのだが、流石にそれを実行するにはリスクが大き過ぎる。

 いずれにせこうして消耗した状態でも【ベギラゴン】が無限に放てるというのは、この世界でいずれ生み出されるであろう魔剣の『始高』シリーズよりも勝っていると言えた。

 

「悪いな、下手な禍根は残したくないんで好きにやらせて貰った」

 

「……いいえ、それは構わないわ」

 

 蛮行にしか映らぬノクスの決断だったが、アストレア・ファミリアは誰も特にその事を咎めるような事はなかった。

 2年前の大抗争を経ても今なお完全な終焉を迎えていない暗黒期。

 その最後の遺物たるルドラ・ファミリアに制裁を与える者がいたとしても、闇に生きる者以外にそれを咎める者がオラリオにあろう筈がない。

 ノクスはジュラを始めとしたこの場にいたルドラ・ファミリア全員が完全に灰に帰したのを確認して剣を納める。

 

「だけど新種のモンスターとの戦いといい、特にアナタは第一級冒険者(LV.5以上)で間違いないわよね?でもそれなら噂程度なら耳にしてもおかしくない筈だけど、一体どこのファミリア所属なの?」

 

 しかしアリーゼがノクス達のことを訝しむのは当然であり、そして状況がまるで理解できてないのはセレネも同じだ。

 長い付き合いによる信頼から取り敢えず行動の指針を黙ってノクスに委ねているものの、セレネにとっては完全に未知の世界に跳ばされて不安に苛まされているのは今も変わりないだろう。

 そして大抵の場合は下手に情報を出し惜しみすると碌な事にならない、というのは前世で様々な物語に触れてきた事によって培われたノクスの持論であった。

 転生者として知っている情報全てが打ち明けられるものでは無かったが、少なくとも自分達がこの世界にとって異邦人である事は早々に告げておいた方が良いとノクスは判断する。

 

「……いきなりこんな事言われても信じられないと思うが、多分俺達はこの世界の人間じゃない。他の世界から迷い込んだ旅人だ」

 

「他の世界?」

 

「それでいきなり不躾かもしれないが、出来れば相談に乗って貰いたいことがあるんだが」

 

「分かったわ、私達に出来る事なら何でも言って」

 

 色々と打算を重ねるノクスに対して、アリーゼはまさかの即答である。

 いくら都合が良い展開とはいえノクスも少しばかり面食らった気分になる中で、流石にアストレア・ファミリアの中でも異議の声が上がった。

 

「団長殿、流石に今の説明を聞いてその対応は不用心が過ぎるのでは?」

 

「輝夜の言う通りだぜ、アリーゼ。別の世界だなんて、胡散臭いにも程がある」

 

「アリーゼ、今回ばかりは私も二人の意見に賛成だ。いくら恩人と言っても、こうも疑わしい点が多ければ無条件に信用する訳にはいかない」

 

 輝夜、ライラ、リュー。

 ファミリアの中核を担う三人の言葉に、他のメンバーにも懐疑的な空気が広がる。

 

「うんうん、皆が不安に思う気持ちは分かるわ。私だって別世界だなんてすぐには信じられないもの。でも今の時点で確かなのは、私達が彼らに助けられたってことだけよ。それなら私達はアストレア・ファミリアとしてその恩に報いなくちゃ」

 

 しかしノクスからしても寧ろ当然な反応を示したアストレア・ファミリアに対して、アリーゼはそれを宥めるようにそう言った。

 皆の疑念を否定はせずとも、アリーゼの言葉は自然とファミリアの空気を落ち着かせる。

 その様子にノクスはアストレア・ファミリアがアリーゼに寄せる絶対の信頼を感じると共に、それを為すだけのアリーゼのリーダーとしての資質を見た気がした。

 

「悪いな、俺達のせいで余計な気を揉ませて。ただ相談するにも、ここにずっと留まってて大丈夫なのか?」

 

「そうね。取り合えず28階層……えっと安全な場所まで引き上げましょうか?」

 

 アリーゼの言う28階層は「迷宮の花園」と呼ばれる安全地帯であり、確かに落ち着いて話をするのは最適だ。

 しかしモンスターと戦闘するだけなら兎も角、ノクスもセレネも迷宮に対しては素人同然である。

 いくらアストレア・ファミリアと行動を共にしたとしても、不測の事態に必ずしも対応出来るとは限らない。

 身の安全を第一に考えるなら今の知識と経験だけで迷宮探索するのは無謀とも言えた。

 

「一つ聞きたいんだけど、その28階層に何か用事があったりするか?」

 

「え?別にそういう訳じゃないけど」

 

「そっか、それじゃあ【リレミト】」

 

 瞬間ノクス達全員の視界が点滅するかのように切り替わったかと思うと、気付けば温かな太陽の光に満ちた陽の下まで移動していた。

 目の前には迷宮都市オラリオの象徴とも言えるバベルの塔が天に向かって聳え立っている。

 ダンジョンから一瞬で脱出する事が可能な【リレミト】の呪文。

 ノクスが知る限りでは【リレミト】と似たような効果を持つ魔法は「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」に登場していない。

 現にアストレア・ファミリアはアリーゼも含めた全員が半ばパニック状態に陥っており、やや強引であるが多少は別世界の住人である事の信憑性に繋がるだろう。

 しかしよくよく考えればジャガーノートが生み落とされた際も、セレネだけは先に【リレミト】で脱出させておく事が可能だったとノクスは気付く。

 今更悔やんでも仕方ないながら考えが足りなかった事を反省するノクスの横で、当のセレネはというとバベルの塔を見上げて感嘆の声を漏らした。

 

「……こんなに高い塔が存在するなんて。ここは本当に私達がいたのと別の世界なのね」

 

「意外と落ち着いてるな」

 

「私もアナタがいきなり別の世界だなんて言い出した時は、あの人達と一緒で驚いたわよ。でも私達が旅に出た理由を思えば、こういう景色を見れたのは悪くないかなって」

 

「そうか、そうだよな」

 

 共に育った二人が幼き頃から良く聞かされたのは世界を救った勇者アルスの旅の軌跡。

 砂漠に佇むピラミッド、黄金の国ジパング、果てしなく広がる森林の中に一本だけ存在する世界樹、そして地下に広がるもう一つの世界アレフガルド。

 少年と少女に憧憬を生んだ冒険譚はアリアハンから旅立たなければ決して味わえないものだ。

 そして平和な世ながらも非凡な才を持って生まれたのは転生者であるノクスに限らなかった。

 僧侶の父親と魔法使いの母親の両方からその才を受け継ぎ、生まれながらに賢者の資質を有していたセレネ。

 それに加えてセレネはまるでノクスが知る「賢王」や「大魔導士」が如く、2つ以上の呪文を同時に操る特異な才能まで持っている。

 戦時なら或いはその力を国の為に尽くさなければならなかったかもしれないが、アルスが残した功績もあって弟のノクスとその友であるセレネにも世界を旅する事が許されたのだった。

 二人が求めたのは未知の景色。

 想定していた旅路とは大きく掛け離れたものの、これはこれで旅の目的の本懐を遂げたとも言える。

 

「おい、あれってアストレア・ファミリアだよな?」

 

「でもいきなり現れたような?」

 

「どうなってんだ?」

 

 するとアストレア・ファミリアの存在に気付いた周囲の人間がざわつき始める。

 

「もう何が何だか分からないけど、変に注目を集めちゃったのは間違いないわね。とにかく話は星屑の庭(ホーム)に戻ってからにしましょう。アナタ達もついてきて」

 

 そして歩き始めたアリーゼ達の後にノクス達も続く。

 大通りでは行き交う人々の多くがアストレア・ファミリアの存在に気付くと声援を浴びせ、中には食材と言った物品を手渡す者までいた。

 そしてアストレア・ファミリアに向けられる言葉の多くは普段の献身に対する感謝であり、前世の知識があるノクスだけでなくセレネもまた彼女達がこの街でどんな存在なのかは凡そ察せられる。

 やがて大通りを抜けると街路をいくつか折れ曲がり、閑静な住宅街へと辿り着いた。

 オラリオ北の区画、その片隅にアストレア・ファミリアの本拠(ホーム)である「星屑の庭」がある。

 

「おかえりなさい、みんな。随分と早かったようだけど、何かあった?」

 

 瀟洒な白い館の玄関を開けたアリーゼ達を出迎えたのは一柱の女神だった。

 正義と秩序を司る女神アストレア。

 アストレアはまずファミリアの眷属達に欠けがない事を確認するとホッとしたように胸を撫で下ろすと、その後ろに控えていたノクスとセレネの存在に気付く。

 異世界人であるノクスとセレネでさえも一目でアストレアが清廉な人物である事が分かる程に、清く正しく優しい空気を纏っていた。

 

「アストレア様、今日は迷宮で私達を助けてくれた恩人をお連れしました」

 

「あら、そうなの?だったら御持て成しの準備をしないといけないかしら?」

 

「ただその前に少し確かめて頂きたい事があって」

 

 曲がりなりにも恩人であるノクス達に疑いを向けている事に後ろめたさを感じている為か、アリーゼは少し気まずそうにそう続けた。

 ノクスはこの世界の神が人間(子供達)の嘘を見抜けることを知っている。

 つまりアリーゼはアストレアのその力を使ってノクス達が本当に異世界からやって来てかどうか確かめようとしているのだろう。

 多少の打算はあれノクスとしても特に疚しい思いを抱いている訳ではないので、そんな事で疑いが晴れるなら寧ろ望む所だ。

 迷宮で何が起こったか掻い摘んでアリーゼから説明を受けたアストレアは、最後にノクスとセレネに向かって尋ねた。

 

「ではアナタ達が別の世界からやって来たというのは本当なの?」

 

「はい」

 

「少なくとも私達が跳ばされたあの空間も、この街の事も何一つ覚えがありません」

 

「……二人とも、嘘は言ってないわ。異世界からやって来たというのは本当の話よ」

 

 アストレアがそう宣言した瞬間、眷属達の間からワッと歓声が湧く。

 ノクスとセレネが何事かと身構えると、その中でリューが一人深々と頭を下げた。

 

「まずは謝罪を。ファミリアの恩人であるアナタ達を疑うような発言をしてしまった無礼をお許しください」

 

「ふふん、私は最初から二人の事を信頼できる人間だって思ってたわ」

 

「けどいきなり別の世界とか言われたって普通は信じられねぇよ」

 

 それからワイワイガヤガヤとノクスとセレネの二人を取り囲んだアストレア・ファミリアの面々からまるで銃弾のように数々の質問が飛んできた。

 そして漸く一息吐けた事に気が緩んだのか、今更ながらノクスは周りを綺麗な女性にだけ囲まれている今の状況に少し気まずさを覚える。

 しかしそれ以上に異世界転生に続いて異世界転移までしてしまったという現実を改めて実感した事により、これから先どうすべきか本格的に頭を悩ませ始めるのだった。

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